事件の捜査中にヘマをした私を待っていたのは、終わりのない凌辱だった。  
 
 ポニーテールをつかみ持ち上げられ、氷と称される私の表情を歪ませ、無理やりしゃぶらされる。  
 お気に入りである背広。男性が着るようなスーツをナイフで破られ、胸を蹂躙される。  
 ズボンも破かれ、性器も不浄の穴も休みなしに使われる。  
 白磁器にたとえられる私の肌に、男たちの液体が飾り付けられていく。  
 助けを求める声は徐々に艶を帯び、名探偵は知性のかけらもないメスへとなり下がっていった……。  
 
「……ん、んあ?」  
 雀の鳴き声と太陽の光で、目を覚ます。  
「んんん? ここは?」  
 お気に入りの枕ではなく、よだれで汚れた書類。  
 ふかふかベッドではなく、硬い机とパソコン。  
 お気に入りのパジャマではなく、男性用スーツ。  
 目覚ましじゃなくて、吸い殻の積もった灰皿、いくつも転がっているビールの空き缶。  
 ふむ、この状況を名探偵の私が推理すると。  
「さっきのは夢……か」  
   
「あー、先生。また、そのまま寝たんですか?」  
 寝起きにきつい甲高い声が扉を開けて入ってきた。  
 少年のような格好をした、自称助手。私の苦手なおせっかい焼きだ。  
「なにやっているんですか、僕が昨日言ったでしょう。寝るのなら部屋に戻ってって」  
「……うるさい。二日酔いなんだ、お前の声は頭に響く」  
「だったら酒なんてやめてくださいよ、タバコも。先生は女性なんですから、子供を産む大事な体なんですよ」  
「お前は母親か」  
 私は机の上に転がる煙草を、口にくわえて火をつける。寝起きの一本。  
 目の前の小僧は心底いやそうな顔をしている。  
 ……小僧だとは言ったが、目の前のこいつは立派な少女である。いわゆる僕っ娘。  
 路地裏で野良犬のように暮らしていたところを、私が拾った。  
 そのときは男の子だと思っていたんだよ、薄汚れていたが磨けば光る美少年だと。  
 一緒に風呂入ったら、ついてないし。  
 
 私は溜息といっしょに煙を吐いた。  
「けほっ、なにするんですか!」  
 煙を浴びて抗議する助手(仮)を無視して、椅子から立ち上がる。  
 腕を大きく上げて背伸び、大きさとハリが自慢の胸が強調される。  
 ……助手(仮)、そんな頬を染めて見つめられてもお前にはやらんぞ。  
 備え付けの鏡で、髪を後ろにくくり直した。  
「ちょっとメシ行ってくるから、ここの掃除まかした」「近くのカフェですか?」「ああ」  
 助手(仮)はこともなげに言った。  
「あそこのバイトのウェイターならやめましたよ」  
「……なにいぃぃ!!」  
 クールを売りにしているのを忘れ、助手(仮)の両肩をつかんでゆすった。  
「なぜ? ひさしぶりに来た当たりだったのに!? なんで止めた!?」  
「どっかの名探偵さんが、仕事中に逆レイプなんていう犯罪を犯したからじゃないですか」  
 私はその場に跪く。……神よ、なぜ私から奪っていくのですか?  
「別にいいじゃないですか、男なんて世の中たくさんいますよ」  
 うるさい。私にはお前にないものが必要なんだよ。  
 
 失望を胸に詰め込んで、私はとりあえずご飯のために出かけることにした。  
 しかしこれ以上、何かを胸に詰め込んだらワイシャツのボタンを更に外さねばならぬ。  
 それではコールガールだ、私は探偵であって娼婦ではない。  
 私にとって凌辱は金をもらってされるものではない、事件の上でされなければ。  
 そう今朝の夢のような。  
「……おっと、涎が」  
 クールを売りにしている私、こんな姿を見られては困るな。  
 しかし、今朝の夢。何かの予兆であろうか。  
 私は今日くるであろう事件の依頼に対して、期待を胸に膨らませつつカフェへと向かった。   
 やっぱりボタン外そうかな?  
 
 

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