ラッキー。なんて良いバイト見つけたんだろう。
まあ当然学校の方針としてはバイト禁止なんだろうけど、お小遣いが欲しいんだからしょうがない。
これで新しいゲーム機が買えるし。
バイトって言っても普通のバイトじゃない。僕に言わせればかなりヤバいバイトだと思う。
年齢的にもヤバいバイトなんじゃ…?
親には絶対言えない。言っても絶対許してくれないだろうから内緒。こんな事言ったらきっと殴られるだろう。
だから友達の家に遊びに行くってアリバイを作って撮影に参加する事にした。
「一日中、同い年の女の子と裸で抱き合ってキスして写真とか撮らせてくれれば○万円。」
こんなバイトがこの世に存在するなんてこの話を聞くまで知らなかった。
なんかエロい写真集でも作るのかと思ったらそうではないらしい。
ゲージュツ的価値がなんとか。
写真を撮ってそれを元に絵を描くんだって。
つまり画家の人が僕と女の子が抱き合ってキスしてる写真を元に絵を描きたいんだって。
写真撮る時も顔は写らない様に工夫するし、絵を描くときも顔は別の人の顔を描くから、
完成した絵を見ても僕だって特定される事は絶対無いらしい。
一切僕がこういうバイトをしたって証拠は残さないようにしてくれるって。
なんだかヤバイ感じもするけど、こんな良いバイト断る気にはなれなかった。
そんな絵を描きたいくらいだからよほどエロい絵を描いてる人だと思ったらとんだ間違いだった。
ちょっとだけその人の作品を見せてもらったんだけど、全くエロくない…。微妙。
裸の女の人が写ってるのはわかったんだけど、全くHな感じが無くてなんだか怖い。
色の使い方もおかしい。
これが芸術?僕にはよくわからない世界だ…。
まあとにかく、今日はその写真の撮影日。学校が休みの日曜日。アリバイは完璧。
「どんな女の子が来ても絶対に撮影拒否しません。」という誓約書にもサインした。
タイプじゃない女の子が来たりしてやっぱり抱き合うのは嫌ですとか言ったモデルが過去にいたらしい。
だから土壇場になって撮影が中止になるのを防ぐためなんだって。
絵のモデルになるだけあって、そんなにレベルの低い女の子がくる事は無いだろうし、嫌だってことはないだろう。
僕は軽い気持ちでサインした。
ただ、「拒否したら10万円払います」という項目があったのがちょっと気になる…。
「どんな女の子が来ても拒否しなければいいんだから大丈夫でしょう?そんな変な子はこないから。」
と言われてサインしてしまった。
確かにその通りだ。好みじゃない女の子でも仕事なんだから僕が我慢して抱き合って撮影に望めばいいだけだ。
相手も同じ事だろう。
今、僕はドキドキしながらソファに座って女の子の到着を待っている。来るのが僕の方が早かったようだ。
どんな女の子が来るんだろう?僕は期待と不安でいっぱいだった。
コンコン。ドアをノックする音。
「失礼します…。」女の子の声。ん?でもどこかで聞いた事あるような…?そして女の子が入ってくる。
「え?浩哉?浩哉がどうしてここにいるの?」僕の名前を呼ぶ。ん?なんで僕の名前を知ってんだろ…?ってもしかして……。
「真里?」あああ…!!真里じゃん…。真里。僕の幼なじみでクラスメイト。腐れ縁なのか今までほとんど同じクラスだ。
「彼女が今日の君のパートナーだよ。」後から入ってきた今日写真を撮る写真家兼画家さんが僕に話しかける。
「え……。浩哉が今日の撮影の相手……?」真里が言う。その顔は少し青ざめてる。
真里が今日の相手…?え?裸になって抱き合うの?真里と??………。僕も顔が青ざめる…。
「そうだよ。って君は浩哉君の事知ってるのかい?」画家さんが不思議そうに言う。
「ごめんなさい…。無理…。無理です…。」真里がボソっと言う。顔はかなり青ざめてる。
「浩哉だけは無理!」急に真里が大声でヒステリックに言う。
「浩哉と……。裸で…抱き合うなんて…。」今度は蚊の鳴くような声でつぶやく。
「僕だってお前見たいなメスゴリラと抱き合える訳がないだろ!」つられて僕も感情的になる。
僕だって嫌に決まってる。なんで真里なんかと!すぐ先生にチクって正義面する女のくせに!
「誰がメスゴリラですって!?アンタは……。」
そこまで真里が言いかけた所で、画家さんが大きな声で会話に割り込む。
「君達!!知り合いだかなんだかわからないが、ここまで来て撮影中止という訳にはいかないよ!」
やさしい顔をしてる人だけど、今は威圧感があってなんだか怖い…。
「嫌だって言うなら違約金の10万円きっちり払ってもらうし、君達のお父さんとお母さんに電話して、来てもらうしかないな。」
「お父さん達に!?そんな…。」真里の顔が青ざめる。
そういう僕の顔も青ざめてる。親にこんなバイトしようとしたことを知られたらただじゃすまない…。
…。だからって腐れ縁の真里と……。
「……。それだけはやめて下さい…どうかお願いします…。」真里が懇願する。
「じゃあ予定通り撮影することだね。」画家の人が冷たく言う…。
「……。」真里は絶句してるようだ。
「……。」同じく僕も絶句する…。
「なんだい浩哉君。君も嫌なのかい?そんな落ち込んだような顔をして。」
「……。」
「そんなことないよね?これから脱いで抱き合うんだから。じゃあ今、予行練習として服を着たままでいいから抱き合って見ようか。」
「…。!!」
「え!!」この人は何を言いだすんだ…。
「ほら早く。浩哉君。真里さんを抱きしめてあげなさい。」
そんな…。真里を…。抱き…しめる…?
「真里さん。抵抗したり逃げたりしたら即、君の家に電話するから。そのまま大人しくしてるんだよ。」これは脅迫じゃないか…。
「……。」真里は言葉にならないのか押し黙っている。
「浩哉君!ほら!早くしなさい。家に連絡するよ?」そう言って写真家の人が自分の携帯電話を取り出して電話をかけようとする。
「わわわ!わかりました!!!します!しますから!電話しないで下さい!!」僕は親に連絡されたくない一心で答えてしまう。
とは言っても…。抱き合うのか……。真里と…。
喉がカラカラに渇く。心臓がドキドキして…どうにかなってしまいそうだ…。
諦めた僕は観念して真里の方に向かう。抱き合うしかないのか…。
真里を見る。真里はギュっと目を瞑って体を強張らせている…。
真里が小さく見える…。いつもケンカしたり言い争いをしていて女の子として見ていなかった。
女の子の匂いが僕の鼻をつく。そうだ…。真里も一人の女の子だったんだ…。
諦めた僕は真里を……真里を静かに、ゆっくりと抱きしめた…。
真里はそのまま目を瞑って必死に耐えるような表情をしている。
「嫌…。」静かに、でも確かに小声で真里が呟いた。
真里が僕の腕の中で震えていた…。