ひらひらと短いスカートをなびかせて、女子生徒たちが校門を出て行く。
うちの学校、どうしてこんなにレベル高いんだろうなあ……
校門の脇に立って、圭一は思う。
どの子を見ても、後姿だけで間違いないと思わせるほどのスタイルの良さなのだ。
男なんかとは脚の長さも腰の高さも違うもんなあ……
「――お待たせ、圭一」
声をかけられて、圭一は振り向いた。
美維(みい)の――いつも悪戯を思いついたときの、口元を綻ばせながら胸を張って見下ろす視線。
「ふふん? なーに鼻の下を伸ばして、女の子の綺麗な脚を眺めちゃってるのかしら?」
「な……なっ!?」
圭一は真っ赤になって、
「そっ……そんなの見てませんよ!」
「嘘ついてもムダだよ? あたしの心眼は誤魔化せないんだから」
美維は、すっと手を伸ばして圭一の顎を、指で艶めかしく撫でる。
「正直に言ってごらん? 僕は脚フェチなんですぅ、女子校生のナマ脚が大好きですぅって」
「そ……そんなことないですっ!」
圭一は顔を伏せようとしたが、美維の指で、くいっと顔を上向かせられた。
しかし美維とは眼を合わせられずに視線を彷徨わせながら、
「ただ……その、女の子って、男とは全然違うんだなあと思って……」
「あたしの眼を見て言ってごらん、圭一?」
「…………」
圭一は、のろのろと美維に視線を向けた。
思わず、ため息が漏れてしまう。美維は綺麗だった。
絹糸のように艶やかな、腰まで届く黒髪。羽毛のような長い睫毛に縁取られた、ぱっちりとした眼。
すっと通った鼻筋に、小ぶりな桜色の唇。
顔立ちの美麗さに劣らず身体つきも完璧といってよかった。
まるでオートクチュールのようにぴったりとした制服が、腰の細さと胸の豊かさを際立たせる。
実際、身体に合わせて制服を仕立て直している筈だけど。それくらい彼女には簡単なことだ。
美維は、にっこりとしてみせた。
「さあ、言って。あなたが何を見ていたか?」
「その……ごめんなさい」
圭一は謝った。美維が指を引っ込めてくれたので、ちゃんと頭を下げることができた、
「確かに女の子たちを見てましたけど、でも、それは男より全然、スタイルがいいなと思ったからで……」
「脚が長くて?」
「あ……脚もそうですけど、それだけじゃなくて顔も小さいし、すらりと細いし……男なんかより」
「あたしはね、圭一も充分に可愛いと思うけど」
「ぼ……僕はそんな……」
「からかうと、すぐ真っ赤になっちゃう顔とかね。ホント可愛い」
「か……からかわないで下さい」
赤くなって口をとがらせる圭一に、美維は、くすくすと笑う。
「ねっ、圭一。もう一度、こっち見て」
「……はい」
圭一は言われた通りにする。
美維の紺碧の瞳に圭一自身の顔が映っていて、吸い込まれていきそうな錯覚に彼は陥ってしまう。
「ラミアの心眼は誤魔化せないんだよ、圭一」
美維は言って、にんまりと悪戯っぽく眼を細めた。
「圭一は、あたしのどこが好きか言ってごらん?」
「その……美維先輩は、凄く綺麗で」
「うん」
「長い髪が綺麗だし、眼が綺麗だし、唇が綺麗だし、スタイルも凄いいいし」
「脚はないけどね」
「脚なんて、そんな……!」
圭一は少しばかりムキになって言った。
「先輩は、ラミアだからいいんじゃないですか!」
「そうだよね」
美維は、にっこりとした。
「あたしはラミアで、それでもって圭一の彼女」
圭一の手をつかむと、自分の身体――
人間の女子生徒と同じくらい丈を詰めたスカートの下から伸びた、錦蛇に似た胴体に触れさせる。
ひんやりとして、滑らかな手触り。
「先輩……」
胸をどきどきと高鳴らせる圭一に、美維は笑顔のまま、
「撫でて。大丈夫、周りの視線なんて。むしろみんなに見せつけてやろうよ、あたしたちの仲を」
「はい……」
圭一は美維の蛇の胴体を撫でた。
腰から上の人間と変わらない肌も上等だけど、彼女の蛇の部分の触感はそれに負けず劣らずである。
何より、蛇の部分を撫でてやったときの彼女は、頬を朱に染めてうっとりと艶めかしい表情を見せるのだ。
圭一はラミアである美維に心底から惚れていた。
「……んんっ……はぁっ……」
美維は恍惚と吐息をついて、
「あたしに告白してきた男は何人もいたけど、みんな『ラミアでもいい』とか見当外れなことを言うのよ」
「それは……最悪ですね」
お追従ではなく本心から圭一が言うと、美維は「……あふぅっ……」と艶めいた声を上げてから、
「そうよ。ラミアがどれだけ誇り高い種族か、人間はみんな理解してないの」
「でも、そのおかげで先輩はフリーのままで、僕は先輩とつき合うことができたんだから……」
「あたしもね、圭一みたいに素直で可愛らしい男の子が好き」
美維は両腕を差し伸ばして圭一の首に回した。
「ラミアは誇り高いの。あたしに絶対的な愛と献身を誓える男じゃなければ相手になんてしないわ」
「美維先輩……僕の忠誠は、とっくにラミアの心眼で理解してるんでしょう?」
圭一も美維の背に手を回して抱き寄せ、唇を重ねた。
舌先と舌先が触れ、次いで互いに絡み合い、さらに口中をまさぐり合う。
しばらく深いキスが続いてから、互いに唇を放し、「……ぷはっ」と息をついた。
美維は、にっこりとして、
「少しずつ積極的になってきたじゃない? 自分からキスした次は、『先輩』の呼び名をやめてみようか?」
「慣れるように……努力します」
「敬語は、まあ、そのままでいいけど。あたしへの忠誠の証しと理解してあげる。さ、帰りましょうか」
美維が鞄を提げた手を伸ばしてきて、圭一はその手を握った。すると美維は、
「違うわ。あたしの鞄を持って。それでもう一方の空いてる手で、あたしと手を繋ぐの」
「はい……」
圭一は苦笑いで言われた通りにする。ラミアの彼女に絶対の愛を誓うとは、そういうことなのだ。【終わり】