将来どうなるか、結婚?デキ婚?破局?  
ぐるぐる回り始めた考えを振り切り、私は言った。  
「ううん、何でもないよ。ねぇ、先生、これ片づけたら…」  
そう、ご飯食べて、お風呂入って、その後は――――――  
「龍子、今日は部屋に帰りなさい。」  
「か…帰れって…で、でもォ…」  
せっかく………その、えっと……するつもりだったのに。  
「大学の試験だって近いだろう?僕も試験作成があるし、  
それを君に見せるわけにはいきません。」  
私が取ってる先生の講義、試験は無いよね。  
ああ、先輩達の講義の試験の事なのね。  
……何か怪しいなぁ…私の女の勘が囁きます。  
「せ、先生は…このまま、私が帰っても…いいの?」  
私のキメ台詞。これは高確率でヒットが出る。  
「………はい」  
時間差で空振りでした。  
「もォ…わかりました、帰りますよ。録画してた野球中継でも見ますよ。  
あーあ、一人でかりてきたAV鑑賞ごゆ〜っくり、どぉぞ」  
私はカマ掛けてみた。ちなみに私のバイトは近場のTS○TAYA。  
先生が来たことはない。たぶん私のシフトを知っているんだろう。  
「…な…な何を言って」  
これは『ヒット』。狼狽する先生を見て、私は言った。  
「エロ教師」  
バムッ。と先生の部屋から出て、私は自分の部屋に帰った。  
「はぁ〜…何よ、せっかく……」  
電気をつけて、ベッドに腰を掛ける。  
つき合いはじめた頃はそれこそ、毎日、先生の部屋で朝を迎えていたのに。  
ここ最近は、回数が減ってきている。一体、何が原因なんだ?まさか、先生に  
お見合いの話がきてるとか…他に女の人がいるとか…うう、嫌な考えが  
またぐるぐると……  
こんな時に相談できるのはあの人しかいない。  
私はケータイを開いた。  
 
新婚SS『龍と虎は新婚気分』  
 
「あー……そりゃ倦怠期よ、倦怠期」  
「けんたいき?」  
それから数日後、朋子叔母さんと喫茶店に入ってお茶をしがてら相談してみた。  
朋子叔母さんは野上家の三女。三姉妹の末っ子にあたる。  
余談だけど、お婆ちゃんが月夜(つくよ)という名前だったことから皆、  
名前に『月』の文字がつくのだ。  
カナの母親の『朝子』さん、私の母の『明子』、そして『朋子』さんという具合に。  
 
朋子叔母さんは30後半だけど、若く見える。20代後半でも充分、通用しそうだ。  
私を含めて同棲している事を知っているのは朋子叔母さんだけ。  
両親は論外。カナは経験豊富だが、情報網、交友関係が半端なくすごいので禁句。  
武ちゃんは家族と暮らしているし、治子さんが父の後輩だ。万が一という事もある。  
その点、叔母さんは心配ない。こういう事に関しては口が堅い。  
「そう、簡単に言うと『飽きた』ってコト」  
「え、ええっ!?」  
あの30代め、女子大生の瑞々しい身体に飽きただと?私は叔母さんの言葉に  
ガビーンとなったと同時に何か先生に対する怒りが湧いてきた。  
「でも、話を聞く限り、その先生はたっちゃんのことを好きって気持ちは変わらない。  
もしかすると単に仕事が忙しいだけかもしれないし…こういう時はね…イメチェンが必要ね」  
「イメージチェンジ……ですか?」  
「そうよ。ウチのダーリンもそういう時期が合ってね。そんな時に私が某アニメの  
コスプレしたら、もうめちゃめちゃ興奮して…夜通しよ。ちなみにその時のアニメはあれね、  
ギ○ス使って命令するヤツ。女キャラのコスを1日に置きにかえて1週間、すごかったわ。  
ダーリンがまだウブだったから開発し甲斐があってね。色々と教えて私色に染めてあげたの。  
今じゃどこに出しても恥ずかしくないアニメオタクになったわ。あと手先が器用  
だったから同人誌出したら売れてね。業界でもちょっとした有名人なのよ、サークル名は  
ダーリンと私の名前をもじって『トモトモ』」  
 
……うっとりしている叔母さんは結構、危ない。ウチの母と本当に姉妹なのだろうか?  
と思う時がときどきある。確かに顔つきや、仕草は似ていると思うけど…  
「で、でも私はコスプレなんて…その…恥ずかしくて」  
大学にはそういうサークルもあるけど、あんな格好は恥ずかしすぎる。  
そう思っていると叔母さんは一瞬、きょとんとして、その後に声を出して笑った。  
「あははは、何言ってるの。あるじゃないの、レイヤーの原点とも言えるアレが」  
「アレ?って」  
「制服よ、制服!まだ持ってるでしょ?高校の制服、確かたっちゃんの高校の制服って業界じゃ  
かなり人気あるのよ。紺のブレザーに赤いタイ、白いブラウスに深緑のスカート。スタンダード中の  
スタンダードよ。特に今は秋だからニーソかタイツ付きだったら完璧ね」  
叔母さん、よだれ、よだれ。  
「でも…制服着ただけで…中身は同じなのに」  
「うふふ、そこがおもしろいところなのよ…とにかく制服は全てのコスプレの原点であり、  
基本であり、初心者からS級妖怪までもが使用する万能型なの」  
私は叔母さんの言うことが、だんだんわからなくなってきた。S級妖怪ってどういう基準なんだろ?  
「ふふふ…こうして私の魂は受け継がれていくのね」  
「え、いや…あの…まだコスプレするって決めたわけじゃありませんから…」  
 
とか何とか言いつつも、実際にこうして制服を着て鏡を見ている私がいる。  
懐かしいものだ。つい、何年か前はこの服装で高校に通っていたわけだ。  
しかし、ちょっと胸やお尻がキツイ。嬉しい反面恥ずかしい。  
本当にこんなので先生の気を引けるのだろうか?  
私はタイツを履きながらそんな事を思った。  
今日の料理は『おでん』。やっぱり冬はおでんに限る。  
先生にはメールで『今日は私の部屋でおでん☆でーす』と送っておいた。  
明日は休みなのでビールも用意しておく。  
ピンポーン…あ、先生だ。  
さて、吉と出るか凶とでるか…勝負です。  
 
続  
 

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