「お目覚めですか」  
 
 至近距離から発せられた、知らない声に悠里はハッとする。  
 眠っていた覚えは無い。が……起きていた覚えも、無い。  
 この数時間の記憶がぽっかりと消失しているようだ。  
 浮遊感に似た不可思議な感覚と閉ざされた視界。  
 視覚が封じられている。この状況は彼女を少なからず動揺させた。  
 
「なに、誰!? ここは、」  
「怯えずとも危害を加えるつもりは無い。落ち着かれよ」  
 
 今度は別の声。低めのそれは男のようにも女のようにも思える。  
 身体に拘束された感覚は無いのに、ぴくりとも動けない。  
 これが金縛りというものだろうか。  
 悠里は確実に自らが恐怖に侵食されていくのを認めていた。  
 一体現状はどういうことなのか? 状況も飲めず落ち着ける筈が無い。  
 
「……ふむ、それもそうだ。きみにとっては唐突な出来事だろうから」  
 
 先ほどの声がまた響く。ここで悠里はふたつの事に気づいた。  
 ひとつは、最初のものと合わせ二人分の声はどちらとも耳で感知していない。  
 信じがたいが直接脳に流れ込んでいるような、とにかくそんな感じなのだ。  
 そしてもうひとつ。  
 彼ら(?)は悠里が頭の中で考えていることを読んで話している。  
 まるでアニメや漫画の世界だが、事実そうなのだから仕方がない。  
 
 「順を追って話そう。まず前提として、我々はきみに害なす者に非ず」  
 
 少し芝居がかったような口調の方がそう始めた。  
 そういえば先ほども、危害を加えるつもりは無い、などと言っていた。  
 しかし自分で怪しくないと言っている者ほど怪しい法則だ。  
 第一、(恐らく)目隠しをされて拘束されている状態の悠里にとって  
 そんな言葉は信じろという方が無茶な注文だった。  
 
「信じて貰えずとも致し方無いが……話を続けよう」  
 
 相手の声音に僅かな落胆の色。そして、  
 
「我々は地球人に強い興味を持っている。  
 きみ達の文化レベル、知能指数は賞賛に値するものだ」  
 
 何やら上から目線の賞賛を告げられる。  
 いよいよ話はSFの世界だ。この前見たスター○ォーズの影響だろうか。  
 いっそ夢だと思い込めれば気も楽になるのに、と少女は思った。  
 
「あのー……あなた達は所謂宇宙人、なんでしょうか」  
「その呼称は本意では無い。そうだな、便宜上名を名乗っておこう。  
 私はクリス、もう一人はトリスタン。きみ達の世界で一般的な名にしてみたが」  
 
 純日本人である悠里にとってはあまり一般的では無いにせよ、  
 確かに名前が有った方が何かと便利そうだとは認める。  
 諦観の境地なのか順応力の問題なのか、少女は意外にも少しずつ状況に慣れていた。  
 いや、脳が耐え切れずに麻痺してしまったという表現が正しいのかもしれない。  
 クリスの話し方が紳士的というか警戒心を解しやすいせいも有るようだ。  
 
「察しの通り、我々はきみ達とは違う星の住人だ。  
 我が星の住人達は知能や文化で言うならばきみ達と同等かそれ以上は有る。  
 だが……免疫力が著しく欠落していて、ともすればすぐに絶滅の危機に瀕する」  
「はあ……」  
「そこで、歴史は浅いながらも類稀なる免疫力を持ったきみ達を知った」  
 
 含みの有る言い方に悠里は嫌な予感を隠しきれず、二の句を次げずにいた。  
 
「きみは聡いようで何よりだ。我々はきみ達と交配し、  
 進化を遂げるべくこの星へとやってきた」  
 
 ああ……やっぱり。どうせそういう展開だと思った。  
 当たらなくて良い予想が的中してしまい、少女はげんなりとしてしまう。  
 
「交配するにあたって先んじては地球人、特に雌の個体の構造を熟知せねばならない」  
 
 クリスがそう紡ぐなり、少女の全身がぞわりと粟立つ感覚に苛まれる。  
 突如襲ってきた不快感に今まで麻痺していた恐怖が顔を覗かせた。  
 
「何、怖い……ッ」  
「あなたの前にも幾つか雌の個体を調べさせて貰いました。  
 殆どの機能・形状などは分かりましたが、ひとつだけ解せない部分が有る」  
 
 今度は最初に話しかけて来た方、トリスタンが話しかけてくる。  
 それを追うように悠里の太腿の辺りにひやりとした感覚が触れた。  
 つるりとしたその感触はうぞうぞとくねるような動きで脚を這いずっている。  
 
「ひッ……、いや、気持ち悪い!」  
「外性器の上部に位置する器官。生殖器官のごく近くに有るという事は  
 生殖に何らかの関係が有ると推測しているのですが、機能が未だ不明なのです」  
 
 得体の知れない感覚にまさぐられて少女はすっかり身体を強張らせる。  
 しかしその物体は動きを止めようとせず真っ直ぐに性器を目指しているらしい。  
 悠里はここでようやく気づいた。自分はいつの間にか裸にされている。  
 
「嘘! 服、いつの間に――」  
「調査に於いて不要だと判断したため、我々が預かっています。  
 安心して下さい。開放の際にはきちんと身に着けた状態でお返しします」  
 
 淡々と返され、それを聞いている間にも未知の物体は脚をのぼり、  
 
「ぁくっ、」  
 
 そうして性器に辿り着いた。  
 
 視界が遮られているせいで正確な形状は分からないものの、  
 のっぺりとしたそれは伸縮性に富むらしい。  
 閉じようとする脚の間に器用に潜り込み陰核を包み込んでぐにぐにと動き始めた。  
(そもそも金縛りのような状態のため、抵抗も殆ど意味は無いのだが)  
 
「ッは、いや、触らないで、」  
「ふむ……体温及び脈拍の上昇、脳波の乱れ。感覚器官のそれと似ているようだが」  
「それにしても随分と鋭敏です。個体の大きさから考えるとごく小さい器官なのに」  
 
 他人のあらぬ場所を弄びながら冷静に分析をしている宇宙人達に怒りこそ沸き、  
 羞恥も相俟って文句のひとつも言ってやりたい少女はしかし罵倒の言葉も喉奥で潰える。  
 陰核を守る薄皮の上から摩擦を加える外的要因の動きが酷く巧みなのだ。  
 必死に脚を開くまいと抵抗していた少女だったが、途中からそれも叶わなくなる。  
 どうにも筋肉が弛緩してしまい、力が入らないのだ。  
 結局だらしなく脚は割り広げられすべてが見えそうな程に晒されてしまう。  
 
「失礼、先ほどきみの体内にちょっとした弛緩剤を混入させて貰った」  
「し、かんざい……? あうッ、んん……」  
 
 言われてみれば先ほど、奇妙に肌が粟立つ感覚を味わった。  
 あの時に何か細工をされたのだろうか。  
 やわやわと陰核を揉んでいた物体は、ぐぷりと嫌な音を立てながら粘液を吐き出した。  
 それを包み込んでいる小さな粒に擦りつけ更に激しく刺激を与え始めたのだ。  
 
「あッ……! あ、ダメ、変になる……!」  
 
 ぬるついて滑りの良くなった粒を育てるように揉んだり擦ったりを繰り返され、  
 性経験に乏しい少女は悲鳴めいた嬌声を上げる。  
 
「薄くは有りますが外殻に覆われているこの形状。何かしら重要な器官の筈ですが」  
「まったく謎が多いものだな。トリスタン、その外殻は排除出来るんだったか?」  
「少々お待ちください。……切除せずとも一時的には取り除けるようです」  
 
 微かにコードを巻き取るような音が響いた後、細い糸が何本も少女の陰核に飛びついた。  
 糸、というにはもう少しグロテスクな形状だがここでは割愛しておく。  
 悠里が悲鳴を上げるより早く無数に伸びたか細い糸が陰核の皮をそっと剥いていく。  
 先端に吸盤がついた触手めいた糸が一斉に動くと、紅く腫れた陰核本体が顔を覗かせた。  
 
「うぁッ、痛……」  
「脳波が乱れているぞ。トリスタン、もっと慎重に。極力苦痛を与えないよう」  
「申し訳有りません。思う以上に敏感な器官でして……それなら、」  
 
 触れていない段階でも痛みを感じるほどの器官に驚き混じりのトリスタンは  
 クリスの叱責を受けながら先ほどまで陰核をこね回していた物体の形状を変化させる。  
 今度は先端からやや下部にかけて柔らかい毛の塊を携えたものへ。  
 動物の尾のようにも思える形状のそれをそっと剥き出しの陰核へと向かわせる。  
 
「きゃあああッ!」  
 
 遮断されているにも関わらず目の前に火花が散る感覚。悠里は思わず叫んだ。  
 繊細な毛の一本一本が敏感な部分を撫でては離れ、また次の毛がなぶる。  
 下肢が溶けてしまう錯覚に陥るほどの快感。  
 思考を手繰りよせようとしても、端からすべて零れ落ちていってしまう。  
 
「今度はどうだ。今のところ苦痛の反応は見えないが」  
「どうやらこのアプローチは成功のようです。引き続き脳波の観測を」  
 
 最早宇宙人達が何を話しているのかも悠里には理解出来なかった。  
 追い討ちのように陰核へ向けて何かが垂らされる。  
 と同時に焼け付く熱さが襲って来て、少女は声を嗄らして繰り返し叫んだ。  
 その状態の陰核に柔らかい毛が身を寄せては擦り上げていく。  
 筆舌に尽くしがたい快感に、悠里は呆気なく絶頂を迎えてしまった。  
 
「そのまま続けてくれたまえ、トリスタン。現状は繁殖行為の際の反応に酷似している」  
「ッ、やだ! もうやめ、て、もうイッた……!」  
 
 達した後の過敏な状態で更に刺激を加えられるのは、ある種拷問だ。  
 しかし嫌がる悠里を気にも留めず、トリスタンは指示通り行為を再開する。  
 既に少女の全身は汗まみれ、特に下肢は様々な分泌物で酷い有様だった。  
 卑猥な音を立てながら毛の塊が再び陰核へと深く押し付けられる。  
 
「あああああッ!」  
 
 不規則に振動を与えられたり回転を加えられたり、  
 バリエーションを持った物体の動きにただ翻弄される。  
 快感なのかすら分からない強い刺激に悠里は耐えるのみを強いられる。  
 
「やはり生殖器に強い反応が認められる。関連が有ることは確実なんだが……」  
「脈拍が更に上昇、加えて思考の混濁。肉体的には強い興奮状態と見受けられますが」  
 
 決め手に欠けると歯噛みするクリス、それを受けてより強力な刺激を与えるトリスタン。  
 
「も、やめ……ふああッ!」  
 
 限界まで腫れ上がり存在を主張する陰核を責める手を止めず、  
 トリスタンはふと気づいたとクリスを仰ぐ。  
 
「この器官……刺激を加えている内に何倍にも膨張をしています。  
 もしかすると、この器官も生殖器なのではないのでしょうか」  
「む――我々は生殖の方法はひとつとの前提で話を進めていた。  
 仮にこの器官そのものが生殖器だとすると、いや……」  
 
 トリスタンの提案に、クリスはぶつぶつと呟きを繰り返す。そして。  
 
「あくまで仮定だが。これは胚芽なのではないか?  
 繁栄する生物の理は危機に対して何通りもの備えが有ることと聞く。  
 普段は体内で子供を作るが、緊急の際はこれを胚芽とし体外生殖を――」  
「なるほど、試してみる価値はありますね。刺激を与えて反応が有ったという事は……」  
「ああ。刺激を与え続ければ単一の個体でも生殖を可能とするのやも知れん」  
 
 僅かに緩んでいた刺激が、クリスの言葉が終わると同時に激化する。  
 
「ひ、やああああッ! 止めて止めてええッ!」  
 
 筋弛緩のせいで暴れることも抗うことも出来ず、叫ぶしかない少女は  
 力の限り声をあげ制止を懇願する。叶わないとは分かっていながらも。  
 
「決して傷はつけるなよ。地球人の子供は、生後暫くまで非常に脆いらしいからな」  
「ええ、その辺りは万全に。しかしどのくらい続ければ生殖が起こるのでしょう」  
「まあ気長にやれば良い。巧くやれば我が星のものたちは安泰となるのだ」  
 
 ごしゅごしゅと陰核を擦る毛が回転する。  
 既に意味を成していない言葉をひたすら叫ぶ少女は、  
 いつになれば開放されるのだろうか。  
 
 END  
 
 

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