エルフ・トラフィックは非合法組織の資金源の一つ。
兵器を使って里を襲い、または単独でいるところを誘拐し、捕まえた女エルフを闇ルートで売買する。
治安の悪い場所では、よく目にする売り物のエルフ。だが、買ってはいけない。
どんなに気の毒に思っても、それは犯罪への加担に他ならないからだ。
安易な買い手がいる限り、犠牲になる無力なエルフは、決して減らない。
私がとある辺境の地で宿を取った時のことだ。
そこで店主と仲が良くなり、ついもう一日もう一日と滞在を延ばしていた。
彼とはとても気が合った。数日で兄弟のように仲良くなったほどだ。
だが、金が底をつく前に帰らなければいけない。
泣く泣くそのことを告げると、彼は餞別を贈りたいと言ってきた。
「エルフを一人、ただでやる」
「面白い冗談だな。お前の不倫相手か?」
「いや、奴隷だ」
宿が闇の紹介所だと、理解するのに時間はかからなかった。
「本当は売るべきなんだが、最近上納が煩くてな。それに折角の兄弟との別れだ、ケチなことは言わん。好きなのを連れてけ」
「地下に来い」
無言の私が案内されたのは、牢獄のような場所だった。
「指一本挿れたことのない処女から、どんなプレイも楽しめる調教済みの淫乱まで、何だっているぞ」
表は格子、周囲は壁で区切られた部屋部屋には、囚われて生気、或いは正気を失ったエルフの姿。
薬でも打っているのか、形容し難く乱れ狂っている者もいて、思わず吐き気を催す。
一通り見て回ったところで、私は尋ねた。
「こんなこと、私に教えて良いのか?」
「何言ってるんだ、兄弟だろ? それに少し掘れば周知の事実だ。こんな所で商売したって、誰も咎めに来やしない」
若干は後ろめたい気持ちもあるようだった。確かに、こんな場所で宿だけでやっていけるはずがない。
それでも私は諫めることにした。良心の呵責から、そして”兄弟”へ更生を促す為に。
結果は、NOだった。今更足を洗うことなんて出来ない、と。
私は失望し、そのまま宿を出た。その日ばかりは、人の性を呪った。
格子を隔てて、私を見つめる瞳が忘れられない。皆、元々は何の罪も無く、森で暮らしていたエルフ。
兄弟だと思っていた店主と、そんな男に惹かれた自分への嫌悪感に苛まれた。
私は、潔癖症なのかもしれない。だが、どうしたら良いか分からなかった。ただ、逃げ出すしか出来なかった。
エルフを買えば、その金で別のエルフが捕まる。何人も買えば、それだけ……。
本当は、助けてやりたかった。あの牢獄から、一人でも救出してあげられたら――でも、それは偽善なのだ。
犠牲の連鎖を止める為、見捨てなければならない。悲痛な喘ぎ声も、聞いて聞かぬ振りをしなくてはいけない。
一人の運命を幸せに変えてやれれば良いなんて、独り善がりだ。それにその一人を選ぶなんて、私には出来ない。
しかし、私はしばしばあの光景をフラッシュバックし、やりきれない思いに苛まれる。