注意
※暴力描写があります。
※原作はほとんど無視。キーワードしか合ってません。
※色々考えると無理がある話ですので、広い心で読んであげて下さい。
※NG登録は「異説・赤ずきんちゃん」でお願いします。
昔々あるところに、家も両親もない少年がいました。
彼の両親は無実の罪を着せられて、処刑されたのです。
少年の暮らす国は、身分制度の厳しい王国で、貴族の犯罪に対してはきちんとした裁判などは行われず、
平民に擦り付けられてばかりでした。少年の両親もまた、その犠牲にあい、濡れ衣を着せられて殺されたのです。
まだ5歳にも満たなかった幼い少年は、訳も分からないまま、両親の首が斧で切り落とされるのを茫然と見ていました。
一人ぼっちになったことに気付いたのは、可哀想だが他人の子を育てられるほどの余裕はないからと、
村人みんなに見捨てられて、森の中に放り出されてからでした。泣いても、叫んでも、誰も助けに来てはくれません。
それでも幼さから、少年は泣き続け、ついにはその声で、お腹を空かせた獣を呼び寄せてしまいました。少年は
持たされた布袋だけを武器に戦いましたが、すぐに獣の牙にボロボロにされてしまいました。獣が飛び掛ってきたのと、
樵が忘れていったらしい斧が少年の目に付いたのとが、ほとんど同時でした。
気がつくと、少年は血塗れた斧を手に、獣の前に立っていました。獣は昼間に見た両親と同じように、首の辺りから
勢い良く血を溢れさせていました。少年は恐くなって逃げ出しましたが、夜が明けて、昼も過ぎてからお腹が空くと、
自然とその場所に戻っていました。火の起こし方を知らなかった少年は、夢中で獣の生肉を食べました。血の臭いに
むせ返りながら、自分が生き残る道はこれしかないのだと本能的に悟った少年は、獣の血に濡れた口元をぐいと拭うと、
両手で斧を持って立ち上がりました。
それから十数年、少年は人と交わることもなく、獣を食べて生きています。人間の言葉はもうほとんど忘れてしまいましたが、
人間を襲ってはいけないことはどこかで分かっていて、食べるために殺すのは人間以外の獣だけです。それもいつかは
忘れてしまうのでは、と、少年は恐くなることがあります。たとえば、人間の忘れていった荷物を漁ってみたものの、
出てきた道具の使い道がほとんど分からなかったときに。、獣の皮をまとい、斧を片手に森を歩いているのを
村人に見られて、悲鳴と共に逃げ去られてしまったときに。速いからといって四つ足で走り始めた自分の姿が、泉の水面に映るのを
見たときに。自分がどんどん「人間」とかけ離れていくのが分かるのです。
いつまで人間を同類とみなして獲物から外していられるのか、いつか本当に人間ではなくなる日が来るのではないか、
少年は恐くて恐くてたまりませんでした。
少女に出会ったのは、そんなときです。普段は人の立ち入らないような深い森で、少年は少女の甲高い悲鳴を聞きました。
不審に思って近づいてみると、赤い頭巾をかぶった女の子が、狼達に囲まれています。まだ12やそこらの、長い黒髪と、
同じ色の大きな瞳が愛くるしい少女です。狼達はどれも見知った顔で、少年を見ると、迎え入れるようにして
一人分のスペースを空けました。
―――どうだ、美味そうだろう?お前も食うか?
一瞬、ふらりとその輪に加わりそうになって、少年ははたと足を留めました。少年は獣の本能を振り払うように
首を横に振ると、斧を振り回して狼達を追い払いました。思わぬことに牙を剥き出して少年を威嚇する狼達でしたが、
少年に睨みつけられると怯んでしまいました。少年は人間らしい知恵で罠を作り、獣を仕留めるので、森の動物達から
一目置かれているのです。
少年は駆け去った狼達に続くようにしてその場を立ち去ろうとしました。どうせ少女は自分を新手の獣としか見ない。
また恐怖を露に逃げられて、傷つくだけならまだいい。激昂した自分が少女を襲いでもしたら、せっかく人として
踏みとどまったものが裏目に出てしまう。少年はそれが恐かったのです。
「オオカミさん!」
それなのに、どういうわけか、少女は一生懸命に走りながらついてきます。
「ごめんなさい、何て呼んだらいいの?でも、狼達とお友達みたいだから、オオカミさんでいいかしら?」
少女が何か言っていますが、少年にはもう言葉の意味が分かりません。少年は足が速いので、少女との距離はどんどん
開いていきます。
「オオカミさん、ありがとう!助けてくれて!」
諦めたらしく足を止めた少女が、最後に大きな声で叫びました。少年は振り向きもせずに走っていきましたが、
一つだけ、聞き覚えのある言葉を口の中で反芻していました。
「アリガトウ―――アリガトウ」
夜になって、洞窟の寝床でその言葉の意味を思い出し、少年は跳ね起きました。
商売をしていた父親の荷出しを手伝ったときに、言われた言葉。道端で摘んだ花を母親に渡したときに、言われた言葉。
あの言葉を、自分は今日、かけられたのだ。それだけのことに、少年の胸は熱くなっていました。それから、昼間に
少女から逃げ出したことを後悔しました。あの子は他の人間とは違う、自分を恐がることも忌み嫌うこともしなかったのに。
少年は翌日から、少女の赤い頭巾を探して森中を歩き回りました。
そしてある朝、少年は少女を見つけました。少女は少年を認めると、ぱっと顔を輝かせるようにして笑いました。
それからというもの、少女が森を歩くときはいつも傍らに少年がいます。少女は、少年が言葉に不自由していることを
すぐに悟り、言葉を教えるように工夫してお喋りをしてくれました。
「私ね、今からおつかいなの。おつかいはね、お父さんやお母さんから言いつけられた用事をすることよ。今日は、
お祖母ちゃんのお見舞いに行くの。お祖母ちゃんは病気だから、食べ物やお花を持っていってあげるのよ」
「私、赤頭巾て呼ばれてるの。おかしいでしょ、ほんとの名前と全然違うのよ。赤頭巾はね、私が被ってる、これのこと。
この形を頭巾っていうの。赤は、この色よ」
少女のお喋りを聞くうちに、少年は片言でいくらか喋れるようになりました。その片言で、初めに口にしたのは、
自分はどんな危険からも必ず少女を守るという約束でした。少女はその言葉に喜んで、少年を抱き締め、「ありがとう」と言いました。
少年は、自分のほうこそ人間に戻れたのが嬉しく、「ありがとう」と言い返しましたが、少女はそれを鸚鵡返しだと笑いました。
少女は少年の過去を知りません。少年にはそれを語るだけの語彙が既に備わっていましたが、少年の辛い過去を知れば、優しい少女は
少年から離れることを罪と思ってしまうと、少年は考えたのです。そんな風に、少女の重荷になりたくはありませんでした。
そんな幸せなときが、数月も続いた頃です。
「いけない!今日は猟師さんもお見舞いに来るって日だわ」
いつもの通り、祖母の住む山小屋の程近くまで共に歩いてきてから、少女がはたと立ち止まって言いました。
「お土産、お祖母ちゃんの分しか持っていない……どうしよう」
少女は籠の中の手土産を見て、途方に暮れていました。籠の中には一人分のお菓子とぶどう酒しか入っていません。
少年は少女と一緒になって頭を捻り、やがて思いついて言いました。
「俺、花を摘む。花、おばあちゃんに渡す。お菓子、お酒、リョウシさんに渡す」
「いいの?」
「いい。赤頭巾早く行く、おばあちゃん喜ぶ」
少女は申し訳なさそうに顔を曇らせていましたが、やがて感謝の念を顔に滲ませながら頷きました。
「ありがとう、オオカミさん。じゃあ、お願いするわ。でもね、猟師さんは貴族の坊ちゃまで、あなたを見たら
きっと面倒なことをしてくると思うの。あの人、村の安全のためとかいって、何もしてない動物を山ほど
撃ち殺すような人だから……あなたみたいに村から離れてる人間のことだってきっと良く思わないわ。
だから、猟師さんに見つからないように、三時の鐘を合図にここに集まりましょう」
少年はこくりと頷き、一目散に花の咲く野原へ駆け出しました。今日ばかりは、少女と出会ってから止めていた四つ足で走ります。
三時までそう時間はありません、二足で走る間があったら、少女とお祖母ちゃんのために、きれいな花を選んでやろうと
思ったのです。そう考えられる自分は、二足で立って歩くことにこだわらなくても、もう人間なのだと思えました。
少年は念入りに花を選ぶと、大急ぎで集合場所に駆け戻ります。どうにか鐘のならないうちに戻ることができ、少年は
ふうと息をついて木の根元に座り込みました。口にくわえていた花束を吐き出して、一つ一つ数えます。白い花、桃色の花、
薄青の花。色とりどりの花をうきうきと見つめていると、少女の喜ぶ顔が目に浮かぶようでした。
山小屋から凄まじい悲鳴が漏れ聞こえたのは、そのときでした。
少年は花を地面に投げ打って、山小屋へと駆け入りました。そうして見たものは、ベッドに転がったお祖母ちゃんの死体と、
絶命しかけているらしく床でのた打ち回る猟師、そして斧を握り締めて震えている少女の姿でした。少年が立ち尽くしているうちに、
猟師は激しく痙攣し始め、やがてその場にどさりと身体を投げ出して、少しも動かなくなりました。少女はガチガチと
歯を鳴らして震え、何事か呟いていました。少年が先に我に帰り、少女を抱き締めると、少女は堰を切ったように泣き出しました。
泣き声の合間に少女が話す切れ切れの言葉と、お祖母ちゃんの死に様から、少年は大体の事情を察していました。
少女が言うには、猟師はお祖母ちゃんに赤頭巾を妾として差し出すよう迫ったというのです。お祖母ちゃんは森に暮らしていて、
猟師の良くない評判を聞いていたので、頭を下げて断りました。平民が貴族の申し出を断ることなど普通なら考えられませんが、
愛情深いお祖母ちゃんは、それで万が一にも猟師が気を変えてくれればと、精一杯言葉を尽くして、猟師に赤頭巾を諦めるよう
頼みました。自分の命と引換にしてもいいとさえ言ったのです。怒った猟師は、「望み通り殺してやる、だが赤頭巾も俺のものだ」と
叫んでお祖母ちゃんを撃ち殺し、そこへやって来た赤頭巾を手篭めにしようとしました。少女は激しく抵抗し、暖炉の脇にあった
薪割り用の斧で、咄嗟に猟師を殴りつけてしまいました。
少年は、赤い頭巾越しに少女の髪を撫で続けました。幼い日、襲ってきた獣を殴り殺してしまったとき、その場にいられない程の
恐怖を感じたことを、少年は思い出していました。まして、人間を殺してしまった少女が、どれほど恐ろしい思いをしたことでしょう。
慰めの言葉を知らない少年は、少女を子どものように撫でてやることしかできませんでした。
そうしながら、辺りを見回し、少年は考えを巡らせます。お祖母ちゃんは銃弾を胸に受けて死んでおり、少女は銃を扱えないことから、
お祖母ちゃんが猟師に撃たれて死んだことは明らかです。少女の衣服は乱れ、痛々しく肩が剥き出しにされています。猟師が赤頭巾を
襲ったこともまた、疑いようがありません。少女は、祖母を殺した男に乱暴されそうになって、ほとんど錯乱していたのです。
しかし、猟師が貴族であり、お祖母ちゃんと少女が平民であることの前には、そんな事実は何の役にも立ちません。早晩、猟師の家の
者がこの小屋を訪れ、猟師の死体を見つけるでしょう。毎日のように山小屋を訪れていた少女が疑われ、捕らえられれば、
結末は見えています。斧で首を切り落とされたときの両親の顔と、少女の顔が目の中で重なって、少年は堅く目を閉じました。
そうして少年は、一つの決心をしました。してみると、少年の内心は至極穏やかになりました。
「お前、もうおしまい」
少年が呟くと、少女は涙に濡れた目をゆっくりと上げました。焦点の合わない目で少年を見上げ、少女は茫然としていました。
「貴族殺した、お前死刑。俺でも分かる。お前、馬鹿。大人しくやられたら良かったのに」
「オオカミさん……?」
少女と目が合うと、少年はできる限り卑しい顔で笑いました。
「けど、俺、助かった。俺も、お前やりたかった。貴族のメカケ、なってたら、できなかった。無理やりやっても良かったけど、
何度もしたかったから、お前が俺のこと好きになる、待ってた」
「何、言ってるの?」
「だけど、お前もうおしまい。すぐ殺される。だから今しかない」
少年は少女を抱き上げると、食卓の上にその華奢な身体を投げ出しました。まだ我を失っている様子の少女でしたが、少年に
衣服を引き裂かれて、ようやく悲鳴をあげ、身を守るようにして我が身を抱き締めました。少年はそんな少女を見下ろして、
嘲笑います。
「どうせすぐに死ぬ、何を守る?お前も楽しめ」
「……っ嫌……!!」
下着を剥ぎ取られ、何も施されていない、乾いたそこに肉棒をあてがわれて、少女は掠れた声で叫びました。
「どうしてっ?!やだっ、嫌あぁっ!」
暴れる少女を、少年は容赦なく打ち据えました。殴られて、呆けたように右頬を押さえる少女の、左の頬を更に叩きます。
「煩い。人間のメス、面倒だな」
「う……う……」
たまらず泣き出した少女に、少年は密かに胸を痛めましたが、もう後戻りすることはできません。
少女の太ももを掴んで無理やり脚を開かせると、少年は再びその中心に自身をあてがいました。
「入れるぞ」
「嫌……嫌ぁ……」
少女の拒絶を無視して、少年は少女に肉茎を突き立てました。どうやら誰も立ち入ったことがないらしい少女のそこは余りに狭く、
乾いたままでは先端しか潜り込めません。
「痛っ……!」
「お前、初めてか。ますます面倒」
少年は嘆息すると、少女からそれを引き抜き、まるで蔑視の対象にするかのように、少女のそこに唾を吐きかけました。
少女はひっと喉を引き攣らせ、とても見ていられないとでもいうように、両目を覆いました。その間にも、唾液にまみれた
少年の指は、少女のそこを侵していきます。陰核を転がされ、その場所に分け入られて、少女は思わず声を漏らしました。
「感じるか?」
「そんな、こと……」
少女は否定しますが、愛液があふれ出て、少女の言葉を嘘と教えます。少年は少女の蜜を舌で絡め取り、そのまま
口淫して、ますます少女のそこを濡らしました。ほんの少しでも痛みが和らぐようにという少年の気遣いでしたが、少女は
そんなことは知りません。
「離して……離してよ、酷い……」
「黙ってろ」
「お友達だと、思ってたのに……こんな酷いこと、考えてたの?」
泣きじゃくる少女の言葉は、少年の胸を抉っていきましたが、少年はそれを悟られぬよう、行為に没頭する振りを
していました。やがて、少女のそこが十分に潤ったのを確かめると、少年はまたしても少女のそこに先端を突き入れました。
「待って」
少女の切実な声に、少年は思わず動きを止めました。
「お願い。せめて、お祖母ちゃんから見えないところでして。ここは嫌」
「……」
少年は、お祖母ちゃんの遺体をそのままにして行為に及んでしまったことを後悔しました。ただでさえ残酷なことをしているのに、
余計に辛い思いを強いてしまったのです。少年は自分を殴りつけたい思いでしたが、必死に耐えて暴漢を装い続けました。
少女の髪を引っつかんで、彼女の上体を起こします。少女のトレードマークの赤い頭巾が、衝撃に耐えられずはらりと落ちました。
痛みに顔を歪める少女に、酷薄に笑ってみせました。
「バアサンはもう死んでる。お前、本当に馬鹿だな」
「いた、い……」
「来い」
少年は少女を台所に引っ張っていき、流し台に手をつかせて、少女の裸の尻を掴んで突き出させました。
そうして今度こそ、少女を犯したのです。少女の凄絶な悲鳴が、小屋中に響き渡りました。その声を誰か聞きつけないかと
少年は期待しましたが、深い森の奥でのこと、誰もやって来はしません。少年は内心で舌打ちをしました。
少女の処女地はときに少年をきつく締め付け、ときに襞で優しく包み込み、少年は我知らず、獣のような声を漏らしていました。
「いやっ、あっ、いやあぁぁっ!」
「……はぁ……お前、いいな……人間の女、何人かやったけど、お前、一番」
「ううっ……あ……」
少年は少女を貫いたまま、まだ膨らみの乏しいその乳房を鷲づかんでいました。痣が残るよう、できる限り乱暴に
揉みしだきます。少年が少女の奥に自身を叩きつけるたび、少女の目からは痛みとも悔しさともつかない涙が零れて落ちました。
「やめて、もう嫌っ!嫌ぁっ!」
「……っく……!」
少年は達する寸前に少女から自身を引き抜き、少女の白い背中に穢れを撒き散らしました。
「あ……あ……」
「まだ、収まらない。お前もだろう?」
少年は、茫然自失に陥っている少女を抱きすくめ、その華奢な身体を撫で回しました。
「お前、気に入った。死ぬまで、俺のオモチャ」
「……」
少女の瞳は既に生気を失い、その視線は虚空を漂っていました。だから、その顔を見た少年が、ひどく苦しげに顔を歪めたことにも、
気がつかなかったのです。
翌朝になって、猟師の召使が、帰らぬ主を探しに山小屋へやって来ました。そこで召使は、主の死体と、山小屋の老婆の死体、
そして陵辱の限りを尽くされた少女の身体を見つけ、腰を抜かして逃げ帰りました。お城の兵隊が彼の依頼を受けて山小屋を
訪れ、ショックで口が利けなくなっているらしい少女を保護すると、獣同然の格好をした少年が、全て自分がやったことだと
名乗り出てきました。少年はすぐさま捕らえられ、厳しい取調べを受けましたが、すらすらと犯罪を自白するので、処刑までの
道のりは大変短いものでした。山小屋から漏れ聞こえる人間の声に釣られ、覗いてみると、可愛い娘がいたので、一緒にいた
老婆と猟師を殺して、娘を犯した。その残忍な手口と、被害者の一人が貴族であったこと、少年が身元不明の浮浪者であったことから、
少年は公開処刑の判決を受けました。
ただの死刑ではなく、身体のそこかしこを切りつけられ、あるいは切り落とされて、失血死を待つという残酷なものです。
その判決を受けて、少年は安堵の息をつきました。全て、少年の計画通りでした。少女の罪を被る―――優しい少女のこと、
そんな申出をすんなり受けるはずはありません。少女さえ欺くことが、どうしても必要でした。たった一度、形だけ行われた
裁判にも少女は現れず、少年は安心していました。そのために、少女の心と身体を傷つけてしまったことだけが、唯一の後悔でした。
首を切りつけられ、少年は刑場の砂上に倒れこみました。割れるような群衆の歓声と、処刑執行人の罵声が聞こえます。
一度首に斧を突き立てられても、人間は生きているものなのだなと、両親のことも思い出しながら、少年はぼんやりと思いました。
見上げれば、空はどこまでも青く、この狂気のような喧騒など知らぬ顔です。もうすぐあの空へ行ける。それも、この色を青と
教えてくれた少女のために。既に指の数が半分もない手を空に伸ばすと、その手首を執行人が斧で叩き落しました。
それでも、少年の表情は安らぎに満ちて、誰にも侵されることはなかったのです。
「―――カミさん、オオカミさん!」
ただ、一人の少女の声を除いては。少年は驚愕に満ちた目で、見物人の群れを見遣りました。興奮に満ちた群集に押しつぶされそうに
なりながら、刑場の柵に縋りついていたのは、間違いなく少女でした。赤い頭巾の代わりに、あの日少年が摘んだものと同じ
白い花を髪に挿してはいましたが、その顔を見間違える筈はありません。
少女は涙で頬を濡らし、何事か叫んでいましたが、群衆の凄まじい歓声と、薄れ行く意識から、少年がそれを聞き取ることは
できませんでした。ただ、少女が来てくれたこと、その顔を見ながら、彼女のために死ねることが、嬉しくて嬉しくて、
少年は笑って死んだのです。少女が最初に教えてくれた、あの言葉を呟きながら。
「ありがとう」
その日、刑場で泣き崩れた一人の少女がどこへ行ったのか、誰も知りません。猟師の名誉を慮り、事件は真実とは似ても似つかぬ
猟師の英雄譚として語り継がれ、やがてどこかの誰かが童話にしたとか、それも定かではありません。
けれど、事件から何年か後、ある森の山小屋で、まだ幼かった私は見たのです。髪に白い花を挿した若い母親が、赤い頭巾を被った
小さな女の子を抱いて、幸福そうに微笑んでいるのを。
おしまい