初めて目にする妹の裸身はつるりと剥いたゆで玉子を思わせた。  
ほっそりとした首筋。小さく震える肩。膨らみきっていない小さな胸。なめらかに白く透き通った肌……。  
有樹は去年の夏、家族で美術館に行った際に目にした西洋少女の彫像を連想した。  
あのときは少女像のリアルさに思わずどきりとしたものだが、  
隣で見ていた恵美が「きれいだね」と屈託無く笑ったのを見て、  
美術品にいやらしい目を向ける自分を恥ずかしいと思ったのだった。  
(今だって同じだ。こんなに綺麗なものを見ておかしな気持ちになるはずがないんだ)  
しかし。彫像の少女には存在しなかったモノが妹の下腹部に茂っている。  
黒々と縮れた毛が、汗ばんだ肌にぺったりと張り付いている。  
有樹の脳裏に宇宙人の言葉が――「安心したまえ、君の前にいるのは成熟した雌だ。生殖は容易に可能だ」――よぎった。  
有樹の陰毛の中で縮こまっていたペニスがむくりと頭をもたげた。  
慌てて妹の裸身から目をそらしたが、もはや勃起をとどめることはできなかった。  
有樹のペニスはあっという間に硬直し、腹部に密着するほどに反り返っていた。  
「あ……」  
兄の肉体の変化を目にした恵美が息を呑んだ。  
有樹は俯いた。恐くて妹の顔を見ることができなかった。  
そこには絶望と軽蔑の表情が張り付いているはずだ。  
 
「兄のほうは生殖の準備を完了したようだな。よろしい。妹の身体を凝視し、その性的興奮状態を維持しなさい」  
宇宙人の乾いた声が記録ルームに響いた。  
「ふざけないでよっ!」  
恵美が叫んだ。弾かれるように有樹は顔を上げた。  
「……お兄ちゃん、気にしないでいいからね?」  
恵美は有樹に優しく微笑みかけた。その声は押し殺し切れない怒りと涙に震えている。しかし恵美は必死に笑顔を作って  
「しかたないよ。お兄ちゃんだって男の子だもん。お兄ちゃんが悪いわけじゃないもん」  
と言った。「それにしても私、おっぱい小さいでしょ? えへへ」照れ隠しなのか、そう笑った。  
「恵美……」  
有樹は誓った。絶対に宇宙人の命令に抗ってみせる。  
情けないことに硬くなったペニスはそのままだった。けれどこんなものはただの生理現象にすぎない。  
たとえ命を奪われようと妹の信頼は裏切るまい。宇宙人が命ずるような真似は絶対にするまい。  
「ふむ。困ったものだ。できることならば自然な形での近親相姦を記録したかったのだが。しかたあるまい」  
宇宙人の声が途切れるやいなや、部屋の四方八方から金属製の触手が飛び出し、兄妹の身体にからみついた。  
 
声を上げる間もなく有樹は四肢を拘束され、大の字の格好で冷たい床に転がされた。  
金属の触手は恵美の四肢もがっしりと絡め取り、赤ん坊におしっこをさせるような格好でその身体を宙に釣り上げた。  
そのまま恵美の身体をゆっくりと移動させ、有樹のそそり立った性器の真上へと固定する。  
このまま身体を下に降ろされてしまったら……恵美はたまらず悲鳴を放った。  
身体を捩って泣き叫ぶ妹から、有樹は顔を逸らした。  
M字に開かれた両脚の付け根に、一瞬、桃色の亀裂が覗いたような気がしたが、必死でその映像を頭の中から振り払う。  
目を閉じて、歯を食いしばる。いつの間にか有樹のペニスは堅さを失い、陰毛の中に埋もれていた。  
「有樹。君は矛盾しているぞ」  
宇宙人の声に苛立ちが混じった。  
「これは君が望んだ状況のはずだ。君は妹の下着で自慰行為をしていたではないか」  
その言葉を合図に、空中に立体映像が浮かび上がった。  
有樹と恵美は見た。見慣れた場所。自宅の脱衣場だ。深夜なのだろうか。薄暗い。  
有樹がひとりぽつんと立っている。  
洗濯機の中に手を伸ばし、衣服の層をかき分けて、水色の縞模様の入ったしわくちゃのパンティを取り出す。  
 
「や、やめろ! やめてくれえええっ!」  
有樹は顔を真っ赤にして叫んだが、立体映像の中の彼は無言のまま妹のパンティを裏返し、クロッチの部分をぴんと広げた。  
そこには薄黄色い汚れが縦に伸びている。わずかにおりものがこびりついている。  
有樹はそこに、ゆっくりと舌を這わせる。そして赤黒く硬直したペニスを激しく擦りたて……  
「恵美のここ、お兄ちゃんのこことくっついちゃってるよっ、イクよっ、恵美のあそこにっ」  
……瞬間、クロッチを鈴口に押しつけると、妹の性器をかたどった黄色い筋に兄の白濁した精液が勢いよく吐き出されていった。  
「こんなのウソだ! こいつらが作ったトリック映像だ! 恵美! 見るな! 信じちゃ駄目だ!」  
「これがトリック映像でないことは君が一番知っているはずだ。そうだろう、恵美」  
えっ、と有樹は絶句した。見上げると、恵美が真っ青になっている。  
立体映像が切り替わった。今度は恵美の部屋だ。パジャマを来た恵美がベッドの縁に腰掛けている。  
その手にあるのは先ほどの縞模様のパンティだ。恵美はしらけたような表情でそれを見つめている。  
広げた。クロッチの部分には未だ生乾きの精液がこびりついている。  
恵美は無表情のままそれを自分の口元に運び……  
「違う! 違う! 違う! お、お兄ちゃんがそういうことするから私もヘンな気持ちに……!」  
 
映像の中で、恵美は一心不乱に兄の精液を舐めとっていた。  
あらかた舐め終わると今度は布を口に含み、じゅるじゅると音を立てて吸引しはじめる。  
パジャマズボンの中に突っ込んだ右手が小刻みに動いている。  
快感に耐えきれなくなったのか、ベッドに身を横たえて身体を丸く縮めた。  
右手の動きが徐々に速度を上げてゆく。  
やがて、むううっ、と声にならない声をあげたかと思うとがっくりと脱力し、動かなくなった。  
思い出したようにぴくんぴくんと痙攣する恵美の映像に、宇宙人の声が被る。  
「我々は近親相姦願望のある個体を選択したのだ。どうして絶好の機会を拒絶するのだね?」  
恵美は顔を真っ赤にしてぼろぼろと涙を流した。なまあたたかい涙が有樹の胸に滴った。  
有樹はそんな妹を下から仰ぎ見ていた。その視線は、陰毛に彩られた妹の性器に注がれている。  
ペニスは再び硬度を取り戻し、鈴口からは透明の液体があふれ出している。  
宇宙人はその様子を拡大して映像化し、恵美の眼前に映し出した。  
「最低。最低。サイテイ……」  
恵美の口から呪詛の声が漏れた。  
 
「お、お前だって僕とセックスしたいって思ってたくせにっ!」  
罪の意識から逃れようと有樹は叫んだが、恵美は  
「キモいキモいキモいキモいキモいっ!」  
と狂ったように喚くばかりだった。  
「一生恨んでやるから! お父さんとお母さんに言いつけてやるから! 変態! キチガイ! ……あっ?!」  
恵美は電気に撃たれたように身をすくませた。触手が恵美の性器をぬるりと撫でたのだ。  
「濡れているな」  
違う、と恵美は叫んだが、触手の先にはねっとりとした液体が言い訳のしようもなくこびりついていた。  
「宜しい。ようやく兄妹共に準備を完了したようだ。さあ、近親相姦を開始するのだ」  
ゆっくりと恵美の身体が降ろされてゆく。同時にコードのような触手が無数に伸び、有樹のペニスを垂直に固定する。硬いペニスの先端が、ついに、恵美の生殖器に触れた。  
「嫌ああああああああああああああっ!」  
兄の侵入を食い止めようと、恵美は必死に腰をよじらせた。そのたびに密着した兄妹の性器がぬるっ、ぬるっ、と擦りあわされる。  
「あ。駄目、出ちゃうっ!」  
びゅるるるっ!   
 
有樹から迸った大量の精液が恵美の淫唇を勢いよく叩いた。  
粘度の高い精液は恵美の陰毛にねっとりと絡みつき、滴ることさえしなかった。  
有樹と恵美は互いに顔を逸らし、沈黙した。  
「気に病む必要はない。童貞と処女を選択した段階で十分想定しえた結果だ」  
宇宙人がそう言うと、触手がダイナミックに動いた。バランスを崩した恵美がきゃあっと悲鳴を上げる。  
なにが起ったのか理解する前に、恵美のすぐ目の前に兄のペニスがそそり立っていた。  
尻を突き上げ、頭を斜め下方にする格好で吊し直されていた。  
「この硬度では挿入は不可能だ。さあ、君の口唇で硬度を回復させるのだ」  
兄のペニスまでわずか十pの距離。なまぐさい精液の匂いが鼻孔をくすぐった。  
あのとき、パンティにこびりついていたそれとはまるで異なる匂いだった。  
あのときはこんなに生臭い匂いじゃなかった。恵美は必死で顔を背けて目を閉じた。  
兄が自分のパンティを使って自慰をしていると知った時はショックだった。  
けれど、ショックよりも好奇心が勝った。噂話でしか聞いたことのない男子の自慰。精液。  
それを身近に体験したことの昂奮が大きかった。兄の出したものだ、という感覚は薄かった。  
まだ見ぬセックスへの漠然とした憧れ。ゲーム感覚。ちょっと危険ないたずら。  
パンティにこびりついた精液を口にしたことには、そんな意味しかなかったのだ。  
口腔内に広がったのは無味無臭の、奇妙な舌触りがする液体でしかなかった。  
 
しかし今、固く閉じたまぶたの向こうから匂ってくるその匂いは、生々しく禁忌の気配を孕んでいる。  
精子。卵子。妊娠。近親相姦。  
それを口にしたが最後、私たち兄妹は取り返しのつかないところに踏み込んでしまう。  
初体験のあれこれを得意げに語る女友達の顔が脳裏をよぎった。  
陸上部の先輩の顔が、父と母の顔が――二度と戻れない正しい世界のさまざま々が走馬燈のようにまぶたの裏を流れていった。  
頭を硬く固定されて鼻をつままれてしまえば、口を開くしかなかった。  
すぐに熱いものが唇を割ってすべりこんできた。予想に反して苦くも生臭くもなかった。ただ熱かった。  
その熱いものが口をいっぱいに満たし、やがて咽の奥へと侵入してきた。  
鼻づらが、しゃりしゃりとした何かの中へと押し込まれる。ぎょっとして目を見開いた。  
兄の陰毛の中に顔が埋まっていた。「恵美、恵美ぃ」と兄の声が聞こえる。  
涙に潤んでいるようにも、快感にうわずっているようにも聞こえる。  
途端に恐怖で身体が破裂しそうになった。  
いま、私は、お兄ちゃんのおちんちんをフェラチオしているんだ……!  
「ぷはあっ!」  
ペニスが唇の中から躍り出た。ぶるんと跳ねて恵美の鼻の頭を叩いた。  
兄のペニスと妹の鼻の頭を、半透明の唾液が糸になって繋いだ。  
 
有樹はおそるおそる妹の顔を見た。  
顔全体が上気し、しっとりと汗ばんでいる。口からはだらしなくよだれがあふれ、  
顎先から床へと糸を引いて滴っている。ぜいぜいと苦しそうだ。えぐっ、えぐっ、としゃくりあげて  
「恐いよぅ。お父さぁん。お母さぁん……」と零した。  
金属の触手が恵美の身体を再び結合向けのそれへと切り替えたが、  
恐怖が恵美から抵抗の気力を失ってしまったようだった。  
「大丈夫だから。すぐに終わるから」  
有樹は呪文のように繰り返した。「兄妹だから。黙ってれば大丈夫だから。ここだけのことだから」  
 
ペニスが恵美の膣内へとすべりこんだ。  
 
なんの抵抗もなく、劇的な感情もなく、ふたりは吸い込まれるようにして結合していた。  
あまりのあっけなさに、有樹は頭を上げて、妹と自分の結合部分を見た。  
陰毛と陰毛をねっとりとした液体が繋いでいた。  
自分が先ほど放った精液なのか、恵美が漏らしたものなのかはわからない。  
いずれにせよ、陰毛に隠される形で、有樹のペニスは妹にがっちりと差し込まれていた。  
現実感がなかった。思っていたほどの快感がなかったことも影響しているのかも知れない。  
セックスなんてこんなものか、と有樹は思い、それからそんなことを思った自分を恥じた。  
結合部から視線を上げると、破瓜の苦痛に歯を食いしばる妹の顔が見えた。  
 
それでも恵美は声を漏らさなかった。  
こうして激痛を感じている限り、これはセックスなんかじゃないんだと思った。これは暴力なんだ。  
だって気持ちよくもなんともない。友達が言っていたセックスと私が今しているこれはぜんぜん別なんだ。  
この前ニュースでDVという言葉を聞いた。家庭内暴力。近親相姦っていうのはそういうものなんだ。  
私はかわいそうな被害者で……  
ぷつり、と二の腕に鋭い痛みが走った。ぎょっとして見ると、先端に注射針がついた触手が離れてゆく。  
「残念ながら媚薬のたぐいを注射するのは宇宙法に抵触するのだ。痛み止めで許して欲しい」  
触手が恵美の身体を上下に揺すりはじめた。  
処女血と愛液がないまぜになった汚液が、ぶちゅぶちゅと卑猥な音を立てる。  
「気持ちよくないんだから! ぜんぜん……気持ちよくなんかっ」  
身体を揺すぶられながら、恵美は兄の目をまっすぐに睨んだ。  
「お兄ちゃんも気持ちよくなんかないでしょ?! 私たち兄妹なんだから! 家族なんだから!」  
「あ、ああ! 大丈夫だから! 大丈夫だから……!」  
「バッカじゃないの?! さっきからなにが大丈夫なのか……はっ! いっ! ぐっ!」  
「ごめんな恵美っ、恵美のパンティであんなことしちゃってごめんなっ」  
「そんなこと今さら……うくっ、あんっ、へはっへはっ!」  
「あーーーーー腰揺すらないでっ。もうすぐ出そう! 恵美やめろ出る出る精液出るっ!」  
「ひっ、うっ、あんっ、ああんっ、いくっ、いくいくっ! きもっ……きもちいっ! きもちいいっ!」  
「恵美ぃぃっ!」  
「お兄ちゃぁぁんっ!」  
 
最後の瞬間、金属の触手がぱっと両者の拘束を解いた。  
我に返った有樹が妹の身体を押しのけようとした時にはもう遅かった。  
妹の胎内へ、勢いよく大量の精液が流れ込んでゆく。  
恵美はくったりと脱力して有樹の胸の上に倒れ込み、思い出したようにびくんびくんと痙攣している。  
あのオナニーの時と同じだ。  
汗ばんだ妹の身体の重みを感じ、有樹はゆっくりと現実感を取り戻していった。  
妹との近親相姦。膣内射精。自分は一体これからどうしていけばいいのか。  
堅さを失ったペニスが、ぬるり、と妹の膣から抜け落ちた。  
びくん、とひときわ強く、恵美が痙攣した。  
「ご協力感謝する。おかげで興味深い映像を採取することができた。  
君たちの行為は宇宙ライブラリに永久に保存される。  
そして私は最後にきみたちにこの言葉を贈りたいと思う」  
兄妹の目の前に、ホログラムが浮かび上がった。  
赤黒くぬめぬめとした肉壁。  
それが自分の子宮を映し出したものであることなど、恵美には理解の仕様がなかった。  
「おめでとう。たったいま、君は兄の子供を身ごもった」  
 

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