――日の差さない光の乏しい一室で、その人影は粗末な石造りの壁面を背にして木製の椅  
子に座っていた。  
 人影は腰に吊るしていたバスタードソードを重い鞘鳴りの音を響かせて片手で抜き、馴れた  
様子で長い刀身をチェックしていく。――大丈夫だ。亀裂や錆などの異常は見られない。この  
日課は時として生死を分かつ。それがたとえ、これから始まる騎士団の剣術指南だとしても、  
剣を交える事に変わりはない。油断は次の油断を生む。それが一定以上に達すれば死ぬだ  
けのことだ。人影は己の経験から、それを嫌というほど知っていた。  
「ディーナ団長、ファンダス王国騎士団の者すべて用意整いました!」  
 部屋の扉の向こうから、うやうやしい若い男性の声がした。扉を開けずとも、その若者が背  
筋を伸ばし、踵を合わせて階級が自分よりも上のものにする、直立不動の姿勢を取っている  
のがわかる――そんな張りつめた声だった。  
 
「御苦労……いま行く」  
 人影の短い返答の声は妙齢の女性だった。女は部屋の暗がりに紛れて立ち上がり、くるりと  
宙で弧を描く鮮やかな手つきで、バスタードソードを鞘に収める。そして、コツコツという堅いブ  
ーツの音を鳴らしつつ部屋の扉を開けた。  
 はたして、そこには直立不動のままの青年が立っていた。青年はプレートメイルで全身をか  
ためている。間接部分は自由度を優先させているため布地だ。そして、扉から現れたディーナ  
を見て青年の顔が赤くなっていく。  
「ディーナ様……相変わらず、お美しい」  
 青年は言わずにはいられなかった。ディーナは二重で瞳は透き通るようなアイスブルー、鼻  
梁はつつましく、小さな唇は艶やかな紅色だ。彼女を簡潔に言いあらわすならば”美人”という  
他に無いだろう。そして、目を引くのはディーナの金髪である。輝くようなその金髪を一本の三  
つ編みの房にして、腰の辺りまで伸びていた。  
 彼女の衣装も青年の心をとらえるには十分すぎた。両肩に皮の小さな肩当てが付けられた、  
純白の衣装の胸元は大胆に開き、その豊満すぎる二つの膨らみの谷間を露出させている。視  
線を下に移せば、花弁のような白いフレアミニスカート、青地に金糸の刺繍が施された薄布が、  
腹部からフレアミニスカートの裾の長さまで前に垂れていた。膝まである編み上げのロングブ  
ーツは皮製で、彼女が装備すると街で人気の女性ファッションのような華がある。腰から下げた  
長く無骨なバスタードソードの鞘だけが、唯一、武人であるのを認識させる。  
 

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