まるでぼろ切れか何かのように床に横たわった女。  
それを中心に円を描いて取り囲む男達は皆屈強な体躯をしており、  
しかし彼らの表情は一様に困惑の色を宿していた。  
 
さらりと流れる肩ほどまでの銀の髪を今は床に落とし、  
ぐったりと横たわる女はそれでも双眸の光を失っていなかった。  
女と言えど、流石幾多の修羅場をくぐったと噂される戦士。  
電気責めや鞭打ち、水責めや石抱きにすら堕ちなかった彼女を眺め見る男達の視線は  
畏怖で有り一種敬意でも有り、酷く複雑な様子である。  
 
「……どう、した、……もう、終わり、か」  
 
女の口から発せられた声は明らかに衰弱の様相を呈しており、  
もう一押しでもすればどんなに重大な機密でも吐いてしまいそうにすら。  
しかし周囲の男達はただ明瞭を欠いた呻き声を立てるのみに終わる。  
しなやかなバネの身体が無残に地を這っている姿を、  
その屈辱を味わわせているのはあくまで男達の方だ。  
本来ならば嬉々としてその顎のひとつも蹴り上げ口汚く罵倒して然り。  
だが彼らはぴくりとも動けずにいた。  
 
気圧されているのだ。  
戦火の暁を駆ける、燦然たる鷹の姿を彼らは見ていた。  
月毛の駿馬を操り石矢の雨を尻目に、縦横無尽に戦地を舞う猛禽。  
敵味方を問わずその雄姿は見る者を惹きつけてやまない。  
その羽根を裂かれ、無様に土へと縫いつけられてなお。  
 
銀糸を靡かせ滑空する如く風を切る彼女はいつしかこう呼ばれていた。  
 
「……イティア様?」  
 
イティア、冠するは『夜鷹』の意である。  
(正確にはナイティアだが、この国では単語頭のnと重母音は発音しない)  
鈴を転がしたように愛らしい声の主へ、一斉に視線が集まった。  
そこにはビスクドールよろしく陶磁器の肌と蒼玉の瞳、ふんわりとたゆたう腰までの金糸。  
絵に描いたようなお姫様が血相を変えて立っていたのだ。  
床に転がる女の名を今一度呼ぶと、少女は男達の輪を掻き分けてそちらへと走っていく。  
 
「酷い……あなた達がやったのね?」  
「で、ですがリリス様!この者は捕虜でして、」  
「言い訳は無用です。女性に手を上げるだなんてそれでも騎士ですか!」  
 
ぴしゃりと言い放たれた台詞に大の男達は雷に打たれたように竦み上がった。  
 
「可哀想に、女性の身体に傷をつけるのは唯一神ですら許されないわ。  
 それもこの方は英雄。敵方とはいえ、恥を知りなさい」  
 
見た目よりも大人びた少女の言葉の端々にはイティアへの憧憬がありありと浮かんでいる。  
苦労など知り得ない滑らかな白い指がイティアの頬を撫で、  
リリスと呼ばれた少女の瞳は今にも大粒の涙を零しそうに揺れていた。  
 
「この方の身柄はわたくしが預かります。お父様にそう言上なさい。」  
 
懸命にイティアの身体を持ち上げようとする少女を  
片腕で牽制すると、力無く女が立ち上がる。  
本当は身分の高そうなこの少女を人質に取り逃亡を企てることも考えていた。  
だが、横に居る少女のひたむきな瞳を見ては  
その思いが急速に萎んでいくのをイティアは感じていた。  
己にも戦士としての矜持が有る。  
戦う手立ての無い者を盾にするのは自らの理性が許さなかった。  
 
 
***  
 
 
「大丈夫? イティア様……もう、痛まない?」  
「ああ、何というか……世話をかけた。不思議な気分だが、貴殿には何と礼を」  
「そんなもの。わたくし、ずっとイティア様に憧れていたんですもの」  
 
捕えられ拷問を受けてから早くも二月程が経過し、イティアの傷はすっかり癒えていた。  
それもリリスがまるで侍女のように甲斐甲斐しく手当てを施してくれたからである。  
初めは警戒を解かなかったイティアだったが、少女の献身的な態度と  
たどたどしくはあるものの丁寧な手当てに段々と心を開いていた。  
もう一人で動けると訴えるイティアをきつくベッドに置いたままなのは些か過保護だが。  
 
「でもわたくし、初めは少しだけ怖かったの。だって貴女はとてもお強いし、  
 仮に人質にされてしまったりしたらどうしよう、って」  
「そう考えなかったと言えば嘘になる。  
 だが、抗う手立てを持たぬ者を一方的に蹂躙するような行為は好まない」  
 
イティアの四角四面な返答にくすくすと楽しげに笑ってから、  
少女はいつものように湯気を立てた薬湯を差し出した。  
 
「イティア様は真面目でいらっしゃるのね」  
「……そうだろうか?」  
 
何故笑われているのか分からないといった風で女は苦い薬湯を飲み下す。  
 
今日の薬湯は普段のものより強い気がした。僅かに舌を刺す刺激。  
 
「――苦いな。いつものものとは違うようだが、」  
「ねえ、イティア様」  
 
女の言葉を遮るように少女は言葉を綴る。歌うような口振りだ。  
 
「わたくしはとっても素敵だと思うの」  
「何が、だ……? ッ、……」  
 
強烈な眩暈と呂律の回らぬ状態にようやく異変を感じ取り、  
イティアは反射で愛剣をつがえようとする。  
が、常より腰元に差してある長剣は随分と前からリリスに仕舞われたままだった。  
神経毒か。気付いた時には既に遅すぎた。  
「さっき貴女が仰ったこと。抗う手立てを持たない者を一方的に蹂躙する行為、」  
 
にこりと。麗しく笑んだ少女の笑みは、幾度となく間近で見ていた筈であったのに。  
イティアの双眸には酷く歪んだ、まるで違うものに映っていた。  
 
「言った筈だわ。わたくし、ずっと貴女に憧れていたの」  
 
涼やかに転がる声は、しかし今は鼓膜にねとりと絡みついて澱みを作る。  
 
「な、にをす、る気だ……?」  
「ふふ、簡単なことよ。貴女がお持ちの秘密をお教え願うだけ。  
そうしたら、生真面目なイティア様のことですもの。  
もう元居たところには戻れないでしょう? そうしたらわたくしと暮らすの」  
 
ずっと。ずっと。  
熱に浮かされた思考へ少女の声が入り込んで、不協和音を鳴らす。  
 
「油断、させ、て……また、拷問、か……?」  
「いいえ、あんな野蛮なこと! イティア様を傷つけるだなんてわたくししないわ!」  
 
凛と言い切ったリリスの双眸には確固たる信念めいたものが浮かんでいる。  
どうやら本当に拷問の類をするつもりは無いようだ。  
 
「その、ね? 女の方の弱いところ、」  
 
きゃっと恥じらいながら頬を紅潮させ、リリスは細く白い指を伸ばした。  
その指先は彼女が誂えた薄いシルクのネグリジェを纏うイティアの脚の間へと。  
瞬間、身の危険を感じたイティアが咄嗟に身を捩る。  
しかし先ほどの神経毒のせいで、結局軟体動物のように  
ぐにゃりとシーツに身を埋めるのみとなってしまった。  
そして指先は布越しにこれまた薄いショーツの上をなぞる。  
 
「ここを、愛して差し上げるの」  
 
緩く開いた状態の脚の間、つつっと割れ目を撫でられる。  
それから露骨に指先が突起の位置へと滑り、軽く擦る。  
 
「やめ、ろ……、ッ、おぞま、しい……!」  
 
物心ついた頃から戦地を駆けていたイティアに取って、  
初めて味わう性感とは不快以外の何者でもなかった。  
ぞわりと総毛立つ感覚に喉を鳴らすと、吐き捨てる如く台詞を紡いだ。  
それを受けた少女は酷く哀しそうな顔をした後、一転嬉しげに表情を綻ばせた。  
 
「素敵。貴女は未だ純白の鷹なのね」  
 
ほう、と溜め息すらついてからリリスは一度イティアから離れる。  
間近の戸棚をごそごそと探ると、銀色の小さな缶を持ってまたベッドへと。  
 
「イティア様がお話しをしてくれれば、辛いことはしないわ。  
 わたくし、決して貴女を傷つけたくないもの。ね、お話しして?」  
 
それは哀願。悲痛にも見える、愛らしい少女が眉を下げ懇願する様子だった。  
だが紡がれる一言一句、何処かイティアが抵抗することを願っている。  
彼女をたっぷりと蹂躙し、恥辱の限りを尽くしたいと。  
少女の硝子玉の如き瞳の奥には爛々とした嗜虐心が見え隠れしていた。  
 
イティアは無知ゆえの得体の知れない恐怖、  
そしてそれを凌駕する怒りと決意に満ちていた。  
こんな小娘に何をされても口を割るつもりは到底無かった。  
天使のように愛らしい顔をして、腹の中では虎視眈々と寝首を掻く隙を窺っていたのだ。  
それは憎悪。勿論リリスへも向けられていたが、それと同じくらいに  
眼前の少女を信じて裏切られた間抜けな己を殺してしまいたい程に憎んでいた。  
 
「ねえ、イティア様。わたくし貴女が好きなの」  
「貴様……ッ、ぬけぬけ、と……」  
 
好きな相手ならこんな目に合わせないだろう。  
そのまま射殺してさえしまえそうな視線を向けるイティアに、  
困ったような喜んでいるような不可思議な表情を形作ってから。  
 
「お話し、してくれないのね。仕方が無いわ、それなら――」  
 
銀の缶の蓋を開け、指先に黄金色のぬとりとした液体を掬う。  
リリスは片手でイティアのネグリジェをたくし上げ、ショーツへと潤滑油を垂らした。  
 
「したくなるようにして差し上げる」  
 
うっそりと、恍惚とした表情で少女は告げた。  
 
 
***  
 
 
「う、あああッ! やめ、やめろ……!」  
「気持ち善い? ふふ……嬉しい」  
 
ひたすらショーツ越しにクリトリスを擦られる。  
少女は幾度も似たような経験が有るらしく、その指遣いは巧みだった。  
くちゅくちゅと音を立てながら優しく布とクリトリスが擦れるように動かす。  
突起の頭頂部を擦っていたと思えば、側部へ移動しこしゅこしゅと揺らす。  
淫靡に音を立てているのは大分前から潤滑油だけでは無い。  
側部に指の腹を当てて小刻みに振動を加えるとイティアの脚が震えた。  
薄手のネグリジェが汗でぴったりと身体に張り付き、身体のラインを露わにしている。  
小刻みに動かす指先に更にやんわりと上下運動を付加すると  
クリトリスを包んでいる皮がそろそろと剥けて敏感な芯が顔を出す。  
ショーツ越しにも桃色に色づいたそれは熱く息づいて、脈拍すら感じられそうだ。  
 
「これ、油でとろとろにしてからぐちゅぐちゅに擦ったらどうなっちゃうのかしら」  
「ッ! だ、めだ……! やめ、」  
 
ぽたぽたと垂らされた油に戦慄するイティアに、少女は花の笑みを向ける。  
 
「お話ししてくださる?」  
「……! 言え、ぬ……仲間を、売る、なんて……」  
「そう、残念だわ」  
 
すっかりとろけた表情になりながらもギリギリで理性を保っている女を仰ぎ、  
少女はほうとまた嘆息。そして。  
 
「――ぁあああああァッ!」  
 
容赦なくクリトリスを扱いた。  
たっぷりと垂らされた潤滑油、そして愛液のせいでまったく痛みは感じない。  
イティアを蝕むのは直接神経を揺さぶられるに等しい、絶望的な快感。  
柔らかな指が上下する度に背筋を熱いのか冷たいのか分からないものが走る。  
眼前が点滅し、呼吸すら危うくなる。それでも愛撫は止まらない。  
すっかり勃ち上がり弾力を伴ったクリトリスを潰さんばかりに扱かれると、  
イティアは脳がすうっと冷えていく不思議な感覚に捉われた。  
 
「な、はッ……、なん、だ……あッ、」  
 
ぞわぞわと駆け抜ける正体不明の感覚。  
火傷しそうに熱く感じる下肢と急速に冷えて白くもやを帯びていく思考の違和感に  
混乱しながらも、その未知の感覚に身を任せたくなってしまう。  
もうどうにでもなれと意識を手放そうとした瞬間。  
 
「ダメよ、イティア様」  
 
無情にも少女の指が離れてしまった。  
訳が分からず物欲しそうにリリスを見つめるイティアに、少女はふわりと笑って。  
 
「お話しをしてくださる気になられた?」  
 
非情な一言を紡ぐのだった。  
 
 

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