「そ、そんな……」  
 世紀末。そんな言葉はすでに死語だと大半の人々が思っていたはずだった2000年の12月。おりしも日付は世界で一番有名な聖者が生まれる前々日……何の前ぶれもなく、日本は崩壊した。  
 「認めなさい。これが現実よ」  
 ――いや、その表現は正確ではない。  
 より正確には、北海道、四国、九州といった本州以外の島部では相応に、以前に近い文明レベルの生活が行われているというし、そもそも滅びの"兆し"も些細なものだが確かに存在したのだから。  
 「ヒデ、辛い気持ちもわかるけど……」  
 そして、俺は……俺達だけは、その"兆し"を感じていたはずなのだ。  
 DOS――"デモン=サモニング・オペレート・システム"、そう呼ばれるプログラムを、偶然ネット上で手に入れた俺は、いつの間にか怪しげな邪教集団と自衛官崩れのテロリストの暗躍に巻き込まれ、悪魔や妖怪、狂信者たちと命がけの構想を繰り広げるハメになった。  
 「――ごめんねぇ、ヒデくぅん……」  
 平凡な一高校生には過酷過ぎるそんな毎日を、それでも俺が生き延びて来れたのは、ひとえにある目的があったからだ。  
 幼馴染であり、つい先日ようやく恋人へと関係をステップアップさせた隣りに住む少女、美優希(ミユキ)。  
 とつぜん行方不明になった彼女を、何としても探し出すつもりだったのだ。  
 だが、くだんのテロリストの首魁を倒した直後、日本にICBMが打ち込まれた。その爆心地にいたはずの俺は、しかし、間一髪、それまで謎の助力者として幾度となく俺を助けてくれた女性、百合(ユリ)さんのお陰で妖精郷とやらにとばされ、九死に一生を得た。  
 「あぶなっかしくて見てられない」という彼女と共に、妖精郷を旅して無事現実世界へと帰還することができたんだけど、向こうでの1ヵ月ほどのうちに、こちらでは10年近くの歳月が流れていたんだ。  
 そして、こちらへ帰還してから、邪教集団のトップを締め上げて問い詰める過程で、かつて仲間だった少女、衣舞(イブ)の転生と再会した。  
 え? 10年じゃ時間合わない? それともょぅt゛ょなのかって?  
 うん、実はイブは彼女自身の遺伝子をモデルにした人造生命体として生まれ変わっていたんだ。だから、肉体年齢的にはたしか7歳だはど、外見は17歳のピチピチ美少女(自称)だね。  
 ……ユリさんが「チッ!」とか言って残念そうだったけど。  
 ついでだから告白しちゃうけど……実は、俺、このふたりとも身体の関係を持ってる。  
 いや、身体だけじゃないな。過酷な冒険行を共にする過程で、仲間として戦友として、何より男と女として分かちがたい絆が生じていることは、胸を張って断言できる。  
 それは、ユリさんの正体が淫魔――それも、古代の女神級の力を持つそれであると分かり、イブが人とは異なる存在となった今でも変わりはない。  
 もともとあまり仲がよくなく、俺と恋人関係になってからは、それこそ女の意地をかけたケンカとかもしてたふたりだけど、共に旅するうちに、俺も含めてかけがえのない仲間として徐々に打ち解けていった。  
 まぁ、そもそも日本中が「ヒャッハー、水だぁ」とか言いそうな無法者と闇の世界から這い出て来た魔物に席捲されてるって言うのに、今さら律義に一夫一婦制なんて守ってても仕方ないよね?  
 この際だから、旅の目的であるミユキが見つかったら、男1女2(場合によっては彼女も入れて3)で結婚して、田舎に引っ込んで悠々自適で暮らそうか?  
 そんな冗談半分本気半分の未来設計を、夜営の焚き火のそばで語っていたりもした、その矢先。  
 呆気なく彼女の――ミユキの行方が知れた。いや、ミユキ本人と再会したんだ。  
 彼女は美しかった。  
 16歳とは思えぬ豊満(とくに胸)な肢体。軽くウェーブの掛かったピンクブロンドの長い髪。至極整っているはずなのに、ちょっと天然の入った性格のせいで、どこか親しみやすい雰囲気の顔。  
 淫魔の女王たるユリさんや、人の想像しうる究極美の再現を目指して作られたイブと比べても、ひけをとらない美しさに満ちあふれている……そう、10年前とまったく変わらずに。  
 
 「ぐすん……会いたかった……でも、こんなわたしを見てほしくなかったよぅ」  
 10年前でもすでに絶滅寸前だった深紅のボディコンワンピースに身を包んだミユキは、不死の怪物(アンデッド)――"屍鬼"に分類される魔物へと変えられていたのだ。  
 あの、日本崩壊の日を、偶然地下室にいたおかげでかろうじて生き延びた直後、現在この町を支配している悪魔2体が行った儀式によって、町の住民全員がアンデッドに変えられてしまったのだと言う。  
 ただ、大半がすでに死んでいた他の住人と異なり、ミユキは生きたたまま儀式を受けたせいか、生前の記憶や人格がそのまま残り、見かけもほとんど変わらなかった(血の気がなく、体温が低い程度)。  
 それに興味を抱いた黒い悪魔にサンプルとして捕われていたのだと言う。  
 「――もしかして、その格好も、その悪魔のシュミか?」  
 ミユキが身じろぎしただけで、タイトなボディコンの胸元がプルンプルンと揺れるのがハッキリわかる。  
 白黒悪魔のヤツは100回殺しても飽き足らないが、服のセンスだけは誉めてやろう。  
 「うん。なんでもぉ、若い女のアンデッドは裸か、こういう服を着るのがお約束なんだってぇ」  
 鼻にかかった甘えるようなちょっとバカっぽいそのしゃべり方も変わっていない。もっとも、学校の成績に限れば、格段にミユキのほうが良かったのだが……。  
 「すまん、まさかそんなコトになってるとは思ってもみなかった。助けに来るのが遅れてごめん」  
 「うぅん、ヒデくんは悪くないよぅ……でも、これで思い残すことはないかなぁ」  
 ?  
 「ねぇ、ヒデくん。この町のどこか、多分悪魔が管理してる倉庫のどこかに、"死人を成仏させるお香"があるんだって」  
 ! まさか……。  
 「うん、そのまさか。凄腕のデーモンバスターのヒデきくんなら、そのお香を取ってくるのも簡単だよね? ねぇ、わたしをそのお香で眠らせ……」  
 だめだ! 却下! だが断る! 「 はい →いいえ」  
 大体、久しぶりに再会した惚れた女を、恋人の俺自身の手で、殺せって言うのかよ?  
 「で、でもぉ……わたし、もぅ人間じゃないんだよ? アンデッドなんだよぉ? ヒデくんの恋人の資格なんて……幸い、あとを託せそうな女性(ひと)もいるみたいだしぃ」  
 ノープロブレム。このふたりは既に了解済みだし、そもそもこいつらだって人間じゃないし。  
 「うふふ、こんにちは、本妻さん。ヒデの愛人1号、百合よ。淫魔をやってるわ」  
 化身を解き、その尻尾と角を顕にするユリ。  
 「ちっス、愛人その2のイブでーす。生まれ変わった不死身の身体、人造人間だったりしまーす!」  
 カチッと手首から先を外してみせるイブ。  
 「ふぇ!?」  
 ――なぁ、ミユキ。ただのヘタレな高校生だった俺が、「悪魔も泣いて謝る」デモンバスターにまで成長できたのは、ひとえにお前を助けたい、再会したいと思い続けたからなんだぜ?  
 「う、うん。すごく頑張ったんだよね? ありがとぅ……」  
 たわけ! 男が愛しの彼女に会いたいって言ったら、エッチも含むに決まっとろーが!  
 そもそも、ミユキとは、クリスマスイブにバイト代貯めて予約したホテルのディナーのあと、念願の初エッチする予定だったと言うのに……。  
 ヒソソヒ……(あ、ヒデってば血涙流してる)(よっぽど、心残りだったねぇ)  
 そこ! 外野うるさい!  
 ともかく! 十年前のやり直しを、俺は要求する!  
 そいでもって、俺のそばにいなかった罰として、今後お前は、ずーーっと俺と一緒にいるコト!  
 「ヒデくん、おーぼー……」  
 こんな時代だからこそ、亭主関白でいくのだ!  
 
 ……などとゆー経緯があって、今、俺達のチームは男1・女3・仲マ2という、なかかな愉快な構成になっている。  
 神様も悪魔もクソクラエだ。妖精郷で出会った妖精王とやらは、俺に救世主とやらになってほしいみたいだったけど、知ったことか。  
 惚れた女がそばにいて、飯が美味くて、夜になったら(時には昼間も)エッチができる。  
 それだけで、どこだって男にとっちゃ、天国みたいなモンだ。  
 「――アルジヨ、ソレニシテハ、コシガツラソウダガ……」  
 あ〜、まぁな、ポチ(ケルベロス♂)。  
 さすがにあの人外娘3人をいっぺんにベッドで相手するのはちょっと無謀過ぎた。当分は3Pまでに控えよう。  
 さ! 今度の廃墟(ダンジョン)は元薬品工場だったらしいからな。各種薬品や……ひょっとしたら精力剤が手に入るかもしれんし、はりきっていってみよーか!!  
 
−『ボディコニアンは俺の嫁』 FIN−  
 

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