「やぁ、久しぶり」
命日に墓参り行くと、夫が甦っていた。骨だけで。
自分の名が刻んである墓の前に胡座をかいて、誰かの供え物らしいタバコを旨そうに吹かしている。
だけど、ちゃんと火葬したから、吸う端から骨の隙間を通過して煙が逃げていた。あれでは旨くないだろう。
眼窩やら鼻孔から煙の立ち上ぼる姿は、ちょっと面白い。
「あなた、生き返っちゃったの?」
「ああ、そうらしい」
お墓の開いた納骨部と、砕けた骨壺を見るかぎり、どうやら本当らしい。
「死んで、生き返ると、戸籍ってどうなるんだろうな」
「なんかソレ、国語の教科書で読んだことあるわ。死んで、生き返った花嫁は、両親の元に帰されたような」
「ふーん」
いったんタバコを吹かす。味、わかんないでしょうに。
「じゃあ、もう一回、プロポーズしなきゃな」
「ええ?」
「なんだよ、嫌なのかよ」
「違うわ、嫌じゃないけど」骨にまで愛されるなんて。
なんだか罪作りな女みたいだわ、なんて思っていると、夫はタバコの箱の銀紙を破いて、何か細工しだした。
わっか状のものを二つ造って、片方を自分の薬指に、片方を私の薬指にはめる。
「取りあえず、婚約指輪」
「チャチねぇ」
「今度、ちゃんと買ってやるよ」
恥ずかしそうに、頭蓋骨の、頬のあたりだった部分を掻く。チョークを擦りあわせるような音がした。
「じゃあ、帰りましょう」
「ちょっと待った」
「なに?」
「俺、服着てないだろ?このまま歩くの恥ずかしいよ」
「…しょうがないわね」
私は持って来たバッグに細長い骨をみんな詰め、供え物のお花の包み紙に夫の頭蓋骨を包んで持って帰ることにした。
二度目の新婚生活は、骨を折らないように持ち帰ることからはじまった。