――迷ってしまった。  
 
今日、私は高校時代の友人・彼氏とキャンプに来ていた。  
きちんとしたキャンプ場では無く、大自然を楽しもうと言う事で、山を散策してキャンプ地を決めた。  
それから、些細な事で彼氏と喧嘩をしてしまい、キャンプ地から飛び出して来てしまったのだ。  
何も持たず感情に任せて走ってきたので、方角も、自分の居た場所も分からない。  
「何で追いかけて来てくれないのよ、バカ……」  
寂しさを紛らわす為に呟いてみたが、益々自分の孤独が引き立つだけだった。  
(どうしよう……)  
周りを見渡す。  
数十年、数百年育ってきたであろう木々に囲まれている。  
自分の来た方角を振り返ってもまた、木々が連なっているだけだった。  
鳥でさえ居ても良い物だが、全く生物の気配が感じられない。  
 
元来た道へ戻ろうと何度も試みるが、その度に森の奥へ入ってしまう。  
そうこうしている内に、空が紅く染まりだす。  
肉体と精神の疲労はピークに達しようとしていた。  
何度も泣いたが、泣く元気も尽き果てようとしていた。  
「このまま死んじゃうのかな……」  
その場に座り込み、木に背を預ける。霞む視界に何かが入った。  
「あれは……?」  
それを確かめようと、僅かな力を振り絞り立ち上がる。  
木々の隙間から仄かな光を漏らしている、あそこは一体?  
 
ふらつく足で光の方に歩いて行くと、微かに温かい臭いが漂ってくる。  
どうやら光はあの家の光から漏れていた様で、現代に不釣合いな煙突からは柔らかく煙が立ち上っている。  
疑問を抱く前に、あの家に助けを求める気持ちが上回り、ドアをノックした。  
「すみません」  
返事は無い。  
ドアに手を掛けてみると、軋みながら開いた。  
「あ……」  
戸惑いながらも、家の中へ入る事にする。  
ぱっと目に飛び込んできたのは机の上に並べられたおいしそうな料理。  
たまらず、手をつけてしまう。  
その料理は豪華な見た目通り、食べた事も無い様な美味だった。  
一通り食べ終えると、食べてしまった事をここの住人にどう詫びようか考える。  
「ここの人、居ないのかな?」  
――とりあえず家の中を調べてみよう。  
 
「すみませーん。誰か……」  
扉を開けると上り階段と、廊下があった。  
リビングと違い、明かりは点いておらずうっすらと暗い。  
しかし、それだけではない違和感の様な物を感じる。  
背筋を寒気が這う。  
「誰か……居ませんか?」  
階段の上を見上げる。  
そこには光は届かず、闇がこちらを見下ろしているが、何故か引き込まれる物を感じた。  
階段に足を掛ける。  
大分木材が古いのか、今にも割れそうな音を出すが何とか持ちこたえそうだ。  
一歩一歩ゆっくりと上る。  
階段の音が恐怖と焦燥感を掻き立てるが、無意識が階段を上らせている様に足が進む。  
 
 

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