「今日のオカズはエビフライか。美味しそうだね」
「そうだよ。先生の為に腕によりをかけて作ったんだからね」
先生は鞄を置いて、コートを脱ぎ、そのまま椅子に座った。
そして手を合わせ、言った。
「それじゃ、頂きます」
「はい、いただきます♪」
これぞ、同棲ならぬ新婚(気分)生活だ!
新婚SS『龍と虎は新婚気分』
カシャ、カシャ…先生が食後のお茶を飲んでいる間に
食器を洗う。
先生と同棲している私だが、自分のかりている部屋はその隣室だ。
アパートだからといってもそれなりに家賃はあるワケで……
両親の仕送りもあり、独立していないという理由で
食事は僕の部屋で一緒に…と先生が言った。
ちゃんとバイトしてお金を貯めているのになぁ…と思うけど、せっかく
申し出てくれているんだから、お言葉に甘える事にした。
「今日の僕の講義、ちゃんと聞いていなかっただろ?」
「え、ええーと、そんな事ないよォ?」
先生がお茶を啜りながら軽い口調で言った。
本当?なら平清盛によって鬼界島に流された謀反人
三名の名前を答えて下さい。野上 龍子君」
先生は昼間のあの顔で問題を出した。
「ゲゾラ、ガニメ、カメーバと解きます」
「その心は?」
「決戦!南海の大怪獣ぅ〜……」
『三』と聞いて『名前』を聞かれると怪獣か戦国武将が
真っ先に浮かぶ私の脳内……語尾が小さくなったのは、
自分で恥ずかしくなってしまったからだ。
この辺りは両親の影響ですね。
小さい時から怪獣映画や大河ドラマのDVDで教育された影響ですね。
「……いいですか、三『人』ですよ?
その名前はどう解釈しても単位が『匹』で数える動物でしょう?」
先生、情け容赦なくY談している最中に講義した部分を出していやがりますね。
時の権力者+謀反人=遠流。時代背景は…たぶん戦国となれば!
「あ、言い忘れてましたが時代は平安末期です」
だめだこりゃ。
そんな時、ケータイが鳴った。
ちゃちゃらららちゃらららっらっららー♪
この着信音は大河ドラマの『天○人』
……という事は母からの電話だ。私はすかさず携帯を開いた。
夜は四コール以内に出ないと
『む、娘がっ!娘が行方不明になったんですぅ!』
と泣き叫びながら警察に電話されるからだ。
「も、もしもし!?」
『こんばんは。龍子、今、大丈夫?』
母さんの声だ。先生の方をチラッと見ると『構わない、どうぞ』のサイン。
「え…ああ、いいけど…どうしたの?」
「うん。対したことないんだけど、先週の大河ドラマ録画してた?」
本当に対したことありませんね。
「え…たぶん、予約録画してたと思うけど…」
「そう、よかった…後でダビングして送ってくれないかしら?
お父さんが再放送していたウルトラマンを上から録画しちゃってね
大公が兼○に『お主、何が言いたい…?』って言った後にいきなり『ヘアッ!』って…。
あれを見た瞬間、この世の終わりかと思ったわ。」
……母上様、お元気ですか、夕べの杉の梢に明るく光る星ひとつ見つけました。
「それで私が怒ったら、あの人が逆に『戦国の残酷歴史より夢のある特撮の方が魅力的だ!』
って怒り出して、私も年なのね…カッときてしまって、
『夢の世界でも怪獣を殺害している超人の方がよっぽど残酷です!
あの1匹で最後ですよ!怪獣でも絶滅危惧種ですよ!実際に科学特捜隊がいたら
環境保護団体に訴えられますよ!事業仕分けで廃止されますよ!』
『環境保護団体は関係ない!』『廃止されない!』とか言い合いしてる内にベッドインして、もうすごくって―――」
私はその電話を切った。
「あ、電話切っても平気なの?僕の事は気にしなくて良いよ」
「ううん。大丈夫、本当に対したことない話だから」
あの二人の遺伝子の螺旋によって形成されてる私だけど…半ば呆れてしまう。
もう50近くになるのにラブラブしている両親。確か結婚したのは父が29、母が24の時だったハズだ。
それを考えれば、私も後3〜4年後には結婚しててもいい頃だ。
朋子叔母さんだって私が小さい頃二人でアニメを見ながらしんみりと
『本当に……二次元の世界に入る方法ってないかしら?』
と言っていたが結婚したし。カナのお兄ちゃんやお姉ちゃんも
『俺のコールサインは「ソロモンの白狼」だから』とか
『ちゃんちゃんばら♪ちゃぁ〜んばらぁ♪』と学生の時
言っていたけど、二人とも彼女と彼氏はいるらしいし……
そう考えると………お皿を洗い終え、皿立てに並べた私は後ろを振り返った。
「どうした?僕の顔に何か付いてる?」
今は同棲していて、新婚気分だけど……
先生とこの将来(さき)、どうなるんだろう………
続