「突然な話ですまないが、ちょっと海外に転勤になった」  
「……は?」  
 
珍しく親子三人が揃っての夕食の席で、突然海斗の父親がそう切り出した。  
何でも大分前からアメリカのほうに支社を出すことを計画していた父の勤める会社が何ヶ月も前から海斗の父親に支社への出向を打診していて、それを承諾したらしい。  
待遇もそれまでは平社員だった父親には破格のものらしく所謂栄転というやつなのだが、間の悪いことに海斗はこの春に大学生になったばかりなのだ。  
当然ついていける訳が無い。  
そしてそれは海斗の両親も理解しており、両親は既に手は打ったと言ってきた。  
家が隣同士で尚且つ海斗と同じ歳の子供が居たこともあって親しい近所付き合いをしていた山村一家に海斗をどうにかして置いてはくれないかと頼み込んだと言うのだ。  
母親は父親についていくので今の借家は契約を打ち切るらしい。  
まぁ、これには山村家は五年前に一家の大黒柱を交通事故で亡くしており、男手が無いということもあったからだろう。  
この辺りも物騒になってきたわねぇ、というのが海斗の母親の最近の口癖になっていたのだが、どうやら自分達のことよりも山村家を心配しての言葉だったらしい。  
そして、そんなことを聞かされては海斗も妙に山村家のことが心配になりだして、幾ら気心の知れた相手とは言え結局は赤の他人の家に住むことに悩んでいたのだが、最終的に承諾した。  
海斗のはっきりとした返事を聞いて満足したのか、向こうでの準備もあると両親は次の日にはすぐにアメリカに発ってしまった。  
 
そんなやり取りがあったのが一週間前。  
 
そして、山村家にお世話になり始めてから一週間が経過した頃、海斗は山村家での暮らしを甘く見ていたことを実感した。  
何せ一緒に住むのは全員女性で、海斗はそれを過敏なぐらいに意識していたのだが、山村家側はそうではないらしく、恐ろしく無防備なのだ。  
法律的に結婚できる歳……16歳の時に駆け落ち同然で当時既に社会人だった男性と結婚し、18歳の実の娘が居るのにまだ36歳という若さの明菜が特に酷かった。  
海斗と高校時代は同じ学校で、美大に家から通うのが辛いからそろそろ一人暮らしをしたいと言っている明菜の一人娘の果歩は明菜に比べれば海斗を多少は意識しているようなのだが。  
海斗や果歩と高校に入学した為に田舎から上京してきたという明菜の姉の子供である由美は海斗とまだ打ち解けていないのだが、たまに風呂から出た後にタオル一枚でリビングをうろつくことがあるので侮れない。  
まぁそんなこんなで海斗は世間一般的には贅沢(?)な悩みに直面していたのだった。  
 
「……駄目だ。一度意識しだすと頭から離れない」  
 
海斗は表情が殆ど変化しないのだが、家族や付き合いが長い明菜や果歩には顔を見られるだけで大体何を考えているかばれてしまうという欠点があった。  
今、はっきりと明菜たちを“異性”として意識していることをばれると色々と面倒なことになることだけは分かっていたので、極力そんなことを考えないようにしていたのだが……  
 
昼間のことだった。  
海斗はその日は大学の講義が一つも無く、家には偶然にもパートの仕事が休みだった明菜と二人きりで。  
講義が無いからと朝果歩が起こすに来たのにも関わらず眠り続け、気がつけば時刻は昼前で。  
梅雨の時期ということもあってか大量の寝汗をかいていた海斗は昼食になりかけの朝食を食べる前にまず風呂に入ろうとして、バスタオルに着替えを用意して洗面所のドアを開けたのだが……  
 
「……あ」  
「……え?」  
 
恐ろしく間の悪かった、としか言いようが無かった。  
丁度明菜が仕事が休みだったのも、仕事が忙しくてあまり出来ていなかった洗面所と風呂場の掃除で汗をかいたのでそのまま風呂に入っていたことも。  
そして、体を拭いて丁度ショーツを穿こうとしていた時に海斗が洗面所のドアを開けたのも。  
 
「…………」  
「…………」  
「きゃ「すいませんでしたああああああああああっ!!」……あれ?」  
 
明菜が反射的に叫ぶよりも、一瞬あまりの“絶景”に思考と体が凍りついてしまった海斗が復活して慌てて逃げ出したほうが早かったからか、明菜はすぐに冷静さを取り戻した。  
そして、冷静になった明菜が最初に思い浮かべたのは、海斗の真っ赤になった顔と起きたばかりだったからかすぐに反応していた海斗の息子だった。  
 
(ちょっと前まで小さな男の子だったと思ってたんだけどねー……海くんも立派になってるんだ)  
 
明菜には当然、見られて恥ずかしいという気持ちはあった。  
しかしそれ以上に自分の裸で反応していた海斗に“嬉しさ”を感じていたのだ。  
 
「ほんと、海くんってばおっちょこちょいなんだからー……」  
 
口では海斗のことを非難していたが、表情がだらしなく緩んでいたのは、明菜自身気がついていなかった。  
 
そして思わず部屋まで逃げてきた海斗は大きな音を立てないようにと気をつけているドアを豪快な音を立てながらも閉め、ドアにもたれかかるようにして倒れこんでいた。  
 
「いきなり追放の危機かなこれは……」  
 
何せ、しっかりと見てしまったのだ。  
そしてわざとではないとは言え、海斗の不注意には違いないことは確かではあった。  
同時に、まだしっかりと反応して寝巻きのズボンの下から自己主張している愚息を見て大きく溜息。  
 
「一週間の間に一度も抜いてなかったからな……ほんと最悪だよ俺って」  
 
罪悪感を感じつつも、瞼の裏側に焼きついたように先ほどの光景が頭の中で蘇る。  
一児の母とは思えない肢体。  
前に酒の席で酔った本人から聞いたのだが果歩よりも2サイズも大きいFカップの胸。  
そしてショーツを穿こうとしていたことで片足を上げていたことによりはっきりと見えた明菜の……  
 
(っだーっ! そーゆーこと考えてるから収まりがつかないんだって!)  
 
そして、頭を冷やすという意味も込めてドアにカギをかけてから、海斗は明菜で一度抜いた。  
 
一方、とりあえず海斗に洗面所でのトラブルのことを話し合おうとやってきていた明菜は、またもタイミング悪く海斗の押し殺した声を聞いてしまったのだ。  
そして明菜もまた先ほどの海斗のように逃げるように自室に駆け込んだ。  
部屋に駆け込んだ明菜には心臓の音がとても感じられた。  
 
(やだ……私興奮してるよね……?)  
「海くん、私のことを呼んでたよね……?」  
 
思わず胸が高鳴った明菜ははっきりと自分の想いにこの時気付いてしまう。  
そう、明菜は何かと自分たちのことを心配し、色々と家のことなどで手伝ってくれていた海斗のことが……  
何時からだろう、それとなく海斗のことを視線で追うようになったのは。  
明菜はそんなことを考えながら、自分の意思とは別に右手を股の内側にそっとあてた。  
 
「濡れてる……」  
 
明菜が10年前に消えてしまっていたと思っていた性欲が蘇った。  
こうなると明菜は海斗が欲しくて欲しくてたまらなくなってしまった。  
……そしてまた明菜も海斗を思って自慰を始めてしまうのだった。  
 
「海くん……私っ……もう恥ずかしいよぉ…………」  
 

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