一方、セシル達は教会を滅ぼした町の領域に進出することが出来た。  
そう、聖域を汚すことにより悪魔の力が簡単に及ぶことができるのだ。  
普段は、上手い具合に教会や祠が聖なる拠点としてあり、  
邪悪な悪魔の進入を易々と許すことはない。  
 
「お姉さま・・・町は静かなんだねぇ。もっと楽しそうな所かと思ってたよ。」  
「ええ、そうね・・・。」  
悲しそうな表情を見られまいと辺りを確認するふりをして返事した。  
「本当ね。何か不気味だわ。建物の中からは人々の気配を感じるのに。どうしたのかしら・・・」  
「ええ、だから早くこの町は抜けてゆきましょう。」  
ここから西の外れあたりに宿場があるとあの悪魔が言っていた。  
まだその先は移動できないと。  
馬車の手綱をパシンと鳴らし無意味に急がせる。  
この町には一瞬たりともいたくなかった。  
小さいが小高い丘に焼け焦げた建物が視界に入るからだ。  
「でも、セシルはこんな町の人から次の宿の情報を得てきてくれたから助かったわ。  
 宿なら安心して休めるものね。廃屋は汚くてダニエルの健康にも悪そうだものね。」  
「え、ええ・・・確かにそうだわ。ダニーには元気でいてほしいもの・・・」  
「そうよねえ・・・あら、ダニエルは退屈して寝てしまったみたいよ。」  
「うふふ・・・・・馬車の揺れが心地よいのでしょう。」  
可愛い弟の寝顔を見て自分を励ます。  
どんなに汚れても、傷ついても彼らは自分が守らなくてはいけない。  
たとえ神の意思に背いても。  
 
町を抜け行く複雑な思惑を乗せた馬車を一人の男がじっと見ていたことに  
セシル達は気づくことは無かった。  
 
夕刻近くにやっと目的の宿へ一行は到着した。  
「いらっしゃいませ。さあさ、ゆっくりなさって。」  
にこやかに女主人が迎える。こんな荒野の中にぽつりとある宿に  
たくましい中年女性とはいえ、女手だけでは大変だろうと思う。  
「どうも、お邪魔致します。」  
「3人様で、1泊ですか?」  
「そうです。急ぎの旅なものですから。すみません。」  
「いいんですよぉ、ここの宿を気に入って下さってまたいらして下さいな。」  
セシルが帳簿に記入している最中、オリヴィエ達は、ロビー内いっぱいに咲かせてある  
花を見たり綺麗に磨かれ飾られる装飾品を眺めたり楽しくしていた。  
「本当に素敵な所ですね。他の場所と違って埃ぽくないわ。」  
久々にセシルも一息つけるような場所だった。  
「荷物はそこへ置いといて下されば後からお運びしますからね、  
 すぐにお茶を用意しますので、そのへんでくつろいでいて下さい。」  
「はい、ありがとうございます。」  
そう言って楽しげな二人にセシルは近づいていくと、ダニエルが急にふらついて床にしゃがみ込む。  
「ダニエル!!!」  
悲鳴のように弟の名を叫び、駆けつけ、おでこに手を当てる。  
「すごい熱だわ・・・・・」  
「まあ!少しの移動だったけれど疲れてしまったのかしら。私、彼女を呼んでくるわ。」  
オリヴィエは焦りつつもしっかりとした足取りで女主人を呼びに行った。  
 
「僕・・・大丈夫だよ。」  
「無理しないの。はしゃぎすぎたのよ。ダニー。」  
すぐに駆けつけた女主人に部屋を案内されダニエルを柔らかいベットに寝かせつける。  
廃屋の硬く埃っぽいベットよりずっと清潔で彼の病気にも良さそうだった。  
「これは、しばらく治るまでうちにいると良いわよ。」  
そんな話を宿主とオリヴィエが語り合っている。  
セシルは弟の手をにぎりながら、あることに想いを寄せる。  
悪魔の力が及ぶ領域ならば、ダニエルは元気なはずなのに何故・・・  
どこか近くに聖なる領域があるのだろうか・・・・・  
探さなくては・・・・・。  
とりあえず、荷物を運ぶのを手伝いにオリヴィエも階下へ行った。  
その間にセシルは部屋のタンスを開き聖書を抱え  
他にも何か無いか軽くチェックしてトイレに駆け込んだ。  
 
「・・・これだけかしら・・・各部屋のも隙を見て処分しなきゃ・・・・」  
トイレに設置してある蝋燭に、持ち込んだ聖書をかざし火を点けようとした。  
しかし、フッ・・・と炎が消えてしまう。  
その代わり、壁にかかる鏡がぽうっと薄暗く光る。  
そこには、魔界の悪魔が映りこんでいた。  
「!・・・・・・・どうして・・・どうして弟は・・・・」  
「・・・・うん、本当は大丈夫な予定だったんだけどね、そこの宿泊客にいるみたい。」  
「えっ・・・どういう・・・」  
「ああ、俺の嫌いな神に仕える者さ。」  
そう言って悪魔は親指を立て自分の首元を横ぎらせる。  
「そんな・・・・・・・っ・・・」  
「なあ、早くしないとまずいぜ。移動するなんて無理。」  
「いっ・・・嫌よ・・・・もう・・・そんなこと・・・・」  
焼きそびれた聖書を胸にひしと抱きしめセシルは首を横にふる。  
「し!んじゃうよぉ〜・・・・ククク・・・・さあ、探すんだ・・・・セシル・・・」  
笑い声と共に悪魔の残像が鏡から消えていった。  
 
迷っていられない・・・・セシルは意を決して  
女主人の所へ荷物を手伝うふりをしながら近づいていく。  
「ああ、すまないねえ。最近おばさん腰が痛くて・・・・」  
「大丈夫ですよ。元々自分達の荷物ですもの。  
 あの、そういえば今日は他に泊まられているお客さんはいらっしゃるのかしら?」  
「ええ、お二人いらっしゃいますよ。一人は旅の行商人だかなんだかで常連さん。  
 もう一人はね、そうあなたと同じご職業かもしれないわね。」  
「!!そうなんですか?!」  
「そうよぉ、同じような格好でいらしてるから。きっとシスター様だわ。  
 丁度、あなたのお向かいの部屋にいらっしゃるわよ。でも、なんで?」  
少し慌てて聞き返したセシルの様子が気になったのか尋ねられる。  
「あっ・・・いいえ、ほら、子供もいますし、女二人でしょう。  
 もし他のお客様がいらしたら静かにしなきゃ。と思って。」  
にこやかにそれらしい嘘をつく。  
「あら、大丈夫よぅ、皆穏やかそうな方ですもの。気にしないでね。」  
「ええ、ありがとうございます。」  
シスター・・・・・きっとその人のせいだわ。間違いない。  
何とか建物の外へ呼び出せないかしら・・・・・・・。  
そして、説得するの。すぐに別の場所へ私が馬でお送りすればきっと大丈夫。  
馬車での移動はあまりにも遅いけど馬なら・・・・・。  
 
オリヴィエにダニエルを任せて調べ物をしたいと部屋を出る。  
幸い女主人は夕食の準備にキッチンへこもり切りになるだろう。誘い出すなら今しかない。  
目的の木戸を軽くノックする。  
「はい・・・どうぞ。」  
「失礼します・・・。」  
部屋には、二十代半ばくらいの可愛らしい赤毛のシスターがソファーに座り  
こちらを向いた。首にクロスと手には読んでいたのか聖書を持っていた。  
何故か、気分が悪いような気がする。  
「あら、あなたは・・・・」  
セシルの服を見てはっとした顔になる。  
「あっええ、シスター見習いのセシルと申します。こちらの女主人さんに  
 シスターのことを聞いたので、是非お会いしたくて・・・」  
「あら、そう!私も退屈していたところだし、どうぞお部屋に入ってちょうだい。」  
彼女は立ち上がりセシルの手を引き嬉しそうにソファーを勧めた。  
「嬉しいわ、こんな所で偶然同じ志の仲間に会えるなんて。  
 あ、私はイザベラよ。宜しくね、セシル。」  
健康的な笑みを浮かべセシルに握手を求める。ぎこちなくその手を握り返した。  
「それで、いったいどこから来たのー?」  
「ええ、南からイギリスへ旅をしているのです。」  
「あらぁ・・・ずいぶん長旅なのねえ。フランス横断なんて。  
 私はスイスとの国境らへんの小さな町から来たのよ。  
 これから、南フランスへ寄ってバチカンへ行くの。」  
「イザベラさんも長旅ですね。」  
「ほんとよねえ。お互い色々気をつけないと。」  
気持ちよく笑う彼女にどう自分のこの複雑な事情を話そうかと悩んでいると  
イザベラがふいにセシルの顔を覗き込む。  
「あら、あなた。クロスはどうしたの?」  
「えっ・・・ああ・・その・・・実は先ほど急いで馬車を操っている最中に  
 どこかにひっかけてしまったみたいで・・・・・・」  
冷や汗をかきながらセシルは言い訳を作る。  
「まあ、それはいけないわ!!」  
そう言うと自分の首から下げてある鎖を解き、セシルの目の前にかざす。  
キィィィン・・・と不快な耳鳴りがした。  
 
「これ、うちに代々伝わる十字架なの。何か由緒正しきものらしいんだけど、  
もうひとつ対のがあるから今日の記念にあなたにあげるわ・・・・さあ・・・。」  
イザベラがセシルの首にその十字架を下げようとすると耳鳴りがひどくなり  
軽い吐き気に襲われる。  
「あ、ありがとうございます・・・・・」  
「うん、似合うわぁ・・・。あら?具合悪いの?顔色が真っ青よ?」  
「いえ、大丈夫・・・・です・・・」  
視界が少し霞む。  
目の前のイザベラの顔が正視できない。  
そのぼやけた視界に窓から何か黒いものが進入してくるのが見える。  
あれは・・・何???  
黒い何かがイザベラのほうへ伸びてゆく。  
「はっ・・・・・・何っ・・・・・?!いやっ・・・いやっ・・・近寄らないで!!」  
彼女は黒い紐のようなものを手で払うがどんどん部屋の隅に追いやられる。  
「いやっ・・・たっ・・・助けて!!セシル!!あなたのそのクロスを掲げるの!!」  
耳では聞こえているが、セシルの腕は重い鉛のように動かすことが出来ない。  
助けなくては・・・・何度も指先を動かすが失敗に終わる。  
「ひっ・・・やっ!!!セシル〜!!!」  
紐状のものがぐるぐるとイザベラの体に巻き付き、騒ぐ口を塞ぐように  
進入していくのが見えた。きつく巻きついているのが外から分かるほど  
黒いものが彼女の体を締め付ける。  
「うぐぅっ・・・・!!ううぅーーぅ・・・!!」  
涙を流しながらイザベラの鳶色の目がセシルに助けを求めている。  
窓の外から紐状のものと繋がったドロドロとしたタールの化け物のようなものが  
室内へと侵入してくる。  
そして、ウミウシのような動きでイザベラへ近づき、無数の触手を伸ばしてゆく。  
「んんっ!!んんーーーーぅ!!」  
その触手はブーツを履いた両足に絡みつき、左右に引っ張り上げる。  
他の触手も服の上から胸元をまさぐり、乳首を見つけるときゅぅと巻きついた。  
そして、本体からは棒状のものがむっくりと出現し、彼女のスカートに隠された奥へと突進する。  
「んぐぅ!!!ぅぁぅ・・・・!!くぅ!!」  
イザベラの体がビクンと大きく動いたかと思うとリズムを刻むように  
下から何かに突き動かされてゆく。それと同じ動きをタールの化け物が送っていた。  
激しい突き上げにスカートがめくれあがり、深々と彼女の秘所へ大きな黒い塊が挿入されているのが見えた。  
「フゥゥッ・・・んぐぅぅう・・・・・・・ウッ!!」  
押し殺されたような喘ぎ声を漏らしイザベラはおもちゃのように体を揺らす。  
黒いモノが突き上げるたびに彼女の背中が壁に当たり、肉のぶつかる鈍い音がした。  
その衝撃にシスターのベールが床に落ち、豊かな赤毛が燃え上がるように乱れ  
彼女の泣き顔を縁取った。  
ビリビリとなだらかな裸体を這い上がった触手が服を破き  
大きくバウンドする乳房に巻きついてゆく。  
触手たちは自在に動き、イザベラの体を反転させ、アヌスにも勢い良く進入していく。  
「ウッグッウウウウッッ!!!」  
彼女は両穴をえぐるような勢いで突き上げられ、無様な格好で喘がされ続ける。  
 
セシルはその惨劇をこれ以上見ていられず目を閉じる。  
それと共に重たい意識も闇にのまれていった。  
 
 
「起きろ・・・起きろ・・・・」  
セシルの意識に何かが語りかける。  
はっとして彼女は目を覚ますと、目の前で化け物に犯されたいたイザベラの姿は無く  
焼けるような胸の熱さと、吐き気を感じた。  
思わず、首から下がる鎖をひきちぎり窓の外に見える川へ手に持ったクロスを投げ捨てた。  
 
「ククク・・・・ずいぶん魔に染まってきたようじゃない。」  
背後から聞きなれた悪魔の声が聞こえる。  
「・・・・・こんな・・・こんなことって・・・・・・・・クロスを受け付けないなんて・・・・」  
「魔の属性になってきた証拠だな。あのクロスは他のものより強力なんで  
 神を信仰する者が身に着けると厄介な代物だった。  
 あっと・・・そろそろ自分の部屋に戻りな。女主人が来ると面倒だからね。」  
振り返ると腕を組んだ悪魔が大きな姿見の中にいた。  
「ねえ・・彼女もあなたに支配されるの・・・・?」  
「・・・さて、だとしたらどうなの?・・・・」  
目を細めてニヤリと笑う。  
「・・・・・・・・被害者は私だけで十分だと思って・・・」  
「ククク・・・・ふぅん・・・・。あの女は非処女だったようでね。  
 今頃、あの俺のペットが魔界に持ち帰って可愛がってるだろうさ。」  
「・・・・そんな・・・・・」  
「さあ、早く戻れよ。」  
悪魔に促されるまま自室へ戻ると丁度階下から足音が聞こえて夕食を知らせる声がした。  
 
 

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