繁殖期につき発情中の触手が数度にわたり民家を襲い
当時の開拓民7名が妊娠、3名の行方不明者を出すという被害があった。
11月中旬のある夜明け頃、海から内陸へ30kmほど入った沢にある開拓村の
イワノフ家に巨大な触手が姿を現した。
飼い馬が驚いて暴れたため、その時の被害は収穫したトウモロコシだけであった。
この村は開拓の端緒にかかったばかりの土地でもあり
このような野生触手生物の襲来は珍しいものではなかった。
しかし、11月20日にふたたび触手が現れたため
馬への被害を懸念したイワノフ家の主人は、在所と隣村から2人のハンターを呼び
次男を加えた4人で待ち伏せた。
そして30日、三度現れた触手に鉄砲で撃ちかけたが、仕留めるには至らなかった。
翌朝、山方向へ続く足跡を追い血痕こそを確認できたもの、地吹雪のため
これ以上の追撃を断念した。
12月9日 イワノフ家の惨劇
秋から冬にかけて、開拓村では収穫した農作物を出荷する様々な作業に追われていた。
このような僻地ではそれらは人力に頼らざるを得ず、男たちは出払い気味になっていた。
まさにそのような時期の12月9日午前10時半頃、触手がイワノフ家の干しトウモロコシを狙って現れた。
この時、触手は勢い余って民家の壁を壊し、家人と遭遇した。
家屋の中にいたのは妻・マリューとイワノフ家に預けられていた小児・ジョナサンの二人だけ。
彼らの悲鳴が触手を刺激してしまい、ジョナサンは頭に噛み付かれて死亡。
マリューは燃える薪を投げるなどして必死に抵抗したものの絡み伏せられ
その場で犯されたあげく、森の中へと引きずられていった。
同日の昼、同家に寄宿していた伐採を仕事とするオドが飯を食べに戻り事件が発覚した。
川に架ける氷橋づくりに集まっていた村の男たちは知らせを受けて駆けつけ、
無残なイワノフ家の様子に衝撃を受けた。
村人は対応策を話し合うため、川下のミネストバーグ家へ集まった。
話し合いの末、グリアス・サリバンが役場と警察に連絡を、明景家の当主・アドリアが
ジョナサンの実家であるハミルトン家への連絡をそれぞれ取る役を受けた。
主人が家を留守にする両家の妻子は、ミネストバーグ家に集まり、オドも男手として同泊する手はずが取られた。
12月10日 捜索
早朝、グリアス・サリバンとアドリア・ミネストバーグは村を後にした。
残る男たちを中心に、討伐およびマリューの身柄を確保すべく
30人の捜索隊が結成され、彼らは森に入った。
150m程進んだあたりで、一行は触手と遭遇した。
襲い掛かる触手に鉄砲を持った5人が撃ち掛けたが、
手入れが行き届かなかったため銃撃できたのはたった1丁だけだった。
怒り狂う触手に捜索隊は散り散りとなったが、あっけなく触手が逃走に転じたため
彼らに被害は無かった。
改めてあたりを捜索した彼らは、トド松の根元にあった
白濁にまみれたマリューの衣服の残骸を発見した。
イワノフ家への再襲
この触手は人間のメスに種付けする味を覚えた為
再びやって来る触手の習性を知る村人は、武器を携えてイワノフ家の通夜に集まった。
そして日も暮れた夜8時頃、触手は再び現れた。
予想していたといえ現場はパニックに陥るも、なんとか一人の男が銃を撃ち
さらに300m程離れた隣家に待機していた50人の討伐隊が駆けつけた。
しかしその頃には触手は既に姿を消していた。
犠牲者が出なかったことに安堵した一同は、いったんミネストバーグ家に退避しようと
下流へ向かった。
ミネストバーグ家の惨劇
イワノフの騒動はミネストバーグ家にも伝わり、避難した女や子供らは
火を焚きつつ怯えながら過ごしていた。
護衛の者たちは近隣に食事に出かけており
さらにイワノフ家への触手出没の報を受けて出動していた。
葬儀の真っ最中だったイワノフ家から逃れた触手は
まさにこの守りのいない状態のミネストバーグ家に向かっていた。
背中に四男・ウィルヘムを背負いながら、討伐隊の夜食を準備していた
アドリア・ミネストバーグの妻・ヤヨは、土間で何かの物音を聞いた。
次いで起こった地響きにヤヨが声をあげたのとほぼ同時に
窓を破って触手が屋内に侵入して来た。
囲炉裏の大鍋がひっくり返されて炎は消え、混乱の中
ランプなどの灯かりも落ち、家の中は暗闇となった。
ヤヨは屋外へ逃げようとしたが恐怖のためにすがりついてきた次女・ユーミに足元を取られ
よろけたところに触手が襲い掛かり、背負っていたまだ赤ん坊のウィルヘルムに噛み付いた。
そのまま三人は触手の手元に引きずり込まれ、ヤヨは秘部を貫かれ膣内射精された。
その時、番として唯一家にいたオドが逃げようと戸口に走った姿に気を取られた触手は
母子を離し、この隙に乗じヤヨは子供たちを連れて逃亡に成功した。
追われたオドは物陰に隠れようとしたが叶わず、触手の爪を腰のあたりに受けた。
オドの悲鳴に触手は再度攻撃目標を変え、屋内に眼を向けた。
そこには未だ7人の女子供が取り残されていた。
触手はミネストバーグ家の三女・キリノとサリパン家の長女・ハンナの処女を一撃で貫通射精し
さらにサリバン家三女・イルミナに絡み付いて床に叩きつけた。
この様子に、筵に隠れていたグリアス・サリバンの妻・ティアが顔を出してしまい
彼女もまた触手の標的となってしまった。
迫る触手に妊娠中で身重のティアは、お腹の子だけはと命乞いをするも
当然の事ながら獣に訴えが通ずるはずも無く、無残にも穴という穴を犯され始めた。
川下に向かっていた討伐隊は、異様な雰囲気を察し急いだ。
そこへ犯され、股の間から化け物のザーメンを降れ流すヤヨがたどり着き
一同はミネストバーグ家で何が起こっているかを知った。
途中オドを保護し、討伐隊はミネストバーグ家を取り囲んだ。
しかし、暗闇となった屋内にはうかつに踏み込めない。
中からは、ティアと思われる女の呻き声。
そしてそれが聞こえなくなると、肉を咀嚼し骨を噛み砕く音が響く。
初潮前で種付けできない子供や、男の子を食べているようだった。
家に火をかける案も出たが、子供らの生存に望みをかけるヤヨが必死に反対した。
討伐隊は二手に分かれ、一方は入り口近くに銃を構えた10名を中心に配置し
残りは家の裏手に廻った。
そして空砲を合図に裏手の者が大声を上げて触手を脅かした。
驚いた触手は身重のティアとキリノ、ハンナとイルミナを絡め取ったまま
表で待つ男たちの前に現れた。
先頭にいた男が撃とうとしたが、またも不発。それどころか男が触手の前に居座る形になってしまい
他の者が撃ちかねている隙に、女4人を連れて触手はまたも姿を消した。
白樺の皮を松明にミネストバーグ家に入った者の眼に飛び込んできたのは
一面の血と無残に食いちぎられた三児の遺体であった。
討伐隊の多くは余りのむごたらしさにいたたまれず、戦争の経験者だけがその場に残った。
妊娠中だったティアの腹からは、子宮口を破られ胎児が引きずり出されていたが
不思議と触手が囓った様子は無く、その時には六ヶ月目の胎児は少し動いていたという。
しかし胎児も一時間後には死亡した。
村人は全員分教場へ避難した。
2日間で4人、胎児を含めると5人の命が奪われた。
対魔師と「女食い」
一方、家族に襲い掛かった悲劇を知る由も無いグリアス・サリバンは
役所と警察にイワノフ家の事件を報告し、宿を取った。
同じくアドリアミネストバーグはさらに足を伸ばし、道中噂を聞いたヒ
触手専門の名対魔師リア・ブランジュを訪ねていた。
リアは話を聞き、件の触手が以前自分を含め女三人を犯した「女食い」という異名を持つ
触手だと直感したという。
しかしその時、リアは犯された過去の恐怖からアドリアの依頼を断った。
仕方なくアドリアはここで一泊することにし、彼も自宅の惨状を知らぬまま床についた。
12月11日
アドリア・ミネストバーグとグリアス・サリバンは村に戻ってきた。
しかし、はるか下流の分教場に村人が集まっていることを訝り近づいた二人は
残してきた家族の受難を知るところとなった。
慟哭し、むすこを殺され妻や娘を犯され攫われたことに怒り狂う二人。
特にグリアスは残してきた家族の全てを失ったのである。
逃れたままの触手を放っては置けず、精鋭を絞り込んで組む決死隊に両名も志願した。
イワノフ家への再襲と同じく、触手はその習性からまた姿を表すと踏み
隊は昨夜のままに放置されたミネストバーグ家へ向かった。
一同は天井裏に忍び待ち伏せたが、その夜は徒労に終わった。
12月12日
触手出没の連絡は国の中央にもたらされ、近場の街警察の指導の下
討伐隊が組織される運びとなった。
近隣の村々から銃の供出と志願者を募集し、方々から人的協力も受けて結集した部隊は
夕刻には村に入った。街警察の討伐隊は、村で結成された決死隊の様子を確認しようと
ミネストバーグ家をめざしたが、途中下山する一同と出会い
触手は来なかったことを知らされた。
今後のことを考えれば、何としても退治しなければならないと討伐隊は検討を重ね
触手には同じ場所に獲物を求めにくる習性があることから
犠牲者の遺体を餌にして触手をおびき寄せるという策が提案された。
イワノフ、サリバン、ミネストバーグ三家の当主は様々な思いをかみ殺し
村のために、また犠牲者の復讐を果たすために苦渋の思いで承諾。
前代未聞の作戦が採用されることとなった。
その日のうちに作戦は実行に移された。
鉄砲の撃ち手は6名で編成。
彼らは居間に置かれた遺体が放つ死臭の中、補強した梁の上に張り込んで触手を待った。
夜、森の中から姿を現し近づいてきた触手に一同固唾を呑んで好機を待った。
しかし、家の寸前で触手は歩みを止めて中を警戒すると
そのまま元来た森へ引き返していった。
男たちはさらに待ち伏せたが、その後触手は現れず作戦は失敗に終わった。
12月13日
早朝、村に一人の女が到着した。
それは、一度は退治の依頼を断ったリア・ブランジュだった。
怖れる相手ではあったが、リアは「女食い」出現の報をどうしても無視することが出来ず
夜通しで山越えをしてまで駆けつけたのだった。
そして、ここに来る道中でリアが見た情報により村内を捜索した一行は
イワノフ家が三度荒らされているのを発見した。
越冬用に備蓄した食糧を食い荒らし、室内で執拗に暴れまわった形跡が見られた。
この日、村外からの応援と60丁もの鉄砲が届いたことに気を強くした街警察は
山狩りを実行に移し、同時に村への通路を確保するために中断していた川の氷橋作りも再開させた。
一方、触手は村人不在の家々を荒らし廻っていた。
飼われていた鶏を食い殺し、食べ物を荒らし
さらに、服や寝具などにイタズラをしていた。
中でも特徴的なことは、女が使っていた枕などに異様な程の執着を示していたことだった。
人間の女を幾人も犯して孕ませ、味を占めていたのだろう。
これを知ったリアは、件の触手がやはり「女食い」だとの確信を強く持った。
この被害に遭った家は8軒以上にのぼったが、山狩り隊や単独行動を取るリアも
触手を発見するには至らなかった。
しかしその暴れぶりからも「女食い」の行動は慎重さを欠き始めていた。
味を占めた獲物が見つからず、昼間にも拘らず大胆に人家に踏み込むなど
警戒心が薄れていた。
そして行動域が段々と下流まで伸びており、発見される危険性の高まりを認識出来ていなかった。
これを読み取った街警察は、氷橋を防衛線とし
ここに撃ち手を配置し警戒に当てた。
そして夜、橋で警備に就いていた一人が
対岸の切り株の影に不審を感じた。
本数を数えると明らかに1本多く、しかも微かに動いているものがある。
報告を受けた街警察が、人間かも知れないと大声で話しかけるも返答が無かった。
意を決し、命令のもと撃ち手が対岸や橋の上から銃を放った。
すると怪しい影は動き出し、闇に紛れて姿を消した。
やはり触手だったのだと、仕留めそこないを悔やむ声も上がったが
作戦に確かな手応えを感じ取っていた。
12月14日
空が白むのを待ち、対岸を調査した一行は
そこに触手の足跡と血痕を見つけた。
銃弾を受けていれば動きが鈍るはず。
雪が舞い始めた空模様を睨み、足跡を追えるうちにと急ぎ討伐隊を差し向ける決定が下された。
いち早く山に入ったのはリアだった。
歩みが遅くなりがちな集団行動を嫌う彼女は、また降雪が足跡を消してしまうことを恐れていた。
「女食い」の老練さを熟知していたリアは、追っ手を撹乱させる触手独特の足取りをことごとく見破り
慎重に風下に廻りこみながら、静かに標的に迫っていた。
触手はナラの木につかまり、体を休めていた。
その意識はふもとを登る討伐隊に向けられ、忍びつつ近づくリアの存在には全く気づいていない。
20mほどまで近づいたリアはハルニレの樹に一旦身を隠し、術を組み上げた。
そして凍てつく空気の中、術の発動音が響いた。
一発目の弾は「女食い」の心臓を正確に撃ちぬいた。
即座に次の詠唱に入り、すばやく放たれた二発目は頭部を射抜いた。
急ぎ駆けつけた討伐隊の男たちが見たものは
村を恐怖の底に叩き落した悪魔の屠られた姿だった。
しかし結局、連れ去られた五人の行方は今もわかっていないそうだ。