僕の妹は生まれつき目が見えなかった。
だけど彼女は僕に顔を近付けてスンスンとにおいを嗅ぎ、「お兄ちゃん」と笑った。
僕の妹が5歳の時、両足が動かなくなった。
だけど彼女は「お兄ちゃんにおんぶしてもらうから」と笑った。
僕の妹が10歳の時、耳が聞こえなくなった。
だけど彼女は「わたしが聞こえなくてもお兄ちゃんはずっとわたしのお話聞いてくれるよね」と笑った。
僕の妹が15歳の時、とうとう喋ることすら困難になった。
彼女はベッドの上でぱくぱく口を開き、何かを懸命に僕に伝えようとしていた。
僕が彼女の口元に耳を近付け聞き取ろうとした時、
チュッ
彼女は僕の頬に軽くキスをして、「お兄ちゃん、大好き」消えそうな声でそう言って笑った。
彼女の笑顔はそれ以来見ていない。
僕の妹は20歳になった。
僕は今日もまた病院で彼女が再び笑ってくれるのをずっと待っている。