【通信教育】 鈴木白野 〜自虐編・その2〜
初めてグッズが届いてから1週間。予定どおり何の狂いもなく、次のグッズが白野の手に届いた
渋い表情で受け取りにサインした白野はしぶしぶといった感じで部屋にグッズを運んだ
先週は確かに狂気に溺れた。乳首に噛み付いた洗濯バサミは心地よい痛みをもたらしたし、正直感じていた
しかし一晩明けて次の日、シャツへの出血と乳首にできたかさぶたに青ざめた
「傷跡残ったらどうしよう!」
白野は女性的な体つきではなかったが、そこそこ鍛えて引き締まった体型は気に入っていて、ピアス・タトゥーなどは嫌っていた
それにホットヨガ講師を務める白野にとって体は資本。変な傷がついては仕事に差し障る
「そうだよなぁ。『自虐』だもんなぁ」
数日するとかさぶたは取れ、跡もほとんど残らなかったが白野が洗濯バサミを使うことは二度となかった
2回目の今回もきっと使わすに終わるだろう。そう思うと既に支払済みの半年(12回)分が重くのしかかる
「あーあー」
白野はあきらめ切れないといった表情でため息をついた。そうして一応箱を開けてみる
「まく……ら?」
前回同様小奇麗に纏められた包装の中から現れたのは、枕のような白い横長のクッションだった
ただ、単に枕と思わせないのは中心から広がる横長のスリット
スリットは裏まで突き抜けていて反対側が覗ける
中には硬い骨組みも入っているようで、何か別の器具と接続するような穴も見える
つるりとした光沢を持つ表面素材からは、汚れを寄せ付けない特性が容易に見て取れる
「中々硬めだし、枕にいいかも」
不思議な構造は気になったが、白野は枕として使うことばかり考えていた
そうしてクッションに頭を預けて寝転がったまま説明書に目を通していく
●バスト・サポート・クッション
先週のクリップ(洗濯バサミ)はいかがでしたでしょうか
このクッションはクリップの利用を助けるサポートグッズです
「さぽーと……」
どうやらコレひとつでは意味を成さないらしい
それを知って白野はクリップを捨てずにおいたことに安堵した
「……て、なんで安心してるのよ。もう使わないのに」
白野は自分の貧乏性な性格につっこんだ
クリップの苦痛には慣れたでしょうか?
人の体は意外とすぐ苦痛に慣れるもので、物足りなくなってる方もいるかも知れません
しかし逆にもう使っていないという方も多いのではないでしょうか?
痛いから?
いいえ、違います
苦痛にはすぐ慣れても、中々慣れられないものがあるのです
それは『恐怖』という感情
その一文に白野はドキッとした
痛みの強さは知っているはず
なのに手が出ない
いいえ、痛みを知っているからこそ手が出ないのです
ちょうど乳首のかさぶたが取れた頃、体に傷が残っていないのを確認した白野はもう一度だけクリップに手を伸ばした
だが、挟めなかった。理由は説明書の通り
体に傷をつけたくないというのは本心だが、恐怖にあっさり負けた自分をごまかす意味合いもあった
白野はまたしても心の中を見透かされていたのだ
自分のことを弱虫などと責めないでください
本能的に手が止まるのは当たり前なのですから
……では自分の手ではなかったらどうでしょう?
止まってくれますか?
その手は、非情に、そして冷酷に、あなたに苦痛をもたらすでしょう
このクッションは非情でそして冷酷なのです
白野はそこまで読んで、枕代わりにしていたクッションから飛び起きた
クッションからまがまがしい何かを感じたからだ
「な、何があるっていうの?」
鼓動がはやる
それは恐怖か期待か、白野自身ははやってる事に気付かないまま、クッションの使い方へと読み進んだ
読み終えて白野はごくりと唾を飲んだ
クッションのスリットはクリップを仕込むための隙間だった
クリップは口を開けたままスリットの奥に固定され、乳首がやってくるのを待つ
あとはクッションを抱きしめてもいいし、クッションの上にうつ伏せに寝転がってもいい
とにかくクッションに刺激を与えればクリップは牙を剥き、乳首へと噛み付く
『苦痛』というチーズの乗せた『ネズミ捕り』
それがこのクッションだった
「意外と、えげつない、ね」
白野の目には既にスリットが口に見えていた
すでにびびっている自分をごまかすかのように白野が強がる
「枕のくせに……、変な気をきかせやがって……。言っておくけど私は怖くなんか……」
自分のことを弱虫などと責めないでください
本能的に手が止まるのは当たり前なのですから
「くそぅ……」
なんだか知らないが白野は侮辱されたような気分になっていた
しかし、それと同時にこれならできるかもしれないという気持ちもあった
悔しさ半分の気持ちを残したまま白野はのろのろとクリップを探し始めた
「やっぱり私は怖がってなんかない!!」
そうこうしている内に白野の達した結論はこうだった
根っからの強がりな白野は、強がり続けることを選んだ
「買っちゃったものはしょうがないから試すだけだからね!!」
クッションに対してよくわからない宣言をする
そのクッションには既にクリップが仕込まれていた
「怖くない証拠に強さは最大だからね! それに1時間は外れないようにしたんだから!」
クッションに仕込まれたクリップは、ネズミ捕りが作動するとすぐクッションと分離するようになっている
分離しないと奥に仕込まれたクリップは外せないし、強弱のメモリもいじれないからだ
しかしクッションにはクリップを固定したままにするタイマーが付いていた。白野はそれを1時間に設定したのだ
「見てなさい! あんたなんか潰してやる!」
ベットの上に転がされたクッション。その上に白野が覆いかぶさる
「つ、潰して……」
白野の動きが止まる
確かに自分の手で挟むより、寝転がるだけのこっちのほうがやり遂げる人は多いだろう
しかし、確実にやられるとわかっている分、実は恐怖はこっちのほうが強いのだった
説明書はわざとその解説を省き、簡単ですよと謳う
それは苦痛に慣れるように、恐怖もまた乗り越えることで、慣れるからだ
この先エスカレートする自虐コースに恐怖は不要
早々に恐怖を取り除くことがこのグッズの真の目的だった
白野は全身に冷や汗をかきながら、腕立て伏せに似た状態で静止していた
(怖い!)
(怖くない!)
(痛い!)
頭の中をさまざまな感情が駆け巡り、ぶつかり合う。それは「うぅ〜……」といううなり声に変わって口から漏れていた
(決めたんだから! 決めたんだから! でも……)
やる決めた決意が揺らぐ。白野はその決意が折れないよう支えるのに必死だった
意識のせめぎあいの中、混乱してきた白野の脳内で、ある感情が浮かび上がってきた
それは前回乳首にクリップを挟んだ時の感情。痛みの恐怖ではなく、その影に隠れていた快感
(そうだ……)
クリップを外してからぐしょぬれになっている事に気付いた股間
痛みと同時に確かに快感もあった
(気持ち……いいんだ。忘れてた……。気持ちいいから、やるんじゃない……)
1時間にセットされたはずのタイマーが、半分ほど進んだ頃、白野の意識は性欲に食われた
やると決めた決意を性欲が後押しする。白野自身はそんな風に都合よく解釈していたが
その実、決意は口実となり、体は貪欲に快楽を求めた
(決めたんだから……、やらなきゃ……ねェ)
白野は自分の乳首をそおっとスリットに持っていき、仕込んだクリップの間に落とし込んでいった
「はぁ……、はぁ……」
腕立て伏せに似た状態で体を支えるのはたしかに辛いが、その吐息は艶を帯びていた
白野はクッションの下に手を回し、やさしく抱きしめるようにゆっくりと体重をかけていった
まるで赤ん坊に乳首を吸わせるかのようなやさしさ
そしてついにクリップが牙を剥く
バチン!! という音と共に焼けるような痛みが両乳首に走る
クッションの中で乳首は今にも引きちぎられんばかりにつまみ上げられていた
だが、白野の表情には変化がなかった
挟まれた瞬間、ぴくりと眉間が動いただけで、むしろ穏やかな顔をしている
「あぁぁ……、すごい……、すご……い……」
痛覚が脳の中でガンガンと警鐘を鳴らす
うっ血した乳首からクリップを引き離すように手に指令を出さなければいけない
しかし脳はアドレナリンの海の中、快楽という感情に溺れていた。
手は胸ではなく、股間へと伸び、濡れたアソコをまさぐった
「はぁあ……、こんなになってる……。すごい……こんなの初めてだ……」
濡れたパンツの中、クリトリスはありえないほど勃起し、膣内ではGスポットが腫れあがって隆起していた
白野はそんなアソコをなぶり倒し、さらなる快楽をむさぼった
「ああッ……、気持ちいいッ……、やぁ……イクッ! これ、何度でも……、イケちゃうッ!!」
繰り返し押し寄せる絶頂の波に白野の意識は飛んでいった
意識が飛んだ後は凄惨なものだった
アソコは擦り切れんばかりにこすられ、膣内にはその辺に転がっていたTVのリモコンが突っ込まれた
自ら転がって、後背位でのプレイを楽しむかのような姿勢でリモコンをピストンさせたりもした
乳首をくわえ込んだクッションは乳首ごとこねくり回され、更なる苦痛と快感をもたらした
そして、あろうことかタイマーが切れて外れる前に、力づくで引き剥がそうとしていた
「んぐぐぐ……、くあぁ……、いだ゛い……、きぼちいいぃぃッッ!!」
伸び切った乳首が真っ赤になって悲鳴を上げる
だがそれも白野にとっては快感でしかなかった
「ぎゃひいッッ!!」
ブツン!! という感覚と共にクッションが宙を待った。その軌跡を描くように赤い飛沫となった血が舞う
本当に乳首がもげたのではないかというほどの激痛
あまりの痛みについに脳は停止した
白野は白目を剥いたまま、そのまま後ろに倒れ込んで気絶した
次の日の朝
白野は乳首から響く鈍痛で目を覚ました
アソコからリモコンを引き抜きもそもそと起き上がる
血にまみれ乱れ切ったシーツ。同じく乱れ切った髪の毛。乳首の内出血
ベットの上はどう見ても凄惨なレイプの現場でしかなかった
白野の脳裏に父親に襲われた記憶が蘇る
だがなぜかその記憶から恐怖が薄れていた
快楽による上書きがなされつつあったのだ
「こんなレイプなら……、いいかもね……」
ボソリとつぶやいて白野は「ふふふ」と笑い出した
ありえない言葉が口から飛び出し、おかしくなったのではないかと思ったからだ
(いっそ、おかしくなっちゃえば……)
そんな考えが一瞬走った。白野は慌てて首を横に振る
「さーってと、お風呂入ってこよ」
そんな考えや、昨日の出来事を洗い流すかのように白野はシャワーへと向かった
簡単に洗い流すことなど出来るわけがない
実は白野も気付き始めていた
彼女の強情さが、まだなんとか彼女が彼女であることを支えていた
END