千掘島(せんほりしま)ニュータウン。  
ここは最近出来た新しい街である。  
大都市のベッドタウンとして田舎を大改造し、そして遅れて大型ショッピングモールや私立小学校が完成。  
やがてこのニュータウンは、日本でも有数の大型住宅街になっていた。  
 
そんなこの街から少し離れた場所に、服屋がある。  
「河本衣料店」と書かれたその店は、見た目は単なるフル臭い洋服店だが、既に廃校になった小学校の制服を未だに扱っていたり等と、不思議な点が多い。  
店主は無口だが可愛い感じの、和服を着た中学生くらいの少女。  
時代から取り残された感じのするその洋服店は、いつしか小学校で話題の「怪談スポット」になっていた。  
 
「お母さんから聞いたんだ。あの店の服を買わないと、着せ替え人形にされるんだって!」  
今年で10歳になる。橋野々高(はしののたか)さあやは、ツインテールの髪を揺らしながら楽しそうに同級生に話しかける。  
ランドセルを背負い、かわいい顔で友達に話しかけるその仕草はまさしく「女の子」という感じだが、  
白いブラウスに黄色いリボンタイ、紺色のジャンパースカートという恰好は、そんな彼女にギャップを与える。  
制服だから仕方がないかもしれないが、それでも、ブラウスから覗かせる二の腕やスカートから伸びるふとももは、そういう筋の人にはかなり魅力的だろう。  
 
「んなわけないでしょ…? 下校中にいきなりね……。」  
そんなさあやを呆れた顔で見つめるショートボブの女の子。彼女の名前は真金(まがね)ふたば。  
体の大きさや服装自体はさあやと一緒だが、彼女と違ってその服が似合う程、落ち着いた性格をしている。  
…というより、小学生にしては「冷めている」と言った方が正しいだろうか?  
「どうせ古いだけの店だよ。 店員が何か変人なだけかもしれないし。」  
「もう! 夢がが無いなぁふたばちゃんは!」  
「堅実に生きるのが今の子供よ。さあやは夢を見過ぎなのよ。」  
 
結局二人とも、その足でその服屋に向かった。  
ニュータウンから離れた場所にあるその服屋の周りには、田んぼの慣れの果てである水たまりしか存在しない。  
「近くで見ると凄いねぇ! 本当にお化けがでるかもー!!」  
「お…お化けなんて、 いるわけないでしょ?  
それよりも、入らないなら帰るよ!」  
少し声が大きくなるふたば。 実は彼女、冷めている振りして虫や心霊現象が怖いのだ。  
早く家に帰りたい。 家に帰って、冷静な自分をずっと演じていたい。 今のふたばはそう思っている。  
そんな彼女の気を知ってか知らぬか、さあやは嬉しそうに服屋に入ろうとする。  
「ダメだよここまで来たんだから! こんにちはー!」  
元気な…というよりうるさい声で叫び、ふたばの手をひっぱりながら店の中に入るさあや。  
だが、店員は出てこない。  
 
「あれ……留守かな?」  
反応が無い事に残念そうな顔でさあやが言うと、空かさず  
「きっと留守よ。さぁさっさと帰りましょう。」  
とふたばが言う。顔は冷静だが足は内またになっていたり。  
しかし、元気で明るい少女は、ふたばの思い通りにはなってくれない。  
「ん〜? 何々? …… 今は留守にしています。自由に試着してください? だって!」  
何でこの同級生はこうも目敏いのよ…。 ふたばはそう思い、帰る事を諦めた。  
 
それにしても、この服屋。  
不気味な場所に立っているとはいえ、服の品揃えは悪くは無い。  
「ねぇ見てみて!この水着、すっごく可愛い!」  
そういうとさあやが、まるで自分の物であるかのように、若干乱暴に商品を取り出す。  
取り出したのはカジュアルな水着。  
確かに可愛いが、10歳のさあやには少々早いデザインかもしれない。  
しかし彼女はそんな事お構いなしに、試着室に飛び込んだ。  
「全く、騒がしいわね。」  
わざと聞こえるようにそう言ったふたばだったが、彼女も自分の好みの服を探し出す。  
あんな元気な少女といたせいか、既にここが有名な心霊場所だという事を、彼女はすっかりと忘れていた。  
 
さあやは試着室に入るなり、すぐさま服を脱ぎパンツも脱ぎ棄てて全裸になる。  
大きな鏡に映る自分の全裸を隠そうともせず、彼女は素早く着替えをする。  
そして、店の中から見つけたカジュアルな水着を着用し、胸に両手を当てて嬉しそうな笑顔を浮かべる。  
「えへへ、これでプールにいって……。」  
彼女がそんな妄想を始めようとした刹那、目の前の鏡の一部がパカッと開く。  
そして中から出てきたのは、水鉄砲の銃口のようなもの。  
「……ええ!?」  
さあやは驚くが…しかし、体を動かす余裕はない。  
彼女の小さな裸体に、水鉄砲が容赦なく「何か」を浴びせる。  
それは水でも液体でもない、電流のようなもの。  
電流に包まれたさあやは驚きの表情を浮かべたまま、もろに電流を浴び、石になったかのように動かなくなった。  
瞬き一つしなくなった少女。 彼女は生きたまま、カチンコチンに硬直してしまったのだ。  
そして停止したさあやの足もとが開き、彼女はポーズを全く変えることなく、地下にへと落下した……。  
 
(うん、この服がいいかな?)  
さあやが固められた事も知らないまま、ふたばも自分好みの服を手に取り、試着室に入っていく。  
彼女が着ようとしている服は、某有名中学校の制服だ。  
(…… こういう制服もありかなぁ…。)  
今の制服も可愛いけど、どこか子供っぽいからとか心の中で呟きながら、彼女は着替えを始める。  
さあやのように服を脱ぎ散らかしたりはせず、スカートやシャツを脱いでは畳んで地面に置いている。  
パンツ一丁になるのは少しだけ恥ずかしかったが、誰も見ていないし、すぐに服を着れば問題は無い。  
彼女は少しだけ急いで、新しい制服を着込んでいく。  
白と黒のワンピースと、赤色のネクタイ。  
(あ、これも制服の一部なのか…。)  
そして、黒いニーソックスを穿いて、鏡の中の自分を見つめる……何故か「きをつけ」のポーズで。  
(…… 余り、似合わないかな……?)  
実際、かなり似合ってはいるのだが、彼女の中では恥ずかしさの方が優先してしまったのか、自分ではそう思っていた。  
 
そんな彼女にも…あの電流が襲いかかる。  
さあやの時と同じだ、着替えを終えた彼女の目の前の鏡が突如開き、  
「え?」  
幼い少女に容赦なく電流を浴びせる。  
「あ……。」  
柔らかい肌が、電流により少しずつ固められていく。  
そしてふたば一瞬にして、制服を着た人形にされてしまった。  
「………。」  
困惑の表情を浮かべたままカチンコチンに硬直した彼女も落とし穴に落とされ、脱いでいた服と一緒に地下に落ちる。  
地下には、水着姿で硬直したさあやが、下のお口を丸出しの状態で転がっていた。  
「あら……もう一人いたのですか。」  
そんなさあやの着ていた水着を加えた少女が一人、落ちてきたふたばの方を見つめる。  
「……ふふ、火のない所に噂はなんとやら…。  
お化けは本当に出るのよ。…と言っても、意識が無いから聞こえないと思うけどね。」  
彼女の後ろには、さあややふたばと同じくらいの年齢の少女達が、様々な服を着て固まっている。  
どうやら彼女達も、少女の「硬直銃」の餌食になったらしい。  
「……今までの人形にも飽きてきたところにちょうど良かった…  
さて、貴方達は、どんな服装が好みかしら?」  
返事は無い。 そんな事、少女は重々承知していた。  
代わりに彼女は、固まった二人の女子小学生の胸を、おもむろに揉みだした。  
 
 
 
 
 
その半年後、ふたばとさあや他、行方不明になっていた女子児童達は…白いスクール水着で氷漬けにされているところを発見される。  
全員命に別条はなく、精神的なトラウマも残っていなかった。  
(恥ずかしい恰好にされていたことによるショックはあったみたいだが)  
しかし、少女達は何故自分がこんな恰好で氷漬けにされていたのか全く覚えてなく、やがて、住民の全てが、この事件の事を忘れてしまった。  
 
だが、彼女達は確かに、あの店によって硬直させられた。  
そして、とある変態娘に色々な格好をさせられたのは事実である。  
「……さて、今度はどこに店を構えようかしらね……。」  
メイド服を着せられたさあやとふたばの写真にキスをしながら、「お化けの店員」は今日も、少女を探している……。  
 

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