12:  
度重なる覚醒を超え、セシルの魔力は安定した力を着実に身につけていく。  
覚醒直後は意識的に力を持続することが出来ないので、無意識になり暴走してしまう。  
そんな危うい力により、吹き飛んでしまった町がいくつかあった。  
 
「あと残るは、港の教会と、浮島の教会だね・・・。」  
「ええ・・・とうとうイギリスへ向かえるのね・・・・。あなたの力が及んでダニエルは無事叔父の家へ・・・。」  
「そうだね・・・・。」  
悪魔の頬に残るケロイド状の傷をセシルは舌を伸ばして舐める。  
その舌先を追うように悪魔の舌が絡んでいく。  
柔らかい濡れた肉がお互いを貪るように複雑に動き回る。  
「っ・・・この跡・・・残るのかしら・・・・・?」  
「かもね・・・。普通の傷ならすぐに治るんだけどね。別にいいけれど・・・。」  
「あの・・・彼女・・・大丈夫なの?」  
「・・・大丈夫ではないだろうけど、火傷は負ってないようだったから回復すれば何事もないだろうね。  
 まだ、他人のことを心配したりするんだ?」  
「そ・・・そんなんじゃないわ・・・。ただ気になっただけよ・・・・・。」  
微かに顔を赤らめてセシルは横を向く。  
「そういえば、やっぱり記憶とか内面の能力が君には芽生えなかったみたいだね。」  
「・・・残念ね・・・。こんな破壊的な力よりもそっちのほうが欲しかったかもしれないわ・・・。」  
「そしたら、俺なんかとの約束は果たさなくて済んだものね・・・ククク・・・。」  
喉の奥で彼は嬉しそうに笑った。  
 
「あなたは・・・不思議だわ・・・。何が目的なのかずっと分からない。  
 悪魔ならば、もっと全ての破壊を望んでも良いはずなのに、  
 私が通りたい最短距離の場所しか狙わなかった・・・・・。何故?」  
「さあ・・・気まぐれかな・・・・、いやあんまり君を振り回しすぎて  
 以前の人間のように壊れてしまっても困るしね・・・。」  
「今なら、壊れないわ・・・・?それでも、このままイギリスへ進むだけでいいの?」  
純粋な質問を椅子に座る悪魔にぶつける。  
 
「・・・セシルは・・・破壊したいの?」  
「・・・・したいか、したくないか・・・今考えるとしたくないけれども・・・。することになってもかまわないわ。」  
真面目な面持ちでアンドラスに告げる。  
「ハハッ・・・俺はもうお腹いっぱいだよ・・・・。この魔界を生き生きとさせるようなエネルギー。  
 君が運んできた。これだけあれば、しばらくはいらないと思う。」  
「そう・・・。それなら、気にせずこのまま進むことにするわ・・・。」  
「ねえ、もしかして弟のお礼のつもりなの?」  
「ち、違うわ・・・っ・・・せっかくこんな力持ったのだし、破壊が目的なら・・・って思っただけよ。」  
「ふぅん・・・。なんだか面白いね・・・人間臭くて、この俺よりもある意味残虐な力を持っている。」  
椅子の横に立つセシルの細い腰を引き寄せ、抱きつきながらアンドラスは言う。  
 
「イギリスへの事が終わったら、多分頼みたいことがある・・・・・。」  
「なぁに?」  
「その時に言うよ・・・。」  
「そう・・・・。あ・・・・そういえば、私あなたの名前まだ知らなかったのね・・・。」  
腰に抱きついた悪魔のフサフサな耳を触りながらなんとなくセシルが聞いた。  
「・・・・・うん、それも後で教える。」  
一瞬悪魔の体が強張った気がしたが、セシルは気のせいだと思った。  
 
フランスとイギリスを結ぶ港に面した場所に大きな真っ白い教会が立っている。  
そこから北に浮かぶ小島にも同じような教会が晴れている日には見える。  
それらは、教会と共に灯台の役目も担った場所だった。  
 
地域に住む者にとっては欠かせない場所なのだろう。  
毎日信心深い者による花が多く飾られていた。  
そして飾られた花の上で、若い牧師が胸から血を流し、倒れている。  
大きく見開いた目に最後に映ったものは何だったのか。  
今はその濁った瞳に窓から入る灯台の光が規則的に反射するだけだった。  
 
「双子の牧師様なのね・・・・・。」  
「ええ、そうですよ。港にいるほうが一応兄なんですけどね。」  
「そうなんですか・・・・。」  
少女の髪は水に濡れ、雫がしたたり落ちている。  
全身を白い布で覆い、暖炉の前に座っていた。  
「それにしても、落ちたのがこの島の近くで良かった・・・。セシルさん、あなたは神に見守られているのですね。」  
「・・・いえ・・・そんな・・。そんなに信心深くありませんわ・・・。」  
にっこりと牧師に微笑みかける。  
 
「こっ・・・これからは・・・・気をつけて船にお乗りなさいね・・・。」  
「はいっ!」  
布越しにも分かる、華奢な肩。なだらかなボディーライン・・・。  
そして、隙間から覗く白い太股。  
若い牧師はセシルの容貌を意識せずにはいられなかった。  
ましてや、狭い島に今二人きり、何がおきても誰も気づかない。  
視線が彼女に向き、他を見て、そして彼女に戻る。  
「ぼっ・・・僕はそろそろ奥で休みます・・・。貴女はここで休むといい。」  
「はい・・・ありがとうございます・・・・・。」  
彼女がまっすぐに牧師の目を見てお辞儀をした。  
その拍子に巻いた布がわずかに開き、健康的に発達した柔らかそうな胸が見えてしまった。  
 
牧師は慌てておやすみも言わず、セシルのいる部屋を走り出た。  
もう立ち上がった前を隠しきれそうになかったからだ。  
「イカンイカン・・・・・。」  
奥の部屋に行き、彼はすぐにセシルの垣間見た胸を思い出す。  
すると、自然に自分のそそり立ったものに手が行った。  
熱くなっている。もうずっと異性に接することのない生活を送っていたためだろうか。  
島に立ち寄るのは通りがかる漁師や船員達が主だった。  
激しく自分を手で擦り上げる。  
「はっ・・・あ・・・セシルさん・・・・・」  
目を閉じ思わず、彼女の名前を呟いてしまう。  
 
「牧師様・・・・」  
「えっ・・・・?!」  
びっくりして入り口を見ると、セシルの姿がそこにあった。  
「あっ・・・・・その・・・・こ・・・これは・・・・・・・・・。」  
慌てる牧師を他所に、セシルが部屋へ入り後ろ手に扉を閉めた。  
 
「・・・我慢しないで・・・・いいんですよ・・・。」  
セシルが纏う布がはらりと落ちていった。  
「これは・・・・幻覚か・・・・・・・?」  
ゆらりと牧師は立ち上がり、全裸のセシルに近寄っていく。  
「幻覚ではないわ・・・・。さあ・・・・。」  
手を差し出す彼女を思わず牧師は抱きしめる。  
「あぁ・・・・いけないことだ・・・・・・。でも・・・・・・」  
「気になさらないで・・・・。」  
牧師は震える手でぎこちなく彼女の乳房を触る。  
それだけで軽く弾む柔らかな感触に牧師は夢中になった。  
 
力の加減も忘れて、グニグニと思うままにもみ始め、先端の乳首を摘み転がした。  
「あっ・・・・んっ・・・・・・・・んっ・・・」  
セシルの切なげな吐息が彼の欲望を焚きつける。  
指によって刺激され立ち上がった乳首を吸い上げながら、  
牧師の手が彼女の股間に真っ直ぐに向かっていく。  
だが、その指は見当はずれに彼女の足の付け根を彷徨うばかりだった。  
今までの誰よりもぎこちなく、そしてがむしゃらに興奮している。  
多分、セシルが初めての経験の相手なのかもしれなかった。  
少なくとも、彼女はそう思った。  
 
そっと牧師の手を握り、彼女の中心へ誘ってあげる。  
すると、割れ目に沿ってをなぞる様に彼は指を動かす。  
「あっ・・・・・はっ・・・・・・・・ぁ・・・」  
暫く指を行き来させると、彼女の窪みに気づきそっと潜らせていく。  
 
「うっ・・・・んっ・・・・!」  
ビクリとセシルの体が戦慄く。  
「いっ・・・痛いですか?!」  
牧師は荒い鼻息を出しながらセシルを気遣う。  
「あっ・・いえ・・・気持ちいいのです・・・・・・。止めないで・・・・」  
潤んだ瞳で彼女は彼を見つめながら言った。  
「はっ・・・はいっ!!」  
更に興奮したように彼の指が中でうごめく。  
カサンドラに傷つけられた場所だけに、鈍い痛みを伴っていたが、  
セシルは我慢して牧師のなすがままにさせた。  
「あっ・・・・あぁっ・・・・!!んっ・・・ぁぅ・・・・・」  
「もっ・・・僕・・・・・我慢の限界なんですが・・・・・っ・・・」  
情けない声で牧師が彼女に訴える。  
 
「じゃ・・・じゃあ・・・来て下さい・・・・・・・」  
セシルは、牧師の裾をたくし上げ、下穿きの腰の紐を緩めてあげた。  
そして、にっこりと微笑みベットへと連れ立つ。  
「セシルさんっ!!!」  
焦ったように彼女をベットへ押し倒し、足を開かせる。  
彼の眼下には始めて見る女性のものが待機していた。  
そこへ震えながら狙いを定め、腰を進めていく。が、なかなか目的の場所に入っていかない。  
セシルは、入るべき場所でない所に硬くなったものを押し付けられ  
少し痛みを感じたがゆっくり自ら腰をずらし、彼を受け入れた。  
 
「あっっ・・・・あっ・・・・んんっ!!」  
「うっ・・・おおっ・・・・・熱いっ!!すごいっ!!」  
若い牧師ははじめから全速力で腰を動かしていく。  
「あああっ!!!あっ・・・あああっ・・・・・・!!!もっ・・・ゆっくりっ・・・あっ!!」  
「セシルさんっ!!セシルさんっ!!!」  
彼女の声は彼に聞こえてはおらず、必死に名前だけを呼ぶ。  
そして、セシルの足首を掴み高く上げ、更に腰を強く打ち付ける。  
「ああっ・・・あああっ・・・・あっんっ・・・うっ・・・あっぁっ・・・!!」  
「すっ・・・・すごいっ!!僕のがっ・・・僕のがっ・・・・入ってますっ!!!」  
牧師は結合部分がもっと良く見えるように、持ち上げたセシルの足首を、  
彼女の頭上のほうへ押し上げた。  
折り曲げられるような体制で、深く挿入され、彼女は苦しいながらも  
激しい快感を感じてしまう。  
「はあぁっんっ・・・ああっ・・・・んっ・・・・あっ・・・・!!」  
「あっ・・あぅ・・・すごいっ・・・・熱い・・・・っ・・・・・」  
足に挟まれ、揺れる乳房と、出し入れされる局部を交互に見ながら彼は更に興奮していった。  
「あうっ・・・ああぁっ・・・・・あっ・・・はっ・・・・・・・。」  
喘ぎながら、セシルは牧師の陶酔した顔を見いていた。  
 
「あ!僕っ!!あぁ!!出るっ・・・・!!!」  
最後のスパートをかけるために、彼は一段と大きく腰を振った。  
そのため濡れたソレがセシルから抜け、その瞬間彼女の胸元へ  
自らの欲望を撒き散らしてしまった。  
 
「ハッ・・・ハッ・・・・ハァッ・・・・・ごっ・・・ごめんなさいっ・・・・・・・」  
彼は荒い息をつくと、近くにあったシーツで彼女の汚れた胸を拭いていく。  
「フフフ・・・気にしなくていいんですよ・・・・・・。」  
「セシルさん・・・・・・。」  
にこやかに微笑むセシルを彼は抱きしめた。  
「僕は・・・幸せです・・・・・。」  
牧師の顔は満ち足りた表情でいっぱになっていた。  
「・・・・さようなら・・・・・牧師様・・・・・」  
「えっ・・・?」  
その直後、彼は何故か胸元に冷たいものを感じていた。  
そして、そのまま他には何も感じることはなく、ベットへ倒れこんでいった。  
幸せそうに僅かに微笑んで。  
「さようなら・・・・。」  
 
 
13:  
「・・・・ついに・・・・終わったのよ・・・・・・・!!!」  
珍しく声を弾ませセシルがアンドラスの屋敷内を走りぬける。  
今まで色々あったけれど、とにかく目的は達成された。  
それがセシルにはただ嬉しかった。  
この喜びをずっと付き添っていた悪魔に早く伝えたい。  
 
冷たい廊下に面した木製のドアを勢い良く開く。  
弟が眠る部屋。人間界の見える鏡のある部屋・・・。  
そこには、いつもと違う厳しい顔の悪魔が立っていた。  
 
「ど・・・どうしたの?・・・やっと・・・終わったのよ・・・・。」  
「そう・・・・・。」  
セシルの言葉を聞いてもアンドラスは一層表情を険しくするだけだった。  
「ねえ・・・どうし・・・・・」  
悪魔の手をよく見ると、赤い雫が滴っていた。  
「えっ・・・・・その血・・・・・怪我したの・・・・っ?!」  
セシルは駆け寄り、悪魔の手を取り確認するが、当の悪魔は首を横に振る。  
「では・・・何故・・・?!」  
 
ふと、悪魔の背後に目が行った。  
その場所にはダニエルが横たわっている。いつものように安らかな顔をして。  
しかし、その胸には真っ赤な血がべったりと付いていた。  
 
「いやぁぁっ・・・・・・!!!ダニエル!!!どうし・・・どうしてっ・・・・・?」  
弟の眠るベットのふちにすがり付く。  
「・・・・・・俺が殺した。君の弟を・・・・。殺したっ・・・・。」  
「えっ・・・・?」  
ゆっくりと悪魔は振り向き、セシルに向かう。  
「何?言っている意味が・・・分からないわ・・・・・・・。」  
半分笑った表情でセシルが悪魔に言う。  
 
「俺がこいつを殺したんだよ・・・・。この手で・・・今さっきな・・・・・。」  
赤い目の中の瞳孔がキュゥと縮まるのが見える。  
「じょ・・・冗談でしょう・・・・・?なんで・・・・そんな・・・・・・・」  
 
「こんなこと、冗談で言える?本気だよ・・・・・  
 この一件が終わったら君はいなくなってしまう。そうだろう?  
 だから、殺した・・・・。」  
悪魔の声が震えていた。  
 
「嘘よっ!!嘘よっ!!!嫌よっ・・・・!!!信じないっ・・・・ダニエルッ・・・目を覚まして!!」  
セシルの目から涙があふれ出る。  
「弟さえ、いなければ・・・きっとここに君がいると思った・・・・・。」  
作ったような笑いを悪魔は見せる。  
「・・・・嫌・・・・ダニエル・・・・目を覚まして・・・・・・・っ・・・」  
「覚まさないよ・・・永遠に・・・ね・・・。」  
強く、沈んだ悪魔の声が彼女の耳に響いた。  
 
「・・・・返して・・・・・・・」  
生暖かい弟の手を握り締めながらセシルは呟いた。  
「返してよっ!!!ダニエルを返してよぉっ!!!」  
 
彼女の青かった瞳が金色に輝き、毛が逆立っていく・・・。  
「もう、失ったものは戻せないよ・・・・・・。」  
悪魔が静かに言った。  
 
屋敷全体が地震のように不気味に揺れはじめ  
どこからか、金属を引掻くような不協和音が聞こえてくる。  
その直後、太陽のような光の矢が、セシルの周囲から  
アンドラスに目掛けて発射された。  
 
放たれた膨大なエネルギーの矢をかわすことなく、彼は胸に受け止める。  
「グッ・・・・・・・アッ・・・・・・!!!!!」  
 
光の矢は胸を貫き、壁をすり抜け消えていった。  
衝撃音と共に、アンドラスの体は壁に叩きつけられ、床に落ちていく。  
 
「・・・・クッ・・クッ・・・・・。流石に・・・・痛いんだね・・・・・・・・。」  
ハァ・・・と大きく肩で息をしながら苦笑する。  
そして、小さく指を鳴らした。  
 
セシルの意識がその音で正気に戻る。  
目の前のダニエルの胸には何も赤い染みは無く、いつもどおりに寝息をたてていた。  
 
「ダニエル・・・・こ・・・これは・・・・・どういう・・・どういうことなのっ・・・・?!」  
セシルは、胸に大きな空洞を作った悪魔に駆け寄った。  
 
「お、大きな声を出さないで・・・・痛いよ・・・・・・・。」  
「あぁ・・・なっ・・・なんで・・・・・どうして?!」  
先ほどとは別の涙が彼女の頬を伝う。  
「さ・・さっきのはね・・・全部・・・嘘。き・・・君の・・・記憶を・・・いじった・・。」  
「なんでっ・・・そんなっ・・・・・・・・」  
「ククッ・・・・・俺は・・・・・ずっと君を探してたんだ・・・・・・・。初めから・・・こうなるために。」  
目を開けるのもダルそうに悪魔は瞼を閉じてセシルの手を取る。  
 
「弟は大丈夫・・・。始めに言ったとおり君が呼べば起きるよ・・・・。  
 ただし、お・・俺が消えたらね・・・?  
 び・・病気も魔界の・・・風穴が開いているがぎり・・・心配いらないッ・・」  
「何言ってるの?!ああ・・・ねえ・・・どうしたらいいのっ?!」  
焦って動揺するセシルの手を少し強く握りなおす。  
「俺の・・・名は・・・・・アンドラス・・・・・。  
 もう、ずっと・・・・この意味の無い無限の時間を・・・・・憎んできた・・・・・。」  
「あ・・・アンドラス・・・・・・・」  
「・・・ッ・・・悪魔は・・・・自ら命を断てない・・・・・  
 ま・・・魔王、その他の魔王と同等の悪魔の手によって消滅させられるか・・・・・・・  
 魔族でない強大な力を持つ者の手によって葬られるか・・・グッ・・・・ッ・・・・」  
「いやッ・・・・」  
握り締めたセシルの手の上にアンドラスの吐き出した血が滴り落ちる。  
 
「魔王達には・・・俺の考えなんか・・・見通せる・・・・だ・・だから・・・君が・・・必要だったんだ・・・・・・・。  
 そ・・・して・・・・君の・・・力をっ・・・・・・育てた・・・・・」  
だんだんアンドラスの口がゆっくりと小さい動きに変わっていく。  
「いやぁっ・・・・・も・・話さないで!!どうすればっ・・・・どうすれば・・・・アンドラス・・・助かるのっ?!」  
また微かに握られた手に力が入る。でも、先ほどよりもずっと弱かった。  
「いいの・・・・・。た・・すからなくて・・も・・・。」  
「やぁ・・・っ・・・・嫌ッ!!勝手に死なないでっ!!」  
アンドラスの力の入らない頭をセシルは掻き抱く。  
 
「・・・れが・・・消えたら・・・・刻印・・・・も消える・・・・・・・。」  
「話さないでっ・・・・・話さないで・・・・・・・・」  
「き・・く・・・も、・・・・きえる・・・・・。」  
もう、耳を彼の口元に持っていかないと聞き取れない声だった。  
「ね・・・・な・・・まえ・・・・よんで・・・・・?」  
「えっ・・・・?」  
「名前・・・・・。」  
閉じていた悪魔の瞼がゆっくり開き、セシルを見上げる。  
「ア・・・・・アンドラス・・・・アンドラスッ・・アンドラスゥッ!!」  
「セ・・ル・・・さ・・・・」  
さよなら・・・とゆっくりその唇がしっかり動いた。  
 
 
14:  
「いやぁ・・・良かったぁ・・・・お前たちに何かあったんじゃないかと・・・ずっと心配してたんだぁ。」  
「叔父様・・・心配おかけして大変すみませんでした・・・・。それに私たち・・・」  
ボロボロになった服を着て、セシルは気が付くと叔父の屋敷の前にダニエルの手を引き佇んでいた。  
しかも、それまでの記憶がすっぽりと抜けてしまっていたのだ。  
 
「いいんだよぉ・・・・きっと何か辛いことがあったんだろう・・・。  
 今ぁ、フランスは大変なことになっているらしいからねぇ・・・。  
 ま、こっちに来ればそれも対岸の火事だ!」  
 
「はいっ・・・。ありがとうございます。」  
微笑んで弟の頭をなでる。  
 
「さ、きっと十分な食事もしてなかったろうに・・・食堂へ行こう!なぁ!ダニエル。」  
「うん!お腹減った〜!!」  
セシルは自分の父親に似た優しい叔父に背中を押され  
暖かい団欒の輪の中へ入っていった。  
 
 
その年の夏にセシルは叔父の屋敷の庭に小さな子猫を見つけた。  
親とはぐれてしまったのか、心細そうに鳴いている。  
 
「どこから来たの?おいでぇ・・・。」  
彼女の足に擦り寄ってきたその子猫を抱き上げる。  
真っ黒な柔らかい毛の手触りが心地よい。  
「おまえ・・・珍しい目の色をしてるのねえ。ん・・・深いワイン色だわ・・・。」  
ニャァ・・と小さく鳴いて小首を傾げる。  
「あはっ・・・可愛いっ・・・お前も親とはぐれちゃったのね?私にもいないのよ・・・。一緒ね。  
 いいわ、うちにいらっしゃい、皆良い家族よ。きっと気に入ると思うわ?」  
ニャァ。とまた短く鳴く。  
「なーに?言葉が分かるみたいね。そうだ・・・名前何にしようか・・・・?」  
 
楽しそうに子猫に話しかけながらセシルは新しい家族を紹介するため  
屋敷へと戻っていったのだった。  
 
 

楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] ECナビでポインと Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!


無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 解約手数料0円【あしたでんき】 海外旅行保険が無料! 海外ホテル