一人の少女の下駄箱に、ラブレターのようなものが入っていた。  
セーラー服を着てランドセルを背負った10歳の美少女は、その手紙を見つけた瞬間、まず同級生達に茶化された。  
本人もまんざらではない。どんな奴かは知らないが、自分を可愛いと思ってくれる人がいる事実は変わらない。  
 
少女の名前は水宮(みずみや)ゆま。  
髪をツインテールにした、身長140cm。胸はぺったんこだけどプラス思考で、明るく人を引き付ける性格である。  
……若干自己中心的で仕切りたがりな所があるが、それも「10歳の子供だから」で許せる範囲だ。  
「とにかく行ってみようかな〜♪」  
友人たちの茶化しにまんざらでもないゆまは、家に帰る前に、手紙に書いていた場所に向かう事を決意した。  
 
手紙の差出人は、「新谷」と、名字しか書いていなかった。  
ただ、同じ小学校の人間ではないらしい。  
(そうだよね。同じ学校なら、女の子同士になるからね。)  
ゆまの着ている、水色のセーラーカラーとスカート、そして紺色のネクタイという制服は、「私立の女子小学校に通っている」証だ。  
そしてゆまの脳内には、「同性同士で恋愛する」という事は考えも出来ない事だった。  
 
ランドセルを背負ったまま、小走りで所定の場所である公園に向かうと…そこに、ゆまが予想した人間はいなかった。  
良くてハンサムなお兄さん。悪くてブサイクなロリコンのおっさんと予測して(同時に犯罪されそうならすぐ大声を上げるつもりだった)いたゆまは、一瞬自分の目を疑う。  
そこにいたのは……そもそも、男じゃなかったのだ。  
「あれ?」  
ゆまはつい声に出してしまう。 周りを見渡しても、「男」はいない。  
目の前にいるのは、長い前髪を指に巻いて暇潰ししている。中学生くらいの女の子だったからだ。  
浴衣姿の、男子から見たら可愛いという声が上がりそうな女の子だったが…ゆまは女性には興味はない。  
けど、今思えばラブレターには名字しか書いていなかった。  
そして、「世の中には同性を好きになる人間が居る。」と、保健の授業で言われた事も思い出した。  
まさかねという思いと、やっぱりこの人かなという思いの両方を持って、ゆまはその女の子に声をかける。  
 
声は出なかった。  
(あれ?)  
意識はあるが、しかし、足が石になったかのように動かない。  
少女に向かって伸ばした右腕も、伸びたまま空中で静止している。  
(あれ?なんで体が動かないの!?)  
一瞬だった。  
少女に声をかけようと歩みを始めて、一歩踏み出した状態で、ゆまは動けなくなった。  
(う……動いて! 動いてよ!!!)  
10歳の少女は、必死に自分の体を動かそうとする。  
だが、固まった身体は自分の体ではないように、かたくなに動こうとしない。  
顔も、微笑のような表情で、大きな口を開けたまま動かない。  
 
「……やっと、罠に掛かっていただけましたね。」  
そんなゆまに対し、目の前にいた浴衣の少女が声をかける。  
(え?)と、ゆまはそう言ったつもりだったが、声は出ない。  
代わりと言うには難だが、ゆまの大きく開けられた口の中に、指が突っ込まれる。  
(え!? こ、この人何してるの!?)  
口の中を二つの指が蹂躙する。  
痛いとか気持ち悪いとかじゃなく、でも、奇妙な感覚がゆまの口の中を襲う。  
指を抜いて、続けて浴衣の少女は、ゆまの唇にキスをした。  
(いや!! 何よこの人はぁ!!!)  
動けず、ただ心の中で叫ぶゆま。  
そして彼女は、今度は舌で口の中を蹂躙された。  
息苦しくはなかったが、口の中を唾液まみれにされる。  
(……何よ、この人はぁ……。)  
ゆまは泣きそうになった……いや、「体が動けば」その場所で大声で泣いていた事だろう。  
しかし今のゆまの体は、何故か知らないが動かない。凍ってしまったかのように動かないのだ。  
 
「術は完全ですね。 それでは、頂きます。」  
礼儀正しく手合わせをして、浴衣の少女は動けないゆまに手をかけた。  
ゆまは、ランドセルを取られ、……スカートとパンツを脱がされる。  
防犯ブザーは真っ先に捨てられた。  
(……うう……うううう!!…… こんな格好いやだよ! !!!助けて!!!)  
何度も何度も叫ぼうとしているが、声は出ない。  
体を動かすとするが、動かない。  
浴衣の少女を拒絶しようとしても無理な話で、少女は、ゆまのあそこに舌を入れる。  
(!! ……な 何しているのこの人!!!)  
当たり前のように、自分の…汚い場所に舌を入れる浴衣の少女。  
そして、  
(あ!……ん!! いや! これ!変!! へんだよぉ!!)  
まだ自慰すらした事のないゆまは、はじめて感じる性の感触に、更に頭が混乱しそうになる。  
浴衣の少女の舌は、ゆまの小さな感じる場所を捉え、そこを重点的についていたのだ。  
 
10歳の少女が舌から解放された時、股からは液体が少し漏れだした。  
ゆまもまた、何が何だかわからない感じで、パニックを起こしていた。  
(何? なんで なんでこの人、私なんかを犯すの?  
変だよ?おかしいよ? 逃げたい! やめて!!)  
そんな彼女を思ってか思わずか、浴衣の少女は指をパチンと鳴らす。  
(あ…!)  
ゆまはここで意識を失った。  
最後に聞いた言葉は  
「… 意識残ってましたね…… 失敗しました。」という、内容の割に嬉しそうな、浴衣の少女の声だった。  
 
ゆまが次に意識を取り戻したのは、保健室のベッドの上だった。  
「あれ……?私?」  
制服姿でベッドに寝かされた彼女に、保健の先生が説明する。  
女性で、美人。ここが公立校なら男子達の憧れになっていそうな先生である。  
「変な人に襲われていたのを、助けられたみたい。  
助けた子は名前は名乗らなかったけど、女の子だったわ。」  
「記憶にない…です。」  
即答した。  
…ゆまの頭からは、あの浴衣の少女に襲われたという事実が一切、抜け落ちていたのだ。  
ただ、怖い目にあった、と言う事だけは覚えている。  
「最近は本当に物騒だから気をつけなさい。 直接襲われなくても、ビデオやカメラで撮影するような奴もいるんだから。」  
今日は送ってあげるからという先生に甘えるように、ゆまは帰路につく。  
帰りに先生と話し合う事で「怖い目にあった」という記憶も、いつの間にか抜け落ちてきた。  
 
過去、この小学校がまだ寺子屋だった時代、一人の不幸な姫が居た。  
姫は美少女だったが性癖が特殊で、同性しか愛する事が出来なかった。  
彼女はとある少女に告白する為に手紙を書き、所定の場所に来てほしいと言ったが、…しかし突然の雷雨に撃たれ、亡くなってしまった。  
とはいっても姫自身、その少女を「てごめ」にするつもりで呼びだしたので、まぁ、罰が当たったのだろう。  
ただ、第一発見者となった、てごめにされる筈だった少女には不運だったのかもしれないが。  
 
「あの時の残念さを晴らす為…というわけじゃないですけど。」  
そして今、彼女は亡霊となり、少女達を「麻痺」させる。  
これは少し不思議な、人間としては駄目なレベルな変態の、幽霊の物語である。  
 

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