誰もいないようなので、賞に出す予定の現在書いている一次創作から設定流用して小ネタ書かせていただきますね。  
 
「もう、父さんちゃんと話を聞いてよ!」  
 ちっとも話を聞いてくれない父さんに向かって、私は言葉を吐きかける。  
「なんだアム、父さんは今忙しいと言うのに……」  
 娘の前で猿みたいに腰を振っておきながらどこが忙しいと言うのか理解に苦しむがそれはそれ、父さんもいっぱしの男だし母さんに先立たれて色々と溜まっているのだろうと無理やりに納得する。  
 もっともそれを生身の女の人にやるようなら私は父さんのことを二度と父とは言わないが。  
 ゾンビ相手に、自宅でやる分には文句はないし。出来れば私の前では控えて欲しいのだけれども。  
「もうっ、子供なんだから。お気に入りのゾンビを手に入れたからって夢中になりすぎよ」  
「そうは言うがなアム、ほら特注で作らせたこのゾンビは母さんにそっくりだろう? ついつい滾ってしまうのだよ」  
 父さんは笑いながらそのゾンビの膣にお○んちんを突き入れる、私のよりも小さな桃色の入り口が父さんの大きなお○んちんを舐めるように銜え込みてらてらと濡れ光る様はなかなかに官能的だ。  
「あっきれた、いくら母さんの顔しててもゾンビはゾンビじゃない。ただの肉人形よ」  
 けれど母さんの顔をしたゾンビはピクリともその表情を変化させない。当たり前だ、だってこれはそう言うものなのだ。  
「もういいわ、けど程々にね。ゾンビとのセックスに夢中なんてのはジュニアハイスクールで卒業って時代なんだから」  
「ああ、分かっている分かっている」  
 本当に分かっているのか怪しいものだ。  
 父さんは「ああ」「ああ」と頷きながら、樫の安楽椅子の上でスパートをかける様に激しく抱え上げたゾンビを突き上げる。  
 口の端から涎を垂らし、じゅぷじゅぷと水音を立てて必死に射精しようとする姿は我が父ながらみっともなくて恥ずかしくなる。  
 まぁしょうがないか、アルヴァンさんとこのドラ息子みたいに真昼間から往来の真ん中でパコパコやってるようなのと較べれば全然マシだし。  
 けどやっぱり男と言う生き物は、もうちょっと周囲への気遣いをするべきだと思うのだ。  
「それじゃあ私もヘブンスのところで新しいゾンビ買ってくるからね!」  
「あっ、ああ!」  
 やっぱり聞いちゃいなかったか。  
 父さんは体をビクリと震わせると、母さんの顔をした死体の首を絞めながら何度も何度も白濁した液体を撒き散らした。  
 薬品処理で血色がいいように見せている白い肌を粘ついた液体が汚していく、自分の玩具をどうしようが勝手だけど絨毯にこぼすなよこの糞親父。  
 と、しまったついつい物騒なことを考えてしまった。このままこの部屋にいると目の前の唯一の肉親を肉塊にしてしまいたくなってしまいそうなので、私はとっとと部屋から出て行くことにする。  
「それじゃあ行って来るね」  
「――ああ、行っておいで」  
 どさりと音がした、見れば父さんのゾンビが頭から床に落ちたようだった。おかしな方向に曲がった首筋には父さんが付けた指の跡、焦点の合わないな蒼の瞳は空ろに虚空を見つめ、私と同じ金色の長い髪を床に流しながらソレは全裸で床に転がっている。  
 その姿を見るとほんの少しだけ胸が痛んだ、ゾンビとは言え母さんの姿をしているものが死体然とした姿で横たわっているせいだろう。  
 私は、母さんの死んだ日のことを思い出していた。  
 
 
『ねえ父さん、どうしておかあさんは動かないの?』  
 そう問いかける幼い私に向かって、ツバのない黒の葬儀帽を深く被った父さんはこう言ったっけ。  
『母さんはね、死んでしまったんだよ』  
『死んでしまったの?』  
『そう、死んでしまったんだ。だから母さんの心はもう二度と帰ってこないんだ』  
 父さんがそう言うと、死体屋の男たちが母さんの遺体を取り囲む。  
 男たちは口々にまるで東方の呪術師みたいに訳の分からない言葉を呟きながら、母さんに真っ白な粉を振りかけていった。  
『父さん、あの人たちは何をしているの?』  
『あれはね……』  
 父さんが何かを言おうとしたところで、母さんがむくりと棺から起き上がった。  
『父さん! 母さんが起きた! 神様がお母さんをお助けくださったのよ!』  
 そうはしゃぐ私の肩に父さんの腕が食い込んだ。  
『アム、あれは母さんじゃない』  
『何言ってるの父さん! 母さんよ、母さんが生き返ったのよ!』  
『違う、違うんだよ。アム……』  
 悲しそうに父さんは言い、死体屋の代表らしき男に父さんは言葉を向けた。  
『終わったかね?』  
『はい、経過は順調です。この分なら慰労金もかなりの額が期待出来るでしょう』  
『そうかね、それは良かった。蓄えが少々心細いところだったんだ、これから娘と二人で暮らしていかなければならないからね。少しでも高く売れたほうがいい』  
 二人の会話を呆然と聞いていた幼い私は、慌ててその会話に割り込もうとする。  
『父さんなんてこと言ってるの! そんな酷いこと言ったら母さんだって悲しむよ』  
『そんなことは絶対にない』  
 言い切った父さんの手が肩に食い込む、まるで万力のような力に私は顔を顰めると起き上がった母さんが硝子球そのものの眼でこちらを見ていた。  
『母さんは、死んでしまったんだ。そうだろう?』  
 父さんの問いに、母さんは応えた。  
『はい、この肉体の持ち主の死亡は確認されています。そうでなくてはアンデッドプログラムは定着できません』  
『ほらな、だからこいつはただの……』  
『母さん!』  
 
 
「母さん!」  
 私は叫び、そして夢から覚めた。  
 右を見て、左を見て、そして寝ぼけた頭で夢であることを理解し、そして私は両手で顔を多い天を仰ぐ。  
「――ばっかみたい」  
 本当に馬鹿丸出しだ、いくら肉親の死とそのゾンビ化を見たからってこの年まで引きずるなんて、ジュニアスクールの子達に餓鬼だと笑われてしまってもしょうがないかもしれない。  
「あの程度のこと引きずるなんて……」  
「お待っとさん、ご注文の品出来たよん」  
 突然背後から声を掛けられて、私はびくりと体を震わせる。  
 そこには血と脳漿と薬品に染まったツナギを着たヘブンスが立っていた。  
「そ、そうありがと。手間かけさせちゃったかな?」  
「気にしない気にしない、アムちゃんうちのお得意様だし」  
 黒い髪を髑髏マークのバンダナで纏めた好青年は歪な並びの歯を剥き出してニカっと笑う、その笑顔があまりにも魅力的でほんの少しだけ胸がときめいた。  
 ああもったいない、これで鮫みたいな歯の並びと重度の死体愛好者ってことさえなんとかなれば生身の女の子の一人や二人くらいはひっかけることが出来るだろうに。  
「んで出来るだけ表情豊かなゾンビをご注文とのことだったけど?」  
「ええ、前のが終わっちゃったから身の回りの世話をさせる奴が欲しくてね。それならこう言う風なのの方が面白いと思ったから」  
 今時時代遅れの奴隷市場になど行かなくても、そのへんの死体屋でゾンビはいくらでも手に入る。  
 絶対に逆らわず、人が生まれてくる限りいくらでも補充が利き、しかもゾンビパウダーと呼ばれる白い粉をかけるだけで簡単に作り出せる労働力。  
 それを手に入れてから、私たちの暮らしは劇的に様変わりしたと言っていい。  
 そして今私の目の前には、私たちのご先祖さま達が築き上げてきた技術の粋によって作られた商品が横たえられている。  
 作ったのはヘブンス、あまりにもあまりなネーミングのこの店“ネクロフィリア”に若き狂人である。  
 そう狂人だ、死体屋などやっている人間はだいたい狂人と相場が決まっているものなのだ、私の偏見から言えば。  
 さて、今回の商品だが私は一目見て満足した。  
 針のようにまっすぐな長い金髪と、薄いぷっくりとした桃色の唇、あの父親から生まれてきたとは到底信じられない目鼻立ちの整った童顔ぎみの顔、身長は低くて胸は可も無く不可もなく、体重は――要努力。  
 つまりはそこに転がっていたのは「私」だった。  
 唯一違うのは、目の前の「私」の股間には女の子部分の上から凶悪な肉の槍が生えていると言うこと。  
「しっかし君もいい趣味してるね、アンドロギュノスで自分と同じ姿にしてくれって」  
 そう言われてもピンとこない、だから私はヘブンスに言ってやった。  
「そんなにおかしいかな? 自分自身を滅茶苦茶にしてやりたいってのは、誰でも思うことだと思うけど」  
 けれど痛いのは嫌だから実行には移せない、たとえ双子の姉妹だったとしても結果は同じだ。一緒に生きてきた半身を切り落とすことなど出来ない。  
 だがゾンビなら?  
 確かに色々と手を加えるとお金はかかるけど、政府の補助のおかげでそうそう目玉が飛び出るような値段になるものでもない。  
 そしてヘブンスの職人芸のおかげで顔かたちは私と全く変わらない、今は眼を閉じているから分からないが恐らく色素が薄かったせいで紅とも橙とも付かない色の瞳も完璧に再現されているのだろう。  
 それを刳り貫き、体中に傷を刻むことを考えただけで体の芯が熱くなってしまうのは――やはり私があの男の娘だからか。  
「いいわ、考えただけで楽しそう……」  
 そう言った私の言葉に答えたのは、彼の引き攣った笑いだけ。  
「ところで銘は何にする? なんだったら好きな箇所に刺青をサービスで入れさせて貰うよ」  
「そうね、それじゃあ……」  
 私は以前から考えていた名前をヘブンスに告げ、そして彼女を持ち帰った。  
 いや彼と言うべきなのかもしれない、少なくともあの時の私には彼は年端もいかない男の子のように思えたのだ。  
「呪われ子」と名付けた、私の顔をしたそのゾンビは……  
 
 

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