「……」
広瀬・武人は目を閉じて、顎に指先を当てていた。
そんな彼に、取り敢えず部屋にいた女性は元気そうな声を出す。
「あの、こんばんは! ご指名、ありがとうございます! 私は――」
「なんか、違う……」
「はい?」
呟いた武人は、目を開けて腰を上げ。
「すみません、急用が出来ましたからこれで失礼します。じゃあ」
「えっ、ちょっ、ちょっと!」
女性が止める間もなく、武人は小走りに部屋を出て行った。
「――おや、お帰りなさい、お兄さん。随分早かったですね。忘れ物ですか?」
マンションの部屋に帰った武人をそう出迎えたのは、奇天烈な格好をした子供だった。
緑色の炎に燃え、一抱えもあるオレンジ色のカボチャ頭。
首から下を覆う、闇のように真っ黒な外套。
その状態で唯一性別を判断できるのは、鈴が鳴るような可愛らしい声。
「いや、そういう訳じゃないんだけど」
「そうですか。では、上がる前に一言」
「……ただいま、ウィル」
「よろしい」
カボチャ少女――ウィルは武人の帰宅の挨拶に満足げに緑炎の吐息を漏らすと、外套の裾を翻しながら踵を返した。
武人とこの奇妙な少女との同棲生活が始まって、早一ヶ月になる。
しばらくここにお邪魔します、と実に楽しそうに言った彼女の声を、武人はこの先しばらくは忘れないだろう。
そしてその日から毎日続いている、少女の妙な性癖を伴う行為も。
「っ、は、あ、くっ、っあ、いいですよ、お兄さん」
武人の腰の上で、ウィルはその細い腰と小ぶりな尻を振りたくる。コンドーム越しに味わう少女の肉はとても心地よい刺激を武人の硬く大きく屹立した愚息に与えてくる。
視線の先で淫らに愛液を垂れ流す無毛の無垢な縦筋を見つめて、武人は思う。何故このカボチャ少女は、こんななのだろう、と。
武人とウィルが繋がっているのは、尻穴だ。この交わりは彼と彼女が初めて出会った時からウィルの主導で始まっており、武人は彼女の女陰に触れたことすらない。
ウィルは繋がる穴が穴だからか、彼女自身に対する前戯はなしに、行為をするとなるとすぐにその尻穴に武人の肉棒を導くからだ。
そして、実に良さげに腰を振る。
「あっ、お、くっ、お兄さんの、おちんぽ、今日も、太くて、っあ、んんっ……!」
武人がウィルを見て、こんな、と思うのは色々とある。
何故、尻の穴で――アナルセックスを好む、というよりそれ以外はしないのか。
何故、カボチャ頭なのか。
何故、ウィルなどという男性のような名前なのか。
武人なりにもっともらしい答えを想像することはできる。
尻穴で行為をするのは、ウィルが処女であるということに何か関係があるのだろう。処女というのは本人の弁であり、確かめたことなどないので本当かどうかは分からないが、武人は何となく信じていた。
カボチャ頭であるということと、ウィルという名前には繋がりがある。
カボチャ頭に黒い外套、そして少女が現れたハロウィン。これらを総合すれば、自然とジャック・オ・ランタンの名前が導かれるのはハロウィンについて多少の知識があれば誰にでも分かることだ。
そしてジャック・オ・ランタンというのは、ウィル・オ・ウィスプと同じ存在だ。
数え切れぬ業を積み、悪魔との契約の果てにこの世の闇の中をカブのランタンひとつで永遠にさ迷い歩く哀れな男ウィル――その名前を取っているのだろう。
だが、何故その格好でその名前なのかは分からない。
ウィルが人間でないことは確かだ。そのカボチャ頭は被り物ではなくようで、その上に彼女は魔法のようなことが出来る。遠出をする時は指鳴らしひとつで燃え盛る黒馬を何処からともなく呼び出し、それに跨る。
そしてもうひとつ。その時に彼女は自分の頭を小脇に抱えて馬を駆るのだ。
その姿はまるでデュラハンだ。死者が出る家に現れ、鉢一杯の血を浴びせ掛ける妖精の一種。首なし騎士。こちらの性別は女性ということでウィルと一致するが、前述のジャック・オ・ランタンとどう関連するのかは分からない。
とにかく、武人にとってウィルというカボチャ少女はその素性が殆ど分からないのだ。
「あっ、あっ、いっ……! っ、はぁ、はぁ、はぁ…… ふふ」
ジャック・オ・ランタンかデュラハンのどちらかだけならそういう存在なのだろうと割り切れたが、二つが混じり合っているだけにその本質を掴むことが出来ない。単なる趣味のようなものなのか、それとも――
「……お兄さん?」
「あ、ああ。どうした?」
ふと武人が気付くと、ウィルは腰を振るのを止めて、そのカボチャの三角形の目の奥にある金色の炎のような瞳で彼を見つめていた。
「最近、反応が薄いですね。今日は特に」
「そ、そうか?」
「私のお尻の穴、もう飽きちゃいましたか?」
言って、ウィルはぐちぐちと腰を動かす。括約筋を締めながらのその動きは、意識しなければ思わず声が出てしまいそうになるほど気持ちが良い。
「私はお兄さんとのアナルセックス、より素敵だと思えてきた頃だったんですけど」
「あ、いや、僕もそう思うけど」
「じゃあ、どうして反応してくれないんです?」
そう聞いてくるウィルの少し低い声。同時に口からは橙色の炎が僅かに零れている。
武人は答えられない。彼女のこととはいえ、行為に関係のない他所事を考えていたなどと。行為を重ねて分かったことだが、彼女はこの瞬間に限りそういう不真面目な態度を嫌う。行為に関してだけは、極めて真剣なのだ。
「いや、ごめん。今日はちょっと、疲れてて」
「……そうですか。それは失礼しました。済みません」
武人の無難な嘘に、ウィルは小さく頭を下げると腰を上げた。ぬちり、と肉棒が尻穴から抜ける。自身の茶色いものが僅かに付着したコンドームを手早く始末して、ふい、と踵を返す。
「お風呂場、借りますね」
「あ、ああ」
それだけ言うと、ウィルは浴室に姿を消した。声の調子が僅かに萎んでいたように感じるのは武人の自惚れではないだろう。
悪いことをしたかな、と思いつつ、しかし今さら謝る言葉も見つからずに、その日は幕を閉じた。
翌日、日曜日の晩。
武人は昨日も行った風俗街に居た。
「うーん……」
だが、武人の顔は晴れない。
顔も体格も悪くない武人には呼び子から引く手数多といった様子だが、どうにも店に入る気にはなれないでいた。
嬢の顔を見ると、やたらとあのカボチャ頭が脳裏にちらつくのである。
「……うーむ」
はっきり言って、ウィルのような子供体型は武人の好みではない――はずだ。彼が好きなのはいわゆるボンキュッボンのはずである。少なくとも視覚的にはそうだと彼は確信している。
だというのに、あのカボチャ少女と会うまでは、いい顔と身体してるな、と思った通りすがりの女性でも、今となっては全くピンとこないのである。
人生で初めて身体を重ねた故の一時の気の迷いだろうと思ってこんなところに二日連続で来てみたものの、全くその気になれないのでは意味がない。
「好きじゃない、はずなんだけどな……」
性格的にはさておき、ウィルの外見――顔がアレである上に子供体型――は武人としてはあまり好みではない。
それでも行為の時に激しく猛ることが出来るのは、ひとえに彼女があの鈴が鳴るような声で可愛らしく喘ぐからだ。それも、子供体型かつ処女だというのに尻穴で。
その背徳感が、武人の男としての本能のようなものをいたく刺激する。
「……帰るか」
あれこれとウィルのことを考えている間に、悲しいかな武人の欲望が芽吹いてくる。
昨日のお詫びに今度はしっかりと行為に集中しようと考えて、武人は結局何もすることなく夜の街を後にした。
「ただいまー。 ……あれ?」
武人が玄関の扉を開けるなり帰宅の挨拶を奥の居間に向けて放ったものの、それに対する返事はなかった。
というよりも普段なら、玄関を開けるなり奥の扉からあのカボチャ頭だけがこちらを覗き込んで、お帰りなさい、と緑炎の吐息を零しながら言うのだが、今日はそれがない。
どうしたのだろうか、と思いつつ居間に向かう武人。妙な声が聞こえたのは、浴室の前を通り過ぎようとしたその瞬間だった。
「ん、あ、お兄、さん……んっ、ふ」
熱に浮かされたような、ウィルの声。
不審に思って立ち止まり、武人は浴室の扉を開けた。
「ウィル?」
立ち込める湯煙の中に武人が見たのは、ウィルと初めて出会った日以来に連続で見ている彼女の凹凸の少ない裸身だった。
しかし、様子がおかしい。
というのも、彼女は武人に背を向け、片手を浴槽の縁に着いて――つまり、武人に尻を突き出す格好になっていた。
もう片方の手は、その小ぶりな尻に添えられて――
「……ウィル?」
「っ、くんっ、あ、ふうっ…… あ、んんっ」
ウィルは、自分でその尻穴に無骨な玩具の逸物を咥え込んで前後させ、一心不乱に尻を振りたくりながら自慰に耽っていた。
あまりに集中しているのか武人が背後に現れたことにすら気付いていないようで、その激しい動きが翳る気配はない。
「んっ、ん…… あ、ん、お兄、さん、お兄さん…… おっ、あ、くぅ……」
窄まりを大きく広げているその逸物を武人の男根に見立てているのか、お兄さん、と彼を意味しているであろう呼び名を呟きながら、尻穴での快楽を貪る少女。
そんな淫靡な姿に驚きつつも見惚れていた武人は、しかしウィルの様子に微妙に違和感があることにも気付いた。
「う、んっ…… あ、う、あ…… はぁ……」
そう――声だ。
武人との行為の時とは違い、まるで声に張りがない。
まるで、全く満ち足りていないような――
「ん……? お兄さん、帰ってたんですか」
「あ。ご、ごめん!」
ウィルが気付いたことに、武人は反射的に気まずい気持ちになって凝視していた彼女の尻から視線を逸らす。
しかし少女はまるで気にした風もなく、行為を中止して武人に向き直る。
「いえいえ、こちらこそ。お帰りなさいも言わずにごめんなさい」
先程まで自慰に耽っていたなどと欠片も見せない様子で、軽く頭を下げるウィル。
相変わらずのカボチャ頭。やはりこれが彼女の本当の頭なんだろうな、と少しばかり残念な気分になる武人だった。
「じゃあ出ますので、済みませんが道を」
「あ、ああ。ごめん」
「謝り癖が付くのは良くないですよ。男性としては特に」
緑炎を僅かに口から零しながら小言を言い、武人の脇を通って浴室を出るウィル。
止せばいいのに、武人の視線は自然と彼女の尻へと向かい――そこに根元まで埋まったままの玩具を見つけてしまう。
「ちょっと、ウィル、それは……」
「ん? ああ、お兄さんのおちんぽの代わりです。昨日、アナルセックスを楽しめませんでしたから」
ウィルは鈴の鳴るような声で臆面もなくそう言って、見せ付けるように軽く尻を振り、
「でも、やっぱり生おちんぽを嵌めて貰っちゃうと、物足りなく感じますね。もう全然イけないです」
「じゃあ、何で……」
「お兄さんが生おちんぽを嵌めてくれれば、する必要もないんですけどね」
そんな台詞に武人の中の何かが音を立てて切れたのは、無理もないことだろう。
武人の片手が、ウィルの腕に伸びて彼女を捕まえる。同時にもう片方の手が、その尻の玩具を掴んだ。
「ん、お兄さん……? っ、うああっ!?」
少女の狭い直腸から玩具がずるりと抜かれる。
腸液でぬめった逸物は、こんな少女の尻穴の中に根元まで埋まっていたとは思えないほど太く長く、そして突起まで付いている凶悪なものだった。
これを深く激しく前後させて、武人のものでないと物足りない、などと言い放つのはどれほど淫乱であれば足りるのか。
玩具がフローリングの床の上にごとりと落ちる。
「お兄、さん……?」
「悪かったよ。そんなに言うなら、今日は一日中アナルセックスしてよう」
「え、や、わっ!?」
武人はウィルを抱えて持ち上げると、部屋に入ってベッドの上に彼女をうつ伏せに落とした。
そして何も言わずにズボンを下げて、既に勃起した肉棒をウィルの尻に宛がう。
「いくぞ」
「あっ、待ってください、コンドームを…… あううっ!?」
少女の鈴を鳴らすような声が奇妙に甲高く跳ねる。
ウィルの小さく口を開いた菊門に生の逸物を半分ほど打ち込んだ武人は、ひとつ息を吐くともう半分を押し込んだ。
「あ、おっ……! っあ、お兄さんの、生おちんぽ、やっぱり、凄いです」
「どう凄いんだ?」
「ひうっ……! 生おちんぽ、熱くて、私のお尻に、よく馴染みますから……! っは、おっ、あ、くうっ!」
ウィルの直腸――肉の袋が、柔らかく武人の肉棒に絡み付いてくる。
それは自分の手やオナホールを使うよりも遥かに心地よくて、この感触を先程まで無機質な玩具が味わっていたのかと思うと、無性に苛立つ武人だった。
「おっ、ふうっ、私の直腸は、お兄さんの童貞おちんぽ専用の、おっ、肉袋ですから……」
「どっ、童貞じゃないって」
「おまんこに入れたこと、ないんでしょう? ふふ、だったらまだ、私のアナルしか入ってないんですから、やっぱり童貞さんですよ…… くうっ」
「こ、このっ」
武人は恥ずかしさから来る悔しさをウィルにぶつけるように、激しく腰を振る。それが彼女の小ぶりな尻に当たり、ぱんぱん、と肉音を立てる。
そんな音が鼓膜に響く度、武人は更に我を忘れていくのだった。
「くっ、出すぞっ、ウィルのアナルの中にっ……!」
「はっ、あっ、出してください、私のアナルに、お兄さんの精液で種付けしてくださいっ!」
二人が叫ぶ。一瞬の後に、その動きがお互いに止まった。
「っ、あう、熱い…… お兄さんの生ザーメンが直腸に一杯で、お尻の中が熱いです」
「ウィルこそ、直腸が蠕動して、僕のから搾り取ろうとしてるぞ」
狭い腸内に精液が注がれる。それに応じるように、括約筋と腸が反応して肉棒を絞る。
「ふふ」
「っぷ」
ウィルの笑い声に、武人が思わず噴き出す。
自分が昨日今日と悩んでいたことがまるで馬鹿らしくなった武人は、そのお返しにとばかりにまだ硬い肉棒をウィルの腸内でまた動かす。
っあ、と鈴の音が鳴るような声色で、カボチャ少女が鳴いた。
「――はあ、そういうことでしたか」
「うん、まあ、ごめん」
「いえいえ。お兄さんがそんなに悩んでいたとは露知らず…… っう、んっ、はぁ……」
話し声に、時折肉をぶつけ合う音が混じる。
あれから数時間後。人は皆寝静まろうかという時間でも、二人はまだ尻穴性交に興じていた。
体位はいつもの騎乗位へ。それほど激しいものではないが、基本はゆるゆるとしたストロークで、時折先端から根元まで勢い良く抜き差しするという緩急のある動きだ。
「しかし、そうですか……」
「ん?」
「いえ。お兄さん、そんなにこの顔が嫌ですか。ちょっとショックです」
「いや、そういう訳でもないんだけど……」
悩みの全てをすっぱりとウィルに打ち明けた武人。
貧相な子供体型のことはやんわりと無視したのか、話題は彼女のそのあまりにも独特な顔のことに及ぶ。
「じゃあいっそ、この首は見えないところに置いておきましょうか。首外せますし」
言うなり、そのカボチャ頭を手で持って容易に外してしまうウィル。
首が半ばから消失している少女を抱いていることに死姦を想像してしまい、思わず武人の背中に冷たいものが走る。
「や、止めてくれ。流石にちょっときつい」
「そうですか…… ふ、っあ」
明らかに残念そうなウィルの声色に、少しばかり罪悪感を覚える武人。
流石に、顔がちょっと、は女の子に対して禁句だったか、と取り繕うための言葉を脳内で模索し、
「そう言えば、なんでそういう顔なの?」
と、気付けばふと思いついた余計な質問を口にしていた。
「聞きたいですか?」
「う…… うん」
途端、ウィルの声のトーンが一段階下がった。何故か途端にぞわりと湧き出る恐怖を押えつけて、武人は頷きを返す。
「合計で千回、アナルセックスで射精して貰わないと解けない呪い……とかだったら面白いんですけどね」
「……なんだいそりゃ」
「乗りが悪いですよ、お兄さん。そこは『僕が人生を掛けて協力するよ』とか言わないと」
「……ちょっと待って、出すよ」
「あ、っう! あつ…… もう、いきなりですね」
「ごめん、なんか気が緩んで」
気が付けば、ぞわりと沸いてきた恐怖は消えていた。
武人は、はあ、とひとつ息を吐いて、まあこの少女ならこんなだろうな、とも思う。
「それに、生ザーメンは嬉しいですけど、コンドーム付けないとお兄さん病気になっちゃいますよ? お浣腸で綺麗にしてあるから少しは大丈夫だと思いますけど」
「君のなら大丈夫」
「お兄さんにしては気の利いた台詞ですが、こういう場面で言うのはどうかと。話を戻しますね」
「逸らしたのは君だろうに」
そんな寸劇を挟んで、カボチャ少女の話は続く。
「家の伝統なんです。人間の世界で修行を積む時には、カボチャの頭を身に付けるっていう」
「修行?」
「はい。立派な妖精としてやっていけるかどうかの修行です。まあ私は天才ゆえ、こうして成功している訳ですが」
「……自分で言うかな、普通」
「ありきたりな台詞をありがとうございます」
「お尻でやるのも修行の一環なの?」
「いえ、これは単に私の趣味です」
「……そうかい」
「おまんこよりも気持ちいいですから、お尻。お兄さんも自分で弄れば分かると思いますよ?」
「じゃあ、ええっと…… ウィルも修行に出る前は、その…… 普通の顔を?」
最後の台詞をやんわりと無視して、武人は幾分の期待を込めつつそう言った。
カボチャ少女はそれに対して、確かに頷く。
「はい。まあ、私はこの頭が気に入っていたので、修行に出るずっと前からこの頭でしたが」
「どんな顔だったんだい?」
「天は二物を与えず、というやつです」
「はい?」
「だから先程言ったでしょう。私は天才だからと」
まるで馬鹿にする風もなく、当然のようにウィルは言って、
「正直に言って、私の本来の顔は醜いですよ。神童とまで言われる溢れんばかりの才能の代わりに、神さまは私から美を取り上げたと。そういうことです」
「はあ……」
「なんですか、その気の抜けた返事は」
「いや、ちょっとね」
「もう…… そろそろ私も一回イきますね、っ、あ、く」
武人の生返事に文句を言って、その苛立ちを紛らわせるように腰の動きを早めるウィル。
そのカボチャ顔を見て、武人はふと思う。
彼女が醜いと言う本来の顔。それはこのカボチャの顔より醜いものなのだろうか。
このお世辞にも出来のいいとは言えないカボチャ顔を気に入っていたと言うのだから、その可能性は――
「……あ」
「っく、お、あっ、どう、しました?」
「いや、ちょっとね―― 腰、動かすよ」
「あっ、あ!? ちょっ、急に――あっ、くうっ、うあっ、あっ、おっ、あ!」
激しく腸内を抉る肉棒に、ウィルの鈴の鳴るような嬌声が跳ねる。
「っあ、お兄さん、っひ、あっ、あっ、おっ、あ、あっ、イ、きますっ!」
絶頂まで近かったのか、程なくカボチャ少女は全身を軽く逸らせて小さく震えながら達した。
満足げな吐息と緑炎を漏らしながら、尻穴での絶頂の余韻を味わう彼女に武人は聞く。
「その…… いいかい?」
「っは、はあ、はあ、はぁ…… っもう、なんですか?」
「こういう時で悪いんだけど、君の顔、見せてもらってもいいかな?」
「……は、い?」
信じられない、といった様子でそう呟いて、それからウィルはこれ見よがしに溜息を吐いた。
それはそうだろう。先程「本来の顔は醜い」と説明したばかりなのだから。
「お兄さん、さっき私の言ったこと聞いてましたか?」
「うん、まあ。でも見たいんだ」
「どうしてです?」
カボチャ顔の目の奥、小さな金色の炎がじっと武人を見つめる。
武人は頭に浮かんだ本来の理由を全部言うわけにもいかず、しかしその金色の炎をしっかりと見つめ返して言った。
「多分、君は綺麗だから」
そんな言葉に、カボチャ少女は武人に近付けていた顔を少し離して、つい、と視線を逸らし、呆れた調子の声で言った。
「……多分、が付いてなければ、一撃必殺級の殺し文句だったんですけどね」
「ご、ごめん」
「まあ、分かりました。それがお兄さんの私に対する希望ってやつですか。お兄さんはこの顔、ちょっと嫌みたいですし」
そう言って、ウィルは、はあ、と息を吐いて、
「後悔しないで下さいね」
自分の頭を持ち上げるように手を掛け、更に上へと押し上げた。
瞬間、ばさりと音がした。同時に、大量の金色が風もない部屋の中をふわりと彩る。
金色の正体は、輝くような金色の長い髪。先端では橙色が強くなり、そのグラデーションが鮮やかで綺麗なもの。
それを多量に携えた少女の顔は、これ以上ないほど整った人形のような顔で、しかし青玉の嵌った切れ長の瞳がその顔の静謐さを打ち崩しており――つまりは無邪気に人を騙せるような、少女に良く似合う小悪魔めいた顔だった。
「――どうですか。醜いでしょう?」
呆としていた武人の耳に、そんな自嘲の声が響く。
少女――ウィルはその青玉の瞳で武人を見下ろし、皮肉げな表情で言った。
「あまりの酷さに声も出ませんか? お兄さんも一緒とは、残念です」
「……いや」
なんとか搾り出したような武人の声は、しかしウィルの言葉を否定する。
「綺麗だよ。物凄く」
「な――」
たったそれだけの言葉に、ウィルの表情は酷く変わった。自嘲の笑みは瞬時に驚きへ変わり、それからやや赤くなって、次いで、理解出来ない、といった怒りと苦々しさが入り混じったものへ。
「なんですか、なんでそうなるんですか! お兄さんもおかしいんじゃないですか!?」
「い、いやいや……」
言える訳がなかった。
神さまが少女から取り上げたのは、自分の美しさを正しく見ることのできない「美的感覚」なのだろうと。
それよりも――
「でも、よかった」
「何がですか!」
「君が本当に綺麗だったから」
「……お兄さんは私のカボチャ顔より今の方が綺麗だって言うんですね? 大変、屈辱です」
「だって、本当だし」
そう端的に武人にとっての事実を述べると、ウィルはさらに顔を真っ赤にして、いつの間にか作り上げ振り上げた握り拳をどすんと武人の胸板の上に落とした。
「ぐ――痛いよ」
「当然です! ああもう、その嫌らしい笑みが気に入りません! 笑うのを止めなさい!」
「いや、だって……」
武人は内から零れてくる笑みを抑えられずに、ついには口許に手をやって笑い続けた。
ウィルはそんな武人を見ていると、天才であるはずの自分が酷く馬鹿にされているような気がして、しかし自分の本当の顔を本当に褒められたことも事実で――湧き上がるよく分からない感情に苛立って、拳を振り下ろし続けた。
そして、心の底から暖かくなるような熱を武人は感じていた。
同時に、この少女をとてもいとおしく思った。確かに可愛いとは先程知ったばかりだけれど、そんなことは最早どうでもよくて――この少女とこれから先、こうして暮らせたらどれだけ素敵だろうと。
日々、尻穴で繋がってばかりの歪な関係だが、それもこの少女の魅力のひとつなのだろうと。
だからと、武人は少女の腰を捕まえた。
細くて硬い、大人の女性のふくよかさなど欠片もない腰。
「ちょ、ちょっと? お兄さん?」
「僕もそろそろもう一度出したい。君の顔をじっくり見ながら」
「そ、そんなの駄目――っあ!? あっ、う、ああっ!」
言うが早いが、腰を突き上げる武人。ウィルの身体は羽根のように軽く、簡単に持ち上がって跳ねる。
途端に少女はその鈴の鳴るような声で嬌声を上げると同時に、その幼く綺麗な顔をいやらしく歪めた。
「あ、うっ、あ、ちょっ、と、駄目、駄目ですよ、お兄さ……っ!」
「何が駄目なんだい?」
「だからっ、顔、顔を、戻しますから……! あうっ、あ、くあっ!」
一度、二度、三度。
ウィルの狭い直腸の中を武人の怒張が行き来して、腸壁をカリで擦る。
太い幹の挿送に合わせ、ぬっぬっと括約筋が盛り上がっては沈む度に、少女は浅く荒い息と悩ましげな声を吐き出しながら、その表情をころころと変える。
僅かな怒りを含んだ顔。恥ずかしげな顔。心地よさげな顔。苦しげな顔。
カボチャの頭を被っていたならば、決して見ることの叶わなかった顔。
それを眺めながら腰を動かしていた武人は、瞬く間に上り詰めていく。
「ウィルっ…… いく、よっ」
「っ、もうっ……! 来て、きてください、いっぱい、生ザーメン、お腹の中に、注いでっ……! っ、あ……!」
武人の宣言に、ウィルは困ったような、怒ったような――そんな表情をして、最後に酷く淫らな笑みを浮かべた。
二人の身体が共に震える。精を吐き出し、注ぐ音が聞こえるような光景だった。
「っ、はぁ、はぁ、は……」
「ふふ、もう…… 困ったお兄さんですね」
髪を溶き撫でながら、淫らな笑みのままにそう言うウィル。
そんな彼女に、武人も微笑みを浮かべて答える。
「良かったら、僕の前ではその顔で居て欲しいんだけど、駄目かな」
「そんなお願いをされたのは初めてですよ。本当に、困ったお兄さんですね」
そう言葉を交わして、二人で笑って――どちらともなく、口付けを交わした。
浅い、触れ合うだけのささやかな口付け。
それでも武人は、そこに十分に暖かな熱を感じた。
「ん…… ふふ、ファーストキスもお兄さんにあげちゃいましたね。お兄さんは?」
「あー…… ごめん。小さい頃に母さんに」
「……そういうのはノーカンにしておいて頂けませんか」
後日。
「お帰りなさい、お兄さん」
そう言って会社から家に帰った武人を出迎えたウィルの頭が、金色のカツラを被ったカボチャだったことは言うまでもないだろう。