かろりーん。
『あ』
同時に目についたのは、同じ服装をした、ツインテールの少女。
レトロな雰囲気が漂う喫茶店で、二人は待ち合わせをしていた。
服装だけでない、顔も髪型も身長も体格も、全て生き写しのようにそっくりだった。
「おはよう、知留」
先にテーブルで待っていた少女が、口を開いた。
「おはよう、見留」
たった今、店に入ってきた方の少女は、そう返す。
テーブルに対になって座る二人は、双子の姉妹だった。
奥で待っていた少女が、見留。そして手前に座ったのが、知留。
「ご注文は、何になさいますか?」
『グレープフルーツのジュースを下さい』
二人の言葉が重なる。
「…かしこまりました」
マスターも慣れているのか、動じずにカウンターに戻る。
二人はじっと、見つめ合う。
「……今日で、さよならだね」
見留がそう切り出すと、知留は視線を落とす。
「私は彦野伯父さんの家に、知留は升井叔母さんの家に――それぞれ引き取られる」
「ほらほら、こんな所にご飯粒なんて付けて」
知留は不機嫌そうに黙っている。
「今までいろいろと、ごめんね?」
「……見留はそうやっていっつも、自分だけ良い子になろうとする」
不貞腐れたような態度に、見留も表情を曇らせる。
「私は馬鹿だから、やんちゃだから――」
「知留…」
可愛らしい双子。それはどうしても比較されてしまう運命にある。
事ある毎に優劣が際立ち、二人の間に軋轢を作る。
「…お母さんだって、私より見留の方を好きだったに決まってる」
「何でそんなこと分かるの!?」
思わず大声を出してしまい、一人気まずくなる見留。
店内に他に客はいなかったのが、せめてもの幸いだった。
「知留の方がいつも構ってもらえていたじゃない。私…羨ましかった」
一層ギクシャクし始める、双子の関係。
「見留はいつだって落ち着いてるし、賢くて気が利いて――羨ましいのはこっち。いらいらするくらい」
淡々と、そんな言葉を言い放つ知留。
「…そんなので優越感に浸っているとでも思ってる? 何なの、良い子って」
言い返す見留。言葉と表情が、段々と険しく変わっていく。
「私は私なりに…その”良い子”って奴にならざるを得なかっただけ」
判官贔屓――大抵、こういう場合は心情的に知留に味方する者が多い。
それを見留のような立場の人物は、よく分かっている。
「正直に言う。私は知留のこと、本当は嫌い。そんな風に思ってしまう自分のこともね」
「……」
知留の表情は複雑に歪み、見留と視線を合わせられずにいた。
「この前、新一くんに告白されたよね?」
「…!」
見留の言葉に、知留は固まる。
「二人共好きなんだ」
届いたグレープフルーツジュースを互いに一口。
「…最初は知留のことが好き、って言ってたけど」
途端に、今度は知留が大声を出す。
「見留が抜け駆けして言わせたんでしょ!? …私がその頃から、神経質になってるからって」
「で、問い詰められて、気遣いの出来る私も好きだって喋った」
そして強引に押しつけて、知留は行ってしまった――そんなすれ違いが最近、二人の間にあった。
「でも結局、選びきれないって。二人一緒にいて、バランスを保ってる私たちを見てるのが、好きなんだそう」
「…何なの、優柔不断な奴」
そしてまた、ジュースを一口。
「もう一つね…貴明くんのこと」
知留はゆっくりと、その視線を持ち上げる。
「外見じゃない、お前自身を愛してやる」
「貴明くんの言葉は、私には心強かった。だから……体を許した」
「…っ!」
「……分かってる。知留も同じこと、言われたんだよね?」
相手は軽く遊びのつもりだったのだろうが、本当のことを知った二人は強かに気持ちを傷つけられていた。
「変だね…その時何故か、知留のこと――少しだけ同情した」
「……傷の舐め合いでもしたいの?」
憎まれ口を叩く知留。
しかし見留は、大人しく首を横に振る。
「結局さ…私一人でも、知留一人でもダメなんだと思う。私たちは双子、でなきゃ赤の他人で良い」
見留はそう言って、愛想笑いを浮かべた。
「ごめんね。自分でも何言っているか、分かってない…」
二人はそのまま、無言だった。
ジュースは既に空になり、氷の入ったグラスをストローでかき混ぜるような、そんな状態。
「……そろそろ、行かなくちゃ」
立ち上がったのは、見留。それを力なく目で追うのは知留。
「長い間、ありがとう」
見下ろす表情が、寂しく笑っていた。
「…?」
と、今にも会計をし、そのまま去って行きそうな見留が固まった。
席に座ったままの知留の目から、涙が零れ落ちていたのだ。
ふと、自分の頬にも違和感を感じる。
「え……」
同じタイミングで、二人は無意識の内に流した涙に触れる。
『……』
「このまま家出?」
「知留が一緒なら、そうするけど」
「行くあてもないのにどうするの? 第一、見留と一緒なんて――」
「さぁ? 知留なら新一くんにでも、頼んでみる?」
「……分かった。良いよ、一緒に行く」
「…知留」
「私のこと、嫌いなんでしょ? それでも良いなら別に良いよ」
「自身はどうなの?」
「私も嫌い。だけど、こんな時くらい折れてあげられないと……悔しいもん」
「……ふふ」
「お金、私が出すから」