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お仕置きについて。  
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「きゃっ!」  
 
という小さな悲鳴と共に机の上の全ての書類やら筆立て、置時計などが一瞬で吹っ飛んだ。  
遅れてどがらがらがしゃーん!とばしゃーん!という金属質と水音が混ざった騒音が響く。  
音と同時に横合いから上半身全体に冷たい液体がばしゃん、と引っかかって、慌てて椅子から身体を持ち上げる。  
袖まで体中がびしょびしょだ。しかも零したのはアルコールだろう。液体が引っ掛かった顔はべとつき、甘ったるいような匂いが香った。  
 
騒音の方を見ると鈴子がこちらを見て、しまった、という顔をしていた。  
肩で切り揃えた艶のある黒髪。虹彩の強い勝ち気そうな瞳と整った鼻筋。  
メイド達の中でも一番低い145cmの身長の、細身でしなやかな身体が絨毯の上に倒れこんでいる。  
 
しかし彼女の後ろはしまった所じゃあなさそうだった。  
青褪めた顔色の見慣れない面々がこちらを見ている。  
全員が揃って目を見開き半分は悲鳴を押し殺したような顔をしている。  
もう半分は気まずそうに俯いている。  
 
 
僕の足元の方へ倒れこんだ鈴子。  
足首まで埋まるほど毛の長いペルシャ製の絨毯の上に転がったグラスとそれを載せたトレイ。転々と転がる氷。  
今日中に判子を押さなければならなかった書類もぐっしょりと琥珀色の液体に塗れ、絨毯の上でぐったりと横たわっている。  
 
横たわった鈴子の横には秋乃が立っていて、  
表情の薄いつんと澄ました美形の顔は崩さないまま、  
しかし彼女と親しい人間には判るくらいにはあからさまに笑いを噛み殺している。  
いや、それ以上か。鈴子とは対照的に背中の中央まで伸ばし、  
一房を綺麗に編みこんだ髪がかすかに揺れている。  
 
それを見て、僕はああ、もう、今年もこんな季節かぁ、と思った。  
 
@@  
 
無論、普段から鈴子がこんなへまをやる訳ではない。  
というか、僕は鈴子がへまをする事など殆どと言って良いほど見た事は無いし、  
そしてそれはやったとしても僕には判らない程の些細なものだ。  
鈴子はミスをすると黙って顔を赤くするから僕はそれでそうと判るくらいだ。  
それは秋乃も一緒で秋乃は顔すら赤くしないから、僕には秋乃がミスをした事は  
今まで無いように思える。まあ、鈴子がこっそり告げ口をしてくれて判るようなものだ。  
これは年に一度の鈴子と秋乃の悪戯なのだ。  
今年は鈴子の番だったらしい。  
そういえば昨年は扉を開けようとした瞬間に秋乃に思い切り向こうから扉を開けられて、しこたま鼻を打った。  
その前の年は庭を歩いている最中、窓の下を通った所で上から鈴子が落ちて来て間一髪受け止めたが肝を冷やした。  
 
昨年も、一昨年も、鈴子と秋乃の後ろには青褪めた顔の見慣れない顔が揃っていて、  
やはり同じように半分が恐怖に慄いた顔をして僕を見つめ、もう半分は俯いていたものだ。  
 
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越智家において僕付きのメイドは子供の頃から鈴子と秋乃が務めていた。  
初めて会ったのは僕が7歳の頃だから、秋乃は9歳、鈴子に至っては6歳だった筈だ。  
まあ、僕の遊び相手を兼ねて様子見でと云う事だったのだろう。  
僕は子供の頃、病気がちであった上に相当に偏屈だったのだけれど秋乃も鈴子も嫌がる事無く相手をしてくれて、  
色々と叱ってくれたり遊んでくれたり、一緒になって悪戯をしたりした。  
そして秋乃と鈴子以外にも数人は僕付きのメイドとして来たのはいたけれども  
一年で辞め、2年で辞めして、結局僕が19歳となった今に至るまで残ったのは秋乃と鈴子の二人となった。  
 
無論、越智家のメイドは秋乃と鈴子だけではない。  
父が死んで僕が当主となってから減ったとは云えども客は多いし、  
その客の相手だけではない、そもそもの屋敷の手入れや、家の中の細々とした事をする為に沢山のメイド達や使用人がいる。  
 
沢山のメイドや使用人を束ねるのにはそれに伴う様々な雑事に長けている必要がある。  
それらについては実際は父の頃からいた年配のメイド長である和子さんが取り仕切っている。  
実際人を使うのには事務仕事も多いものだから、和子さんは基本的には一日中、書類とにらめっこをしている。  
大き目のクロぶちの眼鏡を掛けて、いつもしかめっ面をしているように見え、そして外見通りに中身も厳格な人だが、  
メイド達にとっては学校の校長のようなものなのだろう。  
結構皆に慕われているのだという話を鈴子から聞いたことがある。  
 
新人のメイド達は年に一度、その和子さんによる面接を経て屋敷に入る。  
なんでも越智家のメイドは民間では結構な難関らしい。  
結構良い家柄の娘なんかが行儀見習いの為に数年メイドをやって結婚して行くなんて事も多いそうで、その為に入れ替わりも多い。  
僕にとっては生まれた頃からこれが普通だが、越智家のメイドは躾が行き届いているとの噂でそういうものがブランドというのだろうか。  
そういう噂が流れる事によって、いくつかの親しい家から内密に直接にそちらで働かせて不良娘を矯正したいのだ。などという話をされた事もある。  
そういうのは全て和子さんにまかせているので意識した事はないが、毎年一、二年程と云う契約で来る子も数人はいるらしい。  
 
そういった按配だから不足分を補う為に、大体年に10人から20人ばかりが新人として入ってくる。  
入ってきた新人は、和子さんの訓示を受けた後、和子さんに指定された教育係がみっちりと1ヶ月、2ヶ月と掛けて扱き抜く。  
和子さん曰く、扱き抜くのはメイドとしての腕が良く、全ての仕事にそれなりに精通し、更にそれなりに時間に余裕のあるメイドが好ましいそうだ。  
つまりは学校に通いながらメイドをしていた位に子供の頃から屋敷にいて全ての仕事に精通し、腕も良く、  
入ってくる子達と同年代でありながらよりやや年齢層が高く、  
僕付きである事から少なくともどちらかはある程度時間に都合をつける事が可能である鈴子と秋乃が適任であると云う事だ。  
 
@@  
普段を見ているとそうは思わないのだが、その教育期間というのは相当厳しいものらしい。  
使用人のある1人が、ほんの数週間で全員の顔つきが変わるのだと言っていたのだからそうなのだろう。  
 
特に鈴子が厳しいらしい。  
あの小さい背丈の鈴子が教育期間中は鬼教官と噂されている程なのだそうで、  
掃除でもなんでも全てにおいて鈴子と同様に出来るようになるまで決して許さないのだそうだ。  
入って一週間もすると皆、英国の兵隊のようになるのですよ。とは秋乃曰くだ。  
その秋乃も秋乃で相当なもののようで、礼儀作法やらなんやら、実に細かい所までを指摘し、  
教育期間中は叱られる数は一人頭で100回や200回ではきかないのだ。とは鈴子曰くだ。  
年の近い(若しくは同じ位)の鈴子や秋乃にそれほど叱られれば恨みに思う事もあるのではないのかと思うものだが、  
それでも不思議なもので教育機関が終る頃には新入りのメイド達は皆、鈴子と秋乃の子分のようになるのだ。  
教育期間の子だけに関わらず、鈴子と秋乃は休憩時間になると駒鳥のようにきゃらきゃらと笑うメイド達に取り囲まれている。  
きっと教え方が上手いのだろう。  
教え方にもコツというものがあるのだろうな。と思う。  
 
@@  
 
で、あるのだからこういった事が必要なのか、と云う事に関しては僕は多分に疑問を感じている。  
 
しかし事これに関してはそれを指摘すると鈴子も秋乃も頑として云う事を聞かない。  
屋敷の主人としての威厳を保つ為に必要な事なのです。と、にべもなくこうだ。  
確かに主人としての威厳に関しては些か自信が無いのも確かだが、教え方が上手いのであればそういう事も口頭で説明出来る物なのではないのだろうか。  
そう言うといえ、こう云う事は口で教えられて身に付くものではありません。  
そう言って絶対に譲ろうとはしない。  
 
「も、申し訳ございませんっ!な、何て事をっ・・・」  
ぴょんと飛び上がった鈴子が思い切り頭を下げる。  
下げた頭は上がらない。  
 
秋乃が一歩踏み出し、手早くハンカチで濡れた椅子の座面を拭う。  
椅子に座り、足を組み、鈴子を見つめる。  
鈴子と秋乃との約束なのだから仕方がない。  
最初は僕は喋らないのがルールなのだ。  
 
「ああっ、お仕事の大事な書類が!」  
そう言いながら秋乃がぐっしょりと濡れた書類を持ち上げる。  
どちらかというと役者としては秋乃の方が大根だ。  
 
「そんなっ・・・」  
鈴子が震えながら顔を覆う。鈴子は上手い。心底怯えているように見える。  
いや、本当に大事な書類だったんだけどね。と嫌味を言いそうになって慌てて口を噤む。  
ふう、と溜息を吐く。いや、本当に吐いた溜息なのだが、秋乃がちらりと僕を見て上手い!ご主人様!とでも言いたげなオーラを発した。  
 
「どうするんだ。姉川家から廻って来た大事な書類なんだぞ。今日中に処理する必要があったんだ。」  
いや、本当にどうしよう。もう一回貰うしかないかもしれない。  
あそこの爺さんは結構頑固だから2度も請求すると今度会ったらきっと嫌味を言われる事になるだろう。  
どうせ零すなら、書類の上でなく僕にだけ引っ掛ければ良いものを。  
 
そう思っていると秋乃がベルを鳴らした。  
部屋に入ってきた家令に手早く事情を説明する。  
「ですから、こちらの書類を姉川様よりもう一度頂けるよう、早く手配をお願いします。」  
 
家令が頷くと同時に素早く引っ込む。ドアをかちりと閉める。  
びしょ濡れの僕の姿も、畏まる鈴子の姿にも驚きもしなかった。あいつもグルか。  
だとすると、もう一度書類が届くのに本来なら2日は掛かるだろうが、もう既に裏で用意してあるに違いない。  
 
鈴子の後ろに立つメイド達はもう誰一人顔を上げていない。  
全員が真っ青な顔で俯いて自分がここにいるかどうか確認するかのように自分の足を見ている。  
 
はあ、ともう一度溜息が出た。秋乃がちらりと僕を見る。  
今度は溜息を吐くならもうちょっと威厳がある感じにお願いします。という表情をしている。  
ええい、放っておいてほしい。  
そう思いながらも、約束は約束だ。  
口を開く。  
 
@@  
 
「こっちに来なさい。」  
僕も大概が大根だ。普段鈴子に向かって言い馴れない言葉だから声が震える。  
そう言った瞬間、びくり、と鈴子が震える。  
「はい・・・」  
と心底怯えきった声を出す。  
鈴子の後ろに立つメイド達までびくりと震えた。  
 
なんだか僕が悪い事をしているみたいだ。  
秋乃の肩が震えている。笑うな。  
鈴子が動いたことで、メイド達の視線が鈴子に向けられる。  
 
鈴子が僕の前に跪く。  
「お仕置きをお願い致します。」  
失礼します。と言って、僕の膝の上に横向きに下腹部を載せる形になる。  
この体勢はお尻が完全に上を向く為に僕の膝を視点として鈴子はかなり前のめりの体勢になる。  
秋乃の場合は手が付くので手は床においてバランスを取るのだけれど  
背の低い鈴子だと床に手が届かない状態になるので、  
鈴子は右手で僕の裾を掴む形でバランスを取っている。  
鈴子の全体重が太腿に掛かる事になるが、鈴子は体重が軽いので重くは無い。  
寧ろ心配になるくらい軽い。  
 
メイド達は何をするのかと言う感じで自分の足元と、僕と鈴子の方とを交互に見つめている。  
次の瞬間、その視線が一点に釘付けになった。  
 
バランスが取れた瞬間に鈴子が空いた左手でゆっくりとスカートを持ち上げたからだ。  
驚くほどの白い肌のほっそりとした脚、そして白いガーターで飾られた下着が丸出しになる。  
鈴子は顔を染めてはいるが、当然のようにそこまでやった。  
「お仕置きをお願い致します。」  
俯いたままそう言う。  
 
失礼します。とそう言って秋乃が僕の横に来る。  
ゆっくりと腰を屈め、鈴子の足を押さえる。  
この体勢になるとどうしても浮いた足がばたつくので抑える為だ。  
 
メイド達の視線が突き刺さるのを感じる。  
 
ここでは何も言ってはダメです。無慈悲に。無慈悲にですよ。  
ええい。  
 
右手を振り上げる。中途半端にやると鈴子が怒る。  
思い切り打ち下ろす。ぱあん、と音が鳴る。  
「ぅんっ!」  
と鈴子が上半身を揺らして声を漏らす。  
打つなり、弾力のある鈴子の白い尻が揺れて、同時に赤く染まる。  
 
メイド達のどこかからか、きゃあっという声が聞こえる。  
「静かにしなさい。」  
と、それに向かって秋乃が嗜める様に言う。  
 
もう一度手を持ち上げる。思い切り打ち下ろす。  
ぱあん、と音が鳴る。  
「ぅ・・・ぅんっ!」  
 
手を持ち上げる。思い切り打ち下ろす。  
「は・・・ゃんっ!」  
「ぅんっ!」  
「んんっ!」  
そのうちに鈴子の目から、ぼろぼろと涙が毀れ始める。  
メイド達の数人が両手を前に合わせ、身を揉むようにして見つめている。  
 
鬼教官(実際は怖いお姉さまとか呼ばれるらしいが)ですらご主人様の前ではこうなるのだと云う事を教え込む為と、  
自らがそういう罰を受けないように身に染みさせる為だ。  
と、鈴子と秋乃は言う。  
 
「ぅんっ!」  
「ああっ!お許し、」  
「く・・・ぅんっ!お、お許しくださいっ!」  
 
が、なんだかそれが体よい言い訳のような気がしなくも無いのは何故だろうか。  
お許しください、から20回が、終了の合図だ。  
 
ここからはより強く叩く必要がある。らしい。  
叩くこちらもかなり手が痛い。鈴子の尻ももう真っ赤だ。  
いつの間にか秋乃は鈴子の脚を抑えるのを辞めて鈴子の尻を叩く僕をぽうっと上気した顔で見上げており、  
鈴子は上半身を持ち上げ、しゃくり上げながら僕の胸元にしがみ付いている。  
鈴子の涙と、汗の匂いがする。不快な匂いではない。杏の花のような、甘ったるい匂いだ。  
鈴子はつい昨年までの学生時代には良く運動をしていたし、運動して家に帰ってきて、  
そして他のメイドがいない事を確認した後にこっそりと僕に飛びついて来る時なんかも同じ匂いがした。  
膝の上で鈴子を抱きとめるようにしながら右手を持ち上げ、今まで以上の勢いで叩きつける。  
 
「ぅんっ!ああぁっ!」  
 
と、その時だった。  
「やっやっ・・・やめてくださいっ!!!!!」  
 
後ろにいたメイド達のうちの1人が叫んだ。  
思わず秋乃と一緒にそちらに目をやると、  
叫んだのは前髪をぱつんと切り揃えた日本人形のような整った顔形をしている少女だった。  
両手を腹の上で抑えるように交差させていて、その手がぶるぶると震えている。  
「そ、そ、そのっ!ひ、酷すぎると思います。す、鈴子お姉さまはその、わざとそうした訳ではないですし、その、し、失敗することだって、きっと・・・」  
注目されているのに臆したか、それとも僕、もしくは秋乃に見られていることに気付いたからか、どんどん声音が小さくなる。  
声が消え入りそうになったその瞬間、それでもその少女はきっとこちらを睨みつけてきた。  
「きっと、失敗することは誰にでもあります。そ、それなのにそんな、お姉さまに恥ずかしい格好をさせて、お尻を叩くなんて!」  
 
思わずそうだよね。といいそうになった瞬間、秋乃が立ち上がる。  
「黙りなさい!!主人様に向かって言う言葉ですか!!」  
 
びくん、とこちらまでびっくりしそうな声で叫ぶ。  
「で、でも!」  
と、少女が叫ぶ。  
「でもじゃありません!」  
秋乃も負けない。  
応酬の間に鈴子がこれ幸いといった風情で僕にしがみ付く。  
 
暫く少女と秋乃のやり取りが為された後、鈴子はずずず、と鼻を啜り、  
それから涙と涎を僕のシャツで存分に拭ってから泣き顔を少女に振り返らせた。  
「彩、いいの。いいのよ。」  
そう言うと、にっこりと微笑む。  
「でも、そんなのって!」  
なおも言い募る彩という少女に向かって、唇に人差し指を充てて黙らせる。  
どうもこの少女は鈴子の方により懐いているようだ。  
 
鈴子が僕の膝からとん、と下りて、スカートを元に戻す。  
痛そうに一度顔を顰めてから、少女の側に寄る。  
…お仕置き中に僕の膝から勝手に降りることはこの際いいのだろうか。  
基準が良く判らない。  
 
鈴子が端正に整った顔を少女に寄せる。  
「ご主人様に叱られるのは辛いことなんかじゃないの。寧ろ叱ってくださることは嬉しい事なのよ。」  
「でも、お姉さま泣いています。」  
「これは辛い涙ではないの。あなたにもそのうち判るようになるから。いいえ、判って欲しいの。」  
「お姉さまっ!私には判らないです。」  
「うううん。絶対判る。彩、あなたなら判るようになるから。」  
 
鈴子が彩と言った涙をその目一杯に湛えている少女の手を握りしめる。  
うんうん、と秋乃が頷きながら目尻を拭う。  
なんだか良く判らない気持ち悪さに僕は身を捩る。  
 
しばらくして少女が頷いて、鈴子が少女の頭を撫で、  
そしてぱんぱん、と秋乃が手を叩いた。  
「さ、皆も、良く判りましたね。間違えた時に叱られるのは当然。  
でもご主人様からの愛情があればこそ、叱られるのです。  
ご主人様から叱られる事、それは辛いことだけれど、とても嬉しい事でもあるのです。  
今の鈴子を見れば、皆、その事が判りますね。」  
 
メイドたちがてんでに頷く。中には何か感じ取ったのか、メモを取っているものや秋乃の顔を見ながらしきりに何度も顔を上下させているのもいる。  
 
鈴子がくるりとこちらを向く。  
「主人様、お仕置きの続きをして貰えますか?」  
そう言ってこちらに来ようとしたのを手の平を前に出して押し留めるようにする。  
 
「・・・いや、もういいだろう。行きなさい。」  
 
鈴子がどことなく残念そうにはい。と言った瞬間、今度は秋乃がすっとさりげなく膝の上に乗ってくる。  
秋乃は最初から最前の鈴子がしていた格好と同様、僕の膝に横座りし、胸にかじりつくように顔を寄せる。  
おい、と言ってもどこうとはしない。  
 
「では、主人様、最前の彩の無礼、私にお仕置きする事でお許し下さいませ。」  
「そんな、秋乃お姉さま!」  
最前の少女が叫ぶ。  
 
「彩が、彩が間違っていました。私にお仕置き下さい。」  
「いいえ、あなた達の無作法は私の責任、私がお仕置きを受けます。」  
「そんな、私の所為でお姉さまがお仕置きなんて、お願いします、ご主人様、私が、私がお仕置きを受けますからっ!」  
「いいえ、私が受けます。彩、下がっていなさい。」  
 
今度は鈴子が俯きながら肩を震わせている。  
 
喧々諤々のやり取りの後、鈴子が間に入って漸く落ち着く。  
僕の膝の上に乗り、僕の胸元に顔を寄せながら悪戯っぽい顔で秋乃が笑う。  
ちゅう、と僕の首筋に垂れた液体を吸う。  
「んふー。お酒にして正解。お仕置きの後で鈴子とお風呂場で一杯舐めて綺麗にして差し上げますからね。」  
と、耳元で囁いてくる。  
 
僕の手はもう腫れ上がっていて、どちらがお仕置きされているのかは微妙な所だな。  
そんな事を考えながら、僕はこっそりと笑っている鈴子と興味深げにこちらを見ている新人のメイド達を見回すのだ。  
 
 
了  
 

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