聖なる槍の騎兵隊。
女のみが所属することを許される大陸最強と謳われていた騎馬軍団があった。
しかし、たった今。
彼女たちは100倍のスケルトン軍団の数を前に奮戦のち、壊滅した。
「見事だけどあと一歩足りないって感じかなー。」
ほんの少し前まで戦場であった、今はいくらかのスケルトンがただ棒立ちしている荒れた平原を歩き回る一人の子供。
この人物こそがこのスケルトン軍団を騎兵隊にけしかけた張本人の邪悪な魔法使いである。
そして魔法使いが騎兵隊の戦果を確認すべく歩き回っていると
倒れている騎兵の一人が長槍を拾い上げ、周囲のスケルトンを薙ぎ払い立ち上がる。
「おや、まだ生きている子がいたんだ。」
「てやああああああっ!」
驚きの表情をおどけて見せる魔法使い目掛け、その騎兵は突撃を仕掛ける。
「筋はいいみたいだね。」
そして突撃を阻むように立ちはだかるスケルトン3体も突き倒し、魔法使いに接近する。
「けど経験不足ってところかなー。」
突撃の勢いが弱まったところを別のスケルトン数体が飛び掛り、騎兵を取り押さえる。
「どうして…どうしてこんなことを!」
取り押さえられた騎兵、まだ少女と言えるような幼さの残るツインテールのかわいらしい娘が叫ぶ。
「ひ・ま・つ・ぶ・し。」
「そんなことで…」
魔法使いの回答に、娘は絶句する。
「さてと、戦闘が終わったから次は創作の時間だね。」
魔法使いが指で空に陣を描くと、取り押さえられた娘を除く騎兵隊の女たちとその乗騎たちが一箇所に集められる。
「どうやら生き残りはキミだけみたいだね。」
「嘘…」
「嘘じゃないよー。生きていたらこの術には巻き込まれないよー。」
魔法使いが、陽気な声を発すると屍となった騎兵たちとその乗騎たちが溶け出し融合し一つの肉塊となる。
そしてその肉塊からは騎兵たちやその乗騎の身体の一部がデタラメに浮かび上がる。
その浮かび上がったものはいずれも黒ずんだ桃色で、うめき声を発したり澱んだ体液を垂れ流し続けている。
「これで、できあがりっと。
ああ、声を上げてるけど死んだことと混ぜられたことで
意志や精神はばっらばらになってるから会話は成り立たないよー。」
「よくもみんなを…許さない、許さないんだからっ!」
娘が魔法使いを睨みつけ、叫ぶ。
「あとこれは、生きたものを取り込むこともできてね。
しかもこの中にいたものたちの精神の残骸に精神を砕かれることになるから完全な仲間入りなんだ。
さて、と。」
魔法使いがここまで言ったところでスケルトンたちが騎兵の娘を立ち上がらせる。
娘はもがき続けるも拘束から逃れることはできない。
そして娘はスケルトンたちに押し込まれ肉塊の中に吸い込まれていく。
「しかし、こうなってなお恐怖せず人のために怒ることができる。強い心も持ってる。」
まるで他人事のように言う魔法使い。
「やっぱりそんな子のためにはやっぱり一肌脱がないとねー。」
魔法使いは満身の笑みを浮かべた。
肉塊の中。
騎兵の娘は夢を見るかのように人の記憶の断片を吸収していく。
それが一通り終わり、娘の意識が目覚めていくのと同時に肉塊の頂に
騎兵の娘が人であったときの形のまま、しかし黒ずんだ桃色となって浮かび上がってくる。
「ひゃっ。」
娘が完全に目を覚ますとき、人の身では感じることのできぬ快感に襲われる。
そして自身の小さな育つことのなくなった胸や、毛のない、また生えることのなくなった秘所から澱んだ体液を噴出させる。
それと同時に、肉塊にあった他のそれらからも澱んだ体液が噴出する。
「おはよー。」
肉塊の上で寝転んでいた魔法使いが娘の耳にささやく。
「生まれ変わった気分はどうかな。」
「最悪という言葉でも…ぜんぜん足りな…ぁい…」
娘であったものが憎しみを込めて、しかし快楽に中断されつつも返す。
「みんなの快感を常に楽しめるようにしたのにまだ足りないんだ…
じゃあ、他の子をいっぱい取り込んでいってもっともっと気持ちよくなってもらおうかな。まずは最初に君たちが駐屯してた街へ行こっか。」
「なっ…」
頂に娘を浮かべた肉塊は同意の意志はなくとも、
魔法使いの命に逆らえず這いずりながら街へ進みだす。
「わかったらわかりました、だよー。」
「わか、わかり…ました…」
娘は憎しみの表情を浮かべるも言われたままのことを答える。
そしてしばらく。
守備部隊のいなくなった街は瞬く間に蹂躙された。
無垢なる幼き少女。
純潔を守る穢れなき女僧侶。
そんな人たちもまた街で肉塊の中に吸収され、澱んだ淫らな液体を垂れ流し、
頂の娘に快楽を与える器官となっていた。
「ごめんなさい、ごめんなさい…」
そして吸収したものの記憶と、その肉体を得てしまった騎兵の娘は謝罪の言葉をただ連呼している。
「これだけ吸ってもまだ楽しくなれないんだ…
じゃあ、もっともっといろんなところから吸収してくるのがいいね。」
魔法使いは、街の人たちを吸収し小さな城ほどにまで膨れ上がった肉塊から飛び降り邪悪な命令を下す。
「…わかりました。」
「理解がよろしい。
それじゃおねーさんの未来に幸運を祈って、ばいばーい。」
別れの言葉とともに魔法使いは姿を消す。
そして肉塊は次の犠牲者を求め進みだす。
だがしかし、同時に自らを仕留めるような強きものが大勢いるであろう王都に向かい。
それから数日。
肉塊は魔法使いの命のままに隊商など街道を行くものを取り込みながら進んでいた。
「おっとっとっとっと、忘れてたことがあるからもう一言だけ言いにきたよ。
どんなに苦しくっても生き延びることを第一にして。
生きているってのはそれだけで素晴らしいことなんだからね!」
「わかりました。」
「それじゃ、今度こそさよならー。」
魔法使いは姿をあらわしたかと思うと、娘に更に命を与え姿を消す。
かつて騎兵であった娘は祈る。
吸収した人たちの知識や経験を乗り越え討ち果たすものが現れることを。
自身の心が魔物のそれと同じになってしまう前に討ち果たされることを。
そして肉塊は街道を外れ、森の闇の中へと消えて行った。
おわり