ふと目覚めると彼女は逆さに自分が吊られていることがわかった。
(・・・無様ね)
迂闊な自分に嫌気が差しながら彼女はおかれている状況を把握しようと試みた。
(真っ暗で何も見えやしない・・・)
自由な上半身を振って何かを掴もうとしたが空を掴むばかり。足首から上は壁のようになっている。おそらく床から吊られているのだろう。
自分が暗くある程度の広さがある地下室的なところにいることはわかったがそれだけだ。脱出はまず不可能。となると残された方法は一つ。自分を捕えた人間に話を聞くことだけだ。
「速く!速く誰か来なさい!こっちはとっくに起きてるわよ!」
物音がして明るい光が視界を奪った。かなり強烈な光なので普通の電気ではないだろう。
「やあ、お目覚めかい五号。脱走とはなかなかやってくれるじゃないか。でも残念ながら失敗だ。気分はどうだい?」
にやにやと笑うその女を見て彼女は完全に状況を理解した。
私五号は脱走を試みたが失敗し、この外道科学者に拘束されてしまいましたとさ。
「最悪の上って何ていえば良いのかしら?」
「サナレ様最高でございます!とかじゃないのかな?」
彼女はサナレの後ろにいるピンクの髪の女の子を睨み付けた。
「へぇ!告げ口とはやるじゃない二号!」
二号と呼ばれた少女はビクリと身体を震わせ頭をふるふるとふった。
「告げ口とは人聞きの悪い。二号はかなり頑張ったよ。ただおもらしは頂けないねぇ。」
いやらしく笑うサナレを見て五号はまた理解した。この女は頭がいい。
残念なことに自分はこの性悪女に結局踊らされたのだ。二号に手伝って貰い脱走する計画は最初から全てばれていたに違いない。そうでなくてはいきなり二号を問い詰める必要がない。
そして憐れなこの二号は全てを知られている相手から一生懸命秘密を隠そうとしたのだ。
「アンタ二号に何したのよ・・・」
「大体想像はついているだろう、五号君?そして君はそれよりも自分の心配をした方がいい。
君と二号との百合の香りたっぷりな友情関係にひびが入らないようにするにはどうしたらいいかとかを考えるのも良いかもしれないね。では後は手筈通り頼むよ二号?頑張ってね。」
頭をポンッと叩かれた二号はまたもや(寧ろさっきよりもと言った方が正しいか)ビクリと身体を震わせた。
サナレは五号にウインクをして白衣をはためかせ部屋から出ていった。五号は二号に話を聞こうと口を開きかけたがそれより速く二号が喋り始めた。
「い、偉大なるサナレ様に対するはんぎ、反逆は罪が重いぞ金髪女!よってわたしが五号ちゃ、じゃなかったお前を痛め付けお仕置きしてやるからかくごしろ!わっはっは!」
喋ってる二号が泣きそうな顔をしているので逆に五号は心配になった。セリフは明らかにあの女が作ったのだろう。
「だいたいわかったわ・・・。悪趣味極まるあの女が好きそうなことね・・・」
五号は呆れた顔をした。どうせ自分のことを二号に痛め付けさせるつもりなのだろう。性格悪いことこのうえない。
二号は小さな身体をぷるぷる震わせながら階段を上り吊られている透明な床の上までたどり着いた。
二号は泣きそうな顔のまま五号を見下ろし言葉を紡ぐ。
「ははは、金髪女!こうか」
「二号、状況はわかるけど金髪女はないんじゃない?」
五号が上を向きニコリと笑うと二号は小さく「ひっ」と叫び軽く涙を溢した。
「ごめんね、五号ちゃん。でも、私一生懸命がんば」
「二号、罰1だよ?」
スピーカーからサナレの声が聞こえた。二号はわらわらしながら怯えきり無理な演技に再び取り掛かりはじめた。
「お、お前の弱点はわかっているぞ!今からたっぷりいじめてやるからな!」
二号は五号のブーツを脱がしはじめた。五号は吊られながら腕組みをして呟く。
「二号、後でお仕置きね。」
「そんなぁ!私だって」
「二号罰2。ペース速いよ。」
板挟みである。それと五号からお仕置き宣告されたとき二号が少し赤くなったのは恐怖から来た混乱だろうか。
二号は急いでブーツを脱がし終えると「おしおきかいし!」と呟き指を鳥の羽に変えた。
それを見て五号は少し焦った。まさか本気で?是非願い下げたい展開である。
「ちょっと待ちなさいよ二号!アンタねぇ!」
しかし二号はふるふると首を振った。
「ダメだよ、五号ちゃん。これは罰なんだからっ!・・・・・・それにいつも私ばっかりくすぐられてズルいし・・・」
「だってそれはアンタが!ひゃっ!」
五号の足の裏の上を柔らかいものが這いむずむずした刺激を与える。笑いだしそうになったがなんとかこらえる。
「うくく・・・二号・・・覚えてなさいよ・・・」
「頑張って堪えてる五号ちゃん可愛いよぉ?」
うっとりした顔の二号は羽をを五号の右足に這わせ続ける。実にやさしい刺激だが五号は懸命に堪えないと吹き出しそうになる。
異常に敏感にサナレに作り出されたのだから仕方がない。
「んんっ、あはっ、ダメ・・・やめて、二号・・・」
許しを請う五号の姿に若干の躊躇をした二号だったが指を通常に戻し
「もう少し頑張って、五号ちゃん。」
普通にくすぐり始めた。
「ああっ、くぅ・・・ひ、くぅ、・・・ひゃめて・・・」
自由な上半身をじたばたさせ綺麗な金髪を掻き毟りながら堪える五号を気の毒そうに見る二号。
「辛い、五号ちゃん・・・?」
「むくく・・・ううう・・・や、やめて」
最早涙さえ浮かべて頼む五号を前にして思わず二号は手を止めた。
「じゃあやめ・・・」
「罰3だ、二号。」
その声と共に天井からマジックハンドが大量に降りてきて二号の両腕を掴み宙ずりにした。
「いやぁああぁ!がんばりますっ!私もっと頑張りますからっ!」
「ダメだ。二号、君にはまだ躾が足りなかったようだ。本当はキミが五号を完膚無きまでに虐めることを楽しみにしていたのだが・・・まあいい。
最初からそこまで期待していない。それにキミは生粋のMみたいだし・・・もっと恐怖を植え付けてアゲル。」
サナレの声が無情に響きマジックハンドがわきわきと迫ってくる。半狂乱になった二号はもがきながらすでに泣いていた。
「ごめんなさい!ごめんなさいっ!許してサナレさまぁ!もう、いじめられたくないよぅ!」
サナレは苦笑した。まるで子供である。
「君は五号になら嬉しげに虐められているじゃあないか?マジックハンドに可愛がってもらえ。」
その言葉が合図だったかのようにマジックハンド達が二号に殺到した。
あるものは首筋を撫で上げ、あるものは耳を優しく撫で回し、またあるものは鎖骨周りをいじくり回す。
おへそ周りをくるくるとくすぐるものや直接突くものもある。脇腹もつついたり揉み解したり四本のマジックハンドが一生懸命だ。背中を上下に滑る指もある。
「あっきゃあああ!ははははは!やめてぇ!許してよぉ!サナレさまぁ!あははははは、ひー!」
必死に逃げようともがく二号を嘲笑うかのようにマジックハンドはくすぐり回し抵抗を許さない。五号は上の惨状を見かねて叫んだ。
「ちょっといい加減にしなさいよこの外道!アンタ私に対する罰が目的だったはずでしょ?何で二号を虐めてるのよ!」
叫ぶ五号とは裏腹にいたって冷静なサナレの声。もちろんその間もBGMは二号の悲鳴に近い笑い声なわけであるが。
「安心しなくても君のことは後でたっぷりいじめてあげるから黙っていたまえ。さて、二号君?君の弱点はあー、どこだったかな?」
「あひゃひゃはははは!許してぇー!」
サナレの質問に二号は笑い声で答えた。質問が聞こえてないか答える余裕がないのだろう。
「つまらん・・・」
マジックハンドが止まりがくりと二号は首を落とす。
両腕を吊り上げられているのであふれ出た涎を拭き取ることも出来ない。まあ実際は自由にされたところで床に伏せてしまうだけなのだろうが。
「もう一度聞くが二号君、君の弱い所はどこかね?」
ビクリっ、と下を向いた二号が震えた。五号は上を向いていたので自然と二号と目が合う。その目は可哀想な小動物のようだった。
「答えられないのかい?ならばこちらとしては先ほどのように調べるしかないのだが・・・」
全てを諦めたような声で二号は絞りだすように答えた。
「脇・・・脇の下です・・・」
「正解だよ、今からそこを責めようかと思っているのだが異論はあるかね?」
「・・・ありま・・・せん・・・」
カチカチと歯をならしながら二号はその時を待った。マジックハンドがゆっくり半袖の二号の服を捲り上げむき出しにする。
この時間はおそらくサナレの考え通りなのだろう。しかし五号は叫ばずにはいられなかった。二号が拷問されたときから後悔していた。
きっと今見ていたことやそれ以上の苦しみを二号は受けていたのだろう。たった一人で・・・自分のせいで!後悔が口をついて飛び出す。
「二号、ゴメン!私が・・・私が変なこと言わなければっ!」
二号はこちらを向いた。そしてゆっくり微笑んだ。
「・・・謝らないで・・・五号ちゃん・・・私は五号ちゃんと二人で計画を練っていた時本当に楽しかった・・・私は・・・今でも後悔してないよ?」
その顔は虚ろで・・・何故かとても輝いていた。
「二号・・・」
「はいはい!百合色いっぱい夢いっぱいなお話は終わったかな?ではショータイムッ!」
マジックハンドが一本だけ指を立て両脇に突き立てた。
「はうっ!」
二号はガバッと顔を上げた。いや、刺激に上げさせられたと言ったほうが正確かもしれない。
続いて突き立てた指が振動を始める。早くも二号の口の端の笑顔が浮かびつつある。五号は目を背けたくなった。
だがそれは二号に失礼と言うものだろう。見届けてやるっ!五号はくすぐられている二号を睨み付けた。
「ははは、キミ達の絆には感服したよ。これは慈悲だ二号、もう焦らさす一息に楽にしてやろう。」
サナレの声が響き渡り。マジックハンドの動きが激しくなった。
脇の下の外周を何度も走り回り二号を悶え狂わせる。
「サナレっ!言ったことくらい守りなさいよっ!もう解放してっ!」
「サナレ様だ。それに私は楽にしてあげるといったんだよ?まあ落ち着いて見ていたまえ五号。」
外周をなぞっていたマジックハンドは何と小さなマジックハンドに別れた。
あるものはくぼみをつつきまわりまたあるものは滑らかな部分をガリガリと引っ掻き回す。小さくてよく見えないがどうやら形状がどれも少しずつ違って見える。
「あひひぃ、擦っちゃだめぇ、とげとげがぁ!引っ掻くのもいやぁ!だめぇ!いやははは突かないでぉ!撫でないで!もうくすぐ、ひいいいぃぃぃ!」
首を千切れんばかりに振り回した後サナレの言うとおりすぐにガックリと気絶してしまったようである。
二号が気絶したあともマジックハンドは執拗にくすぐっていたがピクピクとしか反応がないのがわかるとようやく二号を床に下ろした。
「さて・・・余興はどうだった五号?二号の弱点は拷問したときに全て入手していたからね・・・
本気を出せば気絶させることなんてたやすい。本当は二号がもっと頑張って君を責めてくれれば・・・んっ?どうした?」
床に倒れ痙攣している二号を見つめていた五号の目には悔し涙が溢れ出していた。
「サナレぇ・・・あんたは悪魔よっ!鬼!」
「原因は君なのに・・・全く酷い責任転嫁だよ・・・さて、本日のメインイベントに取り掛かろうかな・・・」
ブツンと言う音と共にスピーカーの音が消えた。静寂が二人を包む。
こんな壁がなければ二号を抱き締めて上げられるのに・・・五号は未だに泣き続けていた。
「んぅ・・・五号・・・ちゃん?」
「二号!!」
二号は五号の吊された床でゆっくりと起き上がった。
起き上がった二号は頭を押さえ軽く首を振った。
「二号!あんた、大丈夫なの?サナレにボロボロにされちゃったみたいだし・・・」
「私は大丈夫。」
二号はゆったりと逆さづりにされた五号に近づく。
「それより私五号ちゃんに言わなくちゃいけないことがあるんだ・・・」
ふらふらした二号を心配しながら五号は聞き返す。
「何?サナレが見ていないうちにこの足枷を外して欲しいんだけど・・・」
すっかり泣き止んだ五号の足元に二号はしゃがみこみゆっくり手を伸ばす。
「あのね・・・サナレ様だよ?」
かりかりかりかり!
突然足の裏に爪を立てられた五号は悲鳴を上げながら上半身を仰け反らせた。
まるで二号のテクニックではない。爪を立て細かく土踏まずをかき回しかかとを掻き毟るようにひっかく。
「いやははははは!二号!?ははははやめきゃはははは!」
「いつも私ばかりくすぐられて不公平だと思ってたんだぁ・・・サナレ様のお許しも出たし今日はたっぷりいじめてあげる。」
左手で頭を抱え込み何もない空間に右手を振り回し五号は考える。どう考えてもこのテクニックはおかしい。
右足の土踏まずを撫で回しながら左足の指の間を責めることなど二号に出来るはずがない。さっきサナレは何といっていた?五号は身を狂わすくすぐったさに耐えながら考える・・・考える・・・
「ひゃはははは!さ、サナレっ!あんた二号に何したの!?」
「イヤだなぁ?五号ちゃん、私は二号だよ?くすぐったくて頭おかしくなっちゃった?」
声も仕草も二号である。だが五号は確信した。コイツは・・・コイツはサナレだっ!
「二号はっはははは、二号はそんな人をなぶるような目をしないわっ!ひははは!アンタはサナレね!」
ピタリと指が止まった。生き地獄から解放されブランと重力に引かれ五号は吊られた。
「へぇ、ご名答だよ五号。私をいつまでも呼び捨てににするくせに余計な所には気が付くらしい。」
五号がガクガクと上を向くと二号がサナレの目で見下ろしていた。嫌な光景だ。
「はぁはぁ・・・アンタ二号に何したの・・・?」
「意識ジャック・・・かな?気絶した二号の身体に入り込ませて貰った。ニジロクの力を借りてね・・・」
「六号・・・」
五号は歯を食い縛った。自分はこれから二号に蹂躙されるのだ・・・中身はサナレだが見た目は二号である。頭でいくら理解しても精神的には非常に追い込まれる。五号はサナレの性格の悪さを改めて呪った。
「それで?二号の身体で私をいたぶろうってわけ?」
息を整えた五号が二号に問い掛けると二号はにこやかに笑い首を振った。その目を見て五号は吐きそうになった。何故目だけサナレなのだろう・・・どうせなら完璧になりきってくれればまだ・・・
「そうしようと思ったのだがね、君の察しの良さに敬意を表してキミが許される機会を与えようと考えるのだよ。」
「どうせろくでもないことでしょ?大体二号の身体でその話し方やめてくれない?バカだから二号の話し方覚えてないのかもしれないけど吐き気がひぅ!」
つー
二号は最後まで言わせなかった。人差し指で五号の足の裏をなぞりながら若干怒ったような声で話す。
「五号ちゃんは、自分の立場を理解したほうが良いと思うよっ?あんまり私を怒らせるとせっかくのチャンスが!無駄に!なるよっ!?」
言葉の最後の方はもはや暴力的なくすぐったさである。指の間を広げて人差し指でひっかかれた。しかし五号は尋常ではない精神力で笑い声を抑えつけた。
「はひっ、くくっ、・・・や、やれば出来るじゃない・・・で、チャンスってのは何?・・・っ、どうせただじゃっ、ないんでしょう?」
五号の足の裏を人差し指でなぞりながら頬ずえをつき二号は五号を眺める。サナレは実に楽しかった。そしてこう思った。やはり私は天才だ。
「口元が震えてるよ五号ちゃん?辛いなら笑えばいいのに・・・チャンスっていうのは簡単なゲームだよ五号ちゃん。私が両方の足の裏にそれぞれ文字を書くからそれを五号ちゃんが当てるの。頭の良い五号ちゃんなら簡単だよね?」
「くくっ、・・・そうね、素晴らしく、うっ、くだらなくて簡単、ひゃっ、そうだわ・・・速く始めましょう?」
五号の身体は正直もう笑いをこらえきれないと悲鳴を上げていた。それを知ってか知らずか二号はくすぐるのをやめ両手の指をボールペンの先のようなものに変え始めた。
「ふぅ・・・サナレ、二号の能力も使えるわけ?」
「サナレ様は六号ちゃんの能力で自分の意識を俗に言う電波って物に変えて私の身体に入ったんだよ?つまり私の身体は今、余すところなくサナレ様の物なの。」
変化が完了した二号は中指と薬指を使い器用にスカートをめくって見せた。パンツが顕になる。だが天地が逆転したかのような状況にいる五号には最初からパンツなど見えている。
「・・・アンタバカじゃないの?」
五号は様々な意味でサナレを嘲笑った。二号の顔が少し赤くなった。伝わったのだろう。
「ゲームスタートだ。私を侮辱したことをたっぷり後悔させてあげるよ五号。」
そう言って二号は足の裏にペンを走らせ始めた。猛烈なくすぐったさが五号を襲う。五号は頭を抱えてじたばたと暴れ狂った。文字を読み取るどころではない。ペン先が走る刺激に頭が壊されそうである。
「五号、笑いすぎだろう?そんなんで読み取れるのかい?・・・足の指が邪魔だなぁ・・・」
二号は嫌らしく笑いながらペンを走らせ続ける。かりかりかりかり・・・
「終わったよ五号。さあ答えを・・・大丈夫かい?」
五号はだらんと身体を垂らしてぴくぴくと痙攣していた。二号は更に口元を歪めた。惨めな物である。
「かっ・・・はっ・・・さ、さな・・・れ」
「それが答えかい?」
五号は痙攣したまま言葉を続けた。
「こ、答えはわからないけど・・・アンタ・・・二号の真似・・・忘れてるわよ?怒りで・・・我を忘れるなんて・・・無様ね・・・」
二号の顔に浮かんでいた笑顔が消えた。無表情になった二号は言葉を発した。
「不正解だ五号。罰ゲーム。六号、アレを動かせ。」
五号は音がした下を無気力に見た。またひどい目に合わされるのかと思ったがただテレビがせり上がってきただけだった。
「見えるかい五号?正解は右足にプリンス、左足に王子様だ。君にぴったりな問題だろう?だが今はそんなことはどうでもいい。君の足の裏をまた白紙に戻さなくてはね。」
テレビの映像は五号の足の裏を映していた。確かに二号が言ったとおり文字が書かれている。少し歪んでいるがこれは五号が暴れたせいだろう。
自分の足の裏をテレビで見るって何かシュールね・・・
五号はボーっとした頭でそんなことを考えていた。
しかし足枷から妙な紐のような物が伸びて自分の足の指に絡みつこうとしているのを見て無抵抗ではいられなかった。
足の指を動かしながら二号に向けて擦れた笑いすぎて声を上げる。
「さなれぇ・・・これは一体何なのよぉ?」
「言っただろう?足の裏の掃除だ。足の指が邪魔なので縛る。ただそれだけだ。」
抵抗むなしく絡み付いて来た紐は二号の言うとおり五号の全ての足の指を無理やり固定した。足の指の間を紐が通るのはこそばゆかったがそれだけだ。
「・・・掃除?」
「そう、掃除だ。この文字を消す。あと声が擦れているが唾を飲み込めば治る。そう作った。」
ゴクリと五号が唾を飲み込むと喉の痛みが引いた。しかしテレビに映った二号の姿を見てまた五号は叫ぶ羽目になった。
「ちょっと!掃除ってまさか!?」
「ああ、文字を消さなくてはね?」
ぶぃぃぃぃ!二号はいつの間にか、左手の指を電動歯ブラシに変え、右手の指を普通の歯ブラシに変えていた。そしてそのまま問答無用で磨き始めた。
「電動歯ブラシは便利な物だね。動かすだけでいい、まあ乾いているからなかなか落ちないが。」
電動歯ブラシは無機質な音を立てて五号の足の裏を磨く。五号は悲鳴を上げて暴れるがその刺激に彼女が出来ることは悶えることだけなのだ。なぜならば今彼女の周りには何一つ掴める物も叩ける物もない。完全な自由だ。唯一拘束されているのが足の指である。
「普通の歯ブラシも前時代的だが捨てた物じゃないな。細かい所まできちんと磨ける。」
二号の言葉通り二号の右手は静かに丁寧にかつ繊細に五号の足の裏を磨く。それこそ皺の一本一本まで残さずに。
彼女の足の指は勝手に暴れるが紐が右足と同じくそれを許さない。歯ブラシの繊維一本一本が彼女を狂わせ思考を溶かしていく。
「やははははは!だる、だれか、たしょたしゅけてははは!ひひひけくく!」
魚のように喚きながら跳ね回り暴れる五号を見て二号は満足気に笑った。
「ははは!どっちが無様だよっ!涎を撒き散らして暴れて・・・猿以下の獣じゃないか五号!」
五号はここに来て初めて上半身が自由にされている本当の意味を知った。何もない空間ではどこにも力を入れられない。
笑い悶えることしかできない。たまに天井を叩くがまるで意味がなく触ることも出来ない。あまりにもくすぐったい。気が狂う。ひょっとしたらもう狂ってる?
そんなことを考えながら五号は徐々に明るいはずの周りが暗くなっているような気がした。
五号は気が狂ったかのように笑い暴れて暴れて・・・やがては静かになって腕をブランと垂らした。
「クロノクル・ドールの限界ではない・・・精神面で限界が来たか・・・まあ漏らさなかったことは誉めてあげるよ五号・・・」
二号は冷たく気絶している五号を見やりせせら笑い叫んだ。
「ニジロク!第二ラウンドの準備だっ!」
そして小さく呟いた。
「五号・・・まだまだ序の口だよ?」
「ううっ・・・けほっ・・・」
「目が覚めたかい五号。」
五号が目を覚ますと目の前のテレビに二号がニコニコしながら映っていた。
「・・・何なのよ、まだ足りないわけ?」
気絶をして若干の休憩を経た五号は体力を取り戻してはいたが精神的にはまだかなり弱っていた。
「何を言ってるんだい?これからが本番じゃないか五号。大体君は文字を読み取ることも出来なかったわけだしね。」
「くっ・・・」
確かに二号が言うとおり五号は文字を読み取れなかった。
「さあ、第二ラウンドを始めようか?」
「ちょっと待ちなさいよっ!この変な紐みたいなのを外しなさい!」
「私の可愛い可愛い妹が作った物を変な紐と言うのは頂けないな。その紐の名前は・・・えー、何だっけな?とりあえず外さないが。」
五号は何となくサナレ妹に同情した。コイツは人を愛することなど出来ないのだ。姉妹と言えど酷い目にあっていただろう・・・発明品の名前すら覚えていないとは。
「何でアンタの妹が作った物をアンタが持ってんのよっ!」
「パクっ・・・貰ったからに決まっているだろう?下らないことはいいから速く始めるよ?」
二号は先ほどと同じようにボールペンを足の裏に突き立てた。激しい刺激が五号を襲う。だが五号には勝算があった。クロノクルドールには自動耐性機能がついている。
要するに一度受けた攻撃に対する防御耐性が自動でつくのだ。先ほどは文字を読み取るどころではなかったが二回目なら・・・
しかし五号は考えが及んでいないことがあった。今、五号の足の指は動きが取れないのだ。この違いがすぐに五号を苦しめることになる。
「むぅ!うひゃひゃ!何で、何で!くすぐったいいいぃぃぃい!」
「くすぐったいことに疑問を挟む余地はないだろう?そりゃ私が散々くすぐったいるからねぇ。
さっきより刺激が強く感じるのは足の指を縛っているからじゃないか?ここまでの効果があるとは予想外だったが・・・」
ニヤニヤしながらボールペンを走らせ二号が喋り続ける。おそらく予想済であった考察が実験により実証され満足気である。
五号は悶え苦しみながら必死に文字を読み取る努力をしていた。何だ?最初の方は無理だったが・・・フ?リ?
しかしそんな五号に襲い掛かる更なる脅威があった。尿意である。くすぐられると膀胱が緩む。
まして五号は起きてから一度もトイレに行っていない。脱走時から考えるとかれこれ九時間近い。そろそろ限界である。
「いやはははははっ!おしっ、はははおしっこ漏れちゃううぅうぅう!」
「おやおや、二号と同じく漏らすのかい?とりあえず終わりだ。」
どうやら文字を書き切ったらしい。二号が手を離した。
「はっはっ、お願いサナレっ!トイレに行かせてっ!」
息を切らし五号は思わず懇願した。しかし対する二号の反応は非情だった。
「ダメに決まっているだろう?そんなに行きたければ速く当てたまえよ。」
「悪魔めっ!アンタは悪魔よサナレっ!」
「なんとでも言いたまえ。だが君はそんなことよりも自分の義務を果たすことを優先したほうがいい。制限時間はあと20秒だ。」
二号は腕時計を確かめる仕草をした後顔をしかめた。二号は腕時計をしない子だったのだ。
「仕方ない、原始的な方法だが秒読みしてあげることにしよう。1、2・・・」
五号は一生懸命考えた。フとリと文字数が七文字だと言うことしかわからない・・・これでは何も・・・
「フ、リ、・・・七文字?」
「19、20、タイムアップということでいいかな?」
「待ちなさい!答えはフリルよ!四号が大好きだから!」
二号は哀れんだ目をした。そしてゆっくり首を振った。
「私が四号に見えるのなら眼科に行くべきだ。まあ目が悪くなるなどという無駄な機能はつけた覚えがないのだが・・・大体七文字と自分で言ってたじゃないか・・・文字も数えられなくなったのかい?」
その本気で憐れんでいるような目に苛立ち五号は負け惜しみを言うことにした。
「トイレに行きたかったのっ!まともな状態ならこんなことには・・・!」
「負け惜しみは自分を惨めにするだけだよ五号。ちなみに答えはソフトクリーム、子供っぽいことこの上ないが大好物だろう?」
五号は自分の足の裏に書かれた文字を恨めしく見た。まさか大好物の名前をこんな気持ちで見るとは思わなかった。しかし次の二号の言葉でそんな気持ちもどこかに飛んで行ってしまった。
「君はここでは必ず正解を当てるべきだった。この後には罰ゲームがあるんだよ?間違えなく君は漏らしてしまうだろう、残念だよ。」
五号は凍り付いた。そしてとてもじゃないが残念な顔はしていない二号に五号は頼み込んだ。
「お願い、お願いサナレっ!先にトイレに行かせてっ!その後なら、その後ならいくらでもくすぐっていいからっ!今はダメッ!」
二号はニッコリと笑いぬるぬるになった両手を見せつけ言った。
「ううん、それは聞けない頼みだよ五号ちゃん。」
そして一心不乱に二号は五号の足の裏にそのぬるぬるを塗り付け始めた。
「あっははははっ!いや、やめてぇええぇ!」
時には爪を立て引っ掻き、撫で回し、皺の間まで逃さないようにしながら二号は話した。
「前回はなかなか文字が消せなくて時間がかかってしまったからね。これを塗って消しやすくしてあげようと言う素晴らしい考えだよ。私は優しいだろう?」
たっぷり五分間足の指の間まで逃がさずぬるぬるを塗り終わり二号は満足気に言った。
「ふう、こんなものか。おや、まだ頑張っているね。おもらしは恥ずかしいからね。」
五号は息を整えるのもそこそこに震えながら股を押さえている。唇を噛み締めながらむっつりと黙りこみ睨み付ける五号に二号は蔑みながら言葉を続けた。
「なんだいその目は?もちろん君が思っているようにまだ終わりではないよ?」
両手を何かに変化させ始めた二号に五号はポツリと言った。
「トイレに・・・」
「ダメだ。」
ゾリッゾリッ!
二号が今回選んだのはブラシだった。普通のブラシとヘアブラシが五号の足の裏にぞわぞわとした刺激を与える。
「あっきゃっはははっははは!やめえええぇぇ!」
「はははっ!何てザマだよ五号!今、君自分が股間を押さえながら跳ね回っていることに気が付いてる?それと教えてあげよう!どんどんくすぐったくなってくるよ。」
五号は悲鳴に似た笑い声を上げながら叫んだ。
「サナレええええ!ははひははひ!あんた、ひはは、何をしたのよっ!」
「別に、ただ洗浄液の中にちょっとだけ敏感になる薬が入ってたのさ。まあ薬にはよくある副作用だよ。」さらりと言う二号とは裏腹に五号の今の状況は尋常ではなかった。
今や五号は自分を苦しめるブラシの毛一本一本がどう動いているかをはっきりと感じとるほど敏感になっていた。加えて尿意も限界まで迫ってきた。あと、ちょっとでも何かをされたらっ!
「ブラシは細かい所が責めにくくていけないね。ニジロク、頼むよ?」
二号が歌うように言うと五号の足の指を押さえていた紐が小さな羽を生やし高速で回転を始めた。
「あっきゃあああああああ!」
五号の我慢は崩壊した。
五号はびしょ濡れだった。そして何もかもを諦めたような絶望的な気持ちになっていた。
「自分のモノでびしょびしょになる気分はどうだい五号。後学のために知っておきたいのだが。」
「殺しなさいよ・・・」
言いながら五号は以前拷問を受けていた少女のことを思いだしていた。彼女も何度もこのセリフを言っていた。名前ももう忘れてしまったが助けてあげればよかったと思った。
「おや、五号、泣いているのかい?」
「そうかもね。」
五号は死んだような目をした。サナレはそれを見て二号の声で譲歩を口にした。
「次は仕方がないから刺激の少ない筆で書いてあげることにするよ五号。優しいサナレ様に感謝することだね。」
「何が、優しいのよこの鬼ッ!」
まだ五号は泣き続けていたが叫んだ。叫んだと言うことはまた反抗する気力が湧いてきたということだ。サナレは内心ほくそ笑み、そんな五号を冷たく二号は突き放した。
「文句を言う前に頑張り給えよおもらし姫。次で規定回数の三回ミスだ。想像を超えたお仕置きが待っていると理解しておきたまえ。」
五号は身体が一気に冷えた気がした。全てがどうでもよくなった気がしたがこの苦痛と屈辱を超えた物が自分を襲う・・・と考えただけで恐ろしさに鳥肌がだった。
それだけは避けなくてはならない!五号は泣き止み足の裏に神経を集中した。
「いいわ!速く始めましょう。」
「おしっこまみれで何をかっこつけているのやら。ではまず一文字目・・・」
筆はべちょりと五号の足の裏を蹂躙した。確かに非常にくすぐったいし今までの刺激とも違う・・・
だが笑い転げながら五号は希望を持った。自分は二回の文字書きでコツを掴んだ。足の裏が未だに非常に敏感にされていることもありこれなら読み取れた。
「ふふっ、どうやら読み取れそうだね。これは期待出来る。」
そう言いながら二号は嬉しそうな顔で筆を走らせ続ける。その態度を五号は訝しんだ。なぜこいつはこんなに嬉しそうなんだろう?
文字は進んでいく・・・さ、な・・・
筆責めの苦痛に絶え、ついに五号は文字を読み取った!だが・・・
(サナレ様ごめんなさいが答え?ふざけんじゃないわよっ!)
五号は怒りに震えた。こんな酷い目に合わせておいてまだ謝罪の言葉を要求するのだサナレは。
意地をはり答えない選択肢もあるにはある。だが答えなければ規定の三回ミスだ。どんな目に合わされるかわかったものではない。
「速く答えたまえ。考える時間はもう沢山あたえたろう。」
もう笑いすぎてお腹が痛い。いくら人間より強化された身体と言えど限界はあるのだ。
書かれた墨にもおそらく敏感にする効力があるのだろう。サナレもそろそろ焦れて来ている。五号は結論を出した。息を大きく吸い込み・・・
A「答えは、・・・サナレ様ごめんなさいよ!」
B「誰がアンタの思い通りの答えを言うもんですかっ!」
A
「どうしておしっこ被っちゃったの?」
二号の問いかけに五号は頭を抱えた。あの後サナレは二号の身体のまま五号を解放すると風呂に入るように言い二号の身体から離れた。二号は何も覚えていずこの質問になったわけである。
「アンタが盛らしたからよ。私にかかったの!」
「えー、私おもらししてないもん。」
五号は隣で服を脱ごうとしていた二号に飛び付いて押し倒した。
「何?じゃあ私が漏らして自分でびしょびしょになったっていうわけ!?」
「そうなの?」
「アンタはあ!」
五号は服に絡まっておろせないだろう腕をチラッと見て二号の脇の下にたっぷり自分の苦しみをわからせることにした。
その頃サナレは五号の部屋の目覚ましに細工をし終わり部屋から出てきた所だった。
「これでアイツも私に少しは従順になるだろう。」
次の朝、五号の部屋から大音量で
「サナレ様っ!」
と五号の声が響き渡ったのは別の話である。
B
「任務だって五号ちゃん!」
「あひっ!わ、わかってるわよっ!後ノックして入りなさい二号!」
わかってると言う言葉に若干首を捻りながら二号が出ていくと忌々しげに五号は自分の足に履かれているブーツを見やった。
「今回の任務の概要は以上だ。」
一号が生真面目な顔で話終わると五号の足の裏にくすぐったさが走った。
「きひっ!何よサナレ!」
「コーヒーが飲みたい。」
サナレは文字を間違えた五号に一週間奴隷になれと命じた。その時に履かされたのがこのブーツである。
五号が苛立ちながら厨房に行くのを皆きょとんとした顔で見やった。
「五号は素直になったんだよ。向こう1週間は少なくともね・・・」
サナレがいかにも愉快そうにそういうのをみんな不思議そうに聞いていた。理由を知っているはずの六号はいつも通り無関心な表情でゆっくりと水羊羹に手を伸ばした・・・