数日後、有樹は自宅近くの雑木林で倒れている所を警察に発見された。
病院に搬送されたが、命に別状はなく1週間程で退院することができた。
一方、恵美の捜索は続けられたがその行方は杳として知れなかった。
警察の事情聴取に対し有樹は自らの異常な体験、すなわち宇宙人に誘拐された事を訴えたが
当然ながら誰もそれを信じようとしなかった。そればかりか、逆に妹の失踪への関与を疑われた。
しかし捜査の過程で何の疑いも見つからなかった為、彼の証言は一時的な精神錯乱の産物として処理された。
それから3ヶ月、半年...ただ時間だけが過ぎていった。
あの出来事から10ヶ月ほど経ったある日、有樹の両親は泊りがけの旅行に出かけていった。
娘を失った彼らの心労を気にかけた親族達が、無理に勧めたものだった。
有樹は1人家に残り、ぼんやりとあの時の事を考えていた。
今となっては、あれが本当の出来事だったのかも分からない。
ただ、忌まわしい行為を強いられつつ感じた恵美の口腔と膣の生々しい感触、そして
妹の絶頂を極めた顔、それらが脳裏に焼きついて離れなかった。
その時突然、目の前が光に包まれた。それは以前捕われた時と同じ感覚だった。
次の瞬間、有樹は無機質な空間の中にいた。聞き覚えのある乾いた声が部屋に響く。
「久しぶりだな。元気そうで何よりだ」
「その声は、またお前たちなのか? あっ...そ、そうだ。恵美は、恵美はいるのかっ?!」
「我々は任務完了に伴い、母星へ帰還する。その前に一度、君と妹さんを会わせてあげようと思ってね」
目の前の重々しい金属の扉が、プシューという空気音を立てて開いていく。
「お兄ちゃん...」
そう言って現れた恵美は、手足を金属製の触手で拘束され、病院の検査着のようなゆったりした服を着ていた。
身体は以前よりもふっくらとしており、薄い生地の上から少し張った乳房と黒ずんだ乳首が見える。
しかし、有樹が最も衝撃を受けたのは、取り返しがつかない所まで脹らんだ妹の腹だった。
「め、恵美...」
有樹は、妹の膣内に射精した直後の宇宙人の言葉を思い出していた。
平凡な家庭に育ったごく普通の兄妹が、1人の子の父と母となった、その瞬間を...
有樹は衝撃的な光景に眩暈を覚えながらも、声を振り絞って叫んだ。
「恵美、なあっ、一緒に帰ろう。父さんも母さんも心配してる」
「残念ながら、それは承諾できないな。彼女には一緒に来てもらい、我々の星で様々な実験に参加してもらう。
だが安心してもらいたい。[連邦法Chapter.194 知的生命体の適切な保護に関する法律]によって
地球で言う所の、非人道的な実験は禁止されているからね」
「ふざけるな! そんな事信用できるか!」
「それに有樹、君にも分かってるんじゃないか? この星に残れば彼女にもお腹の子にも不幸な結末が待っている事を」
「......!!」
有樹は絶句した。無理やりつがわされ、男と女の一線を越えてしまった兄妹。
妹の胎内に宿った新たな生命。もはや何の言い逃れもできない。
「いいのお兄ちゃん、もう覚悟はできてる」
恵美ははっきりとした、それでいてどこか悲しげな口調で話し始めた。
「最初はね、こんな事になってずっと泣いてた。この子と一緒に何度も死のうと思った。
でもね、この子が段々大きくなって、今では私のお腹を蹴るようになって。
この子産まれてきたいんだと思う。私、この子のお母さんなんだもの」
「恵美...」
有樹には妹の話が遠い異国の言葉のように聞こえた。不意に涙があふれた。
「私はもう元の世界には戻れない。お兄ちゃんの妹には戻れないの」
頑張って元気な子を産むから。この子と私の事、忘れないでね...」
自分に言い聞かせるように話す恵美の目にも、涙が浮かんでいた。
兄にとっては、たった一度の強いられた過ちだったかもしれない。しかし
妹にとって兄は最初で最後の男であり、生まれてくる子の父親でもあるのだ。
「そろそろお別れの時間のようだ」強い光が辺りを包み込む。
「待ってくれ、恵美っ、恵美ーーーーーーっ...」
次に気が付いた時、彼は家の居間に倒れこんでいた。それが兄妹の永遠の別れとなった。