【 通信教育 】 鈴木白野(すずきしろの) 〜自虐編〜  
 
   ◆メジャー(一般的)なものより、マイナーなもののほうが惹かれる  
       →はい  ・  いいえ  
 
   ◆SMに興味がある  
        はい  ・ →いいえ  
 
   ◆痛くされて、感じてしまったことはある  
       →はい  ・  いいえ  
 
   ◆死ぬのは、怖くない  
       →はい  ・  いいえ  
 
「ん? いま、変な質問があったような……」  
 白野は暗い部屋で、偶然見つけた【depths】社のHPを覗いていた  
 ホットヨガ教室での指導を終えたあと、なんとなく寝付けなかった白野は深夜の通販番組を見ながら、そこの性癖診断のコーナーで遊んでみていた  
 だんだんと眠たくなってきたのもあって、連続で出題される二択問題に適当に答えていた  
 
   ◆自傷の経験がある  
       →はい  ・  いいえ  
 
 人が適当に動く時、そこにはその人物の生き方や本性が現れる  
 それを暴くよう、わざと単調かつ冗長的に構成されているのが性癖診断コーナーだった  
 白野はそこでしらずしらずの内に内面をさらけ出してしまっていた  
 
        ◇全問終了◇  
   あなたに潜む性癖は 『自虐』 です  
 
 クリックし続けても画面が変わらないことに気付いた白野は、そこでようやく質問が終わったことを知った  
「ああ、終わったんだ……」  
 肩肘をついたままディスプレイに目をやると、黒い背景に『自虐』の文字が赤く映し出されている  
「ふ〜ん……」  
 と言ったところで飲んでいた缶ビールを噴き出した  
「げほっ! ごほっ! な、なにこれ、自虐って!?」  
 ディスプレイに掴みかからんばかりに顔を近づけてサイトを覗き込む  
 
    『自虐、それはマイナーな嗜好の中でも特殊な性癖です  
     あなたは解放感に飢えていませんか?  
     とくに不自由・不満なく過ごしているはずの日常  
     しかし、何か満たされない  
     日々をつまらなく感じていたり、夜も眠れなかったりしていませんか?  
 
 白野は解説文を読みながら、眠れないでいる自分の状況が言い当てられたことに驚いていた  
 
     それは、禁欲的ででけがれの無い生活に対する、体からのシグナルです  
     人間は誰しもリバーシのように白と黒の裏表を持つ存在です  
 
     チェックシートからはあなたの中でもがく闇が見て取れます  
     最近、自慰をしなくなった、もしくは、自慰が異様に激しくなったということはないでしょうか  
 
「うっ」  
 実は、チェックの途中で、それらしい質問に回答しているのだが、その冗長な構成のため白野自身覚えていなかった  
 そんな白野はなぜそんなことまで言い当てられるのかと困惑していた  
 たしかに最近回数は減っている  
 しかし、通販で大人のおもちゃを購入し、朝まで自慰にふけって仕事に影響が出るなどその激しさは増していた  
 
     多少の激しい自慰では、あなたの心の闇が晴れることはないでしょう  
     あなたの闇が求めているのはもっともっと強い刺激です  
 
     心の闇は人生の中での負の影響の積み重ねで構成されています  
     あなたの場合、いじめや暴行など、激しい苦痛を伴う行為を受けたことがあるはずです  
 
 ぞくりとした悪寒が白野に走った  
 知られている、という驚きはもちろんあったが悪寒は白野の過去からきていた  
 父親からのレイプ  
 酩酊した状態の父親は、暴れる白野を押さえつけ、殴る蹴るの暴行の上、その操を犯した  
 一度きりのあやまちではあったが、その事実は白野の心と体に刻み込まれていた  
「心の闇はその記憶を上書きするために、より強い刺激を求めています……」  
 白野は放心状態のまま、気付かぬ内に解説文を音読していた  
 
     心の闇はその記憶を上書きするために、より強い刺激を求めています  
     その刺激をあなた自身の手で、好きなように刻むことができる  
     それが 『自虐』 という手段です  
 
     白だけのリバーシが存在しないように、人もその闇を消すことはできません  
     ならば闇を自分の色に染めてみてはいかがでしょうか  
 
「はっ、ははっ、……ば、ばかじゃないの? 何なのよこれ」  
 白野は蔑するような笑い声を上げながらブラウザを閉じると、ビールをぐいっとあおった  
 500ml缶は見る間に空になり、白野の苛立ちそのままに握り潰された  
 
 数日後、白野の部屋に【depths】社から小包が届いた  
 白野は首をかしげた  
 そんな登録も契約もした記憶がないからだ  
 ところがメールを確認すると、それらが行われているではないか  
 悩みに悩んだすえ思い出したのが「やれるもんなら、やってみろ」という自身のセリフだった  
 
 HPを覗いていたあの夜は結局意識がなくなるまで飲んでいた  
 朝起きて転がっていた缶ビールは3つ、それとワインのボトルが1本、部屋もめちゃめちゃで相当荒れていたようだった  
「あの時か……」  
 白野は『12回(3ヶ月)分まとめ払い割引きサービス』の支払済みとなっている確認メールを見ながらうなだれた  
「……酒で失敗するなんて、お父さんと一緒じゃん……このバカ……」  
   
     ならば闇を自分の色に染めてみてはいかがでしょうか  
 
 ふと、あの解説文が脳裏によぎった  
 こんなものでどうにかなるわけがないと思いつつも、白野は小包を開けてみることにした  
 
 
 
 小包を開けてみての第一印象は意外と悪くなかった  
 プチプチや発泡スチロールではなく白い紙を短冊状に細く切った梱包材は、指輪などの貴金属の包みを思わせ  
 その中から出てきた箱もまたリボンで口を留められるなど、女性向けに小奇麗に纏められている  
 それは今まで利用してきた大人のおもちゃのように、雑で下品な内容とは一線を画すものだった  
 利用者の抵抗をなくすための【depths】の策略は今回も効果てきめんだった  
 
 すっかり心をほだされてしまった白野が箱を開けるとそこには、かわいらしい洗濯バサミが2個入っていた  
「洗濯ハサミ……って言ったらアレよね」  
 直感的に乳首につけることが頭に浮かんだが、それよりも『自虐』という割には内容がライトすぎて拍子抜けした  
「こんなもので……」  
 白野は洗濯バサミに手を伸ばしたところで言葉に詰まった  
「……開かない」  
 その洗濯バサミは異様に硬かったのだ   
 よく見ると、サイドにダイヤルがついていて、それがもっとも硬いほうにひねられていた  
 両手で力を込めて、ようやく1cmほど開いただろうか  
 逆にダイヤルを軽くすると、ふにゃふにゃとなんの抵抗もなく開閉する  
 さらには箱の底からオプションパーツまで出てきた  
 ハサミの口の形状を変えるというそのキャップは、いかにも痛そうなギザギザのものから、乳首を優しく包み込む円形のものまで多岐にわたった  
「……凝ってるなぁ〜」  
 洗濯バサミごときと思っていた白野はまた考えを改めさせられた  
 
「で、でもさ、こんなもんで……」  
 私の闇が晴れるわけないじゃない  
 白野はどこか気恥ずかしいのを隠すように、変に強がりながらTシャツの下に洗濯バサミをもぐりこませた  
「ダイヤルは……」  
 Tシャツの中でもぞもぞとダイヤルをいじる  
 どのくらいの強さが良いのかわからず、決めかねていた白野の脳裏にまたHPの解説がよぎった  
 
     心の闇はその記憶を上書きするために、より強い刺激を求めています  
 
「強ければ、強いほどいい……ってことだよね?」  
 ダイヤルは一気に最大にまで回された  
 硬くなった洗濯バサミを両手でこじ開け、乳首のところに持っていく  
 いっぱいに力を入れた腕はぷるぷると震え、ちょっとでも気を抜くと汗で滑って飛んでいきそうだった  
「うあ〜、ちょ、ちょー、怖いんですけど……」  
 既にハサミの間に乳首は捕らえられていた  
 ささやかな胸の先端にあるツンとした乳首  
 あとは手を離すだけ  
 しかし、中々手を離すことはできなかった  
 そして、その内だんだんと手に力が入らなくなってきていた  
「ぁあ〜、こわいこわいこわいこわい……」  
 脚をばたつかせながら小声で怖いを連発する白野  
 白野がそんなおどけた動きになってしまうほどの恐怖  
 
 そのとき、手の中で洗濯バサミが暴れた  
 ついに力の入らなくなった指先からハサミが逃げたのだ  
 「バツン」という音と共に、白野の乳首の根元にハサミが噛み付いた  
「あ!!」  
 そこから先はもう言葉にならなかった  
 白野は絶叫するように口を開けたまま布団をかきむしった  
 Tシャツの中、洗濯バサミは乳首の根元に深く食い込み、乳首は押し出されるように赤く盛り上がっていた  
 
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああ」  
 次の呼吸で一気に叫び声が放出された  
 白野は再び両手をシャツの中に突っ込むと、洗濯バサミをこじ開けようと力を込めた  
 しかし、挟む前の疲れと痛みから思うように力が入らない  
「いだい!いだい!いだい!いだいよおおおおおおおお」  
 白野は全身を震わせ、目からは大粒の涙がぼろぼろとこぼしていた  
 開くのをあきらめ、今度は洗濯バサミそのものを引っ張る  
 食い込んだハサミは、引っ張られることで乳腺を噛み千切らんばかりに動く  
「あおおおおお……。と、とでないいぃぃぃぃぃぃぃ……」  
「ちくび、ちくびちぎれるぅぅぅぅぅぅぅ……」  
 白野は半狂乱になりながらしばらくもがき続けた  
 そして、動けなくなるほど疲れきったところでやっとダイヤルの存在を思い出した  
 ダイヤルはすんなりと回り、弱くなった洗濯バサミは自重でぽとりと落下した  
 
「はぁぁ……、はぁぁ……」  
 いまだ荒い呼吸を抑えながら白野はベットの上で大の字になった  
 行き過ぎた痛さとは思ったが、性的興奮が無かったかといえば嘘になる  
 白野はまさかと思いながら自分のアソコに手を伸ばしてみた  
(ぬれ……てる……  
うそでしょ  
わたし……、バカみたい……)  
 アソコはおしっこを漏らしたのではないかというほど濡れていた  
   
(これ、痛すぎる。……痛すぎるよ  
はは……、お父さんに殴られたときより痛いや……  
それに、……信じられないけど……気持ちよかったみたい)  
 
 白野の闇は確かに塗り替えられ始めていた  
 ただし、その色は闇よりも深い血の赤  
 
 白野の乳首は引き剥がそうとした傷から血をにじませ、その胸を赤く染めていた  
 
 
 END  
 

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