ふと、後ろを振り返ると窓の外から色鮮やかな紅葉が溢れているのが目に入った。  
"今は秋か・・・。"  
 僕はそう思いつつ窓を閉めた。  
   
 もう僕は何日も家の外に出ていない。いや、最後に出てからもう数週間、若しくは数ヶ月経っているかもしれない。  
だが、そんな事はどうだっていい。今の素晴らしい生活を前にしてそんな些細な事はどうだっていいのだから。  
 
 何時の日だっただろうか、僕が最後に外に出たのは。たしか、その日僕は大学の講義を受けに行くべく、  
北関東の自宅から1人自転車で田圃の中の小道をのんびりと駅へ向かっていた。家を出て数十分ほどで道は、  
十年ほど前から高速道路に寸断されており、そこからは左へと曲がってガードをくぐらなくては向こうへ抜けられない。  
普段から使い慣れている道なので、高速が開通したばかりの時の様な不便に思う気持ちは無くなったが、この場所は事故が多い事で有名である。  
それ故に要注意ポイントであるこの場所を通過する時は、常に辺りを気にして減速するのだが今日に限っては、数日前の事故の事で頭の中は一杯だった。  
"先日の小学生が撥ねられた事故では、バラバラになった死体の一部が防音壁まで飛んだらしいな・・・。"  
そして僕が、そのまま減速する事も無くハンドルを切ってガードの中へ入りかけたその瞬間。  
パァァーン!  
 ガードの中から凄まじい警笛と共に一台の乗用車が猛スピードで走り出てきた。余りに唐突な事だったので、僕はそれに対して何も出来なかった。  
そして、そのまま正面から車に弾き飛ばされ、自転車と共に中を舞った。その時妙に周りの景色が良く見えた事が印象に残っている。  
強い衝撃と共に固いアスファルトの上に落下した僕は、激痛の中で九の字にひしゃげた自転車と、その前に停車した黒い車の中から人が降りてくるのを見て気を失った。  
 
 僕が目を覚ますと、窓以外の全てが白で統一された部屋に寝かされていた。どうやら病院らしい。  
"助かったのか・・・。夢じゃないよな。"  
と思ってそのまま天井を見つめていると、1人の看護士と思しき女性がやって来た。  
僕は彼女に気がついた事を伝えようと口を動かすのだが、声が出ずにのどからはただただ空気が吐き出されるばかり。  
何度もそれを繰り返していると、ようやく彼女は僕が目を覚ましている事に気がつき声をかけてきた。  
「大丈夫?どこか痛い所はない?気分はどう?」  
彼女は立て続けに僕に質問をぶつけてきた。しかし、言葉が出ない僕には何とも返しようが無い。  
ただ口をパクパクとさせるだけの僕を見た彼女は、慌てた格好で室外へと出て行った。  
 数分後、その看護士は医師を連れてきた。白衣を着た初老の医師だった。  
「何時、意識が戻ったのかね。」  
「数分ほど前のようです。すぐに声をかけたのですが声が出てきません。」  
「そうか。他に異常は?」  
「いえ、今の所は。まだ何とも言えないのですが・・・。」  
「そうか。」  
耳には彼らの会話が次々に流れ込んでくる。だが、僕はそれに応じる事が出来ない。  
それどころか今になって気がついたのだが、声が出ないばかりか手足を動かす事が出来ないのだ。  
僕は焦ってそれを医師に伝えようとしたが、一向に医師は気がつかないままそこらに置かれている機器のモニターを眺めては  
看護士となんやかんや話し続け、医師の指示で看護士がいなくなってからようやく僕に尋ねてきた。  
「手足は動くかね。」  
"動かない。"  
僕は口パクと共に首を縦に振った。  
「動かないんだな。」  
"動かないって。"  
念を押す様に医師が尋ね返してくるので、同じ様に答え返す。すると医師は何も言わないで部屋を出て行った。  
しばらくの間僕はまた一人になった。  
 
 数時間後、再び部屋に人が入ってきた。とは言っても今回は、あの医師と看護士だけではなく黒いスーツを着た男と僕と同い年程度に見える女がいた。  
「具合はどうか?」  
スーツの男が医師に尋ねる。医師は答えにくそうな顔をして  
「首から下の下半身が動かない上に声が出せません。どうやら、中枢に障害を負っているようです。」  
「直る見込みは。」  
「今のままでは全く・・・。」  
「リハビリをしてもだめか。」  
「リハビリ以前の問題です。そもそも運動中枢に障害を負ったのですから、動く事が出来ません。今は今後どうやって生活していくのかが課題となります。」  
「そうか・・・。」  
「お医者様、ちょっとよろしいですか。」  
「はい、何でしょう。」  
 
今度はスーツの代わりに一緒に着た女が口を開いた。  
「この方の直る見込みはもう無いとのことでよろしいですね。」  
「はい、そうです。」  
「では、これからどうするつもりですか。」  
「本来はこのような場合、病院にて面倒を見続けるかそれとも家族の方に引き取って頂いて自宅療養に回すのですが、  
この方の場合家族がおりませんので、引き続き当院に入院し続ける事となります。」  
「わかりました。この方は天涯孤独の身という事よろしいですね。」  
「はい。」  
女はジッと僕の顔を眺めると、不意に顔を上げた。  
「犬上。」  
「はい、お嬢様。」  
お嬢様と呼ばれた女はスーツの男―犬上と呼ばれた―に場を返した。  
犬上は持っていたかばんの中から書類を取り出すと、医師に渡した。  
「これは・・・。」  
その二通の書類に目を通した医師は狐につままれた様な顔をしながら呟いた。  
 
「退院許可書と身元引受書です。この方の今後のお世話は私たちが致します。」  
女はきっぱりとそれを言い切った。そして、  
「そもそもこの方がこのような目に遭ったのは私たちに責任があります。  
ですから、私たちにはこの方が被った損害を全て補償する義務があるのです。  
特にこの方の場合は首から下が全く使い物にならず、その上、声が出ないのでこのままでは病院の外に出る事すらままなりません。  
しかし、身寄りは誰一人としていない天涯孤独の人。これをどうして放っておかれましょうか?」  
「はぁ・・・確かに。」  
「わかりましたか?では、すぐに我が家へと運びたいので用意の方をお願いします。」  
「えっ、でも・・・。」  
「何か問題でも?その書類は全て院長の決済が済んでいますよ。」  
「わ、わかりました。すぐに用意いたします。おい、田川君、すぐに人を呼べ、いますぐにだ。」  
「はっはい。」  
田川と呼ばれた看護士は、医師に言われたとおりに数名の看護士を呼び出した。そこから先の展開は速かった。  
看護士と医師は、すぐに僕の体に取り付けられていた様々な機器が取り外し、対応した処置が施した。  
それらが終わるとストレッチャーで運び出され、地下の駐車場から車に乗せられて病院を後にした。  
その間にかかった時間は、自分の感じたところではものの数十分も掛かっていなかった様である。  
下の方に寝かされているので外の景色を見る事は出来なかったが、しばらくすると背中から伝わる揺れで一般道から高速に入ったように感じられた。  
"どこへ僕は運ばれていくのだろう・・・。"  
自分がこれからどうなるのか、と心配している内に僕は再び眠ってしまった。  
 
 
 次に僕が目を覚ますとそこは車の中ではなくどこかの部屋のベッドの上だった。  
どこかの部屋とは言えども、それは茶色をベースにまとめられたこじんまりとした洋室であり、枕元に置かれた椅子には1人の女性が座って僕を見つめていた。  
「気がつかれましたね。」  
僕と視線のあった彼女は、嬉しそうにニコッと笑って僕に言葉をかけた。  
 目を覚ました僕はまず、今自分の置かれている状況を彼女にうかがった。  
すると彼女は自分の名を桐壺と言い、あのお嬢様に仕える者で僕の一切の世話をするよう命じられていると述べた。  
お気に召しませんか?と尋ねられたが、今1人では何も出来ない僕にとっては、大変ありがたい天からの恵みとも言って良い様な事であったので、喜んで彼女を受け入れた。  
そして、ここから僕の新たな生活が始まった。  
 体を動かす事が出来ず、声も発せない僕を桐壺は献身的に看病してくれた。  
時には雑談もした、とは言っても僕が彼女のしゃべった事を聞き、それに対して僕が口パクと首を駆使して答えるというものに過ぎなかったが、  
特にこれと言った楽しみの無い今の僕にとっては、十分な気分転換となりこれを大いに楽しんだ。  
だが、雑談の最中に肝心な事、例えば自分はこれからどうなるのか、あのお嬢様とはいつ会えるのか、と言った事を尋ねると、困った事に桐壺は口を噤んでしまう。  
それでもと、同じ事を何度も尋ねてようやく  
「申し訳ありませんが、その様な事はいくらお客様から尋ねられましても答えてはならないと厳命されておりますので、私にはお答え出来ません。」  
と言って、別の話題へと話の流れを振ってしまう。  
結局、同じ台詞を数回も聞いている内に、無駄な努力をしている自分が馬鹿馬鹿しく思えてきたので何時しか僕は桐壺にその事を尋ねるのをやめた。  
最も、自分自身を馬鹿馬鹿しいと思うだけではなく、質問する度に彼女が悲しそうな顔をするのに僕が耐えられなかったのも事実である。  
 
 ある日の午後、昼食が終わって1人静かにベッドに寝ていると、桐壺が部屋に入ってきた。  
「お客様、お嬢様がお見えになりました。」  
と僕に告げた。  
"わかった。"  
僕はただそう答えただけだつた。しかし、この時、表には出さなかったものの、内ではようやくこれからの自分の命運を握っている人と合えることを喜んでいた。  
僕の返事を確認した桐壺はすぐに外へと出て、数分後に戻ってきた。  
「どうぞ、お入り下さい。お嬢様。」  
彼女が先にドアを開けてそう言うと、あのお嬢様が部屋の中へと無言で入ってきた。そして、枕元にある桐壺が何時も座っていた椅子に座ると口を開いた。  
「お久しぶりね・・・気分はどうかしら?」  
"おかげさまで何とか。"  
「そう。ならいいわ。さてと、桐壺。」  
「はい。」  
「これから2人で大事な話をするから貴女は部屋から出て自室へ帰りなさい。出る時には鍵をかけてね。」  
「わかりました、お嬢様。それでは。」  
桐壺はお嬢様の指示に従って部屋を出ると鍵をかけた。  
カチャッ・・・  
静かな部屋の中に妙に鍵の掛かる音が木霊する。  
 
 部屋の中にお嬢様と僕しかいなくなると、お嬢様は再び口を開いた。  
「先日の事故の事は本当にごめんなさい。こちらの不注意であなたの大切なこれからの人生を狂せたばかりか、  
唯一無二であるあなたの体を壊したと言う2つの事実は、私達がどう足掻いても償え切れず消す事の出来ない事です。  
本当に申し訳ありませんでした。」  
そう言って彼女は深く頭を下げた。そして、頭を元に戻した彼女に僕は言葉を返した。  
"大丈夫です。そんなに気になさらないで下さい。"  
僕はもうあの事を問題にする気は全く無かった。しかし、彼女は違っていた。  
「でも、私の過失であなたの人生を狂わしてしまったのよ。この事を気にしなくて何を気にすればいいの?私には分からないわ。」  
どうやら、彼女は相当今回の事で参っているようだ。そこで僕は更に言葉を返した。  
"その事は僕にも言えますよ。いくらあなたが僕に対して謝罪し、あの事故を悔いても僕の体が元通りになることはありません。  
そもそも、事故の原因について云々言う事は時間の無駄に他なりませんよ。  
それに僕には命があるのです。命が無事であった、それだけでも大きな儲け物です。その上、あなたは僕をここまで面倒見てくれる。  
事故の被害者に対して加害者がここまでするのは基本的に有り得ない事です。その様な有り得ない手厚い支援をしてくれる方にどうして文句が言えるのでしょうか。  
僕にはとても理解できない事です。今の僕はあなたに対する憎しみよりも、感謝の気持ちで一杯です。"  
流石に口パクでここまで言うのは、結構疲れた。しかし、彼女の手前でさも疲れたかのような顔はとても出来ない。  
と僕が思っている間に彼女は一瞬神妙な顔をして、すぐに口を開いた。  
「命がある・・・確かにそうですね。命が無くては何もなりませんわね、いくら体が五体満足で残っていいましても命が無くては・・・。」  
"そうでしょう、ですからそう気を病まないで下さい。でないとあなたに深く感謝している、僕まで気が滅入ってしまいます。"  
「わかったわ・・・でも、あなたの言っている事には1つ間違いがあるのだけどいいかしら、言ってしまっても。」  
"間違い?"  
 
「そう、間違い。あなたはもう自分の体が元通りになることは無いと言ったわよね。」  
"はい。"  
何だか高校時代に、苦手なタイプの教師に質されている様な感じを受けながら僕は正直に答えた。  
「実を言うと、元通り・・・いや、元通り以上に戻る事が出来るの。」  
"えっ・・・。"  
僕は突然の告白に心底驚いた。出なくなった声がもう一度出てくるのではないかと思うほど驚き、息を吐いたが声は出なかった。  
そんな反応を示した僕をお嬢様は愉快そうに見つめる。  
"ど・・・どうやって、元に戻るのです?"  
「簡単よ。」  
そう言うと彼女は一息ついて続けた。  
「私、いやこの館の者と同じになればいいのよ。」  
"はぁ?"  
予想していなかったその言葉に僕は思わずネタかと思ってしまった。しかし、彼女の目は真剣であった。  
その目を見ていると、何かふざけた事を言ったら殴られるかも・・・という気がしたほどだ。  
「まあ、すぐには信じられないと思うけど、私、人間じゃないのよ。  
もちろん、桐壺も犬上も・・・この館にいるあなた以外の誰もが人ではない人外の民の末裔・・・人はそれを獣人と呼ぶわ。」  
 
"獣人・・・ですか?"  
「そう獣人よ。」  
僕の呟きに対し、彼女は平然と答えた。  
僕は少し混乱した、何故なら獣人というものは小説や神話の中にのみ生きる、人間の創造の産物に過ぎないものだと信じていたからだ。  
なのに、今目の前にいる彼女曰く自分は、そして桐壺も犬神も皆、この館にいる僕以外の全ての者は獣人なのだと。  
だが、僕はいまいち納得出来なかった。何故なら、自分は獣人だと言い張る彼女はどこからどう見ても人であるからだ。  
"でも・・・あなたはどう見ても獣人ではなく人ですよね。しかし、あなたは自分は獣人だと言う、どこか矛盾してませんか。それに現実に獣人がいるはずがありませんよ。"  
僕は少し得意げにそうお嬢様に言った。すると、それを読み取ったお嬢様はクスクスとしばし笑うと口を開いた。  
「これだから、人って面白いのよね。自分の目に映る物、自分の知っている事の全てこそこの世の全てだと思い込んでしまうところが・・・まぁいいわ、その思い込み私が消してあげる。」  
そう言うとお嬢様はまたクスリと僕の顔を見て微笑んだ。  
 
 
「さてと・・・これで用意は整ったわね。」  
数分後、椅子を隅に片付け、僕が見易い様にとベッドを斜めに上げたお嬢様は、広々とした部屋の真ん中に立った。  
「行くわよ・・・。」  
そう呟くと彼女は目を閉じて静かに息を吸い、そして吐いた。  
スゥ・・・。  
息を吐く音が無音の部屋の中に良く響くのと同時に、彼女の体に変化が生じた。  
ビクン・・・。  
「あふぅ・・・。」  
 まず、彼女の体全体が大きく震えた。すると、それまでも服の上から大きくとまでは行かないがその膨らみの見えていた胸が2周りほど大きくなり、服が軽く悲鳴を上げる。  
それまで何の乱れも無かった首筋からは毛が生えだし、それは服の下と顔へ広がっていく。  
骨格が変化して、見た所全身が一回り大きくなると、耳はのびて上へと反り立ち、尾てい骨の辺りから生えた尻尾が服と服の間から顔をのぞかせている。  
「ふぅぅ・・・。」  
一つ一つ何かが変化していく度に彼女は気持ち良さそうに息を吐き、体のどこかを揉む。そして、何度目かの息を吐くと、とうとうこれまで変化のなかった顔が前へと伸び出した。  
彼女は今までにもまして気持ち良さそうに息を吐いている。  
 僕は目の前で繰り広げられている光景に圧倒され、目を閉じる事すら出来ないでいた。これは夢だ、夢なんだ、と何度思ったかもしれない、  
もし手が片方でも使えたなら僕はすぐに頬を叩くなり、抓るなりしただろう。だが、今の僕にはそれは出来ない。  
目を閉じる事も出来ずに、ただただ目の前で起きているこの世の物とは思えない光景を、じっと凝視する事しか僕に出来る事はなかった。  
   
 そして、永遠に続くかと思われた彼女の変化は終わった。彼女が大きく息を吐いて体を震わせると、それまでピチピチに張っていた服が一斉にボロ屑と化して床に散る。  
「あら、服を脱いでやればよかったわ・・・まぁいいか。」  
変身した彼女は気持ち良さそうな顔をすると、僕の方へと顔を向けた。  
「これで信じてもらえたかしら・・・この世に獣人という存在がいることを、そして私がそうであることを・・・。」  
全身を主に薄茶色の獣毛でおおい、人と犬の中間と言った風情の顔をした犬獣人となった彼女は、その青い瞳を輝かせて僕に言った。  
"はい・・・。"  
ただそう一言、僕は答えた。  
 
 
 あの日から二日が経った。僕はまだあの日の事が真実であったとは思えていない。  
しかし、あの後すぐに人へと戻った彼女は服を着ながら僕に言った。  
「まぁ、あなたが獣化するかしないかはあなた自身の判断に委ねるわ。  
こちらの都合で強制するわけにはいかないもの。でも、あなたには獣化して体の自由を得るか、  
それとも人にこだわったままベッドの上で一生を終えるか、のどちらかしか残されていないのを忘れずにね。」  
そして、彼女は部屋から出て行った。一人になった僕は、しばらく考え込んでいたが色々とあってすっかり疲れてしまい、何時の間にか眠っていた。  
 翌朝目を覚ますとそこには桐壺がいた。何時も通りに自分の世話をして相手をしている桐壺を見ながら僕は、  
静かに1人で考えにふけっていた。雑談の際に少し探りを入れてみたが、彼女は何も僕とお嬢様の一件の事は知らない様であった。  
だが、僕には分かった。何となくではあったが、彼女は知らないかの様に振舞っているのだと、  
大方お嬢様に聞かされた上で、僕がその気になるまで知らない振りをしているようにと言われているのだろう。  
 夜になって、桐壺は何時も通りの時間になると部屋から出て行った。一人になった僕は薄暗い部屋の中でまた静かに考え込む。  
確かに、今のままの生活が自分にとって良い生活とはいえないし、いくら身の回りの世話と相手を桐壺がしてくれるとは言え退屈であるのには変わりない。  
それに何でも桐壺にやってもらうのは何だか忍びなかったのだ、だからと言って簡単に獣化しようとは思えなかった。  
 何故なら、実の事を言うと僕はどちらかと言うと動物は全般的に好きなのであるが、犬だけは違った。  
何故犬が嫌いなのかは自分も良く分からないが、犬以外の動物には触る程度のことは出来ても犬だけはどうしても触る事が出来ない。  
とは言え、小学生の頃の様に見るも嫌だと言う程ではなくなっているのがせめてもの救いではあった。  
 そんな訳で僕は非常に悩んでいた。体の自由をとって獣化するか、それとも自分の趣向によって体の自由を捨て、  
このままベッドの上で一生を過ごすかの2つの間で。だが、その晩も答えは出ずに結局次の日の朝を迎えてしまった。  
 
 数日後、再びお嬢様がやって来た。今度は犬上を連れて、2人で僕に会いに着た。  
「体の具合は如何かしら・・・とは言っても特に変わりはないようだけど。」  
"大丈夫ですよ。"  
「そう、では単刀直入に言うわ。決心はついたかしら。」  
"えっ・・・まぁそのう・・・。"  
今回、彼女らがこの部屋に来た理由は大体察していたが、こうもすぐに言われるとどうしてもしどろもどろしてしまう。  
僕が返答に躊躇していると、お嬢様は溜息をついて続けた。  
「その調子では、まだ決心がついていないようね・・・。まぁ、無理も無いわね、余りに突然の出来事過ぎたもの、  
車に撥ねられ、気がつけば首から下は完全に麻痺し言葉を発せなくなり、そして自分を撥ねた人に連れて行かれると・・・  
一般世界で人として普通の人生を送ってきたあなたにはちょっと酷だったかも知れないわ。」  
そう言うとお嬢様は少し肩を落とした。部屋には沈黙が満ちている、犬上は僕を冷たく見るばかりだ。  
僕はそんな部屋の空気と即決の出来ない自分に次第に苛立ちを感じていた。だが、犬嫌いという壁がどうしてもそれを邪魔する。  
そんな僕の表情を読み取ったのか、ずっと僕を冷たく見てきた犬上が口を開いた。  
 
「1つよろしいかな。」  
"はい。何でしょう。"  
「今までのお嬢様と貴君とのやり取りとその表情から察するに、  
貴君はその心中に何らかの悩みを抱えている様に感じられるのだが如何か。  
もし、その様な悩みがあるのならば早急に言葉として外に出すべきではないのか。  
我々に出来る事ならその解決に尽力を尽くそう、もし出来ない事であれば出来る範囲内で力を尽くす用意がある。  
それにどのような悩みであってもそれを1人その心中に蓄えておくのは良くない事ではないのか。」  
それを言われた僕は、内心ビクッとした。そして何らかを答えようとしたその時だった。  
「いいのよ、犬上、彼にはまだ考える時間が必要だわ・・・ここからは私がする。だから、私と彼だけにして。わかった犬上。」  
「・・・仰せのままに。失礼致します。」  
お嬢様の一言で犬上は静かに部屋から出て行った。お嬢様は自ら鍵をかけると以前と同じ様に椅子に腰掛けた。  
「さてと・・・まず、今犬上が言ったように何か悩みがあるのなら言って見なさい。大丈夫よ、秘密にしておくから。」  
そう言って彼女は僕の目を見つめてきた。人の姿である今の彼女の瞳は青ではなく茶色をしている。  
獣化した後の彼女の青い瞳もまた魅力的ではあったが、今の彼女の茶の瞳にはそれとは違う、  
見つめ続けていると何か自分が吸い込まれて行く様な感じがした。  
"実は・・・。"  
気がつくと僕は彼女に、犬獣人である彼女に自分が犬嫌いであることを話していた。  
 
「へぇ〜そうだったの。あなた犬嫌いだったのね。」  
お嬢様はその言葉の通りに意外そうな顔と声を僕にかけた。  
"まぁ、そういうわけです。はい・・・。"  
僕は次に彼女が何を言い出すのかが怖く、内心ではかなりビビッていた。  
しかし、そんな僕の不安と裏腹に彼女が次に出した言葉はあっけらかんとしたものだった。  
「で、どうしたの?何も私が犬族だからって、あなたも犬族になることは無いのよ。  
何になるかはその人の持つ性質と霊質が大きく関係してくるの、  
だからあなたが何になるのかは私達にも、あなた自身にもわからない。  
もしかしたら、犬族になる知れないし、鹿や狐、猫や馬といったものになるかもしれない・・・  
まぁ、稀に虫や魚と言った種族になる物も居るらしいけれど、とにかく、あなたが心配するほどの事は無いわ。」  
 
なるほど・・・。"  
僕は彼女の答えに安心すると共に、獣化に対して抱いていた大きな不安も解消された。  
何故なら、僕がこれまで獣化を決心が出来ないでいた最大の理由こそ、  
自分が犬獣人となるのではないかというものであったからだ。  
もちろん、彼女の言う様に犬獣人となる可能性は完全に無くなった訳ではない。  
だが、それ以外のものになると言う可能性の方が大きいのなら、  
その可能性はもう無いと言ってしまってよいと僕は思った。  
それに少し前からもうこの使えない今の体には未練はなかった、  
そもそも自力で動く事も出来ずに何もかもを誰かにしてもらわなくてはならない、  
という時点で僕は自分に対して強い屈辱感を感じていた。  
しかし、人とは違う存在となっても人としての生活も出来、また別の新たな自分も出来る。  
そして、何より自分の意志で動けるようになれる、と彼女らに聞かされた時から  
僕はもう今の体を捨てて、その新たな体を手に入れようと思っていたのだった。  
確かに人ではなくなると言うリスクはある、  
しかし、それ以上に自力で行動できるという魅力の前には、  
自分に対して屈辱感を感じている僕はそれを受け入れるしかなかった。  
"わかりました・・・しましょう。"  
「何を?」  
彼女は突然の僕の呟きに少し慌てながら尋ねてきた。僕は自信を持って続けた。  
"獣化を。"  
次の瞬間、一瞬の間をおいて彼女は満面の笑みを浮かべて僕に抱きついた。  
いや、それはベッドの上に寝ている僕からすればのしかかって来たと言ったほうが正しいかもしれない、  
しかし、そんな事はどうでもいい。  
僕もまた、彼女と共に喜んでいたのだから。  
 
 
 翌日は朝から何時もどおりの日常が始まった、  
だが、これまでは献身的だがどこか事務的な所もあった桐壺の様子は違った。  
朝からそわそわしていた彼女は、片付けようとした食器を床に落とすと言うこれまでの彼女からは想像も出来ない事をしてくれたのだ。  
そんな彼女らしかぬ振る舞いをしながらも桐壺は何時も通り、いや何時も以上に活発に僕の相手をしてくれた。  
そして、1日の最後、彼女は部屋を出て行き際にこう僕に言った。  
「おめでとうございますね。」  
そう言って微笑を浮かべつつ彼女は部屋から出て行った。  
 
 お嬢様達が来たのはそれから1時間ほど経った頃であった。  
いつもは洋服を着ているお嬢様も今日は、神社の巫女さんの様な服を身に纏い、そして獣化していた。  
「さぁ、行くわよ。」  
お嬢様がそう言うと彼女と共に部屋に入ってきた1人の男、  
とは言え彼も獣化しているのではっきりと性別を確認できたわけではないが、  
その様に感じられる者に部屋の隅に置かれた車椅子に乗せられるとお嬢様を先頭にして廊下へと出た。  
ここに来た時は僕は眠っていたので、その人気の無い初めて見る廊下とその周りの様子を興味深く見つめた。  
「そんなに今見渡さなくても大丈夫よ。獣化してしまえば飽きるほど見られるわ。」  
そうお嬢様は微笑みながら僕に言った。僕はその微笑がうれしかった、そうこうしている内に廊下は室内から室外へと出た。  
庭の上を走る渡り廊下に吹く風は久しぶりに僕が浴びる自然の風であり、そして久しぶりに見る外の景色であった。  
山の奥のせいか昼間だと言うのにひんやりとした空気が辺りに満ち、耳に聞こえるのは鳥の声と風の音、そして自分たちの足音だけだった。  
 
 渡り廊下は100メートルほど続くと、山肌へと通じていた。  
廊下の先にはトンネルがあり。その両脇には観音開きの分厚い扉が開かれて脇に寄せられ、  
両側には2人の獣人、狼と鹿の獣人が立ち、僕達に対して深々と頭を下げている。  
無言でそこを通過しトンネルに入ると、トンネルの中は松明が要所要所に一定の間隔をもって焚かれいた。  
ほんのりと明るいその中を、進むにつれて奥からは多くのざわめきが響いてきた。  
どうやら、この奥にはかなりの人数が僕らを待っているようであった。  
僕は少しの期待を抱きつつ、その時を待ちながら進んでいくと突然トンネルは壁に阻まれた。  
しかし、壁のように見えたのは分厚いトンネル一杯に広がる巨大な扉であった。  
ざわめきはその中から聞こえているが、次第に静かになっていく。  
どうやら、僕らの到着が中へと伝わったようだ。  
 
"何だか、大掛かりだね。"  
僕は彼女に正直な感想を述べた。すると  
「当然よ、だってあなたと私の結婚式も兼ねているんだから。ふふふ、とうとう私も勝ち組の仲間入りだわ。」  
"結婚式って・・・。"  
「あっそうか。人間だから知らなくて当然よね。。  
あのね、私達獣人族のしきたりとして結婚は女の方からこれはと思った男を選ぶもなの。  
ようは、女の一目ぼれで決まって男は断れないわけ。で、私の場合、それが人間であるあなただったと言う訳よ。  
大丈夫、獣人と人間との結婚は珍しくないんだから、ただ結婚した人間は必ず獣人とならなくてはならないの。  
でも大抵は結婚後、夫婦共にこちらの世界に留まり、人前では人の格好をして人間社会に溶け込んで生活しているわ。  
だから人は気がつかないけど、こんな事は私達獣人の間では常識なのよ。  
獣人同士、人の姿でいても匂いや気配でわかってしまうからね。どう、わかった。」  
 
"と言う事は、あの事故は・・・。"  
ここまで来て僕は少し気になったことを聞いた。  
「ああ、あの事故は関係ないわ。単なる偶然よ。  
ただね、数日前からあなたの家の方角が気になってならなかったのよ。  
それで犬上に頼んで車を出してもらったら、偶然あなたと途中で、  
それも事故と言うあなたにとっては最悪な、私にとっては最高な出来事で出会えたの。  
最も、あの時事故が起きていなくても自転車に乗ったあなたとすれ違った時に、あなたが私の思う人だって事は分かるし、  
あなたの匂いと気配を覚えてしまうから遅かれ早かれ結局はあなたと私は出会う運命だったのよ。」  
"運命か・・・。"  
僕はその響きに深い、何ともいえない感銘を受けた。そして、  
"わかりました、結婚しましょう。"  
「ありがとう・・・さぁ、行こうかしら。お客様を待たせてしまっているわ。」  
そして、彼女が軽く手を横に動かすと目の前に立ち塞がっていた扉は、重苦しい音共に左右へ分かれた。  
開くと同時に中からは盛大な拍手があふれ、僕たちはその中へと静かに入って行ったのだった。  
 
 
 式はそれは盛大なものであった。扉の奥の空間に良くぞそんなにもと思えるほどの広い空間があり、  
そこにはこれまでどこにいたのかと思うほどの獣人達が僕らを盛大な拍手と歓声で迎え入れた。  
正直言って僕はその時点で圧倒されていた、とは言えその様な環境下でも全く動じる事無く毅然とした  
態度で居続けられる彼女には、改めて感心したものであった。  
 しばらく経ってから聞いた所によると、本来ならこの時点で人の獣化を終えてから式を行うのが仕来り  
なのだそうだが、僕みたいにある種の特別な事情を抱えている場合に限り式後に獣化が行われるのだと言う。  
そして、定められた儀式を招待客の目の前で神官を通じて終えると更なる祝福が招待客たちより僕らに送られた。  
体の動かない僕が、何が何だかをしっかりと把握しないまま式は終わり僕とお嬢様は屋敷の中のある部屋へと戻った。  
 
"盛大な式だったね・・・。"  
「そうね、まさかあんなにこちらへ集まって下さるとは思わなかったわ。」  
"まさかあんなにって・・・ところで、あの人たちは一体何者なんだい?"  
ふと、僕はそれについて質問をぶつけてみた。すると  
「あぁ、あの人達は私の一族の皆々様と両親の知人達よ。」  
"親戚と両親の知人か、一体何を君の一族はやっているの?"  
「私の一族は商家よ、まぁこの事は後で詳しく説明してあげるから・・・それじゃあ、始めましょうか。」  
"そうだね。"  
「じゃあ、まずは服を全部脱がないとね・・・。」  
 そうして会話に一旦終止符を打つと彼女は僕の服を脱がせ始めた。  
パジャマの様に薄かった僕の服はすぐに全てを脱がされて、全裸となるまでにそう時間はかからなかった。  
今いるこの部屋はこれまでいたあの部屋とは異なり、何も無いが唯一石の祭壇が部屋の一方に鎮座しているだけである。  
彼女は自分も全裸になると、その祭壇の上に置かれた壷の中から杓で何等かの液体をすくいだした。  
"その液体は?"  
「聖水よ・・・さぁ飲んで。」  
と彼女は僕の口の中へその聖水を流し込んだ。量は大した事なかったのですんなり飲み込むと、不思議と体がほんのりと温まり出した。  
何だかいつもよりも色々な感覚が敏感になった様に感じられるのは気のせいだろうか。  
「どう気持ちいい。」  
"えぇ・・・気持ちいいです。"  
「そうならよかったわ・・・あら、もうこんなに反応が出たのね・・・ウフフ、楽しみだわ。」  
と彼女はいつの間にかに激しく勃起していた僕のペニスを軽くその手で握る。  
 
"あはぁ・・・。"  
声が出ないが僕はおもわず吐息を漏らす。  
「初めてなの?」  
彼女の問いに僕は静かに首をうなずかせた、すると彼女はうれしそうな表情を浮かべ  
「なら、じっくり楽しむことが出来そうね・・・かわいがって上げるわ。」  
と言い、その手でペニスを握ったまま僕の首筋をさっとなめる。ざらっとした感触がじわじわと伝わって来て何とも気持ちがいい。  
僕が気持ちよさげな顔をしていると、彼女は首筋から順に僕の感じる所を探してその全てを甘噛みして刺激する。  
甘噛みと舌での舐め、この2つが僕をじわりじわりと侵食していき、気が付いた時にはすっかり興奮していた。  
"もっと・・・。"  
「まだまだよ・・・もっとするからね。」  
刺激を欲する僕にそう言いきったお嬢様は、今度はペニスを手で扱き、そして寸前で止めて、落ち着くとまた・・・と言うのを繰り返し始めた。  
出る寸前の絶頂の寸前で止められてしまうのだから、僕の中には大量の満たしきれない快感と次こそは・・・と言う期待感が積もりつつあった。  
同時に体中の感じる所を舐め回してくるのだからもう堪らない。  
「あら・・・こんなかわいい顔しちゃって・・・まだ、耐えられるかしら。」  
 それら単調な動作を何十回とも無く繰り返した頃、ようやく彼女は舐めるのを止めて、僕の顔を、そして彼女の唾液と僕の汗とでぬるっとしている僕の体を見て言った。  
"も・・・もう勘弁・・・。"  
僕は必死に唇を動かしてそう途切れ途切れに訴えた、しかし彼女は  
「そう・・・わかったわ・・・でもね、あなたは十分興奮しつくしたかも知れないけど、私はまだイマイチなのよね・・・私を興奮させてくれたら、出させてあげるわ。」  
 
"わ・・・わかりまし・・・た・・・。"  
「そう、じゃあ・・・とその前にこれしておかないと・・・。」  
彼女は立ち上がりかけて、ふと思い出したかのように呟くと何かを僕のペニスの根元に巻いた、  
いや巻いたなんて物ではない、きついと言ってしまってよい位まで彼女はその何かを巻きつけると、  
安心した表情をして立ち上がり、そして僕の顔へと腰を下ろした。  
「うふふ、あなたのおちんちんにベルトを巻いておいたわ。もし好き勝手に出されたら、せっかくここまで濃縮した努力が無駄になるもの・・・  
さぁ、舐めて。初めてでも分かるでしょ、そして気持ちよくさせてね・・・。」  
と言う彼女のあそこからは、人間の鼻でも感じられるほどの濃厚な匂いが発せられ、熱に満ち満ちていた。  
僕は思わずその匂いに気絶しかけたが、それでも何とか気を保って静かに舌をあそこへとつけた。  
ペロ・・・  
 最初の一舐め、何だか舌の先に痺れる様な感じを受ける・・・感覚が戻ってきたのだろうか。そんな思いもそこそこに一度舐めてしまうと、  
あとは調子良くとにかく舐め続けた。時折、下を伸ばして奥へと入れると微妙に彼女の体と漏れてくる愛液の量が増えてくる。  
もう既に僕の顔は愛液と自分の唾液でびしょびしょだ。  
「あっ・・・・あぁ・・・。」  
いつしか舐めて行く内に耳に彼女の喘ぎ声が入ってきた。それは舐めれば舐めるほど強くなっていき、やがて一際大きい喘ぎを出すと彼女は自ら立ち上がった。  
だが、その足はすっかり震えていてかなり来ている様だ。  
「・・・は・・・初めてにしては・・・上手いじゃない・・・。」  
 彼女は息を荒くして、すっかり上気した加減でそう言う。僕は何か答えようと唇を動かしかけたが、余りにも消耗していてとても出来なかった。  
ただ、股間が以上に熱を持っているのだけを感じていた。  
「いいわ・・・出させてあげる・・・。」  
 
そして、彼女がベルトを外して根元付近を軽く舐めた、その瞬間  
ドブュ!ドプッドプッ・・・。  
精液がどこにそれほど溜まっていたのかと問いたくなるほど噴出してくる。噴き出した精液は彼女の顔を直撃しその毛皮を汚した。  
しかし、彼女は嬉しそうにそれを手にとって口に含み、軽くうなずくと水を飲む様にその噴き出している精液を飲み、そして僕の腹に落ちたばかりのまだ熱い精液をすすった。  
「うふ・・・中々、いい味出してるわよ・・・人にしては珍しいわね・・・こんなおいしい精液出すなんて、流石私の目に適っただけはあるわ。」  
と満足げに余韻を楽しんでいた。僕は僕であれだけの精液がどこから自分から出てきたのに驚き、そして出したと言う事への快感に浸っていた。  
「さぁて、ここでへばっちゃだめよ・・・今度が本番なんだからさ・・・。」  
そう言うと彼女は半開きになっていた僕の口にキスをすると、軽く何かを流し入れてきた。  
「私の唾液を入れてあげたわ、人間にとって私達の唾液は強烈な媚薬となるからね。」  
そして、彼女はもう臨戦状態にまで回復しているペニスへ腰を下ろした  
。狭い膣を大きく張った自分のペニスが突き進む、深くなる度に彼女はそっと吐息を吐き、全てが入った所で自ら腰を動かし始める。  
ペニスが膣に揉まれていくその感覚は自分がこれまで感じてきたいかなる快感にも勝るものであった。  
 
「ハッハッハァッ・・・ハッハッ・・・。」  
 お嬢様の喘ぎ声を聞きながら、僕は不思議な感覚が全身に満ちているのを感じた。  
これまで、体が使い物にならなくなってからと言うもの僕は自分の体が冷たくてならなかった。  
いくら毛布や何かで暖めても、それは表面だけで芯からは温まらない途切れることの無い寒さ・・・それは寂しさにも近いのかもしれないがとにかく冷えてならなかった。  
ところが、彼女とこう交わり、出す内にその寒さがだんだん薄れていくのに気が付いたのは確か3度目の頃、それが事実であると確信したのは  
5度目の時だった。そして、今再び僕は彼女の中に精を放った。もう軽く10回は達しているだろう。しかし僕のペニスに衰えは全く感じられない、  
これは最初に飲んだ聖水と称した媚薬と先程の彼女の唾液の効果と言えよう。  
「あ・・・。」  
出すと同時に僕は我が耳を疑った。そして、彼女も腰を動かしながら、驚いた顔をして僕を見ている。その様な中で僕は再び、喉に力を入れた。  
「声が・・・出てる・・・。」  
自分の声・・・久しぶりに聞いた自分の声、僕は驚きそして喜んだ。  
 声をきっかけに僕は続々と体の機能を取り戻した。手が動き、足が動き、首が動く・・・それは性の快楽と相まって信じられない快感と感動を僕にもたらした。  
そして、今・・・騎上位ではなく正常位で僕は彼女にペニスを打ち込んでいた。  
 
「ハッハッハッハッ・・・気持ちいいか・・・い・・・。」  
「さ・・・いこうよ・・・。」  
心なしかこの体勢になってから僕のペニスはますます元気になったようだ、と言うのも出る量が半端ではなくなった。  
まだ体の復活していなかった頃は普通の人間よりもやや多いという程度に止められていたが、今では平気で1分以上は射精をし続ける。  
また、出す度に体の他の器官も力に満ちて活性化していくようだ。  
"何かが起こり・・・そうだ・・・。"  
と彼女の尻尾を時折刺激してその反応を楽しみながら思っている内に、二十何回目位の射精をしていた。途端、僕の脊髄を強い電流が走りぬていく。  
「あっ・・・があっハァハッハァーッ!!」  
その時、僕が自分の中にある人として大切な何かが別のものへと転換したのを感じ、意識は白濁した。  
 
「う・・・。」  
 僕が意識を取り戻すと、僕はお嬢様にペニスを突き刺したまま2人して床の上に寝転がっていた。  
「お嬢・・・。」  
と言いかけて僕は口を噤んだ。何故なら、お嬢様の口からは静かな寝息が漏れていたからだ、僕は起こさない様にそっとペニスを抜く。  
ペニスが抜き出ると彼女の中からは莫大な量の精液と愛液の混合物がとろとろと滝の様に流れ出してくる。  
心なしか彼女の腹、とは言え獣毛に覆われているので毛の膨らみなのかも知れない、は膨らんでいる様に見えた。  
そして、激しい僕の初体験と共に獣化も終わっていた。僕の新しい姿は彼女のと同じ犬人ではなく、三角耳に薄黄色の獣毛とふさふさの尻尾を持つ狐人であった。  
"狐って本当に尻尾がふさふさなんだな・・・んっ気持ちいい・・・。"  
それが、新しい自分の体に対する最初の感想であった。  
 
 ・・・僕は窓を閉めると自室へと戻った。あの日以来、僕は様々な世界と知識を知り、仕事も得て充実した気楽な日々を過ごしている。  
"今日はあれを済ませてからにしよう・・・。"  
昨日入った仕事について考えながら、自室の扉を開けるとそこには彼女、妻が待ちきれない表情をして僕を待っていた。  
"これは今日も仕上がりそうに無いな・・・。"  
そして僕は妻に抱きつかれながら思った。今夜も長い夜になりそうである。  
 

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