俺の家から東へ200メートル行ったところに「上条病院」という小さな個人医院がある。戦前から続く病院で地域での信頼も厚い。  
 とはいえ小さなときから病気知らずで育ってきた俺がこの病院へ来たのは、本当に何十年ぶりかのことだった。3歳になる娘は嫁の体質を受け継いだのか頻繁に発熱し、そのたびにこの病院のお世話になっている。  
 普段は嫁がつれてくるのだが、今日はどうしても外せない用事があるとかで俺がここへ連れてくることになった。年寄りだらけの待合室で順番を待ちながら俺は建て直されたばかりの建物の内装を順にみつめていた。  
 俺の記憶にある病院はもっと古く汚かった。木造で床がギシギシ鳴り、どことなく陰鬱な雰囲気を漂わせていた。しかし新しい建物はとても綺麗で清潔感に溢れている。  
 名前を呼ばれて待合室から診察室前の廊下に移動する。そのとき俺は子供の頃たった一回だけこの病院へ来たときのことを思い出していた。  
 
 
 
 俺が子供だった頃、みんなはこの病院のことを陰で「カンチョー病院」と呼んでいた。子供は必ず浣腸されるからだというのがその理由らしかったが、病気しらずの俺にはその噂の真否など確かめようも無い。  
 小学5年生だったある日、俺は友人たちと近所の空き地で遊んでいた。だがそこで転んだとき古い釘で腕を切ってしまった。幸いそんな深い傷ではなかったが、錆びていたこともあって念のためこの病院で診てもらうことになった。  
 「浣腸される」という悪友たちの言葉に内心ドキドキしながら母と一緒に待合室へ入ったとき、俺はそこに意外な人がいるのに気づいた。  
「あっ」  
 そこにはうちのクラスの副委員長、古橋結衣がいた。眼鏡の弦が掛かる耳を真っ直ぐな長い黒髪が覆い隠す。学校の制服ではなく真っ白いワンピースに着替えた姿はどこか新鮮で、さしこむ夕焼けの光に包まれた姿は官能的ですらあった。  
 しかし彼女は恥ずかしそうに顔を背けると読みかけの少女漫画に視線を降ろした。その斜め後ろの席に座りながら俺はふとみんなの噂を思い出していた。  
 ――カンチョー病院。子供は必ず浣腸される。  
 今日の体育は水泳だったが、彼女はブルマ姿でプールサイドに座っていた。目ざとい男子たちが「お赤飯か」とからかっていたが当時の俺にはその意味がわからなかった。  
 古橋はクラスの女子のなかでも一番背が低く体つきもガリガリでまさに「発育不良」という感じだった。2歳離れた俺の妹と比べてもまだ幼くみえる。  
 それでも性格は男勝りで副委員長として男子たちにしょっちゅう口やかましく注意をしていた。俺もその注意される常連の一人で正直ウザい女だと思っていたが、今みる彼女の姿は学校のそれとは明らかに異なっており、むしろ病弱な薄幸の少女のようにすら思える。  
 ほどなくして俺と古橋の名前が呼ばれた。待合室から診察室へと俺たちは黙って歩いていく。診察室の手前の廊下にある長椅子に座って、さらに順番を待つのだという。まずは古橋が診察室の中へと入っていった。  
 木製の引き戸は年季が入っており、僅かに軋んで隙間ができている。そのため診察室で交わされる会話は静かな廊下で耳を澄ませば全て聞くことができた。  
「先週からどう、調子は?」  
「あの……あまりよくないです」  
「ふうん。で、どれくらい便秘が続いているの?」  
「……です」  
 初老の医者は遠慮なく大きな声で尋ねてくる。対照的に古橋の声は小さく掻き消えそうなものだった。  
「え、ということは先週にお浣腸してからずっと便秘? うーん、それはいけないなぁ」  
「……」  
 浣腸、という言葉に俺は思わず息を呑みそうになった。やはり噂は本当だった。ここでは子供たちにカンチョーをしている。……でもカンチョーって具体的にどういうことをするんだ?  
 両手を合わせて人差し指を立て、尻の穴めがけて突き刺す「カンチョー」は知っている。しかしあれが医療行為にはどうしても結びつかない。ただ、お尻に何かをするのだということはおぼろげにわかった。  
 古橋のお尻に、カンチョー……!  
 背が低く男勝りの同級生とはいえ、彼女がお尻を丸出しにしてカンチョー(よくわからないが)される姿を想像するだけで体中が熱くなる。それからあとしばらく続いた診療行為など耳に入らず、ただ俺は「浣腸される古橋の姿」だけを繰り返し脳裏に思い描いていた。  
「じゃあ今日もお浣腸するよ。あ、いつも通りしてあげて」  
 診療を終えた医者が看護婦に命じる。それと同時に別の看護婦が廊下に出てきて、俺の名前を呼んだ。  
 
 診察室は思ったより広く雑然としていた。奥に向けて壁があり、カーテンで仕切られたその向こう側が処置室になっている。一瞬、そちらへ連れて行かれるワンピース姿の古橋がみえた。  
 俺は医者の前の丸椅子に座り怪我の程度を説明する。しかしその間も俺は医者の背後で浣腸の準備をする看護婦の動きに視線を走らせていた。  
 針のついていない太い注射器が用意される。大きなビーカーに薬が注がれ、さらに水で薄められていくのがわかった。それだけを見ていると理科の実験風景のようでもある。水溶液をかき混ぜ温度を測ると小さなワゴンにビーカーと注射器を乗せて処置室へ入っていく。  
「さあ結衣ちゃん。お浣腸しますよ」  
 中年太りの看護婦が事務的に宣告する。はい、という消え入りそうな古橋の声が妙にいやらしく感じられた。これがあの、キンキン声で男子たちを注意する副委員長の声なのか。  
 ごくりと唾を飲み込む俺を他所に医者は診療を終えていた。傷は浅く消毒するだけで大丈夫だろうと母に説明する。そしてもう一人の看護婦に消毒液と脱脂綿を持ってくるように命じた。  
 まだ若い看護婦は奥の処置室へ向かう。さっと仕切りのカーテンが開かれたとき、俺は思わず叫びだしそうになった。  
 日が沈んだ直後のガラスは鏡状になっており、そこに壁の向こう側の風景が映し出されていた。  
 白いシーツの敷かれたベッドの上に四つんばいになった古橋はワンピースを胸元まで捲り上げられている。白いパンツは膝まで下ろされ、その奥に隠されているはずの秘密の場所が惜しげもなく露にされていた。  
 高々と掲げられた真っ白い尻肉の中心には薄桃色の窄まりがあり、その下にはまっすぐな細い割れ目が見て取れた。小さく震えるその窄まりを脱脂綿が拭き清めると「うっ」と彼女が息を呑む音が聞こえた。  
 中年の看護婦が先ほどの注射器を手に取る。じれったいほど緩慢に看護婦はその先端を古橋の肛門に近づけていった。尻の肉が小さく震えているのがわかる。ようやく注射器の先端が窄まりに差し込まれた。くちゅっという小さな音が聞こえたような気がした。  
 そしてようやく、注射器のシリンダが押し込まれる。見るからに太い浣腸器にはたっぷりと液体が入っていた。それがみるみる古橋のお腹の中へと注がれていく。高く掲げられた尻はいつの間にか少しずつ丸まりかけていた。  
「背中を曲げないの。危ないでしょ」  
 看護婦が一旦注腸を停め、軽く彼女をたしなめる。膝をさらに開いて再びお尻が突き出されると、一本線にしかみえなかった秘裂が少し広がって中の薄桃色の肉壁が垣間見えた。  
 注腸が再開される。苦しくなってきたのだろうか、古橋の口からは小さな呻き声が漏れ始める。泣き声にも似たそれはいつもの彼女からは考えられない声で、俺は何かが心の奥で広がっていくのを感じた。  
「はい終わったわよ。じゃあ脱脂綿でお尻をぐっと押さえて、これから5分間我慢ね」  
「……はい」  
 ようやく浣腸器が抜かれる。看護婦は綿の塊を古橋に渡すと彼女はその姿勢のまま自らの肛門を強く抑え始めた。  
 そのとき、若い看護婦が消毒液と脱脂綿を持って戻ってきた。さっとカーテンが引きなおされ、処置室の様子をみることはできなくなる。  
 傷口の消毒はあっさりと終わり、俺は診察室をあとにした。  
 
 会計を待つ間、俺は母にトイレへ行くことを告げた。実際に尿意があったふわけではない。ただ、もしかしたらこのあと便秘の古橋がトイレへ来るのではないかという予感があったからだった。  
 女子トイレに潜り込むつもりでいたが、古い個人医院である上条医院にはトイレについて男女の仕分けがなかった。俺は咄嗟に二つある大便所用個室のひとつに駆け込む。  
 一応水洗ではあったが和式の狭く汚い個室だった。隣の個室とを隔てる壁の下には隙間がある。と、そのとき小走りにトイレへ近づいてくる足音が聞こえた。俺はそっと床にしゃがみこみ、隙間から隣室を覗く。  
 乱暴に扉が閉められると、便器をまたぐスリッパが見えた。子供用スリッパの模様に俺は壁の向こうにいるのが古橋だと確信する。彼女は急いで白いパンツを足首近くまで下ろすと便器にしゃがみこんだ。  
 割と後ろ側に陣取っているせいか、金隠しに遮られることなく間近に彼女の割れ目がみえた。無毛のそれは俺が初めてみ女のアソコだった。チンチンがない、切れ込みだけの割れ目からはほどなくして黄色い飛沫が放たれる。  
(すげー、女のションベンってこんなふうに出るのか……)  
 だがそれだけではなかった。飛沫を放ち続ける裂け目のさらに後ろから何かが盛り上がってくる。それはすぐに破裂し、派手な音とともに中から大量の便を放出する。  
(マジでウンコだ! すげえ、あの古橋が俺の前でウンコしてる!)  
 一週間の便秘だったという彼女の大便はいつまでも続いた。ようやく小便が終わろうかという頃に便の勢いも弱くなる。やがてすべてを出し切った彼女は安堵の息を吐くと、秘部を拭って便所をあとにした。  
 手を洗い、廊下をゆっくり戻っていく足音が消えるまで、俺は漂ってくるもの凄い臭気を吸い込み続けていた。  
 受付に戻ると母は会計を済ませたところだった。その横に座る古橋は背中を丸めて俺をじっと見つめている。母は俺を振り向くと、「私もちょっとトイレへ行ってくるからしばらく待ってて」と言って俺が来た方向へ歩いていった。  
 残された俺は黙って古橋の隣に座る。彼女は顔を真っ赤に染めながら小声で尋ねてきた。  
「……トイレ、行ってたの?」  
「ん? ああ」  
「でも、どこにもいなかったわよね」  
「もうひとつの個室に入ってたんだよ。俺も腹が痛くてな」  
「……嘘。覗いてたんでしょ、ヘンタイ」  
「そんなこと言っていいのか? 明日みんなに言いふらしてやろうか。『古橋がカンチョー医院で浣腸されてた』って」  
 古橋が息を呑んで俺に顔を向けた。その目には大粒の涙が浮かんでいる。もっとからかうつもりだった俺も驚いて思わず言葉を飲み込んでしまった。  
「お願い、それだけは許して。……なんでもするから」  
「……へえ。本当に?」  
 何か得体の知れない感覚がぞくぞくと背筋を駆け上がってくる。いつも男勝りの古橋が涙を溜めて俺に哀願している。もっと苛めてみたい、もっと恥ずかしいことをさせてみたい。  
 俺の脳裏には先ほどの浣腸の風景や排便の光景がありありと甦ってきた。ごくりと唾を飲み込み、もう一度「なんでもするんだな?」と確かめる。古橋は小さく頷いた。俺は声を低くして彼女に命じる。  
「よし。じゃあ明日の放課後うちに来い」  
「……え?」  
「明日は家に誰もいないんだ。いいな、絶対来いよ」  
 そのとき母がトイレから戻ってきた。俺はさっと顔を離し玄関へと向かう。下駄箱の前で振り向くと古橋が不安げに俺のほうをみていた。俺は小さく親指を立てるとそのまま家路についた。  
 
 古橋は翌日、約束どおり我が家に来た。そして俺は彼女相手に生まれて初めてのお医者さんゴッコをした。まだ本当に膨らみ始めたばかりの乳房を揉み純白のパンツを脱がし、最も恥ずかしい彼女自身の秘部を凝視する。  
 治療の真似事として同じように四つん這いにし、肛門を広げていじりまくった。古橋は意外なほど抵抗せず俺のされるがままになっている。調子に乗った俺はそのまま彼女の肛門に指を差し込んだ。  
「んくっ!」  
 押し殺したような声をあげ、古橋は体を大きく震わせた。閉じられていた割れ目が独りでに開き、内側から汗のような透明な液体が溢れてくる。  
 自分のチンチンが大きくなっているのがわかった。ズボンを破らんばかりに腫れ上がった肉棒を押さえると、それに気付いた古橋が震える声で尋ねてくる。  
「勃っちゃったの?」  
「う、うるせー」  
「ねえ。オチンチンみせてよ。私のも見たんだからいいでしょ?」  
 そういうと彼女は強引に俺のズボンを下ろした。固くなった肉棒はすぐに天井を向いて屹立する。古橋の鼻息が皮に包まれた先端部分をこすってくすぐったい。  
「……ねえ、もうシャセーできるの?」  
「な。なんだよそれ」  
「あは。まだ知らないんだね。……じ、じゃあ、私のお尻に入れてみる?」  
「はあ? な、なんでケツなんだよ」  
「入れたくないの?」  
 そう言いながら古橋は俺に尻を向け、自らの両手で尻の窄まりを伸ばして見せた。ひくひくと蠢くその器官に俺の目は釘付けになる。  
「入れてもいいよ。……でも、浣腸のことも今日のことも絶対秘密にしてくれるなら、ね」  
「わ、わかった。じ、じゃあ入れるぞ」  
 俺は自分のチンチンを握り締めると、それをゆっくりと古橋の肛門に入れていった。肛門の狭さとともに直腸の熱さがたまらない。古橋も苦しそうな呻き声をあげた。ようやく根元まで入ると、彼女はきゅっと肛門に力をこめる。  
 食いちぎられそうな痛みとともに直腸が優しく俺のチンチンを揉みしだいた。その未体験の快感に俺の下腹部もぶるぶると震える。尿意に似た感覚が勝手にチンチンを駆け上がっていくのがわかった。  
「や、やべえ! ションベンでるっ!」  
 思わず叫ぶと同時に俺は古橋の体内に何かを放った。止めようにもとめられない。ようやく引っこ抜くと、チンチンの先端からは小水ではない白い粘液が垂れていた。  
 体を起こし、古橋が微笑む。教室では見れないかわいい表情に思わず俺は息を呑んだ。  
「明日もまた来てもいい?」  
 そう囁く彼女に俺はただ頷くしかなかった。  
 
 名前を呼ばれて回想は打ち切られた。俺は娘を連れて診察室に入る。若い医師は事務的に娘の診療をし、「風邪ですね。飲み薬出しておきます」とそれだけで終わってしまった。  
 診察室を後にするとき、昔は壁の向こうにあった処置室が今は廊下を挟んで向かい側にあることに気付いた。受付脇にあるトイレももちろん男女別になっている。会計を済ませ薬を受け取っても、もちろんその中には浣腸など入っていなかった。  
 帰宅し、娘を寝かしつけたとき、ようやく嫁が帰ってきた。  
「ありがとう。どうだった?」  
「風邪だってさ。飲み薬を貰ってきたよ」  
「そう。……ところで、やっぱり今でも浣腸されるの?」  
「いいや。先生も代わってるし、浣腸のカの字も出なかったよ」  
「そ、そう」  
 買い物袋を机の上に置きながら嫁がどこかそわそわした風情で俺をみつめる。買い物袋のひとつが近所のドラッグストアのものであることに気付き、俺はにやりと笑った。  
「なんだ、久しぶりにしたいのか?」  
「う、うん……。この子が浣腸されるかもって思ったら、凄く疼いてきちゃって」  
「ダメな母親だな。娘が大変なときに体を火照らせるなんて」  
 呆れたように呟きながら俺はゆっくり立ち上がると、薬屋の袋の中からイチヂク浣腸の箱を取り出した。嬉しそうに嫁が笑う。  
「私にお医者さんゴッコを教えたのは誰よ?」  
「でも浣腸マニアなのは元々だろ? 浣腸されたいからってウンチ我慢して、せっせと病院に通ってたじゃないか」  
 浣腸の袋を破りながら俺も嫁に微笑みかけた。そして棚の奥からプレイ用に買ってきた聴診器を取り出し首にかける。椅子に腰掛け、軽く咳払いをして俺は嫁を旧姓で呼んだ。  
「古橋さーん、古橋結衣さーん」  
「は、はい……」  
「今日はどうしました?」  
「あの。お腹が痛くて」  
 恥ずかしそうにお腹を押さえる嫁の姿には一児の母の面影はなかった。そこにはあの日、白いワンピース姿で上條医院の診察室へと入っていった少女がいた。  
 

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