・少女剣士の手難 ep3  
 
 彼らは薄暗い岩窟を、僧侶の《灯り》の聖魔法によって照らしつけながら進行していた。  
 もう半日は潜り続けているだろうか?  
 二回ほど休息を取りはしたが、水と食料は既存の半分を下回り、度重なる魔物との戦闘で体力気力ともに相当疲弊している。  
 
「………………」  
「………………」  
「…………zzzz」  
「……………………」  
 
 誰も一言も喋らない。  
 無駄な言動は体力の低下に繋がるだけだからだ。  
 洞窟内は暑かった。  
 全員が薄着なのは幸いだったが、それでも顔や上半身にじっとりと垂れてむれる汗は気持ち悪くてしょうがない。  
 人の手が入っていないから、当然足場も不安定だ。  
 各々が足元と正面を交互に見ながら列を成して歩んでいる。  
 だが、四人とも不快感を顔に出そうとはしなかった。  
 一人を除いて険しい無表情なのは傍目には異様に映るかもしれないが、状況からいってそれも致し方ないことといえるだろう。  
 もう少しで目標の物を手にすることが出来るだろう……みなの気持ちは同じだった。  
 やがてそれに応えるかのように、彼らの視界の最奥……薄闇のとばりが降りた空間に、小さな木の扉が飛びこんできた。  
 あまりにも唐突な出現である。  
 
「……扉ね」  
「……扉ですね」  
「……扉……zzzz」  
「……ああ。…………罠が無いか調べてくる」  
 
 仲間の妙な会話をあいまいに受け流し、美貌の青年はやや早足で扉に歩み寄った。  
 扉の一歩前で、彼は眼前に手をかざしたり、取っ手に矢を射たり、なにやらブツブツ呟いたりしていたが、やがて仲間の方を振り向いた。  
 
「……この扉には問題ない。また、扉の向こうに魔物の気配もない。普通に開けて大丈夫だろう」  
 
 青年の言葉に、『灯り』に照らされた少女剣士と僧侶は無言で頷いた。  
 魔術士は半分寝ている為、反応がない。  
 いつもなら起こすところだが、彼とのやりとりは億劫だし、これから魔物と遭遇するわけでもないので、放っておくことにした。  
 弓使いは扉に向き直り、取っ手に刺さった矢を抜いて矢筒に戻した。  
 勘だが、この奥に目標のモノがある。  
 そんな気がした青年だった。  
 彼は茶色の取っ手を握りしめると、一息に押し開けた。  
 
「――??」  
 
 刹那、弓使いを襲ったのは空虚な感覚だった。  
 赤い瞳には今まで歩んできた岩窟とは対照的な、真っ白で整っている、あまり広くはない四角い部屋が展開されていた。  
 ――行き止まりか?  
   
「おいおい……ここまできて何だよ、そりゃ」  
 
 すっかり眼が覚めた風の魔術士が、弓使いに次いで白い空間に入ってくる。  
 その時だった。  
 魔術士が小さな呻きを上げた。  
 
「どうした……?」  
「……話が違うじゃねぇかロッシ。いや一応違くはねぇか…………この空間、術の類が行使不可能になるみたいだぜ」  
 
 それを聞いた僧侶は足を止めた。少女剣士もだ。  
 ――どういうことだ?  
 闇に落ちた岩窟にいる二人と、どういうわけか明るい白壁の部屋、にいる二人の視線がからみ合った。  
 
「岩窟は一本道でした」  
 
 美しき僧侶が確信に満ちた口調で言った。  
 
「そして、ここがヒュールト岩窟であることは間違いありません。書物に虚偽が記載されていなければの話ですが」  
 
 書物を疑っていては始まらないことを、この場にいる四人は知っている。  
 少年の言葉の後半は蛇足だが、それを除けば間違ったことは言っていない。  
 彼はさらにこう続ける。  
 
「みなさん、書物の最後に何が記されていたか、覚えてらっしゃいますか?」  
「『白の聖域で、犠牲を払うか、無傷で目的を達成するかは、冒険者の腕次第』……」と少女剣士。  
「此処の事で相違無いだろう……」と弓使い。  
「どう見ても‘聖域’じゃないけどな」  
 
 魔術士のどうでもいい一言が結論を締めくくった。  
 そして、恐らくみなの思考は一致していた。  
 それを最初に口にしたのは、可愛い面立ちの少女だった。  
 
「術を封じられる空間なら、ラバンはそこから出たほうが良いわ。代わりにあたしが入って、ロシーニと二人で部屋を調べてみる」  
「分かったぜ」  
 
 短く言葉を交わし、魔術士――ラバンは開いた扉を通って岩窟に戻った。  
 代わりに少女剣士が扉のむこうに足を踏み――――込んだ瞬間、なんとその姿が消失してしまった!  
 最初は何が起きたかわからず一瞬呆然としてしまった三人だったが、部屋の奥を見るなり一様に顔色が変わった。  
 
「リアッ!!」  
 
 部屋に駆け込みながら叫ぶラバン。  
 他の二人は表面上取り乱していなかったが、魔術士が形相を変貌させたのも無理はない。  
 ――突如出現した硝子の壁の向こうで、少女剣士が十字架に磔(はりつけ)にされていたからだ。  
 さらに驚くべきことに、左右の白壁に次々と黒い文字が浮かび上がってくるではないか。  
 僧侶は部屋に入ろうか迷ったが、様々なことを考慮して、留まった方が良いという結論に行き着いた。  
 
「……ラバン、悪いが部屋から出てくれないか」  
 
 壁に刻まれてゆく文字を読みつつ、弓使い――ロシーニはあくまでおだやかに喋りかけた。  
 
「んでだよっ!?」  
「魔術を使えないお前にいてもらっても困る。……キフレセルと一緒に外で見張っていてほしい」  
 
 感情的には納得しかねたラバンだが、彼も全くの猪男というわけではない。  
 懸命に頭のなかを整理して、焦燥を浮かべながらも最後には首肯してみせた。  
 
「分かった。そんかし任せたからな、ロッシ!」  
「すまん……それと、リディアが嫌だろうから……」  
「わーってるよ。扉は閉めときゃいんだろ?」  
「……ああ、助かる」  
 
 素直に出て行くラバンに謝辞を示し、扉が閉まったのを確認してから、再び左右の壁を注視する。  
 彼は絶対に、正面に視線をうつそうとはしなかった。  
 少女剣士――リディアは極めて強い自尊心の持ち主だ。  
 こんな風に拘束されるだけでも屈辱なのに、それを仲間に見つめられるなんて耐えがたいに違いないだろうからだ。  
 
「………………っ」  
 
 硝子の壁と白い壁に挟まれ磔られたリディアは不安でいっぱいだった。  
 最も良くない想像が彼女の頭の中をよぎる。  
 ロシーニが障害を解決できないことによって自分がこの中でいたぶられ、段々と弱っていった末に命を落とす……  
 絶対にいやだ。  
 見られる相手がロシーニだったのはせめてもの救いだ。  
 彼は少なくとも表面上は万事において冷静だし、普段はぶっきらぼうに見えるが仲間を慮れる度量を持っているからだ。  
 
「………………ふむ……」  
 
 弓使いの青年は白壁に打ち込まれた黒字を解読しながら、無表情で首を傾げた。  
 
『女人を連れぬ者は、白の聖域の先へは進めない。  
 しかし、白の聖域に侵入した女人は永遠に触手の餌食となり、果てると生命との別れを告げられる。  
 されど、白の聖域に侵入した男人は魔法を封じられた上で謎を掛けられる。  
 しかし、真を導けば女人は救われ、また道も開かれる。  
 されど、虚を弄せば女人は更なる快楽の地獄を味わうこととなろう。  
 ――刻まれし問いに心の声で答えよ。  
 覚悟を決めた者のみが、第一歩を踏み込むことを許される……』  
 
 自分が最適任者ではないかと思いつつ、気を引き締めるのを忘れないロシーニ。  
 当然の事かもしれないが、文の中には肝心な事柄が綴られていないように見えるからだ。  
 だが、その事柄について考える許可は降りなかった。  
 
『汝に問う。剣は斧に勝り、斧は槍に勝り、槍は剣に勝るが……弓が勝るものは何か? 十の内に最も適切な回答を述べよ』  
 
 心の声が、ロシーニの脳に直接話しかけてきた。  
 だが、もはやどういった仕組みなのかとか勘ぐっている場合じゃない。  
 ――人の持つ武器には、相性がある。  
 人が造り、人が操るものだから、なんにでも通用する万能武器などない。  
 だが、それは刃を交えて戦うことを前提とした話だ。  
 剣でも槍でも斧でも、飛来する矢をさばくのは持つ者の技量に拠るものだ。  
 あえて言うなら剣が最もさばき易いだろうが、だからといってそれが「勝る」ことになるのか?  
 答えは「否」だ――ならば。  
 
『術だ』  
『誤謬』  
 
 やはりか――間違いを告げる声を即返され、青年は心でそう呟いた。  
 それにしても……時間が無さすぎる。  
 雑多な思考を整頓する暇が作れないのは、僕の力不足が廉だろう……?  
 そう‘思い込んだ’彼は、少女に背を向け、床に座り込んで瞑目した。  
 今は問題を解決する方法以外で頭を悩ませてはいけない。  
 問いに対し‘虚を弄した’ことで、リディアは辛い目に遭うだろう。  
 甘いかもしれないが、彼女のそういった姿を見せられては冷静な思考を保つことはできない。  
 次は‘真を導いて’みせる――強く思いながらも、彼は「最悪の事態にどんな行動を取るか」を忘れようとはしなかった。  
 
「…………っ」  
 
 両手を左右に固定され、両足首を縛られて十字架に磔られたリディアは、突如眼の前に現れた二本の触手にビクッと反応した。  
 同時に、硝子の向こうのロシーニが自分に背を向けて座り込むのが見えた――気を遣ってくれたのだろうか?  
 リディアの小指ほども細く、妙に粘っている肌色の触手は、少女の童顔にゆっくりと‘手を伸ばした’。  
 何をするつもりな――  
 
「――ぃっ!!」  
 
 ぞくっと走った悪寒に、リディアは一瞬視界を闇に染めて身震いした。  
 触手が触れたのは、両耳たぶである。  
 顔を動かして逃れようするが、全く意味を成さなかった。  
 まるで人の舌に舐められているかのような――実際に舐められたことはないけど――感触は、少女の想像以上に快い感覚をもたらしていた。  
 けれど……この程度ならまだ大丈夫。  
 いつかロシーニが‘真を導き’出して、あたしを解放してくれる筈よ……  
 硝子の向こうから左右の白壁に刻まれた文字を読み取っていた彼女は眼を閉じて、背を向けた青年を信じて待つ事にした。  
 
『汝に問う。自然は聖に勝り、聖は邪に勝り、邪は自然に勝る……治癒が勝るものとは何か。十の内に最も適切な回答を述べよ』  
 
 果たして本当に正解があるのか、黒髪の青年は一瞬疑ったが、そんな考えは無駄でしかない。  
 ――自然・聖・邪は、術の三すくみ。  
 そこに治癒術の入り込む余地などあるわけがない。  
 支離滅裂じゃないか――  
 
『傷だ』  
『誤謬』  
 
 ロシーニが二度目の‘虚を弄する’と、双眸を閉ざしたリディアの前に新たな触手が二本、出現した。  
 それは彼女の胸部に伸び、胸もとが開いた鮮やかな緑の民族服をはだけさせ――外部にさらされた脇に触れた。  
 
「あっっ――!」  
 
 くすぐったさと気色悪さで、リディアはまたも身震いした。  
 耳たぶに加えて、今度は両脇を弄られている。  
 不快感ばかりかと思っていたが、何やら妙な気分になっている自分に気付いた。  
 ぞくぞくとわき上がる‘何か’を否定し、少女はふたたび祈った。  
 お願い、早く‘真を導き’出して……!  
 
『汝に問う。銀は鋼に勝り、鋼は鉄に勝り、鉄は銅に勝る……硝子が勝るものとは何か。十の内に最も適切な回答を述べよ』  
 
 その流れで硝子に次ぐ脆さの硬質類だと?  
 そんなものは存在しない。  
 むろん、硬質類でなければ幾らでもある。  
 しかし――  
 
『金だ』  
『誤謬』  
 
 ロシーニが三度目の‘虚を弄する’と、眉間に皺を寄せ双眸を閉ざしたリディアの前に触手が二本、出現した。  
 それは、少女の程よい大きさの双丘に伸び、纏っているさらし布に引っ掛けられ――ビリビリと破り取られた。  
 
「っ!! …………」  
 
 彼女は上半身をあらわにさせられても、少し顔を歪めるだけで特に大仰な反応はなかった。  
 だが次の瞬間、二本の触手はすぐさまリディアの胸を愛撫し始めた。  
 
「ん――くぅっ!! っか…………はっっ、あっ……」  
 
 円を描くように膨らみの周りをなぞり、だんだんと紅い突起に接近し……最後にちょこんと触れて、また周囲からなぞる。  
 優しい弄り方かもしれないが、リディアの息遣いははっきりと荒くなっていた。  
 塗布された催淫液――女性の淫らさをむりやり呼びおこす――が彼女の感覚を少しづつ麻痺させているのだ。  
 自身の異変をある程度察してはいたものの、それでも彼女は否定し続けた。  
 あたしは……こんな誘惑に容易く侵されるほど弱くないわ。  
 だから、早く……早くあたしを解放して、ロシーニ……!  
 
『汝に問う。悪魔は異形に勝り、異形は竜に勝り、竜は悪魔に勝る……人間が勝るものとは何か。十の内に最も適切な回答を述べよ』  
 
 ふざけるな――と心内で叫んだあと、ロシーニはぶんぶん首を振った。  
 何をしてるんだ……僕が焦ってどうする。  
 いつ、いかなる時も冷静に……それが僕の身上だろう。  
 言い聞かせる時点で危ういという自覚はある。  
 だが、彼は自分が思うほど強い人間ではなかった。  
 
『魔物だ』  
『誤謬』  
 
 ロシーニが四度目の‘虚を弄する’と、歯を食いしばって眼をふさいだリディアの前に触手が二本、出現した。  
 それは、ついにリディアの下半身に伸びる。  
 美しい太ももが一瞥出来る深い切れ込みが入った緑の民族服――それを無遠慮にめくり上げると、眼に毒な純白の下着が晒された。  
 もはやその程度で動じることはないリディアだったが、二本の触手が内股をなぞり出した瞬間――  
 
「ひっっあぁンッ!!」  
 
 もはや我慢ならないといった様相で、リディアは悲鳴に近い嬌声を上げた。  
 耳たぶ・脇の下・胸もと・内股……どれも優しく愛撫されているだけなのに、彼女は股間に熱いものを感じてしまっていた。  
 淫らな声は先ほどの一声だけでなんとか留めたが、気を抜くと堰を切ったようにいやらしい響きがあふれてしまいそうだった。  
 
「はぁはぁ……はぁっ! くっ、う゛っっあ゛っっ……がぁっっっ!!」  
 
 もの凄い形相である。  
 本来なら思い切り喘ぎたいところを、無理に無理を押して堪えているのだ。  
 刹那開いた視界に、黒外套を羽織ったロシーニの姿が映り、すぐに闇に覆われる。  
 早く……ロシーニッ!! 早くしないとあたし……っ!!!  
 
『汝に問う。空は地に勝り、地は海に勝り、海は空に勝る……虚無が勝るものとは何か。十の内に最も適切な回答を述べよ』  
 
 ロシーニは、握りしめていた拳をついに地面に叩き付けた。  
 骨にひびが入り血が滲むほどだったが、怒りのあまり痛覚が失せてしまっていた。  
 とはいえ……彼は自分でも意外と思うほど、今の行動で頭が冷えたらしい。  
 歪んでいた顔が、不思議なほどにすっきりと落ち着いた。  
 しかし悲しいかな、落ち着いたからといって答えが解ったわけではない。  
 開き直った彼は、もはや直感で‘真を導き’出すしかなかった。  
 
『実像だ』  
『誤謬』  
 
 ロシーニが五度目の虚を弄すると、今にも叫び出しそうな表情のリディアの前に触手が二本、出現した。  
 それは……リディアの大切な処を覆い隠す、真っ白な下衣に伸びる。  
 両触手はまるで紳士のごとく、下衣の左右のすそに‘手’をかけ、緩やかに、スルスルと脱がしていった。  
 ――下衣の底は、糸を引いていた。  
 幼い秘境にうっすら生えているかわいらしい草地は、既に光沢を帯びている。  
 それ程に、いま少女は愉悦の只中にいるのだ。  
 白い下着は太ももの付け根あたりにはかせたまま……内股をなぞっていた触手二本が、ぎゅっと閉じている両足を力づくで開かせる。  
 といっても開かせるのはごく僅かでいいのだ。  
 細い触手が、恥部を自由にもてあそべるくらいに解放すればそれで良い……  
 リディアの、成長途上の綺麗な性器が傍目にもはっきり見えるくらいに、くっ付いていた両足が僅かに離された。  
 彼女は、絶望の一歩手前の混沌とした感情に、絶叫しそうになった。  
 だが、その必要はなかった。  
 隙だらけの身体と精神……その諸悪の根源であるぐしょ濡れの聖域を、二本の触手が犯し始めたからだ――  
 
「――――――ッッッ」  
 
 ……驚くべきことに、リディアは声を上げなかった。  
 代わりに、大きく見開いた緑の瞳から徐々に光が失われていくように見えた。  
 そう……彼女は決断したのだ。  
 どんなに辱められようと、もはや関係ない。  
 気を失えさえずれば、快楽によって昇りつめることなど有り得ないのだから……  
 脳を支配せんとする邪欲を必死に追い払い、リディアは意識が飛ぶのを待った。  
 気持ちよさや、それに染まりたいという欲望と戦いながら、懸命に耐え続けた。  
 なのに…………。  
 なのに…………そうしようと思えば思うほど、何かに呼び起こされて完全に眠ることができない。  
 もう限界だ……。  
 誰か助けて……あたしを助けて……ううん、気を抜けば楽になれるよ…………  
 自分の中に潜む、悪魔のささやき。  
 それが、リディアを堕とす必殺の槍となって、彼女の秘密の場所をとろかした。  
 情欲を解放する嬌声が上がった――  
 
「くっっは――――ふぁあぁあああんっ!!!」  
 
 もうガマンすることなんてない。  
 そうだ。ロシーニが悪いんだ。  
 ロシーニが早く‘真を導かない’せいで、あたしはこうなっちゃったんだよ……  
 リディアの淫核を虐め、膣内を行き来するぐちゅぐちゅという猥雑な濁音が発される。  
 その度に彼女は肢体を仰け反らせながら恍惚のあえぎを洩らし、表情も至高の快楽に塗りつぶされていった。  
 
「はぅンッ! ぁあん!! きゃふん!! あぁんっあんっんっんっあンっ、ふぁああぁぁ……んんっ!!!」  
「っ!!!」  
 
 ロシーニの耳に、極めて艶かしい声が送られくる。  
 なんとはなしに振り返ると――しまった、という後悔にかられながらも、あられのないリディアの姿に見入ってしまった。  
 触手は彼女のありとあらよる箇所を攻め立てていた。  
 身体をくねらせてよがるリディアの下腹部からは愛液がぽたぽたと落ち続け、じゅぷじゅぷと何か掻き立てられる淫音がこっちまで聞こえてくる。  
 
「ぅうんっ!! んぁっ! あぁん!! そこ、気持ちいいよぉ!! んっ、やぁっ、アぁん、イきそ……っ!!」  
 
 ――もうとっくに果てていなければおかしいほどの愛撫を、リディアは受けている。  
 催淫液と巧みな手技は強烈で、普段であれば二度三度昇りつめているくらいの快楽は味わっているだろう。  
 実際、彼女も早くイきたいと思っているのに、イけない。  
 ならば何故、未だ絶頂を迎えずに済んでいるのか――――触手が寸止めしているからだ。  
 
「ダ……めぇぇ!! あぁンっ! ひゃぅん!! イっちゃうよぉ……!!」  
 
『汝に問う。男は女に勝り、女は子供に勝り、子供は男に勝る……中性が勝るものとは何か――――』  
 
 リディアを視界に収めて心の声に耳を傾けながら、ロシーニは凄まじい歯ぎしりの所為で食いしばった口元からは血が流れていた。  
 凄惨な運命と、自らの歪んだ性癖に対しての憤りが頂点に達する寸前……  
 半ば自暴自棄になって、こう思った。  
 
『有性だ』  
『誤謬』  
 
 ロシーニが六度目の虚を弄すると、享楽に塗りつくされた表情のリディアの前に――周囲のものとは明らかに異なる触手が一本、出現した。  
 紫のソレは少女の手首ほどの太さがあり、先端はまるで……顔の無いヘビのようになっていて、口から長細い舌をシュルシュル出し入れしている。  
 それは……穢されている最中の、彼女の秘境へと伸びてゆく。  
 すると、面妖な事にそれまでリディアを犯していた触手二本が‘道’を開けた。  
 極限の攻めによってずぶ濡れの花の中央から、透きとおった蜜がボタボタ流れ落ちている。  
 ――なんと、その流れ落ちている愛液を、紫ヘビが口に入れ飲み込んでいくではないか。  
 ヘビ触手は、したたり落ちる愛液の滝を登ってゆく。悦楽の源水で喉を潤おしながら、少しずつ、少しずつ滝つぼに向かっていった。  
 そして――――ぱきゅん、と。奇異な音が鳴った。  
 紫触手は、文字通りリディアの恥部に食いついていた。  
 そして――――先刻より、更に奇異な音が鳴り始めた。  
 
「――っひやぁああああッッ!! す、すゴいぃぃはめへぇぇええぅっ!!」  
 
 リディアの双眸は白目を剥きそうだった。  
 塞がれていた頂上への階段をようやく開かれ、抑制されていた欲望が念願叶ったのだ。無理もなかった。  
 紫触手の口はリディアの秘陰に食いつき、ヘビの舌で淫核をくにゅくにゅ刺激している。  
 その音は、意外にも優しく控え目だった  
 それだけでもう絶頂間近なのは……周囲の触手どもとは比較にならない強さの催淫液が塗布されているからだ。  
 リディアの‘理性値’は、ゼロになった――  
 
「あぁッ!!! ンぁっ!!! はァあンっッ!!! イくっイくッイくっっイくッッアァンっ!!! ――ひゃぁあああああああああンッ――!!!!」  
 
 じゅぷじゅぷ、じゅううぅぅ……最も淫らな水の音は、ヘビ触手がリディアの快楽絶頂の元を飲み込んでゆく音だった。  
 未だ舌で淫核を擦り上げながら、留まるところを知らない愛液をじゅくじゅくと吸い上げる。  
 
「すごっあっ!! ひゅあっ!! でるっ♪ いっぱいでちゃっあンっ♪ アぁぁんっ♪ アんっあんっあぁんッ♪ イクぅううううぅんッッ♪♪」  
 
 気を失いそうな至高の快感をその身に味わいながら、リディアはなまめかしくあえぎ続けている。  
 今の彼女に、いつものしたたかで淡泊、凄腕の少女剣士リディアの面影は無い。  
 ただひたすら快楽に溺れ、本能のままに欲望をむさぼる獣の雌に成り下がってしまっていた。  
 
「………………………………」  
 
 ロシーニは、下腹部の雄が自己主張しているのを感じながら、淫楽に満たされたリディアに頭を垂れている。  
 こんな時になっても、彼は自らのプライドにすがっていた。  
 いつ、どこで、どのようなことに遭おうと、平常心を保つこと……  
 だが、この状況で精神の均衡を保つには、もはや開き直るしかなかった。  
 眼の前に展開された現実を受け入れられるほど、彼は強くなかったのだ…………  
 ――変化が起こった。  
 少女を犯していた触手が全て、風の様に消えうせてしまったのだ。  
 そのことに驚くより、二人は次に起こったことに、そろって血の気が失せた顔に変貌した。  
 
 
 
 - Epilogue -  
 
 
 少女の足元から、何かが少しづつ、上がって来る。  
 鮮やかすぎるほどの青い液体……――酸だ。  
 焦燥も顕に弓使いはすぐさまきびすを返し、扉を押し開け――――られない。  
 鍵をかけられたらしい。  
   
「ラバン!! キフレセル!! 魔法をっ…………」  
 
 叫んでみて、彼はようやく異変に気付いた。  
 ――この部屋、音が無い。  
 自分の声すら反響しない。吸音空間だったのだ。  
 彼は鬼気迫る形相でリディアを見た――  
 
「――っぎゃああああああああああああああああああああああぁ!!!!!」  
 
 耳をつんざく悲鳴は、硝子越しでも十分に伝わってきた。  
 見れば、青い酸の水位が上がり、リディアの足に浸かっていた。  
 酸の中に浸かっている足から、赤い煙が立ちのぼっている……  
 
「痛いイタイいたいぃぃぃぃぃイイイっ!!! 痛いよぉぉぉああああああああああ゛ぐうう゛う゛――――」  
 
 腰――――――へそ――――――胸――――――水位が上がるほどに、青かったはずの酸は赤くなってゆく。  
 それは人の身体など容易に溶かすことのできる、塩酸などとは比較にならないほどの強い猛毒だった。  
 涙を流し、激痛に悶え苦しむ少女の顔も、だんだんと生気が無くなってゆく……  
 
 彼女は、気力を振り絞って、涙に霞む視界を必死にこじ開けた。  
 せめて最後に、ロシーニの……かっこいい顔を見てから死にたい…………  
 しかし、望んだものを映すことはついぞ叶わなかった。  
 少女が密かに恋心を抱く弓使いは、自分に向かって悲壮感に溢れる土下座をしていたからだ。  
 
「………………………………………………」  
 
 何も考えることが出来ないまま、酸が首元まで上がってきた。  
 リディアの意識は、志半ばで永遠に途絶えることとなった……………………  
 
 
 
 BAD END  
 

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