今夜も、やはり抗えなかった。  
 青年は急に口を閉ざすと、腕を伸ばし、そっと眼前の少女の髪に触れる。  
 今の今まで他愛の無い会話を繰り広げていた相手の唐突な行動に、少女は思わず身をすくめると、怪訝そうな面持ちを向けた。  
「っ……なに、どうしたの?」  
 青年は答えない。  
 押し黙ったまま、柔らかな銀色の髪を慈しむように撫でていたかと思うと、不意に少女の頭を引き寄せた。  
 そのまま、唇を重ねる。  
 睫毛がぶつかりそうな距離で、少女の水晶のような瞳が大きく見開き、瞬く。  
「んっ……!」  
 柔らかい少女の唇を割り、こじ開けるように舌を差し入れ、わざと乱暴に少女のそれに絡める。  
 ようやく事態を飲み込んだか、少女は今さらながら青年の腕から逃れようともがくが、彼はそれ以上の力で彼女を押さえつける。  
「な、なんなのっ!?」  
 唇を離すと、戸惑いと怒りが混ざった少女の視線が彼を睨み付けた。  
「あんた、いったいなに考えてっ…」  
「分からないのか?」  
「えっ…」  
「本当に、分からないのか?」  
 今から、俺が何をしようとしているのか。  
 淡々とした声音で呟くと、少女の首元に噛み付くように口付けを落とした。  
 少女の身体がびくりと反応する。  
「んっ」  
 そのまま、首筋から耳の下辺りまでちろちろと舐めあげてやる。この娘はここがひどく敏感で、こうしてやるとすっかり脱力する。  
 少女の抵抗がすっかり弱まったのを確認すると、彼は彼女の身体を押さえつけていた手を離し、シーツの端で少女の両手首を縛り上げた。  
 
 劣情に耐え切れず、彼女を押し倒したのは果たして幾晩前のことだったろう。  
 旅の連れの突然の豹変に恐怖し、抵抗する少女を押さえつけ、欲望の赴くままに犯して、犯して。  
 少女の涙を眼にして、さらに歪んだ欲望を掻き立てられ、止まらなくなって、壊れるくらい激しく責め立てて。  
 少女の中に、隠し続けていた欲望を何度もぶちまけて。  
 想いを遂げた後、最後に残ったのは、満足感ではなく、後悔だけだった。  
 我に返った魔法使いは、少女が浮かべる表情に気づき、背筋を凍らせる。  
 そこにはいつものような爛漫な明るさは微塵もない。何も言わず、ただじっと彼を見つめる泣きはらした瞳に浮かぶのは、信じていた者に裏切られた失望と、恐怖と、嫌悪の色。  
 今さらながら自分がしでかしてしまったことの大きさに気づいて。耐えられなくなって。  
 彼は少女の身体を抱き寄せると、その耳元で少女の記憶を封じる呪文を唱えた。  
 それがどんなに汚い事か、分かっていながら。  
 翌日、すべてを忘れた少女の翳りのない笑顔を目にして、彼はもう二度とあんな馬鹿な真似はしないと誓った。  
 なのに。  
 しかし、一度それを覚えてしまったら、もう我慢など出来るはずが無かった。  
 部屋で、路地裏で、寝台の上で…魔法使いはその後も、欲望のまま少女を幾度となく犯しては、その記憶を封じ続けた。  
 自分は壊れているのだろうか、青年は自嘲する。  
 こんなにも愛しく思っているのに。それでもこんなことを繰り返す自分の醜さに吐き気すら覚える。  
 それでも、一度味わってしまった鮮烈な快感に抗えない。  
 本当に、どうかしている。  
 
「放してっ……やっ」  
 身体の自由を奪われた少女の胸の柔らかなふくらみを撫でると、服の上から僅かな手がかりを探り当てる。  
 いったんそれを把握すると、彼はその部分を避け、円を描くように周りをなぞり始めた。  
 耳たぶを甘噛みすると、少女は堪え切れず甘い吐息を漏らす。  
「ぁっ」  
 少女の細い声と、苦しげに眉根を寄せる表情。  
 自分にサディスティックな嗜好があることには以前から気づいていたが、必死で快楽に堪える少女の姿を見ると、興奮のあまり狂いそうになる。  
 とはいえ、肉体的苦痛は与えない。与えるのは苦痛ぎりぎりの鋭い快楽だけ。  
 苛めたい。耐え切れないくらいの快楽を注ぎ込んで、彼女の身も心もめちゃめちゃにしてやりたい。  
 抱きしめるようにして少女の両肩を押さえると、固く張り詰めた突起を服の上から咥えた。  
「やっ、だめっ!」  
 身を捩る少女の身体を押さえつけ、舌で幾度も舐め上げ、吸いたてる。  
「やだっ!やだぁっ!はなしてっ!だめっ……だめっ」  
 身体に広がるくすぐったさと耐え難く甘苦い快感。少女は必死で逃れようとするが、青年はそれを許さない。  
 舌を動かし、敏感な部分を強く擦りあげる。  
「っ……いやっ……っだめぇっ……っ」  
 唇と舌で少女の胸元を蹂躙しながら、少女の脇腹や背中へと指を這わせる。  
 脇腹をくすぐる様になぞる指先は、そのまま太腿へと降りていき、内側へと滑り込んだ。  
「あっ」  
 下着越しに割れ目に指を這わせると、少女はひときわ高い声を出す。  
 記憶にこそ残ってはいなくても、夜毎青年に抱かれ、開発された少女の身体は、青年の手荒い愛撫にしっかりと反応していた。  
「なんだ、嫌がる割には、こんなに濡らしてるんじゃないか」  
「ちがっ…」  
「何が違うんだ?」  
 少女は言葉につまり、悔し気に潤んだ瞳を逸らす。  
 そんな反応に満足してか、青年はくくっと喉の奥で笑うと、少女の耳元に唇をよせて囁いた。  
「もっと気持ちよくしてやるよ」  
 
 少女の腿を割ると、じっとり濡れた下着の上をつうっと指でなぞる。  
「んっ……」  
 ゆるゆると、青年の指先が少女の敏感な部分を優しく撫で上げる。一回、二回……。  
 一定のリズムで、何度も何度も。布越しに、単調な動きでじわじわと弱い快感を注ぎ続ける。  
「物足りないか?」  
 青年の問いに、少女は慌てて頭を振る。  
「そんなっ……」  
「腰が動いてる」  
 青年の指摘に、少女は上気した頬をさらに赤らめ、羞恥に泣き出しそうな表情を見せた。  
「こんな弱い刺激じゃ満足できなくて、自分から身体を押し付けて気持ちよくなろうとしてるんだろ」   
「ちがっ…そんなんじゃっ……」  
 言い募る少女の唇を塞ぐように口づける。  
 下着の上をなぞり上げる指の動きはそのままで、彼は少女の身体に体重を掛け、その下半身を固定した。  
 腰をがっちりと押さえつけ、身じろぎすら出来ないような状態にして、ひたすら甘く弱い刺激を与え続ける。  
 同時に、少女のシャツを捲り上げ、今度は直接胸へと顔を近づけた。  
 先程とはうってかわって、ふくらみの頂点に優しくついばむようにキスをして。桜色の突起を唇で軽く圧迫し、尖らせた舌先でつついてやる。  
「ぁっ……」  
 秘部を撫でられ続けた少女の吐息が、やがて色を帯びてくる。  
 少女の身体の奥に蓄積されていった快感が、どうやら一線を越えたようだった。  
「だ、やだっ……やめっ……変なのっ……やめっ……」  
 指の動きは変えていないのに、少女の反応が見る間に変わっていく。  
 息を荒げ、堪えるように瞳を細め、切なげに肩を震わせる。  
 少女は自身の反応に戸惑ったように、青年が導こうとしている未知の感覚から逃れようともがくが、かなわない。  
 そんな少女の変化にわざと気づかないふりをして、青年は敏感な部分の上をゆるゆると指先でなぞり続ける。優しく、優しく。  
「やっ……あっ……いやぁっ……!」  
 吐息のような甘い声と共に、びくびくと少女の身体が跳ねた。  
 初めは軽くのけぞる程度。その後、青年の指が往復するたびに、何回も何回も。  
「やっ……やめっ!……とめてぇっ!……やぁっ……!いやぁっ……!!」  
 弱い刺激でさんざん焦らされた末の、深い絶頂。  
 繰り返すたびに大きくなっていく熱く痺れる感覚に、少女はたまらず身を捩じらせる。  
「あっ!!いやっ!!!……ぁっ……っ……」  
 少女が立てる切なげな声が、夜の静けさの中に響き渡る。  
 少女の身体から快楽の波が引き終わるまで、青年は優しく指を滑らせ続けた。  
 
 ベルトを外すと、激しい快楽の余韻にぐったりと崩れ落ち、焦点の合わない瞳で息を弾ませる少女の身体の上へと覆いかぶさる。  
 陶然としていた少女は我に返ったように表情を強張らせ、逃げようとするが、拘束された両手首のせいでうまくいかない。  
「いっ……やだっ!!」  
 下着を下ろし、足を押し広げると、青年の愛撫にとろけきった部分が露わになる。  
 ぬるぬるとした愛液ごしに張りつめた肉芽に触れてやると、少女は短い悲鳴を漏らした。  
 青年はそのままもう少しだけ下に指を動かすと、入り口を弄ぶように、わざと音を立ててかき混ぜてやる。  
「やっ……っはぁっ……」  
「凄いな。こんなにとろとろになってる。そんなに良かったのか?」  
「んっ……そんなこと……」  
 否定する少女をからかうように意地の悪い笑みを浮かべ、青年が囁く。  
「これだけ満足したなら、今度は俺が愉しませてもらう番だな」  
 少女の柔らかな髪に指を絡め、梳くように撫でながら、はちきれそうに膨らんだ欲望の塊を彼女の身体へ押し当てる。  
 少女の瞳に、恐怖と絶望の色が浮かんだ。  
「やっ……だめっ……来ないでっ……」  
 とば口に触れただけで、ぞくぞくするような快感が青年の背筋を駆け抜ける。少女の怯えた表情がまた嗜虐的な欲望を掻き立てた。  
「……やだっ……やぁっ……入れちゃっ……ぁっ」  
 強張る少女の身体をほぐすように首筋にキスして、くすぐるようにそこに舌を這わせる。  
 逸る気持ちを抑えながら、わざとその硬さと大きさを意識させるように、青年は自分の身体の一部をゆっくりと少女の中に潜り込ませた。  
「やっ……入ってくるっ……やだよぅっ……だめっ……んっ……」  
 熱く大きな塊が、痺れるように疼く部分にじわじわと侵入してくる感覚。  
 破瓜の痛みに身構えていた少女の瞳に、やがて戸惑いの色が浮かぶ。  
「だめっ……やだっ……なんでっ……こんなっ……わたし……っ」   
 はじめてなのに……弁解する様に、乱れる呼吸の下で独りごちる。  
「気持ち良いのか?」  
 はっとして、慌てて頭を振って否定する少女を、青年は愉しげに見やった。  
「俺が欲しかったんだな」  
「ちがっ……」  
「こんなに赤くなって……たまらないって顔してる」  
「そんなっ……だってっ……」  
「……全部、入ったぞ」  
 耳元に唇を寄せ、囁くように少女に告げる。  
 少女の潤んだ瞳が耐え難い羞恥に細められた。声が震える。  
「ぃやっ……」  
 
「……凄いな。先から根元まで、しっかり絡み付いてくる」  
 青年は唇の端を吊り上げ、満足げに深いため息をついた。  
「最高だ……お前の中、気持ち良いぞ?」  
「やだっ……抜いてっ……」  
「馬鹿言うな」  
 少女の訴えを鼻で笑うように、青年はさらに腰をぐりぐりと押し付けた。  
 密着した部分が擦れ、ぐちゅりと淫らな音を立てる。  
「んっ……あぁっ……」  
「良い声だ」  
「やめっ……動かさないでっ……」  
 愉悦の表情を浮かべると、青年は少女の求めを無視して動き始めた。  
「やっ……だめっ……ぁっ……!!」  
 最初はゆっくりと、徐々にスピードを上げて。  
「やっ!……あっ……だめっ……とめてっ……」  
 青年の動きに、少女の喘ぎ声が次第に熱っぽく、甘く変化していく。  
「やっ……あっ……あんっ……あっ……やぁっ……っ」  
 ひとしきり激しく衝きたてたあと、唐突に動きを弱める。  
 しばらく浅い部分を往復したあと、一気に奥まで貫いてやる。  
 わざと角度をつけて、胎内の性感帯の部分を執拗に強く擦りあげる。  
 緩急をつけた青年の責めに、少女の身体はされるがままに翻弄される。  
「やっ……だめっ……だめぇっ……」  
「気持ち良いだろう?」  
 さすがに少し息を乱して、青年が尋ねる。  
「認めろよ……俺をくわえこんで、ぐちゃぐちゃにかき回されて、こんなに感じてるって」  
 青年の問いに、少女はそれでも力なく頭を振る。  
「そんなことっ……無いっ……そんなことっ……ふぁ……んっ」  
「俺に犯されて、どうにかなりそうなくらい気持ち良くなってるくせに」  
「ちがっ……ぁんっ……」  
「じゃあ、とろけそうな甘い声を出してるのは誰なんだろうな?」  
「だってっ……だってっ……ぁっ……」  
 必死で快楽を否定しようとする少女が、ひどく可愛くてたまらない。   
 もっと苛めたい。もっともっと狂わせたい。壊してしまいたい。  
 青年の責めがいっそう激しくなる。少女の身体を押さえつけ、息もつかせないくらいの勢いでその中を貪る。  
「やっ……だめっ!やだっ!許してっ!やだっ!あっ……っ!!」  
 もはや言葉を口にする余裕すらない。欲望の赴くまま、ひたすら熱い少女の感触を味わう。  
「だめっ!だめぇっ!やっ……いやぁっ!」  
「っ……」  
 短い悲鳴と共に少女の胎内が大きくうねった。今まで以上の激しい締め付けに、青年に限界が訪れる。  
 青年は少女の背中に腕をまわすと、快感に震える華奢な身体を強く抱きしめた。  
「くっ……」  
 差し入れた部分をより奥へ捻じ込むように密着させ、少女の身体の一番深い所で、滾る欲望を放つ。   
 背筋を駆け上る痺れるようなえもいわれぬ快感と、耐え難い征服感。  
 俺のものだ。お前は……俺だけのものだ。  
 少女を抱く腕により一層の力を込めると、青年は搾り出すような声で少女の名を呼んだ。  
 
 
 
 愛してる。何度もそう言おうとして、その度に口をつぐむ。  
 欲望のままさんざん少女を陵辱した今の自分に、そんな言葉を掛ける資格などある筈が無かった。  
 自分の非道な行為に身も心も壊され、抜け殻のように寝台に横たわる少女の身体を抱き寄せると、青年はせめてもの償いであるかのように、慈しむような優しい口づけを落とす。  
   
 
   
 そして彼はまた、その呪文を唱えた。  
 
 
 
「ふぁぁ…おはよう」  
 眠そうな目をこすりながら、寝台に腰掛けていた少女があくびをする。  
 ドアノブから手を離し、少女の部屋に足を踏み入れると、青年は腕を組んで呆れたように鼻を鳴らした。  
「どうした。いつもの間抜け面に今日はより磨きが掛かっているじゃないか。さては間抜け面全国大会にでも出場する気だな。よし、応援しに行ってやるから交通費はお前持ちな」  
「そんな大会、もし何かの間違いで出場するような羽目に陥っても全力で棄権するから!」  
「そうか、残念だな。お前なら世界を狙えると思ったのに」  
「狙わないから!…もうっ、寝不足なんだよ。仕方ないじゃんか」  
 拗ねたように口を尖らせ、少女が呟く。  
「……最近、なんだか怖い夢を見るんだ」  
「怖い夢?」  
 青年の顔が、ほんの僅かばかり強張った事に、少女は気づかない。  
 小さくうなずきながら、少女は表情を曇らせ、ふうとため息をつく。  
「そうなんだ。……内容はぜんぜん覚えてないんだけど、ただ怖くて、苦しくて、悲しくって、そんな感じの夢で……」  
「……」  
「な、なに?どうしたの?」  
「……いや」  
 青年は固い表情のまま考え込むように視線を落としていたが、やがて口を開いた。  
「……今日の出発は取り止めだ」  
「え?」  
 少女は驚いたように瞳を瞬かせる。  
「そんな、それほどのことじゃないよ!?ちょっと夢見が悪いってだけで、昨日だってちゃんと早く寝たし、別にそこまでしなくてもっ…」  
「そういう自覚症状が無いのが一番やっかいなんだぞ。街から離れた場所でいきなり倒れられでもしたら面倒だ。のんきに人事不肖してるお前を俺の細腕で10km単位も運べると思うか。無理だ。そんなことになったらいっそ途中で捨ててくるぞ俺は」  
「うっ……」  
「ちょうど今読んでる本の続きが気になっていたところだ。良い機会だから、じっくり読ませてもらうさ。まあ、お前はせいぜい、貴重な青春の一日を非創造的な惰眠に費やすことだな。その間に俺だけレベルアップしてくるから、その辺で残念な感じに取り残されていれば良い」  
「でも……また悪い夢を見るかも」  
「……大丈夫だ」  
 瞳をすがめ、不安げに良い募る少女を見下ろして。  
 ややあって、青年は少女に歩み寄ると、その肩をぽんと軽く叩く。  
「魔法をかけてやる。もうそんな悪夢なんて見やしない。だから、安心して眠るんだ」  
 そのまま、くるりときびすを返した青年の名を、少女が口にする。  
 怪訝そうな面持ちで振り返った青年に、少女は少しはにかんだような表情で笑いかけた。  
「……ありがとう」  
「……」  
 青年は無言のまま目を逸らす。  
 
 
 
 もう、全てが手遅れだった。どうしたって取り返しはつかない。  
 激しい罪悪感と後悔に苛まれながら、彼は自らに問いかける。   
 今宵こそ。今宵こそは、耐え切れるだろうか、と。  
 
 
                                       <END>  
 
 

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