転校生としての最初のあいさつ。
教室の前に立って、わたしはなんとか笑顔でいようと努めてる。
名前も言った。どこから引っ越してきたのかも言った。
じゃあ、あとは、なに?
お兄ちゃんのことばがぐちゃぐちゃな頭の中を乱暴に引っかきまわす。
わかってる。お兄ちゃんはわたしで遊んでるだけなんだと。
いつもいつも、わたしにヘンな命令をして、それを泣きそうになりながらするわたしを見て、楽しんでるだけなんだと。
今朝会ったばかりの、今日から担任となる先生が、すぐ横でわたしのことを見てる。
今日からクラスメイトになる男の子たちが、女の子たちが、いろんな顔してわたしの次のことばを待ってる。
みんなが、わたしに注目してる。
初めて、顔をあわせたんだよ。
初対面で、これからずっといっしょにやってく人たちに、わたし、ヘンな子だって思われちゃう。
わたし、ヘンな子じゃない。
でも、お兄ちゃんの命令に、どうやって逆らえばいいのか、わたしにはわからないから。
息を大きく吸い込んで、顔を上げて、みんなの目を見回しながら、
震える脚をおさえることもできず、心臓がドックンドックンはねていて、湯気が立ちそうにほっぺが熱くて、
それでも、わたしは、なんとか、無理矢理、お兄ちゃんに命じられたとおり、叫ぶみたいに言っちゃった。
「わっ…わたしっ、三度の飯より『保守』が大好きなんだすっ……!」