“ピンポーン”  
いつもの金曜日  
いつもの8時すぎ  
いつものようにインターホンが鳴った  
「まいどどうもー、宅急便ですー」  
瀬里奈は荒い息遣いを抑えながら、できるだけ冷静を装って荷物を受け取った  
「あざーす」  
配達業者はそんな瀬里奈の様子に気を止めることもなく、足早に玄関を去っていく  
瀬里奈は震える手でドアに鍵をかけると、「ふ、ふぁぁ……」と息を漏らしながらその場にへたり込んだ  
前かがみになった瀬里奈の胸元から黒い輝きが覗く  
とっさの来客に慌てて羽織ったバスローブ  
下に着込んでいるのは、中学時代の名前入りジャージでも、ひざの擦り切れたスウェットでもない  
それ以上に、絶対に人には見せられない漆黒のボンテージスーツ  
コルセット風の形をしたスーツは、下から靴紐のように折り重なった紐で瀬里奈を締め上げている  
ラバー素材との相乗効果で肺は圧迫され、息をするのも苦しい  
しかし瀬里奈はその状態を恍惚とした表情で受け入れ、酔いしれていた  
 
羽織っただけのバスローブは徐々に瀬里奈の肌を滑り落ちていく  
出てきたのは、締め上げ、強調されるも、決して隠されることのない乳房  
30代前半のやや垂れ始めた大きな乳房はスーツによって持ち上げられ形よく主張されていた  
妖しく彩られる自分の姿も瀬里奈のお気に入りだった  
瀬里奈は自らの左手を乳房になぞらせると、根元から絞り上げるようにもみしだいた  
ゆがむ乳房と共に瀬里奈の甘い吐息が漏れる  
 
人のいなくなった玄関に残された瀬里奈の熱い息遣い  
それともう一つ、蚊のように小さなモーター音が残っていた  
瀬里奈ははしたなくもその音源へと手を伸ばす  
紐のように細いビキニパンツが食い込む瀬里奈の股間  
その奥から聞こえるモーター音が瀬里奈をへたり込ませた張本人  
瀬里奈は股間を強く押さえつけるとモーターの振動を楽しんだ  
「はぅぅ……」  
狭い玄関で瀬里奈は一人、小さなエクスタシーにくっと背中を丸め身もだえした  
 
その傍らには、差出人【depths】の小包が転がっていた  
 
瀬里奈が自分の本性に目覚めたのはほんの数週間前  
そのきっかけはインターネットで見つけたとあるアダルトグッズ通販会社【depths】だった  
深淵を意味する【depths】の名を冠したその会社は  
本当の自分との対面、閉ざされた自分の解放を謳い、独特なシステムで販売を行っていた  
それがこの、瀬里奈も利用している宅配システム  
初回は費用も安く、アイテムもライトな手を出しやすい内容で敷居を低くして  
気に入れば続ければいいし、止めたくなればいつでも止められるようになっている  
子ももうけず、夫は単身赴任で暇と体を持て余していた瀬里奈は軽い気持ちでそれに手を出した  
もちろん、「すぐに止める」心積もりで  
 
その中でも瀬里奈が選んだのは、緊縛・拘束フェチに主眼を置いた【bindコース】  
単純に購入前の適正コース診断で【bindコース】が浮かび上がったから始めたのだが  
瀬里奈自身は【bindコース】が自分に合うかどうか半信半疑だった  
ただ初回のセット内容は全コース共通だったため、深くは考えずにそのまま決定した  
 
しばらくして、小包の配達が始まった  
vol.1 小型のローター  
vol.2 コルセット型のボンテージスーツ  
vol.3 ぴっちりとしたボンテージのビキニパンツ  
vol.4 アイマスクとギャグボールのセット  
次々と拘束アイテムが届いていった  
そして今日届いた小包が、vol.5  
 
瀬里奈はほてりの納まらない体をなんとか動かして部屋へと戻った  
その手には大事そうに抱えられた郵便物  
リビングの革張りのソファにドッと身を預けると膝の上で箱を開けてゆく  
初めて届いた時は恐る恐る開封していた箱も、今はもう猛る衝動を抑えきれずに乱暴に破られていく  
 
(これって……!!)  
透明なプチプチの向こうにうっすらと、黒い硬い棒状のアイテムが確認できた  
瀬里奈は初めて触れる本格的なディルドをしげしげと眺めた  
直径約3センチ、長さは15センチほどの、どちらかと言えばやや小さめのサイズだが  
黒光りするボディとゴツゴツと飛び出したイボが凶悪さをアピールする  
 
しばらく眺めていた瀬里奈だったが、突然思い出したように箱の中をひっくり返した  
箱の底から薄い冊子がバサリと落ちた  
表紙には『 【bindコース】 テキストブックvol.5 』と記されている  
瀬里奈は冊子を拾い上げると、ソファに深く座りなおして目を通し始めた  
 
この冊子はアイテムに毎回付属する  
単なる商品説明、使用方法には止まらず  
テキストブックと名が付くだけあって重要な『課題』が載っているのだ  
このアイテムで、こういうことををやりなさい、という指令  
 
例えば前回の課題はこうだった  
課題  
 『宅配業者を頼みましょう  
 vol.1.2.3のアイテムを装着した状態で待ち、荷物を受け取ります  
 なおローターは稼動状態、アイテム以外の衣類は、一枚までとします』  
課題のヒント  
 『vol.3のビキニパンツにはローターを固定できるくぼみがあります』  
 
つまり、先ほどアイテムを受け取った状態が課題だったのだ  
課題はユーザーにとって目標となり、ただ漠然とアイテムだけ手渡された状態に比べて、  
飽きずに継続利用させる効果があった  
そして課題をクリアした者は更なる深みにはまり、より強い刺激を求めていくことなる  
今の瀬里奈はまさにその深みへと降りつつある状態だった  
 
目を通し終えた瀬里奈は冊子をソファに放り出すと、大きなため息をゆっくりと時間をかけて吐き出した  
妖しい色を含んだ吐息が部屋の空気を変える  
いつの間にか瀬里奈の左手は股間へと添えられていた  
細い指はぴっちりと閉じたビキニパンツに隙間をこじ開け、濡れた女性器を慰める  
愛液がソファまで濡らしたところで、右手はディルドを手に取った  
 
課題  
 『ディルドは内側からあなたを締め上げる存在です  
 誰にもその存在を知る術はありません  
 例え、外出しても何も問題はないのです』  
課題のヒント  
 『vol.3のビキニパンツにディルドを固定することができます(図3参照)』  
 
瀬里奈は疑うことも無くすぐさまそれを実行しようとしていた  
ディルドの先端が女性器にあてがわられる  
瀬里奈は全身に汗をかきながら、ゆっくりとディルドを押し込んでいった  
「……う、ふぅぅ……っ」  
自分の指以外の物が中へ入るのは久しぶりだった  
やがてディルドの先端は最深部に到達した  
特に奥まで刺激されるのは、前に夫と会った以来、約半年ぶりだ  
「はぁ……、はぁ……」  
少しでも動かすとイッてしまう  
瀬里奈は宙を仰いだまま少し間をとって、気持ちを落ち着かせた  
イッてしまって何も問題はないのだが、それに没頭して課題がまっとうできなくなるのが嫌だった  
 
少し冷静さを取り戻した瀬里奈は、テキストの図のようにディルドを固定しようと動き出した  
「……ッ!?」  
ところが良く見ると、まだディルドが5センチ近く外に飛び出しているのだ  
図の通りにするには、硬いビキニパンツの下にディルドをもぐりこませる必要がある  
つまりあと5センチ、奥へと突き入れなければならないのだ  
瀬里奈はそっとディルドのそこに手をあてがうと、イッてしまわないようじんわりと力をこめた  
1センチ……  
2センチ……  
ディルドの先端が子宮を押し上げる  
3センチ……  
これ以上はもう入らない  
そう思った瀬里奈はパンツのほうを引っ張って伸ばした  
「う……、ううんっ……」  
硬いパンツはほとんど伸びない  
力いっぱい引き伸ばして、やっとディルドのお尻が隙間に入った  
パンツを引っ張っていた手は、替わりにもぐりこんできたディルドに押し出されるように外れ  
引っ張っていた力はそのままディルドを押し込む力に替わった  
 ゴルリッ  
体の中で何か音がした気がした  
ディルドが子宮を小突く音  
 
「はぁっ!! ああっ!! はぁぁぁぁ……ッ!!」  
瀬里奈の体が跳ね上がる  
残りの2センチが瀬里奈を絶頂へと持ち上げた  
両の手はディルドを抜こうと股間をまさぐったが、もうそこには何も無い  
つるんとしたビキニパンツが指の進入すら許さなかった  
 
やがて手の動きは変わっていった  
快感から逃れる方向から、快感を求める方向へ  
さらに股間を押し上げ、もみしだき、貪欲に快感をむさぼる  
快楽に負けた瀬里奈はそのままソファの上をのた打ち回り続けた  
 
課題のクリアにはまだ時間がかかりそうだ  
 
end  
 

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