それは、ほんの偶然だったの。
春休み、参考書を買いに駅前の本屋さんに入ったら、小学三年生の時に
隣町に引越しちゃった幼なじみの啓太と久しぶりにあって、立ち話も
なんだからって、うちにあがってもらったの。
それで、あたしが購入した参考書から、進学する高校が一緒、って話に
なって、そのうち啓太が
「香耶、眼鏡外せよ」
って言い出して。
視力が悪くなったのは中学校にあがってすぐ位で、今では寝る時以外は
ないとお話にならないの必需品。
眼鏡をかけてない時の顔なんて想像つかないくらい。
「やだ、恥ずかしいよ」
そう言ったら、啓太の手が、す、とあたしのこめかみの辺りに伸びて来て。
あ、と思う間もなく視界を奪われていた。
「ほら、眼鏡ないほうがかわいい」
視界を埋めるぼんやりした肌色の塊が啓太の声でそう呟く。
そして、だんだん輪郭がはっきりしてきて。
「………!」
唇に柔らかい温かいものが触れた。
啓太……?それ、もしかしてキス?
やだ、ドキドキする。回りが見えないから、啓太の動きもわからないから……
どうしよう、すごく敏感になってる。
スカートの中に啓太の掌が触れてる、それだけで、頭の中がぐるぐる回ってる。
キスだけで濡れちゃう、勃っちゃう、まだ15歳なのに!
嫌っ……!見ないで啓太!
こんなの間違いだから!きっと目を閉じたほうがお化け屋敷が怖く感じるのと
同じ理屈だから!
お願い、眼鏡返して!
あたしこんな娘じゃないの!
あたしは、文学が大好きなただの普通の女の子なの。
……夜な夜なヘンな事想像して自分を慰めてるような助平な本性なんて
知られたくないっ!
「いやぁっ」
あたしを押さえ付け、脚を開かせた啓太が上擦った、泣きそうな声をあげる。
「香耶……好きだ、お前としたい」
何かが、脚の間に当たる。
溝をなぞるようにお尻からクリを行き来する。
や……おちんちんだ……啓太のおちんちん……。
勿論歳が歳だから、はっきりした描写がある大人の小説、なんて読んだ
ことなんかない。
だから、それを指す少し過激な単語という断片的な情報だけで構築された、
先端の亀裂からプツプツと生臭い体液を吹き零し、
瘤状の塊に覆われ青黒い血管が網の目のように全体を走る、奇怪極まりない
姿を想像し、あたしは息を飲んだ。
啓太のそれが、これから力ずくで押し入って、あたしの最奥でのたうち
まわって、暴れ狂うんだ。
どんな風に動くの?
蛇みたいにくねくね動くの?
それとも腕を回すみたいに付け根からぐるぐる回るの?
怖い。
怖いのに、ぐしゃぐしゃに濡れてくる。
トプン、トプンって溢れちゃってる。
啓太をください、ってお願いしてる。
それがくれる感覚を欲しがってる。
文章じゃ判らない、体験しなきゃ判らない、生々しい感覚を。
ああ、嫌……あたし壊れてる。
知識もないまま大人になろうとしてる。
まだ、義務教育終わったばかりの子供なのに。
「いくよ」
独り言のように啓太が囁き、それが狙いを定めた。
ズチュッ、啓太があたしのそこをこじ開ける。
太い。
硬い。
なのに、なんの抵抗もなく……ゆっくり、でも確実にあたしの知らない場所を、
圧し開いて啓太が入ってくる。
一突き毎に深く差し込まれ、内壁を擦り上げられる気持ちの悪さ。
内臓ごと引きずり出されてるんじゃないか、って位強烈な掻き出し。
単純に突いて、抜いて、その繰り返し。
思ったのと全然違う。
なのに。
「ふあっ」
あたしは、それが気持ち良く感じていた。
啓太の腰に脚を絡ませて、しがみついていた。
もっと深く、きつく、されたい。
もっとこれを感じたい。
啓太が動くたびに、背筋が緩んで、何かが駆け上がってくるの。
こんなの一人でしてる時にはなかった。
気が遠くなりそう。
汗が吹き出してる。
悲しくないのに涙流してる。
ああ、ああ、なんかヘン、下腹部がキュッて締まる、内臓がせり上がってくる、
胸の奥でなんか弾けて……いやぁっ!なんかくる!脳みそ焼けちゃう、これダメえっ!!
「やっはあああああああっ」
くぐもったうめき声をあげてあたしを抱きしめる啓太の腕の中で、あたしは
背を弓なりに反らして、普通では出しようのない、力の抜けた、
声にならない悲鳴を上げた。
……身体の力抜けちゃってる。
さっきの焼けたような感覚が体中に残ってヒリヒリしてる。
これがイく、って感覚?
生まれて初めての余韻に浸るあたしの中でぬかるみを長靴で歩いてる時みたいな、
水っぽい音がして、啓太が動いた。
さっきみたいなガチガチした圧迫感はなくて、少し楽になっていたけど、
ほんの少し擦れただけであたしはまた啓太を締め付けて昇り詰め、啓太は
またあたしの中で硬くなった。
「ごめっ、またイクっ」
啓太がそう言ってまた腰を振る。
またあの感覚がくる。きちゃう。
「やあっ……あっ、あっ、うああっっ」
啓太のお尻に手を伸ばして、爪先で腰を浮かして、そこを密着させるように押し付けていた。
「ああ、啓太、啓太……イクうっ!」
「香耶あっ」
お互いを呼び合い果てる中、啓太がビクッ、ビクッ、と痙攣しながら
なにかを奥に吐き出すのが感じられた。
「ごめっ……っ」
「いいよ、生理三日前に終わったばっかりだから」
啓太にキスをしながら答える。
「入学式、待ち合わせして、一緒にいこ」
「ああ」
上半身を起こし、眼鏡を捜す。
啓太が手渡してくれた。
あたしは啓太の指にキスをして受け取った。
眼鏡をかける。
見慣れたあたしの部屋。
輪郭を取り戻す啓太の顔。
……途端にものすごく恥ずかしくなってあたしは耳まで真っ赤になって俯いた。
終