「メイド〜〜〜!  
俺の書斎に触るなと言ったのがわからんか〜〜〜〜!!」  
「そのご指示には、従いかねます。  
お屋敷の管理は、私の仕事であり、例外は認められません。  
ご主人様が、整理なさるとおっしゃいましたので、様子を見させて頂きましたが、  
一向に、お片付けになる気配がございませんので、清掃、及び整頓をさせて頂きました。  
まあ、ドブネズミ並みの感性しかお持ちにならないご主人さまなら、お気になさらないかも  
存じませんが、  
不幸ながら、職業的に同居せざるを得ない私といたしましては、いくらご主人さまのご同類  
とはいえ、ノミ、ダニ、ネズミなどと、居住まいを共にする気はございません」  
「キサマ〜〜!!」  
 
「アッ、何を?  
イヤッ!そんなっ!?  
ダメッ、お止め下さい。  
ソッ、ソコはいけません、ご主人様。  
アアッ!そんなところまで。  
ヒイッ!!見ないでぇ。  
アクッ、ヒグッ……  
えっ?何故、そんな。  
や、止めないで。  
お願いです。ご主人さまぁ。  
ハイ、アリサは悪いメイドです。  
もっと、お仕置きして下さい。  
アッ、そこっ。  
イイッ、イイです。  
ご主人様、ご主人さまぁ〜。  
アリサは、アリサはもう……。  
アアッ〜〜〜……!!」  
……………  
………  
……  
 
ハァハァ……。  
「も、申し訳ありませんでした。ご主人さま」  
ゼィゼィ……。  
「ま、まあ、わかればいい」  
「愚かなメイドの浅知恵ですが、お部屋のお掃除だけはさせて頂けませんでしょうか?  
勿論、ご主人さまの大切なお荷物には、極力触れないよう努めますから」  
「好きにしろ」  
 
ps.  
アリサの日記  
 
大成功。  
 
 
 
 
「……いかん」  
男は悩んでいた。  
 
短気で、癇癪持ちで有ることは自覚している。  
しかし、婦女子に乱暴したことなど、当たり前だが、いまだかつて無かった。  
それが……。  
 
 
彼女が、家に来てから、わずか三ヶ月。  
襲ってしまった回数は、もはや両手どころか、足の指まで足しても足りない。  
雇い人に手を着けた所で、別に大した問題がある訳では無い。  
教会で説教される事ではあるが、社会的には  
『そういうものだ』  
で済まされる。  
適当につまみ食いしても、小銭でも握らせてやれば、それでお仕舞い。  
その程度の事。  
 
しかし、男には、納得出来なかった。  
人嫌いである分、自分自身の不誠実にも、寛容になれない性格なのだ。  
 
『何でこんなことに……』  
出ない答に、頭を抱え続ける。  
全てが始まったあの日。  
あの、雨の日を思い出して……。  
 
 
 
*******************************************  
 
「何をしている!」  
「お気になさらずに。  
雨が止んだら、お暇いたします」  
 
ずぶ濡れの少女は、平然と応えた。  
狭い軒先。  
ほとんど嵐のどしゃ降りには、気休めにしかならない。  
事実、口振りは立派だが、幼さの残る整った顔は冷えで蒼白となり、小刻みな震えが  
止まらない様子。  
不自然なまでに短く刈られた薄めの金髪からも、よくみれば継ぎ接ぎだらけの礼服からも、  
ポタポタと水が滴り落ちている。  
 
「入れ!」  
「遠慮いたします」  
「軒先でくたばられたら、迷惑なんだ」  
 
男は、少女の細腕を掴み、強引に家に引き入れる。  
非力な学者の力でも、なお軽々と引き摺られる少女。  
「暖まるまで、出てくるなよ」  
バスルームに放り込むと、閉じ込めるかのように、ドアを叩きつけた。  
 
玄関のベルが鳴ったのが、5時間前。  
鳴り続けるベルに、根負けしたのが、4時間と55分前。  
大きな鞄に抱えられた少女を確認。  
 
「協会から派遣されて来ました」  
「いらん。帰れ」  
 
やり取りが終了し、ドアを閉めたのが、4時間54分55秒前。  
つまり、それからずっと、この寒空に立ち続けていたわけだ。  
 
チッ。  
男は、思わず舌打ちを漏らす。  
恐るべきしつこさ。  
どうせ、親戚連中の差し金だろう。  
金ならたからせてやるから、放っておいてくれ。  
とにかく、小遣いでもやって、さっさと追い返そう。  
とりあえず、ドアの外にあった鞄を家に入れようと……。  
 
スイッ。  
「うおっと!?」  
『軽い』  
少女が、入れそうなサイズのスーツケース。  
物は悪く無いようだが、何分古い。  
堅牢そうな外見からも、相当な重量を覚悟したが、逆に、軽すぎてふらついた。  
 
コツン。  
勢い余って、柱にぶつけてしまうと、  
 
パカッ。  
呆気なく、開いた。  
 
『軽いはずだ』  
予想通り、ほとんど空っぽ。  
着替えの下着が一、二枚見えるだけ。  
後は……。  
 
『宝石箱?』  
いや、そんな上等な物ではない。  
木を組み合わせた、素朴な小箱だった。  
拾って見るが……。  
『蓋が無い!?』  
何処にも、開け口らしきものが無いのだ。  
しかし、精巧に組み上げられた木の板の端、僅かな隙間が……。  
ずらしてみると、別の隙間が出来る。  
 
『これか?』  
次々に、動いていく板。  
間違いない。  
木組みを利用した、隠し箱だ。  
学者らしく、こういった知的作業を、何より好む男である。  
夢中になって解き始めた。  
凄まじく凶悪な難度。  
常人には、取っ掛かりすら掴めないだろう。  
わざわざ数式まで起てて挑んだ。  
全知全能を尽くし、漸くたどり着いた最後の蓋。  
 
『…………!?』  
やり遂げた瞬間、その箱の所有権が、誰に有るかを思い出した。  
そして……。  
 
 
ソファーは、埃と無造作に積まれた本の山に埋もれていた。  
乱暴に蹴落とし、深く腰掛ける。  
憮然とした表情で、ただ黙考し続ける男。  
 
ガチャ。  
しばらくして、部屋の扉が開いた。  
背中に、人の気配を感じる。  
億劫だから、振り向かない。  
 
回り込んできた少女が、正面に立つ。  
瞑目して考えに浸っていた男は、チラリと目をやるが……。  
 
「何をしている!」  
タオルはあったはずだ。  
シャツも何枚か、置きっぱなしで……。  
 
何故このガキは、びしょ濡れの素っ裸で、出てきていやがるのだ。  
 
ビチャ……。  
濡れた服が、ソファーの背に投げかけられた。  
 
『行儀の悪いガキだ』  
感想を抑え、無視する男。  
「代金は持ち合わせておりませんので、どうかこちらをお納め下さい」  
「いらん!  
ガキの身ぐるみ剥げるか」  
 
怒鳴り付ける男を歯牙にもかけず、少女は整った顔に、嘲笑を浮かべた。  
「そんなボロに、価値を見いだすのでございますか?  
少女の古着に執着する輩が存在するとのことですが、貴方もそういった類いの趣味の持ち主とか」  
いきなり、トンでもない毒を吐く。  
短気な筈の男が、むしろ呆気にとられた。  
そんな様子に構わずに、一糸纏わぬ裸身を晒しながら、平然と胸をはる少女。  
 
「雇用を拒否された以上、赤の他人である貴方に、世話になる謂れはございません。  
借りを作る気も、もうとうございませんので、どうかお受け取り下さい」  
濡れた姿態を隠そうともせず、切りつけるような宣言。  
気圧される男。  
 
「い、一体何を……」  
「察しが悪いのか、女の口から言わせるのが趣味なのかは存じませんが、ご説明致しますと  
『借りは身体で返します』  
と、申し上げております」  
「な!?」  
「具体的には、性処理のお相手をするということでございます」  
 
言葉は耳に入ったが、理解はしがたい。  
発生源は、目の前の少女。  
歳は、十八、九……。  
いや、この小柄さから見て、六、七も、下手すりゃ怪しいかも。  
まさか、四、五なんてことは……。  
 
とにかく、全く成人してない少女の口から、性処理……。  
 
「何を言って……」  
混乱に言葉を詰まらせる男を、感情も見せずに見詰め返す少女。  
濡れた髪から、ポタポタと雫が落ちる。  
ベリーショートに刈られた金髪。  
かなり適当に切られたらしく、ピンピンと好き勝手な方向にはねていた。  
ビスクドールを思わせる、氷の無表情。  
深い、藍色の瞳が、拒絶の光を放つ。  
全体的に育って無い、細い身体。  
肩も薄く、鎖骨が目立った。  
その下、申し訳程度の乳房。  
健気にツンと尖ってはいるが、髪を掻き上げる動作をすると、ほとんど平らになってしまう。  
その細い腕は、身体を隠そうともしないまま、無造作に体の脇に下ろされている。  
お蔭で、すべて丸見えだ。  
浮き出た肋骨も、滑らかな腹も、愛らしいヘソも……。  
当然その下、ほとんどない薄い陰毛も、それ故隠れない、慎ましやかな割れ目も露出している。  
肉付きの薄い股は、開いて無くても、内股に隙間をつくるほど。  
染みとおるような白い肌が暖められ、ホンノリ桜色がのる。  
拭われていない水滴が、シットリと全身を濡れ光らせた。  
ガキには興味が無い筈の男が、幻想的なまでの美しさに、思わず吸い寄せられた。  
 
「使う気になったようですね」  
硬質な声が、男の耳に入る。  
 
ハッ!?  
我に帰り、激昂した。  
「ふざけるな!」  
「ふざけてなどおりません」  
微塵も揺るがぬ少女。  
スッと男の足元に膝まづくや、スルリと男自身を引きずり出した。  
 
聖から俗へ。  
天から降臨した御使いが、堕天を誘う淫魔に変わる。  
「お、おい!」  
あまりの手際の良さに、止める暇も無い。  
 
アムッ……。  
彼は、あっという間に、口中で弄ばれた。  
 
ピチャピチャッ。  
『ウッ、巧い……』  
 
亀頭を唇で抑え、舌先を鈴口に押し込む。  
細い指を、淫茎に絡め、テンポよく扱く。  
片手で陰嚢を掴み、コリコリと刺激する……。  
 
外見の幼さとはかけ離れた、巧みなテクニック。  
玄人専門の男が、アッサリ追い込まれる。  
 
ビュビュッ……。  
抜く間もなく、少女の中に噴出した。  
 
「ウウッ……」  
余韻に痺れる男に、見せ付けるかのように。  
ペッ!  
少女は、口中の汚汁を、床に吐き捨てる。  
 
「どうです。  
満足されましたか?」  
口元を拭いながら、無機質に少女は尋ねた。  
強引な放精に、ヘタリ込んだままの男。  
 
「まだのようですね。  
それでは……」  
 
いまだ、ギンギンにそそり立つソコを確認した少女は、抑えるように男の肩に手を掛ける。  
その手を支えに、男の腰を跨いだ。  
片手で陰茎を掴むと、ユックリと腰を落としていく。  
脚を開いてもスジのままの、幼い膣に誘う様に……。  
 
「やめろ! アリサ」  
快楽と理性の狭間の葛藤に、紙一重で勝利した男が、ギリギリで制止を掛けた。  
主導権を握っていた少女が止まる。  
 
「アリサ? どなたですか」  
訝しげに尋ねる。  
聞き慣れない名前。  
こういった行為の際、恋人や想い人の名を呼ぶものは多い。  
だが、少女には自分への呼びかけにしか聞こえなかった。  
「お前に決まってる」  
男の睨む先は、やはり少女。  
「私の名はメイです」  
何を勘違いしているのだろう。  
そもそも、まだ名乗ってすらいない。  
この男にとって、そんなもの何の興味もないことだったはずなのに……。  
 
『……いまさら』  
名前など、単なる記号。  
だからこそ、他の記号を押し付けられるのはご免である。  
鉄壁の無表情から、少しだけ何かが滲み出ていた。  
 
「ハァ? なんだそれは。  
お前はアリサだろ」  
しつこく追求する男に、苛立ちを見せる少女。  
「私はメイです!  
五月に捨てられた、ただのメイです!  
厄介者の役立たず。無駄飯食らいの便所穴です!!」  
吐き捨てるように叫ぶ。  
 
あっけにとられた様に、男は少女を見つめた。  
その視線が、何故か少女を苛立たせる。  
「アリサとやらが、どのような方かは存じませんが、私に押し付けられる謂れはございません」  
 
違う。  
それこそ、どうでもよい事のはず。  
求められるのならば、何だっていい。  
代わりでも、消耗品でも、取り合えずは必要とされるのならば……。  
冷徹な理性の判断とは裏腹に、少女は、キツイ拒絶の眼差しを向ける。  
 
困惑の表情で固まっていた男が、ふいに立ち上がった。  
「キャッ」  
押し返され、よろめく少女と体を入れ替え、ソファーに座らせる。  
そばのテーブルから、ソレを取りあげた。  
 
「それは……」  
見覚えのある物。  
寄木の玩具。  
古ぼけたスーツケースと共に、見たくも無いが、どうしても捨てられない物だった。  
「女の荷を漁るとは、いいご趣味ですこと。  
何か気に入ったものがあれば、差し上げますけど」  
怒りを押し殺して、毒を吐いた。  
だが……。  
 
「エッ?」  
パーツの一つが大きく動いて、中が見えている。  
「開けたこと無かったんだな」  
男が、静かに呟いた。  
中から折りたたまれた紙片を取り出すと、少女に向けて差し出す。  
 
バッ!  
飛びつくように奪い取ると、震える手で紙を開いた。  
 
「…………!」  
食い入るように紙片を見つめる少女だが、その表情が絶望に曇る。  
そのまま男に向き直ると、搾り出すように言った。  
「…………んで」  
「……?」  
「読ん……で、下……さい……」  
 
『ああ、そうか』  
男は、普通に読めるので気づかなかったが、これは外国語で書かれている。  
この国の字すら、教育されてるか怪しい少女には無理があるだろう。  
 
少女は、必死にすがり付く。  
「お願い……。お願いします。  
読んでください」  
 
今までの勝気な態度が一変し、か弱い素顔を曝け出していた。  
「ふうっ」  
男はため息をつくと、少女の肩を掴んで引き離し、背中を向け歩み去った。  
「あっ」  
少女は追いすがることも出来ずに、その場に立ち尽くす。  
 
人に頼った生き方をしてきた。  
対価は必ず、毟り取られた。  
人に頼らず、生きたいと願った。  
借りは絶対、作らないと誓った。  
しかし……。  
 
再度の懇願を、のどの奥に留めながら、葛藤の自問を繰り返す。  
男が戻ってくるまで……。  
 
ファサッ……。  
後ろから肩に掛けられるバスローブ。  
少女には大きすぎ。  
手も出ないし、裾も引きずる。  
煙草臭く、酒臭い。  
汗とポマードの臭いも……。  
 
「座れ」  
不機嫌さを隠そうともせず、男は命じた。  
反抗心を立ち上げられないまま、少女は従う。  
 
ゴポゴポ……。  
手にしていた酒瓶をあおる男。  
「おい」  
一気に空けると、少女に手を差し出した。  
「やはり、この男も……」  
混乱のなか、少女は察して、ローブの胸元を開く。  
 
「違ぁう!」  
ビクッ!  
怒鳴り声に、首をすくめる。  
「手紙だ。よこせ!」  
男はそっぽ向きながら、ぶっきらぼうに手を突き出した。  
少女はオズオズと、手紙を差し出す。  
むしりとる様に受け取ると、男はそれを乱暴にテーブルに置いて、  
近づいてきた。  
身をすくめる少女の手を、強引に掴む。  
袖口から手を突っ込み、引きずり出した。  
手が出るまで袖を折り、逆の手も同じく。  
さらに胸元を掴み、袂を深く合わせ直す。  
最後に、ローブの紐を、少女の細い腰に二重に巻き付け、引き縛った。  
 
胸元が見えたのが、気に入らなかったらしい。  
少女の服装を整えると、手紙を手に取り、未練がましくも酒瓶に手を出す。  
当然、空だ。  
「ちっ」  
舌打ちをつくと、ため息一つ。  
「はぁーー……」  
 
ようやく覚悟が出来た。  
 
「愛しい娘、アリサよ。  
君がこの手紙を読むことがないよう、父は心から願う。  
しかし、万が一力尽き、母の元へ旅立ってしまった時のため、これを残す……」  
 
そんな言葉より綴られた手紙だった。  
父母は、身分違いの恋をして、国から逃げてきたこと。  
逃亡の旅の最中、娘が生まれたこと。  
母が病に倒れ、自分も感染してしまったこと。  
隔離されるため、娘を教会に預けること……。  
 
「……わたしは、必ず病に打ち勝ち、君を抱きしめに帰ろう。  
その誓いとして、私の宝物を同封する。  
君の母の髪で作ったリングと、私のカレッジリングだ。  
これ以外、すべて売って教会に、君と共に預けた。  
私が戻るまで、どうか健やかに……」  
……………………  
…………  
……  
 
淡々と読み終えた男は、手紙と共に箱に入っていた、二つのリングを手渡す。  
父の名の刻まれたカレッジリング。  
母の髪の毛で編まれたリング。  
 
手紙とリングを見つめたまま、蒼白の表情で凍りつく少女。  
疥(おこり)の発作をおこしたかのように、ガタガタと震えている。  
 
『……まずいな』  
明らかに、過剰な興奮からくる神経異常だ。  
ほって置いたら、ぶっ倒れるかもしれない。  
「お、おい……」  
男は、恐る恐る声を掛ける。  
 
「わたし……、ワタシは……」  
蒼白の無表情に、凄まじい混乱を滲ませる少女。  
「ワタシハ役立たずデス。  
棄てラレタ、何ノ価値もナイ、ゴミデス……」  
抑揚もなく、ただ虚ろな瞳でブツブツと呟く。  
そう、押し付けられたのだろう。  
それが自分と……。  
だから、あんな事も出来たのだ。  
棄てられた、無価値のモノだから、生きるためにはゲスに染まる。  
だが、その世界は崩れた。  
棄てられたのでは無い。  
失っただけだったのだ。  
しかし、いまさら……。  
 
崩壊しつつある少女の自我を、一つだけの希望が支えた。  
 
ギュッ。  
広い胸。  
逞しい腕。  
無くした筈の、父の抱擁……。  
 
幼い頃から汚されてきた、獣どものソレとは違う、温かな優しい温もり。  
「ア、ウァア……」  
その温もりに縋り付きながら、少女は赤子のように泣き出した。  
 
男は、我慢出来なかった。  
他人がどうなろうと、知ったことではない。  
係わりなど持ちたくもない。  
だが、こんなこと、許す訳にはいかない。  
この子は俺だから……。  
 
ゴミ溜めから拾ってきた代用品。  
商売用の張りぼての看板として、祭り上げられる。  
商売が行き詰まった頃、張りぼてが金を生み出した。  
途端に擦り寄るクズの群れ。  
当主という名のゴミと、貴族という名のクズによる、腐った馴れ合い騙し合い……。  
 
この子を助けたいのではない。  
助かるこの子を見たいのだ。  
 
 
泣きながらしがみつく少女。  
それを支える。  
不器用な男に出来たのは、ただ抱きしめ続けることだけだった……。  
 
 
*******************************************  
 
「ご主人様。お目覚め下さい。  
いくら生きている価値が少ないとは言え、客間で惰眠を貪られたら、掃除の邪魔でございます。  
ご主人様の大好きな、ゴミ溜めの様な自室で、幾らでも永眠なさって下さい」  
『………………』  
 
寝ぼけた頭に飛び込んでくる、何時も通りの罵詈雑言。  
 
『何でこんなヤツ、拾っちまったんだろうなぁ』  
あの雨の日以来、繰り返される自問自答  
 
グイッ  
胸倉を掴み、強引に引き寄せる  
睨みつけてやるが、全く怯まず平然と見返したまま  
「何がおっしゃりたい事でもおありですか?  
ご主人様の様な若年寄と違いまして、私の耳は良く聞こえますので、非力な腕で無理して  
引っ張らなくても、聞きとれ……」  
クチュ。  
 
滔々と罵倒を垂れ流す、悪い口を塞ぐ。  
驚きに、大きな目を零れんばかりに見開き、ジタバタと暴れたが、  
 
ギュッ  
クチュッ、クチュ……  
「ン、ンンッ……」  
強く抱きしめたまま舌を使うと、徐々に力が抜けていく。  
ユルユルと、自ら舌を絡ませても来た。  
 
クテッ。  
ついにはグッタリと弛緩するメイド。  
華奢な身体を抱き支え、俺は小さな耳元に囁く。  
「タップリしつけてやるぞ。アリサ」  
 
 
続く  
 

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