リュカはその湖畔の水面に映る人影に思わず目を見張った。
そこには、人ならぬ美しさをたたえた青年の姿があったからだ。
それに…ほんのつい先程までは、自分の背後に人の気配などなかったのだ。
まして、この辺り一帯を治めるデュオス王の娘であり、最強の戦乙女として名高い自らの後ろに気配なく、立てる男
などそうはいない。
「私の背後にそのように言葉なく立つとは…貴様、良い度胸だな。名を名乗ったらどうだ」
リュカは、驚いていた自らの胸中を悟られないように、平静を装いながら青年の姿の映る水面に視線を置いたまま、
声をかけた。
「これは失礼いたしました。私はエリシュオン・ヴァン・ダイクと申します。
恐れながら、貴方様をかの高名なデュオス王のご息女、リュカ・ファルネウス・ディ・ア・デュオス様とお見受け
し、どのようにお声がけすべきか迷っておりました。私の非礼をどうかお赦しください。」
青年はリュカの前でそう言って微笑むと、涼しげなシルバーブルーの瞳でリュカの背中を見つめてから騎士の礼をも
って深々と頭を下げた。
その動作に合わせるように、青年の肩から美しく輝く真っ直ぐなプラチナブロンドの長い髪が零れ落ちる。
リュカは、湖面に映るその青年の所作にほんの一瞬、見惚れながら相手の方に振り向いて、言葉をかけた。
「…貴様が…この地に住まうというエルフか」
「はい。その通りにございます。私は、我らが長の命により、この湖と周辺の森林の守護を任されております」
青年は自らの顔を上げて、リュカの精悍で整った面立ちとそのエメラルドブルーの瞳に視線を合わせて見つめる
と、微笑みながらそう言った。
リュカはその青年の言葉を受けて、相手を少しきつく見据えながら、言葉を返す。
「お前…その言葉は、
この地も我が父、ファルネウス・フォード・ディ・ア・エル・デュオスが治めるものと知ってのことか」
「恐れながら、そのことは充分に存じております。
我が一族も、全力を挙げてデュオス王の治世による御世が長きに渡り繁栄と平和と共にあるよう、
力を尽くす所存でおります故、どうかご安心召されよ」
青年は、リュカに近づき、流れるような所作でその手を取ると、リュカの頬にふいにキスをしながらそう言った。
「…なっ、お前!急に何をする!」
リュカは青年の手を振り払い、青年からその身を放そうとしたが、青年はその動きを安々と封じてリュカの手を強く
引いた。それから、自らの両腕でリュカを抱きしめると、その耳元で言った。
「リュカ様…先程、一目見たときから、貴方様に深い親愛の情を感じておりました。
どうか私と…エルフの理に則った親愛の証を結んではいただけないでしょうか?」
その言葉が終わると同時に、青年はリュカ返答を待つことなく、そのの耳に唇を寄せ、甘く噛むようにしてキスを贈
り、耳元をゆっくりと自らの舌で愛しむように舐めていく。
「えっ、っあ、やっ!…ん…あぁ…ん!…や…!…やめろぉ!!」
リュカは、その性急な耳へのキスと耳元を這う舌に舐め上げられたときに感じる甘く疼くような感覚に抵抗するかの
ようにその身を捩ろうとしたが、青年に自分の頭を抱えられるようにして抱きしめられており、自らの身体に快楽を
生みつつあるその行為に抵抗して逃れることができなくなってしまっていた。
「…んっ、あぁ…や、いやぁ!…あぁ…ん…気持ち…い…」
青年に執拗に耳から首元までをその唇と舌で舐られていくうちに、リュカは艶めいた声を上げていく。
その度にリュカのうねるような豪奢なゴールドブロンドの長い髪がその背中で揺れた。