私は映画を見ている。
彼の趣味のホラー物だ。うう…正直、苦手なのに…
スクリーンの上で、男が恋人に指輪を上げて…そしたら、急に雲が晴れて満月が出るカットが入って…
あ、あ!!男の方が悶えて…きゃー!!狼男!!怖い怖い怖い〜!!
思わず隣に座る彼の腕にしがみついちゃう。
映画の女の人が叫んでいる。恐る恐るスクリーンを見ると
『Ahhhhhhhhhhh!!Ahhhh!Ah!!』
咄嗟に目を閉じる。WARNINGスプラッタ注意の警告が瞼の裏に見える、見えるぞ!?
今、絶対に私の顔真っ青だ。
駄目、限界。
「怖いよぅ…もう出ようよぉ」
「ええ?面白いじゃん」
どこがだよぅ…本当に駄目なんだってば…
「ゴメン、私やっぱホラーは駄目。先に出るね」
私は席を立つ。
「あ、おい待てよ…ったく。サーセン、これどうぞ」
彼は手にしてたポップコーンのカップを隣席の人に押しつけ、私について来てくれた。完璧に私のわがままなのに、やっぱり優しいなぁ…
二人で帰路につく。
映画の事について謝ると、彼は逆に、苦手な物見せた俺が悪いって…この優しい所に痺れる!!憧れるぅ!!
二人で談笑しながら、外人墓地の前を通った。
カップルが墓地の前を通ってすぐの事。
ボコッと音を立て、墓の土の下から何かが突き出した。
それは、意外!!腕!!
腕に続き、穴を広げながら肩、頭、胸と…全身が姿を現す。
それはボロボロの衣服を纏い、すっかり変色した膚をした亡者。
立て続けにそこかしこで土が掘り返され、棺の蓋が開き、亡者どもが溢れ出す。
そして、彼らは何かに導かれるように夜の街へと歩き出した。
私達が寂れた工場地帯を歩いている時、前に幾つもの人影が現れた。
何だろう?思いながら歩いていく。すると、彼らは道一杯に横に散開し…
気付くと後ろにも大勢の人がいて、私達は囲まれる形になる。
ボロボロの服、そして不気味な色の膚。そこからゾンビという結論を導くのにさしたる時間は必要なく、私は意識を失うのを感じ…
ここはどこ?真っ白だ。
物や人は何もなく、それどころか地面もない。なんだか浮いてるような不思議な感じ。すると、いきなり背後から声がかかった。
何もなかったはずの場所に、浅黒い肌の男がいた。やけに派手な真っ赤な服を着ている。
男は言った。
『迷える魂よ…本来、貴女はここで死ぬべき人ではありません。死の運命(さだめ)を捩じ曲げようとする輩に作られた生ける屍に驚き、ショック死したのです。
取り敢えず仮死って事にしたので、これから貴女の肉体と魂は再びリンクします。
しかしながら、悪しき死人使いの呪いによって一時的にでも死んだ貴女の体は操られてます。それでは』
長い長い解説台詞を一方的に吐いて、男はフェードアウトして消えた。そして私も…
目が覚めると、私はゾンビ達の隊列の先頭にいた。
身体が勝手にリズムにノって、ステップを踏んでる。
みんな一般的なゾンビ像とは違う、イヤに俊敏な動きで踊っている。
何処からか音楽も聞こえる。今はなんだか間奏って感じだ。
その他は歓声も歌声もなく、衣擦れと、靴がコンクリートの地面を叩く音が響く。
ああ、なんだか楽しくなってきた。今ならムーンウォークもサラッと出来ちゃいそう。
踊っていると、ダンスの中で彼に背を向けている時、いきなり私が背後を振り向いて口を開き、歌声を発した。
『'Cause This Is Thriller,Thriller Night!!』
<了>