好きな人がいるって言われてようやく気が付いた。
私、紀一郎のこと好きだ。
小さい頃から友達だったし、再会してからも友達で、あまりにも自然で全く気が付かなかった。
紀一郎と私の知らない誰かが笑い合ってる姿が浮かんだ。
そんなの、ない。
なんの根拠もなく、私こそが隣でバカやっているべきで、他の誰かじゃ嫌だと思った。
我が儘だ。
よく分かりきってる。
哀しくて辛くてぐちゃぐちゃになって、図書館に行った帰り夜は紀一郎のとこ行くのをすっぽか
した。
翌日の図書館もすっぽかしたけど、さすがに夜は反省してまた紀一郎の部屋に行く。
でも、今度は顔をまともに見れない。
ちょっとのことで胸がどきどきするし、顔も赤くなる。
紀一郎もいつもの俺様悪魔じゃないし。
ぎくしゃくしてたら消しゴムを落とした。
横着して座ったまま拾おうとしたらぐらり、椅子が滑った。
とっさに紀一郎が助けてくれて顔を赤くしてたら拾ってくれた。
受け渡す瞬間、心臓が止まる。
やだ。なんで紀一郎なのにこんな気持ちになっちゃうの?
もう頭の中がぐるぐるする。
「ありがと」
声まで震えてる。
混乱した頭で数式解いても、そうでなくても苦手な数学。全然閃かない。
もたもたしてたら、呆れたような紀一郎の声。
「お前、この問題にそんな時間掛けていたら、受からないぞ」
嫌われた。
とりもなおさず、私がバカだからだ。
私はずっとビンボーのせいにしてたけど、紀一郎を知って気付いた。
全国一番は伊達じゃない。
紀一郎はずっと努力している。
私は自分で情報収集もせず、環境に乗っかって真面目にこなしていたら他人がどうにかしてくれ
ると甘えていただけだった。
自分で本当に必要なものは何なのかとは考えなかった。
紀一郎のことを真面目に考えるようになって、色々なことが見えてきた。
情けない。
涙が出てくる。
ふいに肩を抱かれた。
え?と驚いていると、みるみるうちに紀一郎の顔が近づき、唇が重なっていた。
たった一瞬の出来事が永遠に思えた。
全身の細胞が沸き立ち歓喜の声をあげていた。
でも、紀一郎の顔を見ると、明らかに後悔の色を浮かべている。
好きな子──いるよ。
紀一郎の言葉が蘇る。
これは弾みなんだと気が付いた。
大好きな人を困らせたくなくて、わざと明るく偶然の事故と決めつけた。
紀一郎もいつもの調子で役得とか言っている。
これでよかった。
よかったんだと思おうとした。
☆
紀一郎と別れて自室に戻った私は声を殺して泣いた。
紀一郎、好き。
真面目で不器用で俺様だけど頼れる男。
でも、今の私のままじゃ駄目だ。
紀一郎の好きな人(どんな人かは分からないけど)には敵わない。
机に戻って鏡の中の私を見る。
地味な三つ編み、眼鏡の見慣れた顔が見返す。
姿も頭も。何もかも、紀一郎の隣には並べない。
私は覚悟を決める。
紀一郎の隣に並べるようになって、この気持ちを伝えよう。
駄目なのは承知。
それでも誰の手も借りず自分自身の力で立った姿を紀一郎に見てもらいたい。
私は一心不乱に勉強を再開した。
☆
紀一郎の部屋にはもう行かない。
それでも会いたくなったら、窓の外を見る。
まだ点いている灯りに元気が出る。
紀一郎はまだ頑張ってる。
だから私も頑張る。
紀一郎の唇の感触が蘇る。
永遠を思わせた幸福が蘇る。
紀一郎──。
掻きむしられるような想いが胸を焦がすけど、大きな溜め息の後に勉強を再開する。
勉強のやり方は紀一郎が教えてくれた。
だから頑張る。
愛美が来なくなって1年。俺は久しぶりに銀翠会の夏期講習に出た。
銀翠会とは中高一貫向けの塾で、東大や国公立医学部に驚くべき合格率を誇っている。
授業が始まるまでの時間、仲間とは騒がず一人でぼーっとしていたら、声を掛けられた。
「久しぶりじゃない」
本城裕佳梨。
俺と同じ銀の戦士で、小学生時代三ツ谷研で一緒だった頃からの仲だ。
当時本城は三ツ谷研で俺と同じ最上位クラスに在籍していて、成績順の座席の、最前列一番端を
競っていた。
結局、女子最難関の楓陰女学院に見事合格。今はまた銀で共に戦っている。
華やかな美少女で、いつも自信のオーラを纏っている。気が強く、頭がいい。
銀でもやっぱり最上位クラスで、俺とまた競っている。
だが、俺はコイツのことが苦手だ。
自分と似た臭いがするからだ。
受験をスポーツのように楽しんでいる。
全くコイツも小学生から成長していない。
去年の夏前、コイツから付き合ってくれと言われた。
その時はもちろん断った。
コイツのプライドを傷付けると後で面倒そうだったのでかなり湾曲して断ったのだが、どうも
納得していないフシがある。
「どうしたの? 元気ないね」
「あー失恋した」
思わず本当のことを言ってしまって後悔した。
面倒事の予感がした。
「ええ? 原口が失恋?」
「いいだろ……ほっとけよ」
「可哀想……相手は?」
「秘密」
本城を見つめる。
誰もが振り返るような美少女。勝ち気な強い目が印象的だ。
コイツと付き合っていたら、確かに楽だっただろう。
まず相手が俺に惚れている。面倒臭い感情をもて余すことなく、案外簡単にベッドインだって
可能かもしれない。
放っておいても多分同じ大学に行くだろう。
いつも傍にいられて、嫉妬に狂う必要もない。
──リップグロスで艶々輝く肉感的な唇が情欲をそそる。
「ねえ、授業の後にカラオケ行かない?」
それもいいかもな。
疲れた俺はもう何も考えられなかった。
カラオケに行くはずだったのに、俺は半ば強引に本城をラブホテルに誘っていた。
断ってくれたらいいとヤケクソだったのに、本城は真っ赤になりながらもこくんと頷いた。
女傑の印象があった本城の意外な姿に、つい可愛いと思ってしまった。
塾から少し行くとラブホテル街がある。
俺達はその一つに入った。
割と落ち着いたところを選んだつもりだ。
パネルを選び、指示に従いエレベーターに乗って部屋に行く。シンプルな品のいいインテリアの
部屋。
部屋に入ると本城は頬を染めて小さく震えていた。
その姿はあの日の愛美を思い出させた。
だが、愛美と違って本城は背が高い。
180越えの俺ほどではないがモデル体型でスタイルもいい。
小柄で実は巨乳の愛美とは全く違う。
本城の強い瞳が今は潤んで俺を見ている。
「原口──」
俺のファーストネームを呼ばれなくて助かった。
呼ばれていたら、俺は愛美への想いが吹き出して何もできなくなっていただろう。
本城は瞳を閉じて俺にキスをせがんだ。
あの愛美との甘美な一瞬が蘇る。
俺は自分の弱さを自嘲しながら、欲望に従った。
初めてのディープキスだったが、すればするほど胸が冷たくなった。
愛美との一瞬が眠れなくなるほど熱いものだったのと正反対だ。
「シャワー浴びる」
本城が頬を赤らめたままバスルームに消えた。
普段とは全く違う本城を可愛いと思う反面、心はどんどん冷えていく。
哀しいことに、こんな状況だと言うのに息子がピクリとも動かない。
俺、この年でインポですか?
ついこの前まで、あまりの横暴さにもて余していた暴君が、やっと童貞卒業と言う段階で役に立
たない。
本城が知ったら何と言うか。
柔らかくて驚くほど情熱的な本城のキスに萎えたままとは、お前、何様?
息子に叱咤する。
おい、勃て! 勃つんだ!!
ホテル付属の短い部屋着を着て本城は現れた。
思わず見とれる。見とれる程、本城は綺麗だった。
やや険のある美貌、と思っていたのだが、目の前の本城はその堅さが取れてひたすら美しかった。
思わず「綺麗だ」と褒めると、身の置き所がないとばかりに羞恥する。
こんな可愛い娘が俺に惚れていて、その躯を開いてくれようとしているというのに、俺はインポ
だわ愛美への未練たらたらだわ。
この女体に失礼だというものだ。
俺はバスルームに行く替わりに、本城に正直に話した。
「ここまで来て──本当に悪い。俺、お前のこと抱けない」
「どういうこと?」
ああ、プライドを傷つけられ、怒っている。
そりゃそうだよな。
そこで俺は嘘をつく。
「緊張しすぎて勃たないんだよ」
嘘なんだが、半分は本当。
「見てみるか?」
わざと言ってみると真っ赤になって首を振る。
「俺、初めてだし。お前もだろ? 俺、失恋直後だし、混乱してるんだよ」
これは本当。
「本城──裕佳梨はこんなに魅力的なのに」
引き寄せ、口付ける。
どこのホストだよ?
我ながら臭いセリフがポンポン飛び出す。
本当に好きな子には何も言えず、優しい言葉ひとつ掛けてやれないのに。
「俺は駄目なヤツだからお前には相応しくないよ。本当にごめん──」
「──紀一郎!!」
何でここで俺の名前を呼ぶの?
引き裂かれ、壊れそうになりながら本城の肩を引き寄せようとした瞬間、愛美の顔が浮かんだ。
真っ暗な闇の中に光る、白い灯台のような明るさだった。
俺、何やってんだ?
ぶつかりもしないで駄目だと決めつけ、ひたすら逃げまくって。
──なんて情けねえ。
その時、ケータイが鳴った。
本城と離れ着信相手を見ると、見慣れない番号。
不審に思いながらも出ると──魂が震えた。
涙が出てきた。救われた──と俺は生まれて初めて目に見えぬ神に感謝した。
久しぶりに紀一郎の顔を見た。
痩せたな──これが第一印象。
今朝、紀一郎に会いに行ったら夏期講習に行っていると言われた。
叔母さんに携帯の番号を訊く。
叔母さんはにこにこして教えてくれた。
何故だか応援してくれているような気がした。
紀一郎と今晩会う約束をして今、いつものように部屋にいる。
紀一郎は痩せたが、顔だけはにこにこと微笑んでいた。
なんだか大切な玩具を手にした子供みたいだ。
胸がキュッと締め付けられる。
「あのね。夏の前に受けた東大模試の結果が来たの」
東大と聞いて、紀一郎はぴくっと顔に緊張を走らせる。
「見て。この判定」
紀一郎は壊れ物を扱うように手を伸ばしてそれを受け取る。
「すげえ!」
「うん。頑張った。紀一郎に近づきたかったから」
「──俺?」
「うん。紀一郎、私、あなたのことが好き」
「ま……愛美!!」
紀一郎は顔をくしゃくしゃにして笑った。
「俺が言おうとしたのに、取るんじゃねえ」
紀一郎に抱き締められた。
「愛美、好きだ。ずっと好きだった。言いたくて言いたくて苦しかった」
紀一郎の告白に胸が震える。
ぎゅって抱き締められて息が出来ない。
く、苦しい。
「き、紀一郎!!」
「ん? ああっ?!」
紀一郎は可笑しくなるぐらいに慌てた。
優しさに涙が出る。
私を宝物のようにそっと抱き締め、キスをした。
身体が沸き立って歓喜の声をあげていた。
今日の愛美は可愛かった。
例のバイト代の残りを使ったそうでコンタクトにしているし、髪も下ろしている。
服の感じも少し違う。フリマで買った古着らしいが、ひらひらした小花のワンピースは愛くるし
い愛美に物凄く似合っている。
これが全て俺のためだと言われて──嬉しくないはずがない。
あーもう、今までの苦労はなんだったの?
俺、明日には死ぬんじゃないの?
それぐらいハッピーだ。
大事なお姫様を扱うように、そっと抱き締めもう一度キスをする。
信じられない。あの愛美がこの腕の中で頬を染めて口づけを受けている。
そっと舌を送り込んでみた。
すると、小さく震え、身をくねらす。
可愛い!!
「ヤバい……俺、幸せすぎて明日死ぬかもしれない」
「バカ? そんな簡単に死なないで。私、紀一郎と同じ大学行くために頑張ってるんだから」
「愛美?」
「紀一郎みたいに理系は無理だけど、文III目指す」
「愛美!!」
「まだまだだからもっと頑張る。それに引き換え、紀一郎!」
「は、はい」
「あなた、今回の結果なに? 名簿、ランク外じゃない。何やってたの?」
「すみません」
「それに痩せちゃって。ちゃんとご飯食べてる? 叔母さん、心配してたよ」
「はい」
「ちゃんっと規則正しい生活! 最近、この部屋掃除した? しかもっ!! 何、このゲームの山。
漫画の山!!」
「────」
「今受験の天王山なんだよ!! 私と一緒に大学行きたくない?」
「行きたい」
「もう。私、紀一郎の部屋、いつまでも灯りが点いてるから、まだ頑張ってるって思って必死だっ
たのに」
「え? 愛美、お前も見てたの?」
「お前もって──紀一郎も?」
「お前に引かれると思って内緒にしてたけど、俺、お前の部屋の灯りを毎日見てたんだ」
「紀一郎!」
「窓越しで、こんなに近いのに遠い距離が哀しかった。ホント、俺、ずっと好きだったんだよ」
「じゃ、前に言ってた好きな人って?」
「え? そんなこと言ったっけ。俺の初恋はお前だし、今もそう」
「私の初恋も紀一郎だよ」
「そうか──そうなるか」
「うん。恋ってのがずっと分からなくて、気付くのが遅くなっちゃったけど」
愛美は花のように笑った。
幸せ過ぎて死にそうになりながら、俺は愛美を抱き締め、唇を重ね、舌を絡め合わせた。
そして欲望に忠実に、そっとその豊かな胸に手を伸ばした。
愛美は拒絶することなく、小さく震え甘い吐息を漏らした。
愛美が受け入れてくれている──その事実が嬉しくて、下半身の痛みを意識し
ながら俺は愛美にさらに激しく口付ける。
紀一郎との大人のキスにぼうっとしてたら、胸を触られていた。
それだけで躯がぴくんと跳ねる。
あ…と声があがるだけで、紀一郎が嬉しそうに笑う。
「紀一郎嬉しそう」
「うん、嬉しい」
俺様悪魔は嘘みたいに素直だ。
紀一郎が嬉しいと、私も嬉しい。
胸に灯った火は全身に広がり、躯の奥を溶かす。
「はぁ……っん」
自分の声じゃないみたい。
紀一郎に一枚一枚脱がされる時、胸が震えた。
どきどきしすぎて、私こそ死んじゃいそう。
胸を包むようにしてやわやわと指先だけで揉まれると、躯の芯が溶けて溢れてくるのを感じた。
何なの?この感覚は。
「いや……あん……」
「愛美……色っぽい」
「バカ…何言うの?」
「可愛いよ」
「嘘…………あんっ!!」
「ほら、乳首こんなになってる」
「あ、あ、あ……」
「先がこりこりしてる。舐めていい?」
「いや……」
私の返事も聞かず、桃色の乳輪に吸い付き、舌先で刺激した。
「あ……ん!」
どうしよう……私、変だ。
くすぐったいのに、その奥から信じられないほどの甘い疼きが湧いてきて、躯中を駆け巡る。
だめっ……
紀一郎が躯中にキスをする。
その部分がどんどん熱を持って、躯の奥に伝わり、足の間の秘密を溶かす。
こんな感覚知らない。
紀一郎は私をどこに連れていこうとしているんだろう?
小さな愛美が俺の腕の中で小さく喘いでいた。
妄想の中の愛美とは全く違う反応が新鮮で、感動に包まれる。
可愛い、可愛すぎる。
感度がいいのか、唇を落とし、舌先で舐めあげ、吸い上げるだけでその度に甘い声をあげる。
俺の肩を掴む手が震える。
ベッドに抱き下ろしてキスを再開。
愛美とのキスは厭きない。歯列をなぞり絡め合い舌先でつんと刺激する。
唇を離す瞬間、苦し気に甘い吐息を漏らす。
愛美が俺の愛撫に感じている。
夢のようだ。
残るは小さな下着一枚になったので、下着の上からその奥の形を確かめる。
昔、図鑑にあった男女の躯に興奮した小坊、中坊時代を思い出す。
あれが俺が医学部を意識したきっかけだと言ったら呆れるだろうか?
保健の副読本にあった女性器の図解に、膣にクリトリスに興奮した。
心の奥でアンダーライン引きまくったよ。
あまりにも興奮したんで、産婦人科なんかも真面目に考えたりもした。
なんつうエロガキ。
直接見るのは惜しくて、下着の上から優しく愛撫した。
ああ。俺の指に反応して下着に小さな染みが広がってきている。
吐息は今や明らかな嬌声となり、甘く優しく響いてる。
澄んだ鈴を思わせる可愛い声。
「愛美……気持ちいい?」
「ん?あ?…わかんないっ……でも凄くヘンな感じ……熱いの……あ…あ…あ…あ!!」
躯を捩らせ股を擦り合わせている姿はあまりにも可愛すぎたが、もうさすがに我慢できず下着に
手をかけ剥ぎ取った。
白く円い裸体と、とろとろと流れ落ちる愛液に頭を殴られたような衝撃を受ける。
しかもっ!無毛。
愛美、パイパンかよ?!
身動ぎするだけで、躯の奥の桜色の神秘がちらりと窺えるし、すげえ!
やべえ。マジ感動する。
大きな胸が荒い呼吸に上下しながら時たまぷるんと揺れる。
横になっていても、形が崩れない。
綺麗すぎて、動きが止まったら、愛美がそっと目を開けた。
長い睫毛が色っぽい。
「恥ずかしい──」
胸と局部を手で隠し、全身を染めて横を向く。
「何言ってるの。もっと恥ずかしいことしようよ」
久しぶりに意地悪く笑ってみた。
泣きそうな顔をしたかと思ったが、みるみるうちに怒りに変わり、俺を睨む。
「意地悪」
そんなところも可愛い。
☆
自分も服を脱ぎ捨てて、愛美と二人裸で向き合う。
俺の躯をちらりと見て、愛美は小さく震えた。
俺は愛美の足を大きく開き、おもむろに肉芽に舌を這わせた。
もう赤く顔を出しているそれは扇情的だ。
舌先で舐めあげ、震わせる。
俺が唇で愛撫しようとした時恥ずかしがって散々焦らしていたのが嘘のように官能的だ。
愛美が俺の手で大人に目覚めようとしている。
その姿は酷く淫らだ──。
「愛美……すげえ色っぽい」
耳許に囁けば頬を赤らめる。
だが、下半身は俺の手に身をくねらせているのだ。
淑女と娼婦が同居するかのような仕草がエロイ。
中に指を差し込んだ。
ぴくりと身を震わせ、眉をしかめる。
「痛い?」
「うん……でも大丈夫」
「愛美のここ、柔らかくてトロトロに溶けてる。触ってるだけでイきそう……」
「やぁ……」
「でも馴染んできたよ。もう痛くない?」
「うん…でも、なんかヘン……あっ」
「すげー可愛い。愛美、大好き」
「私も……」
「ここ、ざらざらしてる。指で触るだけでホント気持ちいいんだけど」
「もう…実況しないで! 恥ずかしいから!!」
「何で?」
「なんででもっ!!」
また、ぷうと頬を膨らます。
「そういや、俺達のファーストキス、お前誤魔化しやがったな」
わざと意地悪く言って、でも手は胸と中と敏感な突起を愛撫する。
「お前、あの時俺がどんな気持ちだったと思ってるの」
「ごめん…あっ……あっ」
「無理矢理キスして悪かったけど、それでも俺の精一杯の気持ちだったんだぞ」
「そんなこと……言わなかったじゃない……」
「言えなかったんだよ……好きすぎて」
「わたしも…あの時、嬉しかっ……ああっ…」
そうか。俺達は両思いで遠回りしていたのか。
一瞬、昼間に思いっきりビンタされた痛みと泣き顔を思い出した。
流されずに良かった。愛美が電話してくれて良かった。
愛美が、壊れかかった俺を救ってくれた女神様のように思えた。
俺は一生賭けてお前を大切にするよ。
口には出さず、そう誓った。
足を割り、強い痛みと熱い塊が襲った。
あまりの痛みに紀一郎の背中に爪を立てる。
でも声をあげたら、階下の叔父さんや叔母さんに聞こえちゃう、と唇を噛む。
「ごめん、愛美。早く終わらせるから」
「ううん、大丈夫。嬉しい」
「愛美……!」
紀一郎に抱き寄せられ、彼の膝に跨がるようにして繋がる。
紀一郎は動かず、私の息が収まるのを待ってくれてる。
その優しさが嬉しい。
思わず身動ぎすると、くち、と水音がした。
「お前と繋がってるとこ、丸見えだぞ」
「え?」
視線を辿って俯くと──きゃあ!
「お前のオマンコに俺のが入ってるのが丸見え。やらしいな」
「いや……!」
「しかも汁が溢れて俺の膝まで垂れてるよ」
「止めて……」
「そんなに気持ちいい?」
「いや──」
「ほら、ここ好きだよな?」
「ああ!?」
繋がったまま腰も動かさず、合わせ目の突起を探る。
それだけでまたあの甘い疼きが全身を駈ける。
「自分から腰動かしてやらしいな」
「酷い!」
「酷い男は嫌い?」
「───バカ……」
「そうだよ。俺、お前の前ではバカなんだよ。好きすぎてぐるぐるになって──みっともなくて。
お前の前だけだよ」
意地悪なのに、優しくて、それでいて情けないけど、強い。
ああ、私、本当に紀一郎のこと好き。
「優しくしてくれる?」
「当たり前だろ。俺の大事な愛美なんだから」
「意地悪、もうしない?」
「それは無理。意地悪されてお前いつも悦んでんじゃん」
「そんなこと……」
「あるって。今だって言葉で責められて、お前の中きゅんきゅん締めながら、腰はやらしく動いて
るし」
ずん、と下から突き上げた。
「あんっ……」
「やらしい声。すっげー可愛いけど、親父たちが起きるよ」
「あ……」
紀一郎は私に口づけ、嬌声は吸い込まれた。
「もう…気持ちよすぎて我慢できない。痛くするけど、ごめん」
そう言うと私を押し倒し、力強く腰を打ち付ける。
紀一郎とのキスが熱い。
紀一郎と繋がっているとこも熱い。
紀一郎の躯から汗が滴り落ちる。
痛みの奥で沸き上がる、甘い快感。
──紀一郎!!
くっと唸り、紀一郎は大きく身を震わせた。
痛みよりも強い幸福感が広がり、私は自分から口づけをせがんだ。
☆
紀一郎が避妊具を始末している背後から抱き付く。
甘く震えるような幸せが広がる。
「愛美。お願いがあるんだけど」
ベッドの上で正座して真面目な顔をする。
私も慌ててそれに合わせるけど、お互い全裸で少し間抜け。
「何?」
「俺、頑張って東大行って医者になるから──いつか結婚してくれる?」
「いいよ」
「よっしゃあ!!」
思わずガッツポーズの紀一郎の口許を慌てて塞ぐ。
「バカ。聞こえちゃうよ?」
「問題集やってるときいつもだから、どうせ気にしてないよ」
そう言った後、いつものニヤニヤ笑いを浮かべる。
「全裸でプロポーズって、なんだか神聖だな」
「え?」
「古代の儀式っぽい。しかも、契りを交わした直後。婚姻関係を結んだ後だ」
「契り=結婚と考えればそうだね」
「じゃ、お前、俺の奥さん?」
「いや、まだ……」
「奥さんと言ったら、飯だ。明日、いつもの図書館行くぞ。弁当用意しとけ」
「なにぃ?」
「この前の倍な。材料あるか?」
「多分──」
「じゃ、明日は8時半集合。お前は朝早い。もう寝ろ」
はい? なんで急に。
甘い言葉も何もなしですか?
「お前、いつまでもここにいたら、もっかい犯すぞ。今度は泣きわめかせる」
「ええ?!」
「健全な男子高校生ナメんな。一晩中ヤっていたって足りないぐらいだ」
「ちょっ……」
「痛くて大変だろうからと俺が情けをかけてるうちに帰れ。明日、寝坊すんなよ」
慌てて下着とワンピースを着る私に、俺様悪魔が笑いかける。
「愛してるよ、愛美」
ちと、早まったかもしれない。
<FIN>