罅割れた内壁を幾つも破砕し、潜り抜けながらダンピールの少年は先を急いでいた。  
 
先の戦闘でインプの群れから助けだした、金髪のまだ幼いと言ってよい少女は  
意外にもまだまだ元気のようで、気丈にも自分の後を駆けて来る。  
 
大粒の蒼い瞳の際立つ顔の造作は、仄暗い中でもはっきり判るほど見目が良かった。  
聞けば、欧州では高名な神秘の力を秘めた血統だそうで、禍々しい儀式の生贄に  
するため誘拐されたらしい。  
 
だとすれば、多少足手纏いになろうと容易く奪回されるわけにはいくまい。  
しかし、既にこの魔城を中心に呪術圏(スペルバウンド)は拡大しつつあった。  
もはや、ただひとり外に逃したところで危険であることに変わりはない。  
それなら自分の手の届く所にいてくれたほうがまだ守り易いというものである。  
 
どれくらいの距離を駆け抜けたであろうか…。  
唐突に、眼前に広大な空間が開け、その中空に何かが存在している。  
あたかも偽りの満月のような威容であるが、程無く正体が判明する。  
 
…其れは、巨大な肉の塊としか形容しようが無かった。  
 
おぞましいことに、その表面は骸のような少女たちの艶かしい肉体にびっしりと覆われていた。  
すらりとしたしなやかな四肢、まだあどけなさの残る顔、そして初々しい乳房や陰裂の数々が、  
互いに絡み合い睦み合うが如き様は、あまりに冒涜的で目が眩むような美すら感じさせた。  
 
立ち昇る濃密な妖気と死臭が、いままでに相手にしてきた小鬼や生ける死者、そして  
インプたちとはまったく格が違う、恐るべき敵であることを少年に告げていた。  
 
「……れぎおん」  
 
不意に金髪の少女の口から言葉が漏れ出た。  
 
ぼやけかけた記憶をしばし弄り、吸血鬼狩りの血を引く少年がその意味を見出す。  
其は一にして全、恐るべき巨大な数量にて、全てを虐げ賤しめるという悪霊の軍団の名である。  
 
少年が手にした得物をきつく握り締め、そのまま高々と跳躍し、浮かぶ醜悪な肉塊を打ち据えた。  
(…その武器、破邪の鞭は、少年の血統にしか使えなかった)  
 
「はぁんっ、あんっ、あっ、んぁっ、ああーーーっ、あぁーーーっ!!」  
 
緋色の疵が縞模様のように駆け巡り、肉の生贄たちが煩悶とも嬌声ともつかぬ悩ましい声で喘いだ。  
少年が後退りもう一打加えると、今度は明らかに性的な快美感の極まった淫靡な合唱が鳴り響いていく。  
 
半死人の娘たちの肢体の幾つかが衝撃で剥がれ床に落ちるが、何の痛痒も感じないのか、そのまま  
ゾンビのように、じわじわと二人の傍ににじり寄ってくる。  
 
さらに球体の中央に亀裂が入り、其処からじわじわと広がっていく、それも陰門のように淫猥な形状の…。  
同時に経血のような赤黒い体液が滲み出て、見る見るおぞましい肉塊の表層を覆い尽くし彩っていく。  
 
「!!」  
 
突然、亀裂から熱い液体が迸り、つい今しがた少年達が位置していた石畳を溶解した。  
白煙が濛々と立ち昇り、其処一面に発情した少女たちの生々しい性臭が広がっていった。  
視覚や聴覚、そして嗅覚に訴える夥しい性的な刺激。  
そのひとつひとつが牡の本能を掻き乱し、侵食し、惑乱させる罠だった。  
 
さらに球体の淫裂が完全に開き切り、其処から人間の腸管を思わせる様な触手が何本も吐き出される。  
金髪の少女のまだ幼い体を横抱きにしたダンピールの少年は、これも苦心しながらも凌ぎ切った。  
だが、すぐ足元にゾンビ同然の裸身の少女たちが赤黒い粘液に塗れ、自らも半ば溶けながら、  
ぴちゃぴちゃとおぞましい水音を立てながら這い寄って来る。  
 
徐々に逃げ場が狭まっていく…、もし、この少女たちや触手の忌まわしい抱擁を受ければ、  
忽ち精気を抜かれ、少年たちもまた生ける屍に成り果てるであろう。  
 
その時、何を思ったのか金髪の少女がドレスの胸元に手をかけ、そのまま一気に脱ぎ捨てた。  
薄闇の中に、純白のドロワーズひとつになった少女の、初々しい裸の胸が浮かび上がる。  
 
まだまだ薄く固い膨らみ、その頂には淡い桃色の粒が恥ずかしそうに息付いていた。  
そのまま長い金髪を翻し、少女は愛らしい裸身を汚穢なる妖物たちに見せ付けるように躍り出た。  
 
「おぉおおおおお…」  
 
羨望と怨嗟が陰惨な呻きとなる…、仄かに煌く裸身は屍少女たちの生の希求をも呼び覚ました。  
少女は、そのまま薄紅色に頬を染めながら駆け出し、触手や屍娘たちを惹きつける囮の役を  
自らに課した。  
 
その隙に態勢を立て直した少年が懐中から聖水の小瓶を取り出し、得物である破邪の鞭に振りかけ、  
さらに武器の有効距離を延長する鎖やロッドを素早く装着すると、再び巨大な死霊塊に挑みかかる。  
 
「ぎぃええええぇ!!!」  
 
鞭の先端が一閃し、肉の弾け裂ける凄惨な音とともに、今度は明らかな苦鳴が響き渡った。  
手応えを感じ取った若きダンピールはそのまま破邪の鞭を振るい続け、魔界の偽りの月は徐々に  
娘たちの柔肉をこそぎ取られ、痩せ細り、やがて四方から触手を生やした醜悪な肉塊が中からまろび出る。  
その中央部には、巨大な単眼が存在していた。  
 
即座に本体と看破した少年が、胸から聖別された投擲用のダガーを取り出し、腕を翻した。  
狙い違わず邪眼を射抜かれたレギオンの本体は、呆気無く地に墜ち、腐汁に塗れながら溶けていった。  
 
…戦いの後には、無数の屍少女たちが無残に晒されていた。  
 
仮初めの生命の糸が未だ断ち切れていないのか、陸揚げされた魚のようにまだぴくぴくと蠢いている。  
一人として手足が満足な娘はいない…、骨を溶かされ、紐のように絡まって結び付いていたらしい。  
 
折り悪く火を熾す道具を所持してない。  
哀れだが、もはや此処で乾き、朽ち果てるのを待つしかない。  
 
ダンピールの少年は犠牲となった少女たちの運命を悼み、しばし瞑目していたが不意に上着の脇を  
ちょんと摘まれて驚いて振り返った。  
 
其処には拾ったドレスで胸を覆い、まだはぁはぁと息を弾ませている裸の美少女の姿があった。  
追い縋る悪霊たちの手を掻い潜りながら見せた、まるで軽業師でも連想させるような身のこなしを  
思い起こしたダンピールの少年は、少し眩しそうに蛮勇を貫き抜いた少女を見下ろした。  
 
一方の少女の深い蒼の瞳には、戦い抜いた誇りと仄かな恥じらいが浮かんでいた。  
 

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