「むぅ……困った」  
 苦しそうな声をあげ、久住徹はちゃぶ台の上にある『それ』を見た。  
 大。  
 『それ』はそんな形をしていた。細いものが一本一本集まって『大』の字を作っている。  
 どことなく人を人を表しているように見えなくもない……いや正確には人を表していた。  
 誰に聞いても日本人なら一つの答えに行き着くだろう。有名なものだった。  
 わら人形。  
 おそらく『それ』が何なのか聞かれたら誰もがそう答えるだろう。正真正銘、どこからどう見てもわら人形だっ  
た。  
「どうしろってんだ、これ?」  
 一般にわら人形というものが不吉なものであることは小学生でも知っているだろう。そして、徹の目の前に  
ある『それ』も例に漏れずというか、強烈なまでの不吉な雰囲気を醸し出していた。  
 どうして徹の前に人を呪えそうなものがあるのか、何も不思議なことではなかった。  
 徹の家は寺であった。  
 それも、呪術や悪霊退治を生業の一つにしている……そんな寺の息子だった。  
 徹自身、両親と同じく霊能力者であった。そのため、その筋の専門家として今まで様々な呪いや悪霊絡み  
の依頼は受けてきた。『本物』のわら人形を見ることも初めてではない。だが……。  
「どうかしたの? とーるくん」  
 台所からお盆に湯飲みを二つ載せて一人の少女が姿を見せる。  
 長い髪を頭のてっぺんでひとつにとめて、エプロン姿。高校生程度の年齢にしか見えないことをのぞけば若  
奥さんと言ってもいい空気を持った少女だった。  
「ちょっと困ったことになった」  
 徹はため息をつき、わら人形を指さした。  
「わら人形?」  
「師匠から預かったものでね……処理しておいてくれだって」  
「でも、とーるくんなら大丈夫でしょ? わら人形なら」  
「普通のならな。ただこの人形、特別念が込められているというか、呪われているというか……かなり厄介な  
んだよ」  
「お疲れさま」  
 少女は徹の前に湯飲みを一つ置く。中身は緑茶だった。  
「困ったもん預けるよな……師匠も。こんな時に限って親父もお袋も遠征中だし」  
「でも、とーるくんならきっと大丈夫だよ」  
 信頼百%の明るい表情で少女は笑う。  
「むぅ……」  
 少女の笑顔に徹は少し照れたような顔でお茶をすする。  
 如月美保。  
 それが少女の名前だった。徹と同じ高校に通うクラスメートで、……もと依頼人でもある。かつて悪霊に憑か  
れた美保を救ったのが徹だった。  
 それが縁で付き合いだした、というか半ば嫁入りのような感じで美保は久住家に住んでいた。  
 一応、除霊後のアフターケアという名目もあるにはあるが、有名無実であることは徹も美保も分かってい  
た。  
 クラス一可愛いとも言われている美保と同棲しているなどと知られれば、クラス内で徹がどういう私刑に遭う  
か想像に難くないので、徹は何ともスリリングな毎日を送っていた。  
 
「でもさ、どうして厄介なの?」  
「使わないと除霊出来ない」  
 ため息を吐きながら徹は呟く。  
 呪いのわら人形をどう使えと?  
 あいにく愛する人は目の前にいたが、憎い人は特別いなかった。だからといって、誰かを殺したいほど憎ん  
でいる人間に贈呈するなんてことは……霊能力者として、人としても有り得ない選択肢だった。  
「う〜ん、それは困ったね」  
 美保も苦笑を浮かべて呻る。  
「ほんとだよ」  
「私に出来ることがあれば何でも協力するからね」  
「ああ」  
 美保の言葉は嬉しかった。ただ彼女に手伝ってもらえることがあるかどうかはとても疑問であった。そもそも  
徹自身どうすればいいのかが分からない。  
(師匠いわく、俺ならきっと『良い使い方』を思いつくって言ってたけどな……)  
 人形を渡したときの師匠の言葉を思い出す。  
 徹を信頼しているまっすぐな目……だとは思うが何だか悪戯を思いついた子どものような光が奧にあった。  
(……『良い使い方』ね……)  
 わら人形。その使い方は簡単だ。  
 人形を傷つけることで、呪った相手にも同じ傷を与えることが出来る。  
 一般的(?)な使い方では場所や時間に指定があったが、徹のような霊能力者であれば、細かい手順を無  
視して呪うことも出来るだろう。  
 呪う相手の髪の毛や爪、体の一部があれば、今この場で呪うことも出来る。  
「…………ん」  
 頭を悩ませ呻っているとふと視線を感じた。  
 気が付けば正面に座っている美保がじっと徹を見ていた。  
「えへへ〜」  
 視線があうとはにかんだ笑顔で笑う。  
「あー、うん」  
 何がうん、なのか分からないが徹も同じく笑い返す。  
 じ〜。  
 わら人形に視線を戻しても美保の視線は相変わらず徹に注がれているのを感じる。  
 よくあることと言えばそれまでなのだが、照れくささは否定できない。  
(集中しろよ……俺)  
 美保と生活するようになって、少し冷徹さが足りなくなってきたと思う。それはそれでいいのだけど。  
 まさか、集中できないから離れていてくれとは言えないし……言いたくもなかった。  
「むぅ……あ」  
 わら人形から美保に視線を移す。美保は変わらず徹のことを見ていた。  
「何か解決策思いついたの?」  
「あー、むぅ」  
 曖昧に返事を濁しながら徹は頷いた。  
 わら人形の使い方。それを徹は思いついていた。おそらく師匠の言う『良い使い方』で。  
 何でそんな考えを思いついたのか、謎である。ひょっとしたら、天啓なのかもしれない。  
 徹は苦笑しながら美保に言った。  
「美保の髪の毛をくれないか?」  
 
 
(とーるくん、どうするのかな?)  
 美保は心の中で首を傾げながら、斜め前の席に座る徹の姿を見た。  
 翌日の学校である。  
 昨夜、徹は美保の髪の毛をもらうと少し苦い顔をしながらわら人形に髪を埋めていった。  
 それで昨日は終わり。  
 わら人形に美保の髪を埋めたということは徹は美保にわら人形を使う気なのだろう。  
 無論、美保に恐怖は無かった。かつて自分を救ってくれた徹には全幅の信頼を置いているし、徹が人を害  
することに霊能力を使うとも思わない。  
 正直、使用準備をしただけで、使う気がないんじゃないかな? とすら思ってしまう。  
 机に顔を伏して寝ている徹の姿を見ると尚更そう思う。  
 授業中眠っているのには注意をしたいと思うがあいにくと中途半端に席が離れていた。  
「では……練習問題1を久住。お前が解け」  
 徹を起こすような大きな声で数学教師が言う。  
「も〜ぅ、とーるくん」  
 誰にも聞こえない小さな声で非難する。授業中に寝るなんて何をしているんだろう。  
「あと如月! お前もだ! 練習問題2!」  
 ふぇ?  
 危うく声に出してしまいそうなのを抑える。どうして? と聞きたかったが答えは教師が先に言ってくれた。  
「さっきからぼんやりよそ見をして、授業を聞け! 授業を!」  
 はい。たしかにとーるくんばかり見てました。  
 口に出せない言い訳をしながら美保は大人しく教科書片手に席を立つ。  
 見れば徹も教科書を手に立ち上がっている。  
(あれ?)  
 一緒に暮らしている美保だから分かる。眠りが浅かったのか、それともそもそも寝ていなかったのか彼にし  
ては早い寝起きだった。  
(とーるくん?)  
 黒板で二人並んで立ちながら問題に向かう。隣をちらりと見ると、居眠りしていたと思えないはっきりとした  
顔で黒板を見ていた。  
「まさか、こんなに早く機会が来るとはな」  
 黒板にチョークを走らせながら徹がぽつりと言った。  
 機会? 何のこと?  
 疑問を視線にのせて徹に向けるが彼の目は黒板に向かったままだった。  
 
 トントン  
 
「え?」  
 不意に肩を叩かれたように感じ美保は振り返る。不思議なことにそこには誰もいない。ただ少し離れた所に  
教師が美保たちを見ているだけだ。  
 気のせい?  
 
 トントン  
 
 そう思ったが、今度は逆の肩が叩かれる。  
 そこは徹のいる方向で……彼の悪戯かと思ったがそれは無いだろう。彼の右手はチョークを持っているし左  
手は上着のポケットに入ったままだ。  
(?)  
 疑問だったが、気のせいなのだろう。そう思い美保は黒板に向かい直す。  
「っっ!」  
 今度は別の場所に感触があった。  
(な、なにこれ……)  
 何かが触れるような感触が美保の身体に来た。スカートを通り越して美保の下半身に直接来る。気のせい  
などではない。明確な意志を持って美保の身体を動き回る感触。  
 最初はなで回すだけだった動きもすぐに愛撫のような感触に変わっていく。  
 まるで見えない手に弄られているようだ。  
 
(んっ!)  
 痴漢? そんなわけがない。  
 恐怖にも似た感情がわき上がる。そんな美保の感情はお構いなしに、見えない何ものかは美保に刺激を加  
えてくる。  
 美保にはまったくそのつもりは無くても身体のほうが反応してしまう。何よりもその動きは美保の感覚を巧  
みに引き出す動きだった。  
(やぁっ!)  
 授業中。それも黒板の前。声が出せるわけがない。  
 美保の意志に関係なくその感触は膣に侵入してくる。指で掻き回されるのと似ていた。  
(と、と〜るくぅん……)  
 身体を襲う謎の刺激に耐えながらも、いざという時には一番頼りになる恋人を見る。  
 徹は美保の異変に気が付いていたのか視線は美保に向けられていた。  
 その目は……何というか悪戯っぽくキラキラと輝いていた。美保には見覚えのある瞳。よくえっちの最中彼  
が向けてくる瞳でもあった。  
(ま、まさかとーるくん……)  
 徹の左手。ポケットに収めていた手。よく見るとそこには何かがあった。昨夜見たもの……わら人形。  
(……わら人形の呪い!?)  
「あってるよ」  
 徹がそっと声をかけてくる。  
(何があってるの!)  
 美保としてはもの凄く睨んだつもりだったが、正直迫力があったかどうか自信はない。  
「その解き方であってるよ」  
 笑いを堪えた表情で徹は黒板を軽く叩く。  
(うう……)  
 間違いない。徹の『呪い』だった。  
 左手は今も美保の身体を呪いで弄っている。  
(うう〜、これじゃ私変態さんだよ)  
 徹に触れられるならどこでも反応してしまう自分の身体が恨めしかった。でも。でもだ、呪いのわら人形の力  
とはいえ、恋人に触られるのでは意味あいが違うのだ美保にとって。  
「ん!」  
 深い部分に刺激が走る。  
 じゅくりと湿った音が聞こえた気がした。下着の中が湿ってきているのは美保にも分かってしまう。  
(いやぁ〜)  
 声にならない悲鳴をあげる。美保が困った時は助けてくれる人は嬉々として悪戯をしているのだ。  
「如月、どうかしたか?」  
 訝しげに思ったのか教師の声が聞こえる。頬を紅潮させた美保はろくに答えることは出来ない。  
 
「いいえ、だ、大丈夫です」  
「そ、そうか何か顔が赤いが……」  
 他の何人かの生徒もいぶかしげな顔で美保を見ていた。ひどく恥ずかしかった。  
「あ、あぅ……」  
(お、音聞こえちゃうよぉ……)  
 自分の身体から湿った音が聞こえる。万が一にでも徹以外の生徒に聞かれたら……恥ずかしくて学校を辞  
めたくなる。  
 美保は出来るだけ平静を装いながらも問題を解く。  
 隣にいた徹はちょうど問題を解き終えた所だった。チョークを置き、ちらりと美保を見る。悪戯をやめる気は欠  
片もなさそうな目だった。  
(あ、ああ……んっ……)  
 止まることのない刺激は、美保を無理矢理にでも高ぶらせていく。だが、それでも絶頂に達するまでではな  
い。中途半端な刺激は生殺しである。  
 もどかしい感覚が理性を削る。だが美保は気合いと根性をフル動員してどうにか問題を解いた。  
 湿ったショーツはぐっしょりと重く。溢れた蜜は今にも足もとに流れてきそうだった。  
 席に戻るまでの間、それでもまだ止まらない刺激に悶えながら徹をにらみ付ける。  
 今日の晩ご飯、絶対徹くんの嫌いなものだもん。  
 美保は固く決意した。  
 身体がイヤでも火照るのが分かるし、叶うことなら身体を襲う欲求を満たしたかった。だけどそれは徹の思  
い通りになるようで、妥協のできない点だった。  
(ん、んんぅ、むぅ、絶対我慢するもん)  
 感じた顔なんて出来ないし、声も絶対出さない。そのままこの授業を乗り切ろう。  
(あ、あれ?)  
 席に戻る時徹の顔をにらみ付けようとしたら、何故か彼がにやりと笑った気がした。  
(すごく……イヤな予感が……)  
 
(くくく……って、我ながら悪役っぽい言い方だな)  
 徹はポケットの中でわら人形を弄りながら内心笑っていた。  
 顔を真っ赤に染めて、目を潤ませている美保を見るとたしかに『良い使い方』だと確信する。  
 えっちな悪戯万歳。  
 自分がほんとに聖職者志望が少々疑問に思えてしまうが、除霊のため仕方ない。自分に言い訳をしながら  
徹はわら人形に力をこめた。  
(だけどな、美保そっちばかりに気を取られてると足下すくわれるぞ)  
 美保は全身全霊で快感に耐えているのがよく分かる。本人は気づいていないかもしれないが傍から見てい  
ればバレバレだった。徹以外の生徒も何か異変を感じているには違いない。  
(それっ)  
 ちょうど美保が徹の横を通り過ぎるとき、人形に新しい命令を下す。  
 性感帯に刺激を与えるのではない、文字通り『足をすくう』。  
「え、ふぇ!」  
 唐突に訪れた呪いに足をすくわれ、美保はバランスは崩し尻餅をつく。転んだのはちょうど徹の目の前。  
 そして、制服のスカートはこれでもかというほどめくれ上がっていた。  
 太股の間に隠された真っ白な下着が徹の目にははっきり見えた。その奥がしっかりと濡れているのも一瞬  
とはいえ、見えた。  
「あ、う……あ〜」  
 慌ててスカートを直し、上目遣いに徹をにらみ付ける。もちろん、彼女には何が起きたのか分かっているの  
だろう。  
 素早い反応に残念なことに一瞬しかスカートの奥を観賞する機会はなかったが……まぁいいとする。徹とし  
ても自分以外の人間に美保の下着を見せる気はなかった。  
「如月、大丈夫か?」  
 徹は笑いを押し殺しながら美保に訊いた。  
「だ、大丈夫なわけないもん」  
 小声での美保の抗議を無視して、優しく手を差し出すふりをしながら徹は次の行動を起こす。  
「先生! 如月さんが調子悪いようなんで保健室に連れて行きます」  
「ええ、だいじょ……」  
 美保が何かを言う前に徹はわら人形の力で口を封じる。しゃべらさないように命ずることは容易い。  
「ん、久住がか?」  
「俺、保健委員ですから」  
 有無を言わせず美保を抱きかかえるように支える。  
 徹が保健委員であるということは嘘ではない。かつて半ば強引に美保に押しつけられた役職であった。  
 
「とぉーおぉーるぅくぅーん〜……」  
 廊下に出て解呪した瞬間、悪霊のような声が響いた。恨み絶好調な美保の声だった。  
「ごめんごめん」  
 軽く謝りながら今度は美保を抱きかかえる。いわゆるお姫様だっこの体勢で。  
「ちょ、徹くん!」  
「まぁまぁ」  
「何がまぁまぁなの!」  
「美保も立ってるの辛そうだし……逃げるとイヤだし」  
「前半はともかく、後半何!?」  
「でもこのまま放置されても辛いだろ」  
 言いながら徹は人形に念を込める。決して動けないように身体を縛ると同時にもちろん、美保を弄るのも忘  
れない。  
「むぅ……そんなことないもん」  
「じゃあ、美保は保健室に置いて俺は教室に戻ろうかな」  
「うー、徹くんの意地悪」  
「冗談だよ」  
 徹としても好きな子にここまでして平静を保てるほど立派な人間ではなかった。  
 もちろんすることはするつもりであった。  
「あの、徹くん、それで私はどこに運ばれているのかな」  
 美保の不安げな声がした。当然だろう。身動きがとれない状態で為す術もなく運ばれているのだ不安に思  
うのが当たり前だ。  
「そりゃ……人気のない所だけど」  
「うぅ……それってやっぱり……するの?」  
 徹は無言でただ笑顔だけを向ける。美保に不安と期待の入り交じったような顔をさせるのが好きだったか  
ら。  
「さて、誰かに見つかる前にとっとと行きますか」  
 授業中である。一応保健室に連れて行くという名目はあるものの見つかると問題もあるだろう。静かにだが  
出来るだけ早く歩く。  
「徹くん、もしかして……」  
 足早に階段を昇っていく徹に美保はなんとも言えない表情を浮かべた。階段の昇る先は一カ所しかない。  
 屋上。普通施錠され生徒は立ち入りを厳禁されている場所だった。だが徹がかつての事件の関係で屋上  
への鍵を持っていることは美保も知っている。  
「そ、屋上」  
 徹は屋上への扉を開け放つ。  
 普段人の出入りすることのない屋上はあまり綺麗とは言えないが、もちろんこの日のための準備はしてあっ  
た。  
 
「徹くん、こんなものどこから用意したの?」  
 体育で使うマットの上に転がされ美保がうめいた。  
 苦労したよ。心の中でそうとだけ呟くと徹は美保に笑いかける。  
「そりゃ体育館から」  
「う〜、徹くんすごくやる気だぁ〜」  
「美保もすっかりやる気みたいだけど」  
「へ?」  
 美保がスカートをまくっていくとぐっしょりと濡れたショーツが白日に晒される。  
「と、ととととおるくん!」  
 美保の意志ではない。徹のわら人形の力だった。  
「あぅぅ〜、こんなことさせないでよぉ」  
 身体が勝手に動く。徹の術だとは分かっているがどうされるのか分からない以上不安は拭いきれない。  
 もっとも徹に全幅の信頼を置いている美保にとって不安というのはどれだけおかしくされちゃうんだろぅ、とい  
う快楽に対する期待混じりの不安だった。  
「いやぁ」  
 徹が美保の目の前に立った。  
 手が自動に徹のベルトに伸びる。かちゃかちゃと音を立てベルトを外し、ズボンも脱がしていく。  
 トランクスの中から徹のイチモツを取り出す。毎晩のように見ているそれはすでに充分な硬度と大きさがあっ  
た。  
「あ、あの……」  
 手が不器用な動きで徹のペニスを擦る。  
 学校でこんなことをしているなんて……美保は羞恥で顔が焼けそうだった。  
 だが、  
「とーるくん気持ちよくないんじゃないの?」  
 操られる手は不器用に徹の肉棒を上下する。それは単調な動きで徹に充分な快感を与えてないことは長い  
経験ですぐ分かった。  
「むぅ。そうなんだよな」  
「私がしたほうがいいんじゃない?」  
 徹のためだけに磨いた手管だ。徹の感じる所は美保が一番よく知っていた。藁人形さえ解ければ徹に快感  
を与える自信は当然あった。  
「むー、それもそうか」  
 驚くほどあっさりと右手にあった拘束感が消える。  
 美保はそのまま添えていた手を巧みに動かし徹を刺激する。優しさと強さを柔軟に織り交ぜたタッチ。  
 日照る身体が自然に徹の肉棒を口にくわえようと動いて……違和感に気がついた。  
「んぅん、とーるくん!」  
 性器に再び走る快感。徹の指先が触れていないのにまるで彼が触っているような感触がある。  
「やっぱこっちはいじりなれてるからな……スムーズに出来る」  
「あぁん! でも私が集中出来ないよぉ!」  
 いつもも弄られながら奉仕することはある。しかし藁人形の呪いは性器と乳首、普段同時に刺激されない場  
所も呪いによってそれが可能になるのだ。  
 
「んぅん! こ、こんなんじゃ、私だけぇ……」  
「じゃあそろそろ入れる?」  
「うん、うんっ」  
 徹の言葉にいちもにもなく美保は頷いていた。  
「じゃあ、おいで」  
「ん」  
 身体が動く。  
 美保の意思とは別に徹を求め、彼の身体に跨がっていく。  
(せ、正常位でして欲しかったのに……)  
「あくまで藁人形を使うことが目的だからな……そっちは今夜にでも」  
「とーるくん、読心術も使えるの!」  
 だとしたら死ぬほど恥ずかしい。自分がどれだけ徹のことが好きかばれてしまうから……。  
「いや、顔見れば分かるから」  
「むぅ……とーるくんの馬鹿」  
 
 クチュ  
 
 淫猥な音を立て徹のものが侵入してくる。  
 次の瞬間には美保の身体は徹を貪るように激しく動いていた。  
「いや、いやぁあ」  
 脳天にまで響く快感。子宮口まで届く徹の肉棒が美保の全身を震わせる。  
 だが美保が悲鳴をあげたのは快感ではなく、まるで淫魔のように徹を襲う自分に対してだった。  
「ち、違う、私こんないやらしい娘じゃないよぉ」  
 口では否定しても未だわら人形の支配下にある身体は徹の指令に従いただひたすらに腰を振らせている。  
「ひゃん、あんっ、わ、私ぃ、とーるくん!」  
「大丈夫だって。俺しか見てないから」  
「とーるくん以外には絶対見せないもんっ! あああっ!」  
 こんなんじゃすぐイッっちゃう。  
 恥ずかしくて徹にすら言えない言葉だった。  
「ところで美保さんや……」  
「え?」  
「今はわら人形使ってないけどね」  
「あ……」  
 気がつけば徹はわら人形を弄るのを止め、静かに美保を見ていた。  
 しかし、美保の動きは止まっていない。いつの間にか美保自身が動いていた。  
 ぶつかり合う性器からは絶えず湿った水音が響き、行為の激しさを物語る。  
「い、いやぁ……」  
 か細い悲鳴が漏れる。  
 これじゃ私変態さんだよぉ……。  
 解呪にも気づかず徹を貪っていた自分をひたすら恥じるしかない。  
「と、とーるくん」  
「ん」  
 動きたい。けど動けなかった。身体は徹の肉棒を欲していたが淫乱な自分の性を証明するようで美保は止  
まっていた。  
 ただ徹は美保の全てを見透かすように微笑みながら言った。  
「もう一回わら人形いいかな?」  
「う、うん」  
 すぐに美保は頷いた。  
 わら人形の呪いで動くのであって美保の意思で動くのではない。そんな言い訳が欲しかった。  
 もっとも徹がそれを全て承知しているだろうことは美保も分かっていた。  
「ひゃああっ! 徹くん!」  
 学校の屋上であるということも忘れ美保は叫ぶ。  
 為す術もなく徹のわら人形に弄ばれる。それがたまらなく快感で、癖になりそうな思いだった。  
「あ、あぁ! んっ、とーるくんはこういうのが気持ち良いの?」  
 徹の意のままに動かされ、翻弄される。徹の肉棒はいつもと少し違う部分を擦っていた。表情を見れば美保  
の膣で快感を感じているのは分かる。  
 
「ん。まぁな。こういうのも」  
「ん。んんっ、そうなんだ」  
 徹に操られながら自分を擦る位置と徹の肉棒の感触を覚えていく。また徹のことを知って美保は何だか嬉し  
くなった。  
 今度徹に抱かれる時に実践してみよう……つまり今夜にでも。  
「ちなみに、何が一番気持ちいいかって、切なそうな顔してる美保を見ることだけどな」  
「うぅ! とーるくんの鬼畜ぅ、ひゃ、ひゃああん!!」  
 突然、動きが激しくなる。わら人形で揺さぶられるだけではない。徹の激しい突き上げが美保を貫く。  
「ひゃん、あぁん! ひゃああ、わた、私、このままじゃ……イク、イッちゃう」  
「あぁ、俺もそろそろイキそうだからな」  
 絶頂の瞬間が近づいてきた。いつもそうしているように徹にキスしようとして……。  
「ひゃああん」  
 身体が固まる。徹が悪戯っぽい表情で美保を見上げている。  
「と、とーるくぅん」  
 キスしたい、美保の思いは分かっているのに徹はあえて『呪い』で美保の動きを封じていた。  
 もどかしさで全身が疼く。  
 しかし、美保の限界はすぐそこにあった。  
「あああああっっっ!!」  
 徹の渾身の一突き。頭の中が真っ白になる。同時に徹の精が注がれる感触が熱く美保を満たす。  
 何度も何度も味わって、でもまだ何度も味わいたい快感だった。  
 けど……。  
「とーるくんの意地悪」  
「ん」  
 ニヤニヤ笑う徹の胸板に頭を寄せながら美保は頬を膨らませた。絶対分かっているのに徹は分かっていな  
いふりをして美保をからかっていた。  
「もうっ」  
 徹は悪戯に満足したのだろう。わら人形から手を離し、笑顔で美保の頭を撫でる。  
 その感触は美保は大好きだった、けど。  
「むくれるなよ」  
「むぅ」  
 徹に意地悪されたのは事実なのだ。美保はちょっと不機嫌だった。  
 だから……。  
「とーるくん」  
「ん?」  
「私はとーるくんと一緒に住んで結構経つよ」  
「あ、あぁ」  
「とーるくんの好みはばっちり把握してるし、性癖だって分かってる。こういう悪戯が好きなのは、よーーーーーく知ってるよ。けどね」  
 そっと徹の使っていたわら人形に手を伸ばす。  
 徹と美保の関係。恋人、クラスメート、同居人、未来の夫婦とか色々表現はある。  
 だけど、もうひとつ『師弟関係』というのもあった。  
 美保も徹直伝の霊能力は持っているのだ。  
「こういう悪戯ばかりしてると……反撃しちゃうよ♪」  
 徹が気がつくのは一瞬遅かった。美保の右手にはわら人形があり、左手はさっき徹自身が美保に注いだ精  
液が一滴あった。髪の毛だけ、体の一部だけで呪えるのは美保も一緒だった。  
「がっ……」  
 気づいた時には遅かった。体が動かない。  
「あ、あのー美保さん」  
 おそるおそる美保の顔を見る。表情を見て瞬時に分かった。怒ってる。  
「なーに、とーるくん」  
「これから俺はどうなるのかな」  
「しばらくここで反省しててね、もう。放課後になったら迎えにくるから」  
「ちょ、下半身丸出しで放置はしゃれにな……」  
 言葉を続けようとした徹の口を封じながら、美保はとびっきりの笑顔を浮かべ断罪した。  
 
 
「人を呪えば穴二つだよ、とーるくん♪」  
 
 

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