本屋でこういった本を買う時は結構緊張する。いや、多分誰もオレの事なんか見てもいない  
だろうし、よしんば見ていたとしても「あ、変態か」程度のものだろう。だが理屈じゃなく緊張  
するものはしょうがないじゃないか?  
 オレは本を裏返しにして男の店員が立っているレジに出す。当然店員は何のリアクションも  
せずに、その本を紙袋に納めた。オレは緊張してバカみたいだと自分を嗤いながら金を払って  
駅に向かう。  
 そして本を抱えたまま自宅アパートの最寄りの駅で降りて歩く、まっとうに行けば徒歩20分  
だが裏道を行けば15分弱で着く。オレは迷わず裏道を行く。冬の日没は早く7時前だってのに  
真っ暗だ。オレは街灯が照らす薄暗い裏道をアパートに向かって歩く。  
 と……背後で足音がもうひとつする。こんなことは今まで一度もなかった。オレの頭に  
浮かんだのは強盗! 自分が女だったら痴漢とか思うのだろうが……とふと小脇に抱えた  
本の存在を思い出す。  
 まさか! オレがこの本を買ったのを見てた奴が、勘違いしてオレを……?  
 冗談じゃない! オレは開発されたいわけじゃない! 開発がしたいんだ!  
 オレの脳内で、アッー! を狙ってくる奴と断定された足音の主の歩を進める音が早くなる。  
これはいよいよか? オレはもしもの時は抵抗はしようと思ったが、もしプロレスラー並みの  
ごつい男だったらと怖い考えがよぎる。瞬時にオレの脳はポジティブな事を考える努力に100%  
切り替わった。  
 ほら、よく聞くじゃないか? 全然お前のことなんか襲わねーよブスって女がチラチラ後ろを  
振り返りながら自分の事を痴漢みたいな目で見るって話。そうそう、だから、あの足音の主も  
きっと関係ない、たまたま偶然同じ道を通った人に違いない。それでこのままオレの脇を  
さぁっと走り抜けて、なぁんだオレ馬鹿みたいって思うんだよな。  
 なんてやっと考えたのに……。  
 
 衝撃波がオレの腰を襲う。買ったばかりの本が地面に落下して袋のセロテープが外れ  
『アナルマニア』のタイトルが覗く。  
 バイバイ、オレのお尻の処女……。オレがしんみりとしていると、オレに覚悟をさせたその  
人物が叫ぶように言った。  
 
「あなたしかいなんですっ!」  
 
 ? 女の声だった。恐る恐る振り返ってみると若い女がオレにしがみついていた。  
 
「……あの……どなたかとお間違えではないですか?」  
 
 震えそうになる声を抑えてオレは聞いてみた。だが、その答えはあまりにも意外過ぎた。  
 
「私のアナル開発して下さいっ!!」  
「ええっ!?」  
「あのっ、本屋であなたを見て、あなたしかお願いできないと思ったんですっ! 私のアナル……」  
 
 オレは慌ててその女性の口を塞いだ、家まで近いこの場所で、アナル、アナルと連呼されては  
たまったものではない。  
 
「静かに! 話はアパートで聞くからついてきて」  
 
 オレは落ちた雑誌を拾うと彼女の方も見ずに歩き出した。彼女がここで諦めて帰ってしまった  
としても構わないと思っていた。いや、確かに惜しいけど……こんな上手い話があるか?   
と思ってたのも事実だ。  
 だが、彼女はちゃんとオレの後をついてアパートにやって来た。部屋に通して電気を点ける。  
明るくなった所で見た彼女にオレは腰が抜けるくらい驚いた。  
 
「え? 君みたいに可愛い子がなんで……アナル……?」  
「か……可愛いですか? ……あ、ありがとうございます」  
 
 色白な肌に、柔らかそうな小さな紅い唇、鼻はそんなに高くはないがいいバランスだと思う、  
何より少し気の強そうなツリ気味の大きな目が卑怯にも必死になり過ぎてか少し潤んでいた。  
正直どストライクだった。  
 オレがエアコンとファンヒータをつけてコートを脱ぐと彼女も「あっ」と言ってコートを脱いだ。  
こんなことを言い出す女性だからどんな服装をしているのかと思ったら、彼女が着ていたのは  
市内有数のお嬢様高校の制服だった。  
 
「えぇぇぇぇぇぇ!?」  
「はぃい?」  
「聖蘭の生徒? 高校生なのか!?」  
「はい、そうです。梅野ハルカと言います」  
「あ、オレは牧原和也です」  
 
 って悠長に自己紹介している場合じゃないだろうと思う。だって下手したらこの段階だって  
犯罪だ。彼女の望みを叶えれば間違いなく犯罪だけど……。どうしたものかと……駅まで送って  
やって……などと考えながら彼女を観察してみると、制服の着こなしがなんだか奇妙だった。  
スカートのウエスト部分がアジャスターをいっぱいいっぱいに伸ばした挙句それでも収まらずに  
安全ピンを使って留められていた。  
 
「え? まさか妊娠……」  
「ち、違います! これは……うっ!」  
 
 突然彼女がお腹を押さえて座り込む。まさか!? 出産!? オレは血の気が引くのを感じたが  
それ以上に彼女の血の気が引いていた。彼女は蒼白な顔に脂汗を流して呻いていた。  
 
「べ……便秘なんです……もう……十日も出て無くて……うっ……」  
「出そうなのか?」  
 
 彼女はこくりと頷いてオレにしがみついて来た。オレは彼女を抱き上げるとトイレに連れて  
行き便座に座らせた。  
 
「オレ、外、出てるから、気にせずゆっくり使っていいから」  
「嫌、お願いします。和也さん、見て下さい、私が出すところ! リアルは駄目ですか?」  
「いや、そんなことは……」  
 
 オレは口ごもった。そして顔色を蒼白にしてふらふらになっている彼女を支えるためにここに  
いるんだと自分に言い聞かせて彼女の排便を見守ることにした。  
 
「わかった、見てやる」  
「嬉しいです」  
 
 この時の彼女の微笑みを何と例えたらいいだろうか……などと考えている余裕はなかった。  
彼女はつらそうにスパッツとショーツを引きずり降ろして、スカートをたくしあげる。  
 
「見て……下さい」  
「あぁ」  
 
 だが、薄い陰毛に飾られたスリットの向こうに少し焦げ茶のモノが「あれがそうか?」と  
いった程度に顔を覗かせては消えるを繰り返すだけで、彼女の顔色は益々悪くなる一方だった。  
オレは意を決して彼女に言う。  
 
「ハルカちゃん、オレが指入れて出してあげようか?」  
 
 途端に彼女の顔が明るくなる。  
 
「いいんですか? 嬉し……い……」  
 
 オレは彼女のアヌスに指を挿し入れる。硬くゴロゴロとしたものを指を曲げて掻き出した。  
 
「んぅ……あぁん……」  
 
 兎の糞のようなコロコロした黒く硬いものがいくつか落ちた後、とても太く長いモノがゆっくりと  
便器の中に降りて行く。オレは惜しいなと思いながらも詰まるとやっかいなのでタンクの水栓を  
ひねった。  
 それから彼女が十日分の排泄をするのをオレはじっと見つめていた。  
 しばらくしてようやく彼女の手がトイレットペーパーに伸ばされたのを見てオレは彼女に話しかけた。  
 
「何でオレ? 怖くないの? こんなこと頼んで、もし……」  
「先月、あの雑誌を和也さんが買って帰られたのを見て、私、一目惚れしてしまったんです」  
「はぁ?」  
 
 はっきり言ってオレの見てくれは、一目惚れなんてするようなモンじゃない。そんなオレの疑問を  
ものともせず彼女は言葉を続ける。  
 
「それに奇しくも今日、あの雑誌の発売日の今日ですよ! 現国の授業で『窮鳥懐に入れば猟師も  
 殺さず』と習ったんです。だからこれは運命だと思って……」  
 
 これが乙女脳ってやつかと思いつつ、先生はきちんと最後まで教えろよと溜息が出た。  
 
「それで……あの……和也さんさえよろしかったら、私、色々持って来たんですけど……」  
 
 にっこりと微笑む美しい彼女にオレはもう抗えなかった。  
 
 
          《終わり》  
 

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