・少女剣士の手難 ep8  
 
ガリアード迷宮・地下三階。  
 冒険者四人は、燭台の光によっててらされた焦げ茶色のややせまい通廊を、コツン、コツン、と音を立てながら進行していた。  
 少女剣士を先頭に、弓使い・僧侶・魔術士の順である。  
 見聞どおり魔物が少ない迷宮で、まだ二回しか魔物と闘っていない。  
 それゆえか、かれらは僅かに気が緩んでいたのかもしれなかった。  
 
 やがてかれらの行き先に、格子窓がそなえられた壁が見えてきた。  
 袋小路――行き止まりである。  
 それでもさらなる一歩を踏み出した少女に、異変が起こった。  
 全身が光の粒子になり、またたく間に消えてしまったのである。  
 
「なっ………………」  
 
 三人は一瞬茫然と立ちつくしたが、床に描かれた魔法陣と、奥にみえる光景に眼をむいた。  
 かれらは魔法陣をよけつつ最奥の壁まで走り、格子窓をのぞき込んだ。  
 
「あれは…………ミノタウロス!」僧侶が言った。  
 
 ミノタウロス。  
 獣人種のなかでも特に膂力に抜きんでた魔物だ。  
 人の背丈の倍はあるその体躯は筋骨たくましく、両の剛腕には巨大な戦斧(バトルアクス)をもっている。  
 頭部には雄牛の角を二本かざっており、両目には瞳孔がなく白一色だが、人間のそれよりもはるかに高い視力で標的をとらえるのだ。  
 
 当然、そんなバケモノ相手にリディア一人では勝ち目はない。  
 ならば魔法をといきたいところだが――  
 
「フレセちゃん、この壁《抗魔》と《吸音》がかかってるぜ……」  
「そんな……」  
「何をしているんだおまえたちは! だったら早く引き返して別の道をさがせ! 僕は残って多少なりともあいつの援護をするから!」  
 
 弓使いの叱声がふたりの耳をしたたかに打った。  
 いささか感情を逆撫でさせられたが、今はそんな場合じゃない。  
 術士ふたりは慌てながら、ついぞ来た道をもどるはめになった。  
 
 
 
 リディアは、ただ一つの出入り口をふさいでいる獣人を見据えながら、焦げ茶色の壁に身体をもたれかけて思考をかさねていた。  
 ……頭の上の格子窓から、目つきの悪い青年が覗いていることには気付いていない。  
 
 選択肢は、戦う・逃げる・時間を稼ぐのいずれか。  
 戦うは論外にしても、逃げるのはどうかな。  
 仮にこいつが出入り口から退いてその隙にここから脱せたとしても、逃げおおせることは出来ないわよね……  
 あたま沸騰したこいつが全速力で追っかけてきたら――――ううっ、考えただけでも怖気が走るわ。  
 じゃあ、みんなが来るまでこいつを刺激しないように、時間を稼ぐしかないわね…………  
 
 リディアと獣人がいる空間は、案外ひろびろとした円柱状の部屋だった。  
 至るところから血やら何やら、得体の知れない臭いがただよっている。   
 ミノタウロスはあぐらをかいて座り込み、顔をボリボリかいたり首をさすったりしながら、少女を品定めするように眺めまわしていた。  
 
 リディアは彼に眼を合わせないように様子を窺い、何かあっても動けるよう常に緊張感をたもった。  
 真正面からむかってこられたら敵う相手ではない。  
 どうにかのらくらと避わせたらな――とか思っていたら、獣人が傍らの戦斧を引っつかんだ!  
 
「ッ!!!」  
 
 それはまさに一瞬。そして間一髪。  
 リディアがかわした戦斧の振りおろしが壁に強烈な亀裂を生じさせていた!  
 刃厚剣(クレイモア)を抜きはなった少女は戦慄をおぼえた!  
 ミノタウロスは斧を引っこ抜いて持ちなおし、少女に向きなおってニヤッと笑った!  
 彼はエモノを大きく振りかぶり、瞬速でなぎ払った斧が少女の身体を捉え――たように見えたがまたもや間一髪、刃厚剣で受け止めた!  
 しかし、力の差は歴然すぎた!  
 
「ぐあぅっ!!!」  
 
 可愛いうめき声とともにリディアは派手にふっとび、焦げ茶色の岩壁に叩きつけられた。  
 骨の軋む音が耳にはいり、ああ……脊椎がいかれたかな……と淡々と振りかえる。  
 
「ああ゛っ、う…………ぐぅぅ、あ゛っ……がはぁァ……」  
 
 地を這いつくばりながらも面をあげ、獣人を見据えようとする少女。  
 もう戦闘不能にちかい状態でも、彼女は妥協をゆるせる性格の持ち主ではなかった。  
 ――と、なんとミノタウロスが嗤ったまま戦斧を投げ捨てた。  
 リディアは少々面食らったが、なんのことはない。  
 武器などなくても少女をひねるのは容易と判断したのだ。  
 嘗められたとわかっていても彼女の身体は恐怖にふるえたままで、悔しさに歯噛みし、それでも気力を奮いおこした。  
 
 リディアは立ち上がった、瞬間に鉄拳が飛んできた!  
 なんと身体を落としてかわしてのけた!  
 そして獣人の胸部にえぐるような突きを――――!!  
 
「……………………ッ!!!」  
 
 少女剣士(と弓使い)の顔には驚愕がうかんでいた。  
 確かに心臓をつらぬくはずだった切っ先は、ミノタウロスの肉は全く傷つけることができなかったのだ。  
 彼は醜悪な笑みをたたえたまま、リディアの剣をつかみ、強引にとりあげて放りすてた。  
 少女は陶然と、その場に崩れおちた。  
 弓使いは顔を覆って、もと来た道を舞いもどった。  
 
 
 
 へたりこんだ少女の双眸が、だんだんと光を失ってゆく。  
 獣人は依然としてにやけたまま、リディアの身体に太い腕をのばした。  
胸もとがひらいた純緑の羽織、その左右のすそを片手でむんずと握り、思いきり引っ張る。  
 帯をしていたがそれは瑣末なことで、絹でできた羽織はあっさりと引き裂かれた。  
 
「…………!!」  
 
 程よく膨らんだ胸を覆う布さらしだけになった自分の上半身をみおろす少女は、抵抗する意思はなかった。  
 怖かったのはもちろんだが、この獣人はちょっとしたことでいとも簡単に癇癪を起こすのである。  
 抵抗されてむかついたので何となく首を捻ってやった、てな具合で殺されるのはたまったものではない。  
 
 栗色の髪を左右の頬にかけている少女は、絶望の表情で欲情した獣人をみあげた。  
 大の男の倍はあるであろう身長に、人間と比較にならない強靭な体躯。  
 はなから勝負はついていたとしか思えなかった。  
 
「っ――!!!」  
 
 それは突然だった。  
 ミノタウロスが唇を奪ってきたのだ。  
 口が大きすぎて合わないが、彼はむきだしの肩をつかみながら、むりやり口内にぶっとい舌を挿入してくる。  
 
「んっぅ…………んふっ、ン! ……んむ…………」  
 
 恋人同士であれば、接吻によって心地良さや感情の昂ぶりを得られたかもしれないが、相手は怪物である。  
 気色悪さと恐怖とが、リディアを支配するはずだった。  
 ……上気した彼女のおもてをうかがうと、そういった様相にはみえないのだが。  
 獣人はちいさな口先を堪能しながら、手を動かして布さらしをずりおろした。というより、破りとった。  
 同時にリディアの唇から離れてやると、彼女はぷはぁっ、と甘い途息を発した。  
 
「はぁっ、はぁっ、はぁっ…………はぅっ…………あぁ……っ」  
 
 きゅっと眼をつむって顔に朱を差しているところをみると、本当に怪物を相手にしているのか、疑問を呈したくなるところである。  
 怪物はそんなリディアの様子に笑い(っぱなし)ながら、雄牛の巨顔を下にもってくる。  
 あどけなさの残る双丘を見てよだれを垂らしながら、鼻息荒く無造作に、少女の乳頭を口に含んだ。  
 
「あァっ……!!」  
 
 ひめやかな声が洩れた。  
 右の胸をちゅくちゅく吸われ、左の胸はおおきな手でもみほぐされる。  
 本来なら屈辱に歯を食いしばらなければならないのに、リディアの口は半開きになってしまっている。  
 
「はっ、うっ……んあっ、あ…………あん……やぁっ!」  
 
 次々とつむぎ出される、恍惚のあえぎ声。  
 感じやすい体質だからといって、容易によがってしまう自分が情けなくなってくる。  
 だが少女の思いとは別に、この獣人の舌技が巧いのもまた事実だった。  
 
「はぁ……アぁん! やっ、あぁ、はぁ……ひゃあぁぁっ…………!!」  
 
 口元に人差し指をあてて天をあおぎ、ちゅぷ、ちゅぷ、と啜られるつど、心赴くままに嬌声を上げる。  
 薄く開いたり、閉じたりする瞳は、うっとりした快感の色にそまっていた。  
 ――と、ミノタウロスはふいに双乳への攻めを止めた。  
 そして、陶酔した様子の少女にかまわずその上体を押し倒した。  
 
「きゃぁっ……」  
 
 背中を地面に叩きつけられ、ささやかな悲鳴が洩れる。  
 先の戦闘でうけた傷の所為で痛みはささやかどころではないのだが、リディアは痛みへの堪え性は相当なものなのだ。  
 性感への堪え性はあまりにも脆いのだが……  
 
 獣人の腕が、切れ込みの入ったひらひらした脚衣をめくり上げる。  
 さらされた純白の下着とそこから伸びるまばゆい生足をみた彼は、異常な量のよだれを吹きだしていた。  
 顎からぼたぼた涎水をたらしながら、ミノタウロスは無遠慮にリディアの股を開き、下衣にむけて剛腕をのばした。  
 
「……っ! …………!!」  
 
 下着のすそに獣人の指がかかるのを感じ、少女は身じろぎした。  
 もとより抵抗する気力もないが、それでも怪物に秘部を触れられることには大いに抵抗がある。  
 だが彼女の意思に反して、彼の指はたやすく、するすると下衣の中に侵入してくる。  
 
「いっ……!?」  
 
 獣欲のままに蠢く指は気兼ねすることなど知らず、唐突にリディアの秘陰に触れた。  
 それだけで済むはずもなく、ゆっくりとなかに挿入ってゆく。  
 
「はっ……あっ……! や、ひやぁ…………あぁッ!!」  
 
 既にぬめっていた秘処に……触指がにゅるにゅると出し入れされ、肢体を小刻みにわななかせて艶やかに鳴く少女……。  
 彼の指は思ったよりずっと細く、そして柔らかかったため、少女のそれは造作なく受けいれることが可能だった。  
 
「あぁ…………あんっ…………あン! アっ、あっ……だめっ、やぁ、あっあっあっ! あぁぁンぅっ!!」  
 
 白い下着ごしににゅちゅにゅちゅといやらしい水音が響き、同時に少女も淫らな甘声を洩らしてしまう。  
 我慢できなくなった獣人は息を荒げながら下着をぬがし、少女の股間に顔を近づけて舌をのばした。  
 
「――ひあぁぁん!!!」  
 
 いきなり恥丘を舐めあげられ、少女はぞくぞくと打ち震えた。  
 そのまま舌による陰核愛撫は続き、さらに膣内を指で攻められ、理性が飛びそうなくらいの快楽が少女の全身にかけめぐる。  
 
「あん!! あン!! あん!! あぁん!! あっあっあっあぅん!! やぁっいっ、イッちゃ、イッちゃうっ、イッちゃうよぉぉ……っ!!!」  
 
 本当に淫楽に溺れてしまったように、リディアは感じたままのよがり声をあげる。  
 くちゅくちゅくちゅ……じゅくじゅくじゅくじゅく…………  
 
「あぁンッっ!!! イくッ!! イくッ!! イくッ!! あぁンッ………………――――!!!!」  
 
 少女の秘境から、絶頂の聖水がぷしゃっ、ぷしゃっ、と何度も噴き出された。  
 
「あぁアん!!! あぁはぁッ!!! アあんっ!!! ひゃあぅん!!! はわぁンッ!!! あぁぁンっ……――――」  
 
 至高の愉楽をその身に味わうたび、リディアは身震いしながら悦びの淫声を響かせた。  
 そして、涙がこぼれる。  
 性感に弱いという自覚はあれど、怪物を相手にみだれてしまうのは過ぎる屈辱だ。  
 それにくわえ、否定できない畏怖と羞恥が快感を増幅させているのに、少女は気付いていないが――  
 
「はぁっ……はぁっ……あぁっ……はぅっ……あはぁ…………――え……」  
 
 絶頂の余韻も醒めやらぬままリディアは身体をつかまれ、あっというまに四つんばいにさせられた。  
 もし仲間の助けがこなければ、どうなるかの想像はつく。  
 だが、抵抗はできなかった。  
 結局はこわいのだ。  
 痛みへの堪え性には自信があるくせに、抵抗すれば殴られるのが目に見えているから大人しくすることしかできない。  
 しかし、どんな酷い眼に遭おうと――むちゃくちゃに穢され怪物の種子を植えつけられることになっても――彼女は生きることを選んだのだ。  
 自尊心が深く削がれようと、誰がその選択を責めることができようか……  
 
「ふわあぁぁっ……!!!」  
 
 地に伏して腕をくんだ格好の少女の肢体がぶるぶるわなないた。  
 突き出した尻穴に、ミノタウロスの指が侵入してきたのだ。  
 なにか確かめているのか、出し入れしたり、時には奥で指先をえぐりあげたりして……  
 
「ひぁあッっ!! あン!! はっ!! やっ、だっ……ひゃぅっ!! またっ、イッちゃ、うぅぅっ……」  
 
 ぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅ…………ぬぷっ――「にゃぁんっ!!!」  
 
 指攻めから解放された少女は猫のように鳴いた。  
 獣人の引き抜いた中指は、全体がぬらぬらした粘液につつまれていた。  
 かれは垂れ流しっぱなしのよだれを拭いもせず相好を崩し、むきだしの逸物の感触を確認しながら、扇情的な姿勢の少女に接近した。  
 
 リディアは後ろを向きたくなかった。  
 ‘それ’がどれほどのものなのか想見するだけで身震いするのに、実際に見たら卒倒しそうな気がしたからだ。  
 彼女はミノタウロスのモノを、ありえない大きさの巨根だと思い込んでいる。  
 実際にはどうなのか――  
 
「――っ!!」  
 
 肛門に‘それ’の先端があてがわれると、少女は眼をふさいで顔を伏した。  
 意外に小さい――と思った。  
 あくまで意外にであり、人間の男の誰もがこの獣人以上のモノは持ち合わせていないであろう大きさだった。  
 つまり、リディアのなかに入るには相応しくない、にも関わらず……  
 
「ひっッ!! ぎぃ……いぃぃッ…………ぃはぁあ゛ッ!!!」  
 
 ‘それ’はあっという間に最奥に到達した。  
 ドクドクと脈打つ肉棒の着弾点からは血が流れてきており、ごく僅かな快感を打ち消すほどの激痛がリディアを襲っていた。  
 かれはその姿勢のまま小休止した。  
 少女にとってはたまったものじゃなかった。  
 
「いっっ……はっ、ああ゛っ…………う゛あぁっ……いた、い…………さけ、るう゛ぅ……」  
 
 ぎちぎちという音が聞こえてきそうなほど、リディアの肛門は拡張させられていた。  
 やがて獣人が動きをみせた。  
 ゆるやかにモノを引き抜きにかかり、だが先端は内部に留めたまま、再び挿入し……  
 
「あ゛う゛っ!! ふっっ、あ゛っ……ひぅ゛っ!!! ひゃんッっ!! ひぎ……え゛っ!! や゛ッ、あぁ゛あ゛ッッ!!!」  
 
 大分ゆっくりとした後背位の様相だが、少女に気持ちよさそうな感じはなく、むしろその殆どが苦痛によって構成されていた。  
 まぶたを閉じた双眼から涙を流し、口中に溜まるばかりの唾が多くの涎となって漏れだし、歯を強く食いしばった様子からは、しかし痛み以外のものも察することができる。  
 突かれるたびに悲鳴を発して顔を持ちあげるリディアの表情は、快感を伴っているようにもみえるが。  
 
「や゛う゛っッ!! ああ゛ッっ!! いだッッ!! やめ゛ッ!! ぎゃあぅッ!! ひ゛あ゛あぁア゛ッ!!!」  
 
 実際には本当に苦痛ばかりを受けているため、ようやくにして意識を繋ぎとめているのである。  
 発せられる声にしても凄絶な叫びばかりで、もはや自尊心や屈辱がどうのとかかんがみている場合ではないことは疑う余地はないはずなのである。  
 当の本人は今なお気にかけているのだが。  
 そんな彼女に対し憚ることなく、ミノタウロスは迫り来る欲望の猛りを感じて――  
 
「――ひっ!! 熱っ……いや゛ぁッ!! だっ、出さなっ、い………………――っ!!!」  
 
 リディアはほんの一瞬気を失ったような感覚をおぼえながら、その身に精を放たれた。  
 ビュク、ビュク、ビュク、というにごった音とともに、ひとつになった身体がビクンと震動する。  
 人間とおなじ白濁の液体が、少女の小ぶりな尻にあふれ出していた。  
 
「あ゛っ…………あぁっ……はぁあぁぁ……!!!」  
 
 面妖なことに、少女のおもては快感にひたっている様子である。  
 射精れたという事実が気分的な高揚感をおぼえさせ、それが快さにつながっているようだった。  
 しかし、心のすみでは別の考えに深慮していた。  
 
 これってもしかして、またフレセくんの‘あれ’をしなきゃ取り除けないのかな……  
 いや、取り除けるならまだいいか……そうじゃなかったらあたし、こいつの赤ちゃんを産まなきゃいけなくなるのよね……  
 
「おい」  
 
 あまりにも唐突に、且つ自然にかけられた男の声に、ふたりそろって驚いた。  
 ミノタウロスは肉棒を抜いて、いまだにびゅくびゅくと放られる精液を少女にぶっかけながら、声の方にふり向いた。  
 リディアは地に伏して気を失った――フリをした。  
 
 
 
 魔術士はくろい右腕を標的にむかってぴんと伸ばすと――突然、獣人の全身が炎上した!  
 数瞬のけぞったが、なんと発火したままの身体で魔術士――と僧侶に突進してきた!  
 今度は瞑目している僧侶が右手に聖典を開いた状態で左手を伸ばした!  
 光る指先から微電流が生じ、それが極太の雷光線となって獣人の胸部をつらぬいた!  
 これはきわめて堪えたらしく全身をびりびりと震えさせたが、それでも彼は持ちこたえ再び突撃してきた!  
 『嗜狂力の銀環』を装備した魔術士は、冷静にミノタウロスに相対した!  
 落ち着きと動きの精彩をうしなっていた相手が鉄拳を繰りだすのを難なく避わし、同時に‘すね’を思いきり蹴りつけて転ばせた!  
 前のめりに伏した相手はくろこげになっていてすぐには起き上がれなかったが、魔術士は追撃を加えようとはせず僧侶のそばで待ち構えた!  
 やがて獣人は起き上がると、身構えた魔術士に全身をつかっての体当たりをぶちかまそうとした!  
 なんと魔術士は両手をうまく用いてそれを受け止めた!  
 よけることもできたが、後ろには詠唱中の僧侶がいるからだ!  
 鉄の地面をこすって後ずさり、両腕に激しいきしみを感じながらも、彼は闘争心を前面にだしてミノタウロスを押さえつけた!  
 相手は弱点である魔法を多く浴びていたため、力が半減していたのが巧を奏した!  
 そして、キフレセルは聖魔法を諳んじ終えた!  
 
「……《聖十字の槍》!!」  
 
 ミノタウロスの両側面、そして頭上から聖なる光槍がひらめき、その巨躯をつらぬいて聖十字が刻まれた!  
 魔術士は相手の力が失したのを感じて退いた!  
 すると、かれの全身にひびが入ったように次々と光の筋が発されて――まるで水のように溶け出し光の粒子となって、それすらも中空に浮かんで消失した……  
 
 
「酷い有様だな……」  
 
 うつ伏せに倒れているリディアをみとめたラバンが嘆くように呟いた。  
 キフレセルは正視することができないでいる。  
 仕方がないので、ラバンは自分から少女の容態を診てやることにした。  
 
 それにしても……と男がいつも奇異に思うのは、自分はロリコンではないのに、リディアだけは妙にドキドキさせられる点だ。  
 十六歳に対して劣情を抱くというと、やはりどちらかといえばロリコンを疑うのが彼の感覚なだけに、なかなか認めがたいものがある。  
 たしかにリディアはかわいいしスタイルもいいが、自分本来の性癖に気付いてからは自分より年下の異性には惹かれなくなっていたのだ。  
 それだけに、この子だけは特別な何かがある。そして、それが何かを突き止めたい。  
 そう感じていた魔術士なのであった。  
 
 リディアの怪我の具合は、脊椎が数本折られている以外は大したことがないものと判明した。  
 キフレセルの治癒魔法で時間をかければ治せる。彼は大変だろうが、頑張ってもらうしかない。  
 そして肝心なのは……こちらもやはりキフレセルに気張ってもらわねばならない。  
 彼には気の毒だろうが……一度やったこともあるのだし、ふたりとも‘細かいこと’は気にせずに取り掛かってくれればいいのだが……  
 
 ラバンは、部屋の片隅でもじもじしている美しい僧侶に視線を投げかけ、口を開いた。  
 
「リアの怪我は、脊椎が数本いかれてる以外は大したことないみたいだな。おまえさんの治癒魔法で時間をかければ治すことが可能だ」  
 
 キフレセルは安堵の表情をうかべた。  
 ラバンは少し後ろ髪をひかれる思いにかられたが、遠慮なく告げることにした。  
 
「それとな、実はリアの身体にやつの……ミノタウロスの種が付けられてるみたいなんだ」  
「え…………」  
 
 僧侶の細面が一気にくもり、血の気が引いていった。  
 だがそんな少年に対し、男はあえて陽気さをよそおった口調でさとした。  
 
「すでに一度やったことだろ? 今は恥ずかしいだのなんだの言ってる場合じゃないぜ。  
 それに…………あいつの身体、‘本来の意味でも’汚されちまってるからな。フレセちゃんの‘手’でしっかり綺麗にしてやるんだぞ」  
 
 キフレセルの顔が真っ赤になった。  
 次いで、ささやかな声量の罵言が口をついていた。  
 
「……ラバンさんのばか」  
 
 魔術士は快活に破顔し――そこまで言えるなら安心だな、とは口に出さず――部屋の出口にむかいながら喋りだした。  
 
「《吸音》をかけといてやるから安心していいぞ!」  
 
 僧侶はムッとしかけたが、すぐに気付いた。  
 あの男は最大限に気を利かせてくれているんだと。  
 腫れ物を触るように厳しく接されるより、ああやって多少軽く接されるほうがプレッシャーも和らぐ。  
 少なくともこの少年はそういう性格の持ち主だったので、彼は魔術士に対し心内で謝礼を述べた。  
 とはいえだ。  
 
「ふぅ………………」  
 
 ため息をついたキフレセルの表情は冴えないものである。  
 かれは横たわっている少女の一歩手前まで足を運ぶと、霊樹の杖を両手にしっかと握り、呪文をそらんじ始めた。  
 五つほど数えると、リディアの背中に淡白い光が生じた。  
 それはおよそ十三分ほどつづき、リディアの脊椎は元通りの機能をとりもどした。  
 
「ふうぅ……………………」  
 
 さっきより深いため息をつき、額にかかる金の前髪を払いのけながら汗をぬぐった。  
 どの系統でもそうだが、術の類は精神の疲労をともなうのである。  
 しかもこの後に待っていることを考えると、さらに疲れて目眩をおぼえるほどだ。  
 しかし、やらねばなるまい。  
 
「私がリディアさんを救わなければ! 一体他に誰が救うというのですか!」  
 
 口にだすことで気合を入れてみたキフレセル。  
 そうすることで精神的に前向きになれる気がするから、戦闘時などはしょっちゅうぶつぶつと独語しているのだ。  
 淋しい少年である……  
 
 ところで、リディアのなかに根付いた種子をのぞくには、彼女の意識が覚めていなければならない。  
 おそるおそるといった感じで、キフレセルは少女を見下ろした。  
 彼女の肢体を目にするのは二度目だが、やはりうぶな彼のこと、堂々と正視するには至らない。  
 分かったのは、うつ伏せになって眠っている(?)少女が、そのあどけなくも美しい全身を白濁液によって穢されていたことだ。  
 どうやらガン――いや、その単語を出すのもはばかられるので止めておいた少年だが、とにかく顔にはかかっていないのはせめてもの救いだった。  
 
「…………………………」  
 
 僧侶は、とりあえず周囲を見回してみた。  
 リディアがまとっていた衣服は…………みつけたものの、ビリビリに引き裂かれて地面に放られている。  
 とはいえ、実のところその服の原型を覚えていれば、治癒魔法によって易々と治すことができるのだ。  
 そして、少年は暗鬱な気持ちになった。  
 リディアの格好はあんがい肌の露出がおおいので、眼に毒だからという理由で彼は顔だけしか記憶になかったのだ(顔もある意味あぶないわけだが)。  
 服を再現することはできない…………  
 
 となれば、少女の裸身をかくす布地の選択肢は、頼りないといえどもひとつしかないではないか。  
 キフレセルが羽織っている、大きくて真っ白な外套だ。  
 ……迷宮をさまよっている今は汚れが目立つが、もともとはそういう役割の外套である。  
 汚れた少女の身体にそれをかけてやった。  
 
 さて、これからどうするか――そう思った矢先であった。  
 
「…………ちょっと」  
「ひえっ?!」  
 
 少年は艶っぽい声をだしてとびあがった。  
 見れば、足と顔を露出したリディアが、顔を上向きにしてこちらを見すえているではないか。  
 キフレセルがどきまぎしているのを見兼ねて、少女は口をひらいた。  
 
「フレセくん…………あたしにヘンなことしようとしたでしょう」  
「………………は、はい……?」  
 
 何を言うのかと猜疑し、同時に畏れた。  
 
「背中治してくれたあと、さっきからずっとそこで立ってたの、知ってるんだからね。なに考えてたのよ」  
「わ、私は…………リディアさんをどう起こそ、いや服を、じゃなくてお救いしようかと……」  
 
 たどたどしく言葉をつむぐキフレセルをみて、リディアは明るく言った。  
 
「なーんてね! 冗談よ、フレセくん。怖かった?」  
 
 ――怖かった?  
 
 その台詞を聞いた少年は、この少女の本意に気付いてしまった。  
 怖い目に遭ったのはこの少女の方ではないか。  
 自分のプライドや恥ばかり気にしていて、彼女に対する気遣いができないなんて……  
 真っ先にかけよって包み込んであげるべきだったのではないかという自責の念に一瞬とらわれたが、想像してみると顔が赤くなっていたキフレセルだった。  
 
 しかし。  
 気が付くとかれは自ら、白い外套ごとリディアの身体をひしと抱擁していた。  
 
「リディアさん、申し訳ありません……あなたの気持ちを慮ってあげられず、私は…………」  
 
 少女は身体がふるえ、目頭が熱くなるのを感じた。  
 外套をはねのけ、法衣を着ている少年に腕を回したくなる衝動を――――堪えた。  
 そして、彼の頼りない両肩に手をおいて、やさしく身体を離させた。  
 
「……リ、リディア、さん?」  
「フレセくん、ありがとう。助けてくれて、本当に感謝してるわ。でもあたし…………身ごもってるの」  
「…………………………」  
 
 そんなこと知っています――  
 僧侶はどうにか、その思いを口にも顔にも出さずにすんだ。  
 彼の深刻そうな無表情をみて、リディアのほうはなんとか話題をそらせたと思ったに違いないが、実際には違う。  
 リディアは、好きな相手や信頼している相手ほど、自分本来の感情をみせる少女なのだ。  
 逆にいえば、嫌いな相手や信用ならない相手には、無難かつ社交的に接しようとする少女なのである。  
 つまり自分は、無関心などうでもいい存在なんですね――  
 一瞬そんな想いに満たされそうになり、すぐに考え直した。  
 これでは先刻くやんだことが無意味になるではないか。  
 
 キフレセルは自分に対してかなり無理しながらも、話すことにした。  
 
「ええ……存じております。それを取り除くには、リディアさんの協力が必要で――」  
 
 僧侶は言葉をうしなった。  
 立ち上がった少女が自らの手で、外套を脱ぎさったのである。  
 
「前みたいなコトするんでしょ? じゃあ早くあたしの身体、きれいにしてくれる?」  
 
 話がわかり、それに進めるのが速すぎるリディアの態度に、僧侶は微苦笑を禁じ得なかった。  
 恥ずかしくないのでしょうか……  
 
「もうっ、フレセくんたら何もじもじしてるのよ。あたしより二つも上なんだから、こういう時はリードしてよね」  
「…………申し訳ありません」  
 
 もはや平謝りするしかないキフレセルであった。  
 そして顔を上気させつつ自分も立ちあがって、眼前の少女相手に霊樹の杖をかかげ、瞑目して呪文を諳んじはじめた。  
 五つほど数えると杖の先端に白光がともり、にわかに何かが息づいた。  
 ――透白色の触手である。  
 身体(?)をくねくね動かしながら少女に近付き、おもむろに右胸部を突っついた!  
 
「あっ……!」  
 
 可愛いおもてに紅葉を散らし、甘やかな途息を発する少女。  
 僧侶は、ドキドキしてしまう自分を必死に戒めながら、精神を集中して気をおくった。  
 触手がしているのは、あくまで身体に付着した精子を拭き取ることだ。  
 けしてイヤらしい所業に走ろうとしているわけではないが、二人とも意識しないわけにはいかなかった。  
 理由は自明である。  
 若い男女だからだ。  
 
 触手は少女の全身を舐めまわすように這いまわり、各所に飛散した白い液体を吸い取ってゆく。  
 敏感な部分――わきの下や首すじ、お腹――に触れると少女は身体をくねらせ、ささやかだが色っぽい声を洩らす。  
 その度に僧侶は歯を食いしばらなければならなかった。  
 
 そして、触手はとうとうリディアの‘後ろの方の秘境’へと、その食指を伸ばし始めた。  
 言うまでもなく(?)、彼女は勝手に両の掌を地面について四つんばいに格好になっている。  
 例のブツを直接ぶち込まれた処なので、当然ながらもっとも汚れている少女の肛門は、きわめて容易にソレの侵入を許した。  
 
「ひゃ! …………ひゅぁ、………………ふぁぁぅ……!!」  
 
 感触を確かめるようににゅるにゅると入ってくる触手には不快な感じは全くなく、むしろ快さのみが少女の感覚を駆けぬけていった。  
 すごいのは、それが本当にどんどん奥まで潜っていくことで…………  
 
「はぅン……っ……あはっ、……ひぅえ…………あァんッ……」  
 
 それが子宮まで到達するまでそう時間は要さなかったものの、リディアの様子のなんと奇妙なこと。  
 感じているのかどうなのか、触手がもぐればもぐるほどに変な表情をつくり、声もあえぐというよりは裏返ったうめき声みたいな感じになっている。  
 そしてなんと、この触手は卵子に融合を試みようとしていた精子さえも吸い取ってしまった。南無。  
 あとはもう抜け出すだけである。  
 
「はぁぁッ…………きぇえっ……ひょえっ……はぇえぅ…………」  
「……………………」  
 
 キフレセルはリディアの奇声を聞いて安心していた。  
 これなら劣情に苛まれずに済む、と。  
 傍目にはおかしな光景でも本人にとっては死活問題だから、リディアが変な鳴き声を発するのは結果的に良かったといえるのかもしれない。  
 
「だっッ……なんか、スごッッ…………で、デる…………デひゃうっ!!!」  
「ッ!!!」  
 
 本当に唐突に、リディアはうしろからぷしゃああっ、と潮を噴き出した。  
 びしゃびしゃ音を立てて、地面と靴のあいだ辺りにかかってしまうそれを、キフレセルは避けることができない。  
 まだ触手を抜ききっていないからだ。  
 
「はぁぁあん……ぁぁあぁアああァぁ……あっあっあぁ〜〜…………」  
 
 気持ちよさそうでいて控え目な嬌声をあげるリディアに、キフレセルはまた悩まされなければいけなくなった。  
 ――触手がようやく尻穴から脱出し、消失した。  
 そして一向に収まる気配がない噴水に目をそむけ、少女から離れて全てが終わるのを待つ事にした。  
 
「ひぅぅううぅゥん…………ひゃめえぇぇぇえェぇ…………あひィ……」  
 
 遠慮なしに妖しいあえぎを好き放題響かせたあと、愛液をおさめた少女は四つんばいを崩して地に伏した。  
 
「………………………………」  
 
 僧侶はこれからどうするのか考えようとして、頭を抱えた。  
 どうしようもない気がしたからである――  
 
 
 
 - Epilogue -  
 
「おい、リディアは無事か……?」  
 
 と弓使いが魔術士に話しかける頃、僧侶はミノタウロスがいた部屋で杖をかかえてうつむいていた。  
 険相の男はみぶりで美青年を制し、状況を説明する。  
 
「まあ怪物は殺ったしリアも無事だったわけだが、フレセちゃんが服が再現できないみたいでな。  
 さすがに迷宮内を、素っ裸にマント羽織るカッコでうろつくわけにゃいかないだろうからな……」  
「……なんだ、そんな事か」  
 
 ラバンはあきれ返った。  
 
「そんな事っておめー、どう考えても大問題だろ」  
「リディアの服装なら僕が描いた絵がある」  
 
 ラバンは驚愕をあらわにした。  
 
「マ……マジでか」  
「マジだ」  
 
 そう言うと、彼は手持ちの黒い皮袋に手をいれ、絵描き帳らしきものを取り出した。  
 ぱらぱらと項をめくり――魔術士の眼にはいかがわしい絵も映ったが見なかったことにした――やがてリディアの絵に到達した。  
 派手な服装の男はそれを受けとってみると、この身も心も真っ黒な(言い過ぎ)青年の才能に感嘆した。  
 
 切れ込みが入っている方の足を上げ、舞を踊っているようにつるぎを振るうリディアの勇姿が、そこには描かれていたのだ。  
 童顔なうえ胸もとが若干さびしいのと露出が多い点は、彼の趣味なのだろうが……  
 
「すげえなお前。しかし、実物よりちょっとロリっぽい気がするんだが、思い過ごしか?」  
「…………今はそんな事を言い合っている場合なのか……?」  
「そうでしたぁ。……すぐ見せに行ってくるよ」  
 
 不穏な空気を察してその場から去った魔術士の選択は賢明である。  
 そして、妖麗な美貌を有する青年は、紅眼をとじて安堵のため息をついた。  
 
「……あいつが十六で良かった。……もし三つ四つ下の齢であったならば………………」  
 
 弓使いはぶるっと戦慄いた。  
 
「…………考えるのはよそう。あいつは十六……それで十分じゃないか」  
 
 自らに言い聞かせたあと、脳裏に浮かんだのは自身より二つ下の‘彼女’の存在だった。  
 あの十八とはおもえない顔に性格、それに身体…………考えるだけで口中に涎が溜まり、それを飲み込んだロシーニであった。  
 
 
 
 END  
 
 

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