ゆとり教育って言われていたけど、正直どこがゆとり?と思ってた。  
 小学校では普通に楽しく遊んでいたけど、中学では規則は厳しかったし、結構きっちりとやらさ  
れた。  
 私は将来の目標があったから、ガリ勉重ねて内申上げて、地元トップ高校に入った。  
 さあ、これから私の躍進が始まるよ?  
 だって、泣く子も黙る名門校。首相も都知事も国会議員も輩出している。企業のトップだって  
ざっざく。  
 ところが入学式の日、校長先生の話に私は唖然とした。  
 ──我が校は、4年制です。  
 はい? もしもし? 高校は3年間のはずですよ?  
 よくよく話を聞いてみたら驚いた。  
 大学へは浪人含めて考えろと。  
 それってどういう意味ですか? 学校の勉強だけでは志望校に受からないとでも?  
 じゃ、予備校なんてお金がなくてとても無理ってビンボー家庭は、大学諦めろってことですか?  
 薔薇色の人生が一気に灰色に。  
 私は今まで教科書をきちっと仕上げることでここまで来た。  
 うちは悲しいぐらいのビンボーで、塾とか問題集とか、とても無理だったから、教科書を反復し  
てきっちりと仕上げて勉強することで、どうにかここまで来たと言うのに。  
 私の野望は?  
 私の将来は?  
 ううう、泣くもんか。絶対に泣くもんか。  
 どうにか、きっちり野望を実現してやる!  
 
 そう意気込んでの今回の模試だった。  
 はあ。何これ。  
 高校受験の時の模試、私の偏差値72だよ? なのに、53。  
 正直、こんな問題見たこと無かった。こんな英文、全く読めません。数学、解説読んで驚いた。  
この公式、そんな使い方するのぉ?  
 戦うための軍資金集めにバイトを入れたことが悪かったの? それでも学校のテストは満点だ。  
 浪人なんてお金が掛かりすぎ論外と、現役コースのお金も聞いた。驚いた。  
 私のバイト代だけでは到底足りません。  
 本屋でぼんやり参考書と問題集を広げる。  
 どれを選べばいいんだろ。  
 この時ほどゆとり教育を恨んだことはない。だって、結果に同封されていた優秀者名簿には、国  
立、私立の名門校ばかりがずら〜りと。  
 あの問題でどうやったらこの点を取れると言うの?  
 こいつら、バケモノ??  
 怒りと嫉妬と羨望を込めて見ていたら、一番上に燦然と輝く名前に驚いた。  
「う、嘘ぉーーー!!」  
 ヤツの名前は原口紀一郎。  
 私の家のお隣さん。  
 私の生まれた時からの幼馴染みだった。  
 
☆  
 
 紀一郎と私は、生まれた時から──いや、正確にはお腹の中かららしくて、その事を話すとき、  
母はいつもかんらからと笑う。  
「いやー、冗談みたいでしょ? 母親教室で一緒になった奥さんが、よくよく聞いたら、お隣さん。  
予定日も一緒だなんて!」  
 この時の母の話っぷりだって容易に思い出せるぐらいだが、そういや最近この話もご無沙汰だ。  
 つか。紀一郎の存在、すっかり忘れてた。  
 アイツは中学から私立に行っちゃったし、時間帯も合わなくて、顔も合わせていない。  
 すぐ隣に住んでるのに。  
 はっきり言って、小さい頃は2階の互いの部屋から話をするし、屋根づたいで行き来したりする、  
そんな関係だった。そんな近さだった。  
 うーん、紀一郎、どんなヤツになってるんだろ。  
 
 あわよくば、ちょっとアドバイスを貰おうとセコいことを考えて、私は久しぶりにお隣のイン  
ターホンを鳴らしに行った。  
 ちょっと間延びした暢気な音の後、ドアフォンから男の人の声がした。  
「はい」  
 叔父さんかな?  
 でもエリートサラリーマンの叔父さんが、平日の夕方に在宅とは珍しい。  
「お久しぶりです。隣の斉木です」  
「え? 愛美(まなみ)?」  
 へ?  
 違和感で疑問符を浮かべていたら、玄関が開いた。  
 で、でか。  
 つか、アンタ、誰?  
「愛美かよ。何の用だ?」  
「へ? 紀一郎?!」  
 裏返った声を上げてしまった。  
 し、信じられんっ。  
 これが、あの、紀一郎??  
 目の前の大男。私が小柄だってこともあるが、どう見積もっても190近い。しかもスポーツマンタ  
イプでガタイもいい。  
 眼鏡掛けてはいるけれど、私の想像する『模試で全国一位のヤツ』なんかじゃない。  
 全国で一位なんてヤツはキモかったり、色白ウラナリだったり、マッドサイエンティストを思わ  
せる特異な何かを持っていたり──  
 ともかく、常人を逸脱した何かを持っていて、全うな人間性と引き換えに頭脳を手に入れている  
──と、勝手に想像していた。  
 ところが普通、なのだ。文武両道を旨とするうちの学校にいたっておかしくない。  
 普通にイケメン。なんだかモテそう。  
 だというのに、私と来たら。  
 バイトと勉強に明け暮れ、朝ブローするのが面倒だからとお下げにして、目も悪いけどコンタク  
トのお金がないから、眼鏡だし。  
 私の方がよっぽどステロタイプなガリ勉だ。神様ズルいぞ。  
「何の用だよ。回覧板?」  
 ふるふると首を振る。  
「んじゃ、おふくろ? 今留守だけど」  
 ふるふるふる。  
「じゃ、なんだよ」  
「お願いがあるの」  
「は? ま、とにかく玄関先じゃなくて、上がるか?」  
 うんうん。  
 紀一郎に促され、ドアをくぐる。  
「お邪魔します」  
 久しぶりのお隣だ。  
 最近は回覧板を持って行ったりする程度だった。  
 たまに朝、通学途中に叔母さんと挨拶する。  
 私を見掛ける度、叔母さんは「しっかりしてるわ」「綺麗になって」「大きくなったわね」とか、  
リップサービスをしてくれる。  
 でも私ったら身長は152でそこらの小学生より小さいし、この通りのガリガリ眼鏡だ。  
 唯一胸だけは成長したけど、この「伝統的な」セーラー服ではあまり分からないと思う。  
 つか、叔母さんが私の胸をじろじろ見るとも考えにくい。  
 そんなことはともかく、紀一郎はちょっと迷って自室へ案内した。  
 懐かしい。小学生時代は毎日のようにお邪魔してたっけ。  
 流行りのカードバトルとか、ゲームとか。いつも一緒に遊んだな。  
 紀一郎の部屋は意外と片付いていた。  
 さすが全国一位。問題集や参考書も揃ってる。  
 私は何気なく「大学への数学」と書かれた雑誌を手に取った。  
 ぐへ。難しい。  
「で、何の用だよ?」  
 
「ああごめん」  
 雑誌を元通りに戻す。  
「あんた、この前のK予備校の模試、一位だったでしょ」  
「なんだ、からかいに来たのかよ」  
「違うよ」  
「じゃあ何なんだよ」  
「あのさ、私に勉強教えてくれない?」  
「へ?」  
 紀一郎は素っ頓狂な声をあげた。  
「只で、とは言わない。今バイト代で少しならお金もある。せめて数学と英語。いや、数学だけで  
もいいから成績上げたい」  
「本気?」  
 うん、と頷く。  
「あんたも知ってる通り、うちは貧乏なの。予備校通う余裕がない。大学だって国公立じゃないと  
厳しい。予備校通うのが必須だと言うなら、特待取りたい。なにがなんでも勉強して、夢を叶えた  
い」  
 私は紀一郎を見上げた。う。見上げすぎて首が痛いぞ。  
「金はいい。だが、条件がある。取り敢えず、模試の結果見せてみ? テスト持ってる?」  
「あ。テスト忘れた。結果はこれ」  
 哀しい53。  
「あー、公立のヤツでこれなら上出来じゃね? お。国語、いいじゃん」  
 あんたよりも悪いよ。  
「どれができてて、どれができないのか対策立てたい」  
「判った。取ってくる」  
 慌てて部屋を飛び出そうとした私を紀一郎が手を掴む。  
 にやん。紀一郎が悪魔のように笑う。  
 嫌な予感。  
「何しちめんどくさいことしてんの。俺たちには秘密の通路があるだろ?」  
「へ」  
「忘れたのかよ?」  
 ちょっと、不満げ。  
「お前、どうせ部屋の窓の鍵、掛け忘れてるだろ?」  
「まあ、お隣に来ただけだし。下は閉めたけど」  
「だったら昔みたいにいけばいいだろ」  
「あ、そっか。──じゃない! 私高校生なんですけど?」  
「いいじゃん。俺の言うこと、聞くんだろ?」  
 くそう。忘れてた。  
 紀一郎は悪魔のようなヤツだった。  
 昔からそうだ。  
 私はこいつにいつもパシりに使わされ、命令されていた。  
 典型的なガキ大将(死語)。  
 私はコイツの第1の子分で手下で仲間だった。  
 身に付いた習性ってやつだ。こいつには逆らえない。  
「制服なんですけど」  
「今どきの高校生にしてはスカート長いな」  
 は? セクハラですか?  
「大丈夫だよ。お前、相変わらずちっこいし、小学生と変わんねえよ」  
 誰か! この人セクハラです。いやこの場合はパワハラ?  
 どっちでもいいや。  
 ものすっごく、失礼なんですけど?  
「あ、そ。やらないの?」  
「──行きます。どうかお願いします」  
 にやん。また悪魔の笑み。  
 ううう。高校生にもなって、スカート翻して窓づたいに出入りする羽目になるとは。  
「あ、これから来るのもここからな。お前の部屋って正司と区切っただけだし、俺は行けねえから」  
「え? 玄関からじゃダメ?」  
 
「おふくろが邪推するだろが。とにかく、俺に教わりたかったら、大人しく従え」  
 相変わらずの『俺様』だ。  
「解ったか?」  
「はい」  
 私はもしや、悪魔に魂を売り飛ばしてしまったんじゃなかろうか。  
 
☆  
 
「はい」  
「おう」  
 テストを渡す。さっと見て、ごそごそと問題を探す。  
「基本は出来てるな。ミスも少ない。だから50を越えてる」  
「うん」  
「はっきり言って、演習不足。参考書と問題集、何使ってる?」  
「何にも」  
「へ?」  
「だから、何にも。うち貧乏だから、なるべくお金使いたくなくて、教科書反復して解いてる」  
「はあ〜そりゃあなあ」  
「何か悪いの?」  
「お前、志望校は?」  
「××国大」  
 うちの県の、いわゆる駅弁大学。  
 旧帝と言われる名門は、はなから諦めているし、それでもちょっと無謀だとは自覚してる。  
「まだ2年だろ? 教科書だけでこれだし、お前、俺と同じ大学目指してみないか?」  
「え。まさか……」  
「うん東大」  
 コイツは、コイツは、本当にこういうヤツだった。  
 チェッシャーキャットみたいなニヤニヤ笑いが、目を白黒させている私を、遥か彼方から見下ろ  
していた。  
 
 
 今日は部活なし。塾もないから、暇だ。  
 暇だったから数学解いてたら、インターホンが鳴った。  
 なんだ、宅配便か?  
「はい」とドアフォンに出たら、懐かしい声がした。  
「お久しぶりです。隣の斉木です」  
 嘘。信じられん。  
「え? 愛美?」  
 俺は慌てて腹を掻いてたTシャツを引っ張り、ジーパンを上げた。  
 玄関ドアのレンズ越しに確認する。  
 間違いない。愛美だ。  
 はやる心でドアを開ける。  
 斉木愛美のちっこい姿がそこにあった。  
 俺の隣のうちに住み、お袋の腹の中にいる頃からの幼馴染み、誕生日も一緒で、中学で別々にな  
るまでずっと一緒だった、俺の子分。  
 俺の初恋の相手だ。  
 
☆  
 
 愛美は昔っから面白いヤツだった。  
 まず、女の癖に喧嘩っぱやい。気が強くて男前。  
 なのに身体は細くて、ちっこい。むちゃくちゃちっこい。  
 以前アイツをマメと呼んだことがある。無論、顔を真っ赤にして怒っていたが。  
 いや、食べる豆じゃなくてマメシバのつもりだった。  
 小型犬のようにキャンキャンして、俺の後に付いて回る。  
 当時短くしていたふわふわした髪がまた犬っぽい。  
 可愛さ余って毎日からかって、毎日引っ掻き回していた。  
 でもそんな蜜月はあっという間に終わる。  
 俺は親になんとなく連れて行かれた、男子校の体育祭に惚れ込んで、ここに通うと誓って、それ  
を実現させた。  
 東大にクラスの半分ぐらいが合格する天下の青海中学だ。  
 学校は楽しかった。  
 俺みたいな自分の力を持て余したヤツから、一途で真面目なヤツ。物凄く変で変なところが最高  
なヤツ。  
 個性の塊のような奴等が伸びやかな校風の元に6年間を積み上げる。  
 次第に学校だけじゃ物足りなくて、親に頼んで塾にも行く。  
 中学受験で実感したが、塾は楽しい。  
 色んなヤツがいるし、勉強も面白い。  
 それに俺はどうやらこういう競争に向いている。  
 競争を楽しみ、楽しむことで己を研く。  
 
 だが、ある日ふと立ち止まった。  
 何かが足りない。  
 小学生の頃の輝かしい冒険の日々に比べ、今のなんて侘しいことか。  
 何が不足か分からず悶々としていたら、なんだか星が見たくなった。  
 窓を開け、外を見る。  
 すると目の前にはアイツの部屋。  
 夜中の3時になろうかとしているのにまだ灯りがついていた。  
 たったそれだけのことなのに、俺の心は満たされた。  
 俺は、アイツの部屋の灯りが消えるのを確認してベッドに入った。  
 久しぶりに夢も見ずに熟睡できた。  
 
 それからというもの、寝る前の僅かな時間、煙草をふかしながらアイツの部屋を眺めるのが習慣  
になった。  
 椅子の軋む音、たまに唸る声等を聞いてから寝る。  
 たまに俺の方が遅くて、アイツの部屋が暗かったりすると気が抜ける。  
 ある日、いつものようにぼんやりとアイツの部屋を眺めていたら、暑いせいか薄手カーテン一枚  
だった。お陰で、アイツのシルエットがよく見える。  
 
 全く、年頃の娘の行動じゃない。  
 俺の部屋からしか見えないからいいが、全くもってけしからん。  
 よく考えてから行動してもらいたいものだ。  
 それでもしっかり見ていたら、アイツの身体のラインに気が付いた。  
 アイツ、胸がでかい。  
 俺の中のアイツは小学生の姿のままだから、胸だけ巨乳。  
 それってなんてエロゲ?  
 その晩、俺は生まれて初めてアイツで抜いた。  
 だが、賢者タイムの虚しさと脱力感には物凄いものがあった。猛省した。だから一度だけだ。  
 俺はアイツを、自分で思っていた以上に純粋に、真剣に想っていたのかもしれない。  
 何せ小学生時代からの恋だ。性欲とは無縁で、だからこそ純粋だ。  
 今の愛美に会いたいと思う。だが、会いたくはないとも思う。  
 そのアンビバレンツ。  
 彼女の今に興味はあるものの、大切な思い出を壊したくはない。  
 だから、この窓越しが丁度いい。  
 窓越しにアイツの息遣いを確認しながら眠りにつく。アイツの笑顔の記憶が心に火を点す。  
 
☆  
 
 そんな日々を送っていたら、愛美がいきなり押し掛け来た。  
 なんと愛美は、俺に勉強を教えてくれと言う。英語と数学の成績上げたいからと、ケチなこいつ  
が金まで出すと言い切った。  
 ま、マジかよ。信じられん。  
 出来すぎたジョークと思ったが、どうやら本気らしい。  
 俺は改めて、愛美を見つめる。  
 相変わらずちっこい。が、可愛くなった。  
 小学生のような小柄な体躯に細い四肢。抱き締めたら壊れてしまいそうだ。  
 色白で繊細な、コケティッシュな美貌を、眼鏡とお下げが台無しにしている。  
 そのアンバランス加減が絶妙だ。  
 夏物らしい、白地に水色の襟、黒いリボンのセーラーを着ていた。襞のあるスカートは紺。昔の  
女学生のように膝丈だ。白のハイソックスが眩しい。  
 だが外見だけは変わったが、中身は昔のままだった。  
 相変わらず、無駄に元気でパワフルで面白い。  
 こいつ。変わっていない。そう思うと、妙に嬉しかった。  
 昔のようにヘッドロックをかけて髪をぐしゃぐしゃにしてやりたい。  
 あまりの嬉しさにニヤニヤする顔を引き締める。いかんいかん。  
「金はいい。だが、条件がある。取り敢えず、模試の結果見せてみ? テスト持ってる?」  
 と、一応言ってみた。  
 本音はこのチャンスをいかに生かすか。  
 また、愛美と一緒に遊びたい。今回はそれが『勉強』ってだけだ。  
 俺にとって勉強は遊びの一種だから、この場合間違ってはいない。  
 愛美の差し出す成績表を見る。  
 よく分かんないけど、普通の公立の奴だったらこんなもんじゃね?  
 つか、国語は良くできてるよ。これが一番成績上げるのが難しいんだ。  
 多分、これが取れてるってことは、読解力はあると言うこと。  
 ならば、対策は意外と簡単かもしれない。しかし、時間は掛かるしハードで愛美は大変かもしれ  
ないが。  
「どれができてて、どれができないのか対策立てたい」  
 取り敢えず、解答用紙を見てみないとな。  
「判った。取ってくる」と慌てて部屋を飛び出そうとした愛美の手を掴む。  
 イタズラ心が沸いてきた。  
 そうだよ。この感覚。  
「何しちめんどくさいことしてんの。俺たちには秘密の通路があるだろ?」  
「へ」  
 間抜けな声をあげる愛美が可愛くって仕方ない。  
「忘れたのかよ? お前、どうせ部屋の窓の鍵、掛け忘れてるだろ?」  
 
「まあ、お隣に来ただけだし。下は閉めたけど」  
「だったら昔みたいに行けばいいだろ」  
「あ、そっか。──じゃない! 私高校生なんですけど?」  
「いいじゃん。俺の言うこと、聞くんだろ?」  
 ああもう、可愛すぎ。からかいたくなる気持ちが止まらない。  
 だからコイツに俺の気持ちがずっと伝わらなかったんだけどさ。  
 だとしても、俺はコイツで遊ぶことはやめられない。我ながら悪趣味だ。  
「制服なんですけど」  
「今どきの高校生にしてはスカート長いな。大丈夫だよ。お前、相変わらずちっこいし、小学生と  
変わんねえよ」  
 我ながら、心にもないことを。  
 最も、屋根づたいのこの通路は外からは視角になっていて、見えないことも計算済みなんだが。  
 そうじゃなかったら、誰が大事な幼馴染みを行かせるか。  
「あ、そ。やらないの?」  
「──行きます。どうかお願いします」  
 ふむ。とうとう屈伏したか。意外と早かったな。ういやつ。ういやつ。  
 結局俺は何だかんだ言って、愛美にここへ通わせる約束を取りつけた。  
 まあ、コイツの部屋は弟の正司もいるし、愛美が来るのが一番妥当だ。  
 俺が屋根に登ったら、なんだか壊れそうな気もするし。  
 愛美を見つめる。  
 すっげえ可愛い。どうしてくれよう、この気持ち?  
 胸が妙に沸き立ち、鼓動が速くなる。  
 暴走しそうな凶暴な感情が腹の奥から込み上げる。  
 コイツ抱き締めて、啼かせたい。直接的な欲望を覚えた。  
 誰よりも大事でずっとその息遣いを見つめるだけの恋は、今ここに肉体的な欲望も伴ったものへ  
と変化した。  
 その自覚は、俺にとってこの恋を狂おしいものへと変えた。  
 
 

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