7:  
祭りの後のがらんとした町外れをセシルは裸足で降り立つ。  
さきほどまで降っていなかった雨がどしゃぶりになって中断されたのだろう。  
誰も外にいる人間はいない。  
 
もうセシルは何を信じて良いのか分からなくなっていた。  
悪魔は言う。人間はどんなに清らかでも、欲望の種を落とすと誰でも変わってしまうと。  
確かに、悪魔の手にかかった人間は自分の欲望を表に出していた。  
しかし、それも悪魔が・・・いや自分が現れなかったならば  
彼らも清い人間のままでいられたのだろう。  
でも、悪魔はその欲望に準じる姿こそが人間らしく美しい。と言う。  
何を我慢するのか、我慢と思う時点でそれは正しくないのではないか。  
思うように生きて何が悪いのか。  
本当は何が大事なのか・・・。  
そう言われてセシルは自分が信じてきたものを  
今までは妄信的にただ信じていただけなのかもしれないと思わざるをえなかった。  
神とは何なのか。自分にとって何が正しいのか・・・。  
 
激しく打つ雨の中、セシルの頑なな何かが  
服の汚れや何かと一緒に全て流れていく気がした。  
 
「私はどこにいけばいいんだろう・・・。」  
何が無くとも、弟やオリヴィエだけは私を必要としている。  
どこかへ行ってしまいそうな自分の意識を引き戻し、  
服の水を絞り頬に張り付いた髪をなで上げ、宿へ帰った。  
 
「あっ・・・お嬢さん!!お嬢さん!!」  
宿の主が血相を変えてセシルのもとへやってきた。  
「お・・お嬢さん、、あんたのお連れが・・・・!!」  
「えっ・・・・」  
「祭りの途中にね、誰かに連れ去られたみたいだよ!!」  
「ええっ!!?だっ・・・誰に!?」  
セシルは青ざめながら主に詰め寄る。  
「わ・・わたしも見てないから詳しくは分からないんだけど、  
 とにかく北の外れにある屋敷のほうへ行ったとか・・・」  
それを聞くと一目散にドアに向かって走った。  
「ちょっとー!!一人でいったって、何もできないだろーーー!!待ちなさいーーー!!」  
そんな引き止める言葉に静止していられるはずが無かった。  
馬小屋に繋がれた馬を出し、飛び乗りどしゃぶりの中を駆け出した。  
 
雨が地面を打ち付け辺り一面に飛沫が跳ねて視界がすこぶる悪かった。  
だが、そんなことにはかまっていられない。  
セシルの胸は針がいくつも刺さったようにズキズキと痛み  
大きな不安が目の前を何度もよぎる。  
どうか、無事でいて・・・ただそれだけを願った。  
ぬかるんだ土を馬が蹴り上げる。  
町から伸びる北へ向かう道を頼りにひたすら突き進む。  
誰がいったい・・・私の大事な人々を。  
そして、そんな時に自分がしていたことを思い起こすと悔しさに身が震えた。  
 
しばらく馬を走らせ続け、手綱を握る手が雨に体温を奪われ  
感覚が無くなった頃、ぼうっと黒い建物が見えてきた。  
近づいて行くと比較的大きな古い建物だということが分かる。  
所々にコケが生え、廃墟のようだった。  
 
しかし、建物を見上げたセシルの目に2階の窓あたりで  
チラリとオレンジ色の灯りのようなものが見えた。  
ここかもしれない・・・・!!  
 
馬を近くに繋ぎ、逸る心を抑え重い木戸を押した。  
雨にじっとりと濡れた戸はギィ・・・という音と共に開く。  
中は薄暗い蝋燭の光で点されていた。  
ほのかにかびの臭いが鼻を突く。ホールの高い天井には不気味な蜘蛛の巣が  
いくつも垂れ下がっていて、まるでこここそが悪魔の館のようだった。  
ひたひたと埃だらけの大理石の床を裸足で進む。  
 
「誰か・・・・誰かいませんか・・・・・・」  
心細さが声に出ていたが、小さな声でも十分建物の中へ響き渡る。  
 
「ああ・・・やっぱりな・・・・・・・」  
2階へ登る階段の上に男のシルエットが見える。  
「・・・・あの娘なのか・・・?」  
もう一人男が出てきて二人でひそひそと話す。  
 
「あの・・・・・・もしかして私の連れの者を・・・・・」  
セシルが全てを言うまで待たず、二人の男達が階段を駆け下りてきた。  
「えっ・・・」  
「この魔女が!!!!!」  
「こっちに来い!!!」  
「あっ・・・いやっ・・・ちょっとっ・・・・!!!」  
有無を言わさず、男達は彼女の腕や髪を掴み2階へ連れて行く。  
 
どざっと乱暴に2階の大きな部屋の真ん中へセシルを放り出した。  
「っ・・・たぃ・・・・」  
肩を打ちつけた痛みを堪えつつ、彼女は辺りを見回す。  
周囲には数人の男達が怖い顔をして立っていた。  
そして、その奥の窓際にはロープで縛られ、  
白い布で猿轡をされたダニエルが椅子に座らせられていた。  
 
「ダニエル!!!」  
「動くな!!この魔女め!!!」  
一人の男が怒鳴り、セシルを威嚇する。その手に握られているのは大きな十字架だった。  
「ま・・・魔女?!」  
「そうだ、お前は魔女だ。そうだろ・・・・」  
静かに怒っているような声を震わせて男はセシルに言う。  
じっとセシルはその男の顔を見た。見覚えがある・・・。  
「あ・・・あなたは・・・・・・・・」  
息を飲み何も言えなくなる。  
「そうだ・・・・・・俺は隣の町の教会に勤めていた。お前も覚えていたか。」  
十字架をセシルに向けながら徐々に歩み寄る。  
「・・・・・はい・・・覚えています・・・・・」  
「お前は・・・罪のない牧師を殺し、我々の教会を灰にした・・・・。魔女以外の何者でもないだろう?」  
「そんなっ・・・魔女だなんて・・・・・・・・」  
「嘘つくな!!!」  
他の男が怒りに任せてセシルに突進したのを教会に仕えていたランゲが制する。  
「お前は男を惑わし、そして旅のシスターをも巻き込んだ・・・・・」  
「なっ・・・・何故・・・・・シスターのことを・・・・・・」  
知るはずの無い事実までをランゲが口にしたことに驚く。  
「はっ・・・やっぱりな。その驚きぶりはお前が関わった証拠。」  
ランゲに制された男が侮蔑の視線を送りながら言う。  
「・・・・わ・・・私・・・・・・私は・・・・・そんなつもりは・・・・・」  
確かに彼らの言う事に嘘は無かった。直接手を下したわけでは無かったが、  
セシルは大いに関係している。  
「お前が魔女だという証人もいるんだぜ。」  
「えっ・・・・・」  
ランゲがあごをしゃくって入り口のほうを指す。  
そこには、見慣れた人物・・・・とても信頼している人が立っていた。  
 
「オリヴィエさん・・・・・・!!!」  
思わず叫んでしまったセシルの声にオリヴィエはビクリとしながら口を開く。  
 
「セシル・・・・・・あなた・・・私分かってしまったのよ・・・・・」  
「・・・・オリヴィエさんっ・・・・・・・」  
信じられない。信じることが出来ない。  
 
「あなたが、おかしくなり始めたのは、あの日町へ行って帰らなかった日からだわ。  
 理由を話すこともなくその日以来、あなたの行動は普通じゃなかった。  
 急くように馬車を走らせてみたり、人目を避けるようにしてみたり。  
 教会が燃やされた日も、あの宿のシスターが行方不明になった時も、  
 あなたは私達の前から姿を消し、どこかへ行っていた。  
 そして、今日はあなたの後を着けたのよ・・・・。」  
「!!・・・・そんな・・・・」  
 
「あなたは教会で若い男を誘惑して小部屋に入った。  
 私は賛美歌の流れるなかをこっそり部屋のドアへ聞き耳を立てたわ。  
 そしたら・・・・・・・そしたら・・・・・・・・・・あなたは・・・・・・  
 神聖なる場所で汚らわしい行為をしていた・・・・・。」  
「いやぁっ!!!違うっ・・・違うわっ・・・・!!誘ってなんか・・・・っっ」  
耳を両手で塞ぎセシルは泣き出す。  
 
「嬉しそうに・・・声を上げていたじゃない・・・・・私だって聞きたくなかった。  
 でも、あなたはあの日に悪魔に魅入られたのよ。  
 その証拠に、あなたたちの声が聞こえなくなったから、教会の方に扉を開けてもらったの。  
 そしたら・・・霧のようにだれもいなかった・・・・・。」  
「その男もどこかへ消し去ったんだな?!」  
「ぁ・・・ぁ・・・・・・・・嫌・・・・・・・嘘・・・・・・・・・」  
セシルは否定しようのない事実にもう、どうすることも出来なかった。  
 
「さあ、この魔女をどうするか・・・・・」  
「この十字の杭を心臓に打ち込み、焼き払うのさ!!」  
「あの弟も血が繋がっている!一緒に殺してしまおう!!!」  
「そうですわ・・・・こんな汚らわしい子・・・・・・・」  
オリヴィエまでが氷のような冷たい眼差しをセシルに送る。  
 
「お・・・・・オリヴィエ・・・・・・・弟・・・ダニエル・・・ダニエルは関係ありません・・・・。」  
「それは俺たちが決めることだ!」  
「ちょっと、お前ら待て・・・・あの牧師様をたぶらかした魔女だ・・・  
 何かあるかもしれん・・・・」  
「おお、そう言われてみればそうだ・・・・。どうする?」  
「弟をこっちに連れて来い・・・・」  
今まで、殺気立った男達の会話にじっと耳を傾けていたランゲが  
思いついたように命令した。  
 
「いやっ!!ダニエルに手を出さないで!!!!」  
奥にいた男達に抱えられ、ダニエルが引きずられてくる。  
心なしかぐったりした様子でセシルを見つめている。  
「ああ・・・・・ダニエル・・・・・」  
ランゲはダニエルの首に持っていた刃物を突きつけセシルに向かう。  
 
「古来から・・・魔女の体には悪魔の残した印があると言う・・・・・。  
 そう牧師様に俺は教わった。それが無ければ、お前は無実だ・・・・。  
 さあ、俺たちの前でその服を脱いでみろ!!!」  
「おおぉ・・・・・・・そんな事が・・・・・」  
「・・・・そんな・・・・・・・・・」  
セシルは絶望を感じた。自分だけでは弟を助けることが出来ない。  
そして、ランゲの言う悪魔の印が確実に自分の子宮の上に刻まれていることも分かっている。  
それでも、彼女は服を脱ぐ決意をした。  
片手で隠せるほどの刻印・・・何とか誤魔化しきれば・・・・あるいは・・・・。  
「わ・・・分かりました・・・・・・脱ぎます・・・・。」  
「よし・・・・。」  
ぐいっとダニエルに刃物が近寄る。  
 
それを横目で見ながらセシルは首もとのボタンに手を伸ばし、  
牧師の前で脱いだように、上から順々に外していく。  
徐々に白い透き通る肌が露出してゆく。  
ウェストの部分までボタンを外しきると、はらりと上半身から服を落とした。  
大きすぎず、小さすぎない、丁度良い健康な乳房が眩いばかりにこぼれる。  
その光景を目の当たりにして、男達の中で唾液を飲み込むゴクリという音がする。  
ゆっくり、腰にとまったスカート部分からスラリとした足を片足ずつ抜き出した。  
昼間の出来事があり元から下着はつけていない。  
その丸出しの秘所を隠すように添えた手で、器用に悪魔の刻印を隠す。  
 
魔女どころか、聖書にかかれた天女のような美しい肢体に  
男達は息を飲んだ。  
 
「さあ、脱いだわ・・・・・」  
ぱっと見どこにも印など見当たらなかった。  
「じゃ・・・・じゃあ・・・・その手を退かすのだ。全て見なくては納得できないよな・・・・」  
「ああ・・・そうだ・・・。その場に座って足を開け。内側にあるかもしれない・・・・」  
「舌も出してみろ・・・・」  
 
「わ・・・・分かったわ・・・・・・・」  
緊張する場面とはいえ、大勢の屈強な男達の前で一糸纏わぬ姿になり  
耳まで赤くなりながら床に腰を下ろし、大事な部分から手をずらしてゆっくりと膝を開く。  
 
「おっ・・・ぉぉ・・・・」  
どこからともなくどよめく声が聞こえる。  
男達の注目するそこには、金色のヘアーとその下に、  
綺麗なピンク色の小ぶりな唇が出現した。  
 
その開いた足に引き寄せられるように近づき、  
男達はセシルの体を舐めるように眺める。  
そして、彼女は可憐な口を大きく開き赤い官能的とも言える舌を突き出す。  
その姿は、まるで行為の最中のようだった。  
「・・・・印なんて・・・・無いわ・・・・早くダニエルを放して・・・・・」  
舌を引っ込めると目を閉じ、セシルは賭けに出た言葉を言った。  
 
「そうだな・・・どこにも印はないな・・・・・・・・」  
惜しむように男達はセシルの体を見つめ続ける。  
おそらくは、視姦していた者もいるだろう。  
先ほどの舌に舐められている妄想を抱く者も・・・・。  
 
「いや、まだ隠された所があるぞ・・・・・・」  
ランゲの言葉にセシルはドクンと心臓を鷲掴みにされた気持ちになる。  
ずっと片手を綺麗な金色のヘアーの上に当てていた。  
それを退かせと言うのだろうか・・・・。  
 
「あそこの中だ・・・・。開いて見せろ・・・・!!」  
「ああ、それは分からなかった。確かに目立つところにゃ無いだろうしな。」  
印を探すというよりか、明らかに男達は興奮して、セシルに自分の  
そこを開かせる行為を見たがっているようだった。  
とてもセシルはそんなことはしたくなかったが、  
腹に添えた手を外せと言われるよりかはましだった。  
 
「うおお、まだるっこしい!!俺達が開いてやるよ!!」  
「おお、そうだな!!俺も手伝うよ!!!」  
そう言って一人の男が、セシルの両腕を掴み上げ、身動きを取れなくした。  
「いやああああ!!!!!!!」  
 
そう、その行為で偶然にもセシルの隠していた子宮の真上の肌が  
人々の目前に晒されてしまった。  
悪魔の刻印を見られてしまった・・・・・。そう思い、セシルは暴れた。  
何とかダニエルを、ダニエルだけは守らなくては・・・・!!!!!  
 
「暴れるな!!静かにしろ!!!!」  
男は怒鳴りつけながら黙々と、セシルの股間へ手を伸ばしていく。  
太い指先が、柔らかな彼女のピンク色をした下の唇に触れ、  
ぴったりと閉じていたそこを、左右にぱっくりと開いた。  
先ほどの行為のためか、まだそこは潤いを保ち、キラキラと光を放っていた。  
 
「おおお・・・・・すごい・・・・しかし、ここにも・・・ないのか・・・・・・・・」  
セシルは、興奮する男達を他所にとても驚いていた。  
なんで・・・・?彼らはこの禍々しい刻印に気づかないの???  
いくらなんだって、気づくでしょう・・・・・  
見えないの?これが・・・・・  
だとしたら・・・・私は疑いをかけられることなくダニエルを救える・・・・  
 
「も・・・もう良いでしょう・・・・早くダニエルを放して・・・私達から離れて・・・・」  
「そんな・・・そんなはずは・・・・・セシルは魔女じゃないの・・・・?」  
遠くで眺めていたオリヴィエが驚き青ざめた。  
きっと、自分が言った事が覆されたことへの恐怖もあったのだろう。  
このまま彼女が開放されても、以前のように元通りになることは出来ない。  
そして無実の罪を着せた人間だというレッテルまで貼られてしまう。  
 
「いや、まだまだだ・・・俺たちで触って確かめようぜ・・・・・・」  
男達の顔に悪魔のような笑みが浮かぶ。  
「そ・・・そうだな・・・そうだよな・・・・触らないと分からないよな・・・・・・」  
 
「なっ・・・・・・何を言うのっ・・・・離して!!離して下さいっ!!!」  
いっせいに伸びてくる男達の手を払いのけるようにセシルはもがくが、  
それぞれ手足や髪を掴まれてびくとも動かなくなってしまう。  
「きゃっ・・・いやっ!!!触らないでっ・・・・!!印は無かったのでしょうっ?」  
「もっ・・・もうそんなことはどうでも良い!!!」  
「いやぁぁあああっっ!!!止めて!!!お・・弟がっダニエルが・・・見てるっ・・・!!」  
「うるさい!!!!」  
そう言って、男はいち早くズボンを下ろし、一物を叫ぶセシルの口の中にぶちこんだ。  
 
そして、彼女の髪を掴み強引に前後に動かしていく。  
他の男達の手が柔らかな乳房に指先がもぐるほど荒々しく揉み始める。  
その揉む手の上からかぶさるように、他の男の手が、指の隙間からこぼれる  
乳首を摘み捻り、引っ張る。  
「んんっ・・・・!!んぅふぅっっ!!!!!」  
彼女の向かいに座った男が前を緩め、いきり立ったものを  
ピンク色に色付くそこへあてがいずぶりと挿入を果たしてしまう。  
「くっううううっっ・・・・・・・!!!」  
彼女の思考には悪魔の姿が過ぎる・・・・  
昼間は完全に男に汚される前にやってきた・・・・・・・・。  
それなのに・・・。ただ、自分から頼ることは違うと漠然と思ってしまう。  
「あぁぁ、すげえ・・・・こりゃいい具合だぁ・・・・もう濡れていやがった!!」  
男は突き上げるたびにふんっと荒い息を上げながらセシルを攻め立てる。  
「おおお、俺も我慢できねえ!!手でやってくれ!!!」  
彼女の手を両の男達がそれぞれ自分の男根を握らせて、  
その上から硬く握り締め上下にしごき上げる。  
「俺・・・俺もしてえ・・・・おい!お前で良い!!」  
「ひっ・・!!そんな!!私はっ!!」  
セシルを汚す男達からあぶれた者がオリヴィエに手を伸ばした。  
まさか自分にやいばの矛先が向くなどと予想もしていなかったオリヴィエは  
逃げるまもなく二人の男に囲まれてしまう。  
そして、怯える彼女の服を乱暴に引き裂き焦るように露出した素肌を触っていく。  
「嫌です!!私はっ・・・そんな淫乱ではっ・・・ああぁっ!!」  
丸出しに剥かれた胸にしゃぶりつかれ、もう一人の男は  
彼女の長いスカートの中に潜り込み下着を引き下げた。  
 
セシルが感じた悪魔の棲家というのは間違いではなかったのかもしれない。  
まるで獲物に群がるハイエナのように男達は女達を襲う。  
突き上げられる衝撃によってばたつくセシルの足が、  
内臓を生きながら食われる動物のように痛々しかった。  
「はうっ・・・・ああんんんっっ!!!ぐっうううう!!!」  
彼女の悲痛な喘ぎ声が部屋の中にこだまする。  
 
「うわ!!なんだこのガキ!!!」  
全てを目撃していたダニエルは辛い体力を振り絞って  
自分を押さえつけていたランゲに体全体でぶつかって行った。  
まるで姉が男達に殺されそうになっているように見えたからだ。  
その物音を聞きつけ、セシルは体を陵辱されながらも目だけでダニエルを追う。  
「このやろう!!!」  
「うぅぅ!!」  
ランゲはカッと頭に血が上り、持っていた刃物でダニエルを切りつけた。  
避けたようにも見えたが、ダニエルを縛っていたロープがパラパラと解け、  
次に彼の服が裂け、赤い体液がじわりと滲み出る。  
ダニエルはその切り裂かれた部分に手を伸ばし、自分の手に付いた  
真っ赤な血を見てその場にゆっくりと倒れ込んだ。  
 
ダニエル!!!!!!  
 
その瞬間、雷鳴が轟き、壁一面の大きな窓ガラスが一気に衝撃波と共に砕け散った。  
「くっぎゃあああああ!!!!」  
セシルの口を犯していた男が悲鳴をあげ、股間を押さえながら床に転げる。  
そして次々にセシルの周囲の男達の頭がパキャッという  
不可思議な音と共に破裂していく。  
そして、黒い禍々しい者が割れた窓からバサリと部屋に降り立った。  
 
悪魔の目に映りこんだものは地獄絵図だった。  
股間から夥しい血を流しながら転がる男。半裸に剥かれ汚される女と汚した男。  
床に倒れる子供、それにナイフを構える男。  
首から上が無く鮮血を噴出しあたり一面を色付ける人間だった者達。  
そして、その中央に座り込み口から男の一物を血と共に吐き出し、微笑む少女。  
 
「遅いじゃない・・・・何をしていたの・・・・」  
「・・・・セシル・・・お前・・・俺はまだ何もしてない・・・・」  
ゆらりと少女は立ち上がる。  
その血だらけの体の中央にある悪魔の刻印がまぶしいほどに光っていた。  
「・・・・そっ・・・それは・・・・・まさか・・・・・・」  
悪魔は自分の刻んだ彼女の刻印を目を見開き見つめた。  
 
少女の瞳は金色に淡くひかり、ゆっくりとランゲのほうへ歩いていく。  
「ひっ・・・ひぃぃっ・・・・・・!!やはり魔女だったっ・・・・!!!」  
ランゲは、恐怖に震えながらも、勝ち誇ったような顔を引きつりながら作った。  
「だったら、どうだというの?」  
表情ひとつ変えずに、彼女は更に詰め寄る。  
そして、ランゲの襟元を掴み、あたかも自然なようにすっと持ち上げた。  
「うああああっっ・・・ばっ・・・化け物!!!」  
「あなた達は失敗したわ・・・・。確かに、私は魔を纏う者。  
 あの時手を引いていれば何も起きはしなかったわ・・・・・。」  
「ひぃぃぃぃっ・・・・おっ・・・お助けをっ・・・・・・」  
「神にでも助けを求めると言うのかしら・・・?獣のように武器を持たぬ者を嬲っておきながら?」  
セシルはランゲを頭上高くまで持ち上げていく。  
彼の足が床から離れバタバタと動いた。  
「うわあああ・・・俺たちは関係ない!!」  
そう言って、オリヴィエに張り付いていた男達は部屋を駆け出し逃げていく。  
「おい!お前達!!にげっ・・・くっ・・・・苦しいぃぃっ・・・・・・!!ゆっ・・・許してくれぇ!!!」  
「あなたは私の弟を傷つけた・・・・・・」  
「ああっ、わざとじゃないんだ!!悪気はっ!!!ひぃっ!!!」  
「死になさい!!!」  
ごおおおっと窓から強風が舞い込み、セシルが金色に光る。  
ランゲの全血管の中で血が沸騰したかのように毛穴からビシュァ・・・と血が噴出した。  
「うがあああああ・・・・・・・・・・・」  
 
断末魔の悲鳴が掠れると同時にランゲの体が床に崩れ落ちた。  
 
「あ・・・ダニエル・・・・・ダニエルは・・・・・・・」  
「大丈夫だ・・・。命に別状は無いよ。」  
「ああ、ダニー・・・・・ごめんね・・・・・・・・」  
そう言って倒れた弟を抱きしめる彼女の瞳はいつもの深い青を湛えていた。  
「一度、あっちの世界へ連れて行ったほうが安全だよ。おいで・・・」  
「ええ・・・。」  
 
静かに3人は霧と共に消えた。  
そこに残されたのは、焦点の定まらない  
かつてセシルの心の支えになっていた者だけだった。  
 
 

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