バスローブを羽織ってトールの家へと帰るネイラ。一言もトールの方を見ない。  
トールの方もトールで、ネイラにとても声をかけられるような雰囲気ではなかった。  
気のせいか、自分たちを見る他の村人たちの目線が冷たいように二人には思えた。  
 
「お疲れさん。すぐに水浴びするかい?準備できてるけど」  
家に戻ったトールはネイラの緊張を少しでも和らげようとしていた。  
「・・・そうさせてもらうわ」  
ネイラは脱衣所に入ると、ドアを閉め、バスローブの紐を緩める。  
両腕を抜くと、スルリとバスローブが床に落ち、ネイラの裸身が露わになった。  
 
ザバー・・・  
 
「ふー・・・」  
浴室に入ったネイラは頭から水を被る。水の流れが床に広がり、全身からポタポタと滴がたれる。  
水に濡れたネイラの身体が光の反射で濡れ光り、より一層美しく輝く。  
ぴったりと額に張り付いた前髪を手でかきわけながらネイラは考える。  
鏡に自分の顔が映る。いつもと同じ、年頃の女の子の顔。  
 
(私って、何のためにこんなことしてるんだろう・・・)  
(人間って、人間らしく生きてるから人間って言うんだよね?なのに私は・・・)  
 
いつの間にか自分の身体の奥がジンと熱くなってくるのをネイラは感じた。  
 
(何なの・・・この感じは)  
 
ネイラはそっと自分の胸の突起に触れる。  
「ひゃうっ!」  
思わず声を出してしまう。胸にポツンと乗っている小さな突起がいつの間にかぷっくりと堅さを増していた。  
指でその突起をいじってみる。  
「ああっ・・・」  
ネイラは思わずうっとりとした気分になる。それだけでは飽きたらず、左胸で乳房をもみ始めた。  
柔らかいが、指を離すとすぐに戻ってくる。理想的にも思える胸をあれこれと揉むと、ネイラの  
頭の中に快感となる信号がどんどん伝わってくる。  
 
「うぁん、はぁっ、ああ・・・」  
 
股間の花弁がジンジンと疼く。ネイラは無意識のうちに内股をこすり上げていた。  
 
(やだ、感じちゃってる・・・)  
熱く潤い始めた花弁から蜜が太股に一滴垂れていくのがはっきりと分かる。  
(も、もう我慢できないっ!)  
ネイラは自らの右手を股間へと潜り込ませる。  
花弁にそっと中指の腹を沿わせる。栗色の茂みの中をかき分け、裂け目を前後にこすり上げる。  
グチュ、グチュ、という水音がネイラの性感を呼び覚ましていく。  
 
「くふぅん・・・ふあぁぁんっ・・・」  
ネイラは壁にもたれかかり、床にぺたんと座り込んだ。そして、中指を自らの花弁の中に突き入れる。  
「くあぁぁぁっ!」  
ネイラは大きな声を上げた。股間から快感の波が上のほうへ、上のほうへと押し寄せてくる。  
「快感」はネイラの「自制心」を遥かに超えていた。  
 
「あっ、ああん・・・トール、トール・・・凄いよぅ・・・」  
ネイラの指の動きが激しくなる。ジュッ、ジュッと指を動かすごとにネイラの指にねっとりとした液体が  
どんどん絡みついてくる。花弁からは蜜がどんどん溢れ出て、床に水たまりを作り始めていた。  
既にネイラの眼は焦点を失い始め、口からはダラダラと涎を流している。  
呼吸が荒くなり、全身にしっとりと脂汗が浮かんでくる。左手でもみあげている胸の突起はもうすっかり硬くなっていた。  
胸からの快感と花弁からの快感。両方から送られてくる快感に、ネイラは激しく身もだえしていた。  
ブシュ、ブシュ、と蜜が吹き出るような音がするたびに、ネイラの身体は震える。花弁が指を締め付け、  
背骨を快感が駆け抜けていく。心臓の鼓動が徐々に激しくなっていく。  
指を何度も曲げているうちにつれて、彼女の頭の中は白くなっていく。  
 
「あっ、ひあん、だめっ、だめっ、来ちゃう、何かが来ちゃうっ!」  
花弁から「何か」が出てしまいそうな感覚。出してしまえば気持ちいいのに、出してしまうと人間としての  
何かを失ってしまいそうな背徳感。その間でネイラの心が揺れる。  
だが、その心の針はすぐに振り切れてしまった。  
「もっ、もうダメ、いっちゃうっ!」  
ネイラはついに頂上へと達するときが来たのだった。  
「ああぁぁぁーーーーんっ!」  
 
ブシャアア  
 
花弁から噴水のように蜜が吹き出て、向かいの壁の部分まで濡らした。  
ネイラは折れそうなほど背を弓なりに反らせ、全身をビクビクと激しく痙攣させた。  
 
痙攣がおさまるにつれて、ネイラはゆっくりと眼を開ける。  
言いようのない虚脱感と快感の余韻が彼女を支配していた。  
痙攣がおさまり、胸の鼓動がおさまるのを待つ。その時、ネイラの内面で何かの変化が起こった。  
 
(今なら・・・自由に獣になれそう・・・)  
そう思った彼女は、ゆっくりと立ち上がり、鏡の前で精神を集中させる。  
(怒りにも似た気持ちで精神を集中させ、私の姿を変えるんだ!)  
 
眼がカッと見開かれ、身体の変化が始まる。  
 
(は、始まった!)  
じわっと黒い毛が生え始める。鏡に映っている美少女の顔が変わっていく。  
耳が上へと反り立ち、顎が少し前へと伸びる。グングンと背丈も上昇していく。  
足下から、手から爪が生えていく。  
 
ムキムキムキ  
 
ネイラの身体は少女には似つかわしくないような筋肉質のそれへと変容していった。  
(あ、あううっ・・・す、すごい・・・獣になっている!)  
苦痛と快感を味わう間も、黒い獣毛が全身をすっかり覆い尽くしていく。  
(は、生えてくる・・・)  
グッ、ググッ、グググッと、尻尾が少しづつ生えてきた。  
ネイラは試しにクイッと生えたての尻尾を引っ張ってみた。  
「あうっ!」  
全身が激しく震え、ネイラの顔が歪む。  
(ちょ、ちょっとここでストップ!)  
 
ネイラが獣化を一時中止して鏡を見る。そこには眼と鼻と口元こそ人間の時と同じだったが、  
他は全て狼のそれになっていた。全身をすっかりと覆う黒い獣毛。ふさふさの毛に覆われた尻尾。  
鋭い両手と両足の爪。ピンと上に反り立った耳。  
(これが・・・これが・・完全な獣になる一歩手前なのね)  
 
体中から湧いてくる自信。強さ。どんな敵にも負ける気がしない。  
ネイラはその時あることに気づいた。  
「獣化を調整できる、ってことは少しだけ獣化することもできるし、自分の力の出し具合を調整できるってことよね」  
ネイラは思わずニンマリと笑った。そしてもういい、とばかりに人間に戻る決心をする。  
 
シュワシュワシュワ、という縮む音が聞こえてきそうなきがする。  
耳が縮み、爪が元に戻り、尻尾も尻へと引っ込んでいく。筋肉がどんどんなくなっていくにつれて、  
獣毛も消えていく。ネイラが一種の清涼感を味わっているうちに、彼女が獣であったこと指し示すものは全て消えていた。  
 
ザバー・・・  
 
もう1度水を身体にかける途中でネイラは強い決心をした。  
(アイツラには絶対に負けないんだから!)  
 
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この一連の様子を聞いていたトールはネイラに何かしてあげられることは無いか考えていた。  
(今思えば、覗かなくて大正解だったな)  
トールはタンスへと向かう。  
「ここに姉ちゃんの服がたくさん置いてあるからこれを来て貰おうかな」  
トールは手頃なのを見繕ってタンスから出し始めていた。  
 
 
「これ、誰の服なの?」  
ネイラがベッドの上にいくつか転がっているブラジャーを品定めしている。  
「ああこれね、死んじゃった姉ちゃんのコレクションなんだよ。アイツらにやられてね・・・」  
「・・・本当に着ちゃってもいいの?」  
ネイラはサイズが自分にピッタリと分かっていても他者の服を着るのにはためらいが感じられた。  
「遠慮なく着なよ。自分で燃やしたり他に盗られるよりは君に着て貰う方がはるかに意義があるからね」  
「じゃあそうさせてもらうわ」  
白いお揃いの上下の下着を着るネイラ。その姿がトールにはある意味全裸よりも扇情的なものに感じられた。  
上にこれまた純白のスリップを着て、ホットパンツを履き、そしてシャツとジャケットを着込む。  
(格好いい・・・)  
トールは眼の前のネイラのボーイッシュな格好に見とれていた。  
「私はこれが一番動きやすいと思うんでね。じゃ」  
背嚢に予備の服と携帯食を詰め、家から外に出ようとするネイラ。  
「ちょっと、どこに行くつもりだよ?」  
トールがネイラの肩に手をやって引き留める。  
「決まってるでしょ。奴らを潰しに行くのよ。ここからだと2時間あれば着く」  
「あいつらがどんな奴らか知っているのかよ!?」  
「知ってるわ。だからこそ私がやるしかないの」  
ネイラがぐっと拳に力を込める。  
「一銭の得にもならないようなことをして何になるんだよ」  
「・・・これ以上トールや他のみんなのような人を出したくないから」  
ネイラは走り去ると、バン!と扉を勢いよく開けて家から出て行った。  
「・・・死ぬなよ」  
ネイラの後ろでトールはそう呟いた。  
 
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「負けて帰ってきたのか。まぁデータを取るには十分だったな」  
アジトに逃げ帰ってきたシーロンを見るベイツの眼は冷たかった。  
シーロンにしてみれば村を潰し、獣人を皆殺しにするために行ったのであり、  
今回の結果が自分の意図したものでないことは言うまでもなかった。  
「ジーザスさえあれば私にだってやれる。1錠でいいから頂戴、ねっ」  
後ろには瀕死の重傷を負いながらも必死になって戻ってきた部下もいた。  
「た、頼む、ジーザスをくれ・・・このままじゃ・・・死んじまう」  
ベイツの近くに来るなりその場にくずおれる部下をベイツは真上から冷ややかな眼で見ていた。  
「持ち合わせは?」  
「無い。ツケにしてくれ。必ず返すから」  
部下の言い訳を聞いたシーロンは嘲笑を浴びせながら部下の頭を蹴り上げた。  
「現金払いだけ、ってベイツ様も言っているでしょ?」  
「そ、そんな・・・死んじま・・・う」  
「じゃあ死ねば?」  
ベイツが冷酷な言葉を浴びせかけた瞬間、部下はガボっと大量の血を吐き出し絶命した。  
「さて・・・コイツは後で誰かに片づけさせるか」  
部下の最期を見届けるまでもなく、ベイツはシーロンに指示を出す。  
「あの女がこっちに向かっているらしい。蟻の這い出る隙間も無いように固めるか、それとも打って出るか」  
「地勢の険しい所だからね。不意を打って出るのも面白いかも知れないね。念のために村へと出る間道だけはしっかり確保しておきたいけど」  
「よし、お前はあの村を突け。女がこの山道でウロウロしている隙にな。俺はここで待つ」  
「あの女も所詮は生き物。水がなければ生きていけない。滝や川沿いが狙い目かもね」  
「フン、お前もたまにはまともな事を言うのだな」  
 
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ドドドドド  
 
滝壺に流れが叩きつけられる水の音が響き渡る。  
(ここで休憩しよう)  
アジトまで2時間、というのはあくまでもネイラの基準だ。一般人ならおそらくは半日はかかるだろう。  
ネイラは川沿いの手頃な岩の上にペタンと座った。  
飛び散る水しぶき。叩きつける水。じっと見ているうちにも涼しさがネイラに伝わってくる。  
 
川の流れでくぼんでいるところに数匹の魚影が見える。  
「ちょっとあれを失礼しようっと」  
ネイラは近くにある、自分の頭よりも大きな大石を頭上までヒョイともちあげると、  
魚影めがけて叩きつける。  
 
ザバアアアアン  
 
派手な水しぶきが辺りに飛び散る。  
「やったか?」  
ネイラが川を見つめると、川魚・・どれもそれなりの大きさだ・・が数匹ぷかりと浮かんでいた。  
「へへーん、大成功、大成功」  
ネイラはニコニコ顔で魚を川から取る。  
近くにあった手頃な木の枝を広い集め、薪として井桁型に組む。  
背嚢の中から火打ち石を取り出すと、慣れた手つきで簡単に火をつけ、薪に燃え移らせる。  
 
ボゥ・・・  
 
火がついたのを確認してから、ネイラは魚を細い枝に通し、薪の回りの地面に刺した。  
熱気がネイラの身体を暖めてくれる。ネイラはふぅと一息ついた。  
(後は焼けるのを待つだけね)  
そんなネイラの姿を発見した男達がいた。皆武装しており、おそらくはベイツの手のものだろう。  
「やっぱり・・・あそこにいたか・・・どうする?」  
 
(続く)  
 

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