「な、何をするんですか!?」  
人通りもほとんどない夜道を大学から自宅に向かって歩いている途中、豊の耳にそんな 
声が聞こえてきた。  
声の発生源は数メートル先の路地の様だった。  
足音を忍ばせてその路地の入口まで行き、そっと中を覗き込んだ豊は息を呑んだ。  
「お願いです。離してください」  
声の主は小柄な少女だった。  
「そっちから誘ってきたくせに、今更何言ってやがる」  
そしてもう1人、その少女の腕を掴んでいる大柄な男がそこにいた。  
少女は掴まれた手を振りほどこうと髪を振り乱して必死に暴れてはいるが  
その体格差は圧倒的で男の方はその抵抗を意にも介していない。  
どう見ても合意の上の行為とは思えない。  
強姦、弱々しい月灯りの下で繰り広げられるその光景に豊の頭にそんな単語がよぎった。  
(どうする……)  
少女と男ほどではないが、男の体格は明らかに豊を凌駕している。  
下手に飛び出していって自分が返り討ちにあい、挙句少女が強姦されるという最悪な事 
態だけは避けねばならない。  
もしかすると近所の住人が通報しているかもしれないが、周囲の家は静まりかえってい 
てその保証はなかった。  
(見なかった事にする……。だめだ。  
 少女の他殺死体が見つかったなんてニュースが流れたら一生後悔する)  
その時、豊の頭にある案が浮かんだ。漫画などではよくある手段だ。  
(駄目でもともと。失敗したら直接やりあうしかないか……)  
覚悟を決めて豊は来た道を十メートルほど引き返すと男に聞こえるように大声で叫んだ。  
「こっち、こっちです! 女の子が襲われてるんです!」  
叫ぶと同時に路地に向かって走り出した。先ほどとは逆になるべく足音を立てながら。  
再び路地の入口に戻ってきた豊の目に映ったのは地面に座り込む少女の姿だけだった。  
どうやら男は反対側から逃げていった様だ。  
幸運にも予定通り事が運び、豊は胸を撫で下ろすと少女に近づいていった。  
 
あんな事があったばかりの少女をなるべく刺激しない様にと  
細心の注意を払っていた豊だったが、その努力は無駄だったようだ。  
少女は放心している様で、豊が近づいても空中の1点を見つめたまま全く動こうとはし 
ない。  
「ね、ねぇ、大丈夫?」  
「きゃっ」  
豊が恐る恐る声をかけると、そこで初めて豊の存在に気付いたらしく少女は肩をビクン 
と震わせて短い悲鳴を上げた。  
少女の目が慌しく周囲を探った後、豊に向けられる。  
「や、やだっ」  
少女は怯える様に尻餅をついたまま後ろに下がる。  
「だ、大丈夫だよ。何にもしないから」  
それを見た豊は慌てて敵意がない事を示す様に両手を上げると、無理矢理顔に笑顔を浮 
かべた。  
その顔は自分でも引き攣っている事がわかったが、他に危害を加えるつもりがない事を 
伝える術が思いつかなかったのだ。  
しばらくそんな間抜けな体勢のまま固まっていると、徐々に少女が落ち着きを取り戻し 
てきたようだった。  
「あ、あの、さっきの人は?」  
何とか会話が成立しそうな気配に豊は本日2度目の安堵を覚えた。  
このまま痴漢扱いされてはたまったものではない。  
「あいつなら逃げたみたいだよ。でも万が一戻ってくると危ないから  
 出来れば早い内に移動した方が良いと思うんだけど、立てる?」  
「は、はい……」  
少女は言われて初めて地面に座り込んでいる事に気付いたようにゆっくりと立ちあがっ 
た。  
膝丈の黒いワンピースから覗く足が小刻みに震えているのが豊の目に映る。  
一瞬支えるべきか迷ったものの、まだ下手に触らない方が良いと判断した豊は出しかけ 
た手を抑えた。  
すぐに倒れると言うほどでもなさそうだったのは幸いだった。  
 
「あなたが、助けてくれたんですか……?」  
豊がそんな事を考えていると、少女が質問を投げかけてきた。  
ショックのせいかそのあたりの記憶が曖昧になっているのだろう。  
「うん、まあそんなところだけど。君、この辺の子? あんまり見かけた事がないけど」  
少女の外見から中学生くらいだろうと豊は感じた。  
近くから見るとはっとする程の整った顔立ちに思わず豊は息を呑む。  
長く伸ばした髪は滑らかで、黒い服とそこから出る手足の白さのコントラストが印象的 
だった。  
当然豊とて近所の子どもに精通しているわけではないが、少なくともこの辺で見かけた 
記憶はない。  
「えーと、この辺に住んでるわけではなくて……。この町にはさっき着いたばかりなん 
です」  
「さっきって……。もうすぐ日付変わる時間だよ。泊まるところは? それより両親と 
来てるの?」  
呆気に取られて立て続けに質問してしまった。  
「そ、それがその……」  
その豊の勢いに圧されて少女は俯いてしまった。声もしぼむ様に小さくなる。  
それを見て豊は自分の失策を悟った。  
(怖がらせてどうすんだ、俺……)  
「とりあえず、警察に保護してもらおうか……。こんな時間に女の子ひとりで外にいる 
なんて物騒だし」  
豊がそう呟いた瞬間、俯いていた少女の顔が跳ねあがった。  
「け、警察は駄目です! 絶対!!」  
その剣幕に今度は豊が圧倒される番だった。  
「け、警察は駄目って……」  
「駄目ったら駄目なんです!」  
興奮のせいか警察に怯えているのか、少女の目に涙が溜まりはじめた。  
その涙が豊の混乱に拍車をかける。  
「わ、わかった。わかったから泣くのだけは勘弁してくれ……」  
豊は途方にくれた。行く当てがない少女、警察は不可。いったいどうすれば良いのか。  
そんな考えが頭の中をぐるぐる回る。  
 
「あ、あのずうずうしいお願いかもしれませんけど、今晩泊めていただけませんか?」  
「はぁ?」  
予想もしていなかった、いや考えなかったわけではないが  
あんな事が有った直後の女の子を自分の家に連れていくのはまずかろうと真っ先に選択 
肢から排除した案だ。  
それを当の少女の側から提案されて、豊は思わず間抜けな声で聞き返してしまった。  
それを怒りの反応と受け取ったのか、少女が身を縮こまらせる。  
「あ、ご、ごめんなさい。調子に乗りすぎました。初対面なのに厚かましすぎますよね」  
「いや、怒ってるわけじゃなくてさ……」  
「なら……」  
少女の目に希望の光が宿る。  
その勢いで身を乗り出してくる少女を慌てて制すると豊は言った。  
「あ、あのさ、俺は今1人暮しなの。だから……」  
さすがにここまで言えば諦めるだろうと思った。しかし少女の反応は全く逆のものだっ 
た。  
「そうなんですか!? なら御家族の了解を取りつける手間が省けますね」  
諦めるどころかむしろ嬉々として詰め寄ってくる少女。  
「さっきあんな事があったのに怖くない? もちろん俺は何かするつもりなんてないけ 
どさ」  
藪をつついたら蛇が出るかもしれないとは思いつつも、豊の口から正直な疑問が漏れた。  
案の定少女の顔が一瞬強張る。  
「で、でも、あなたは助けてくれたんですよね。あの人とは違いますよね。  
 お願いします、私この町で頼れる人がいないんです。お願いします」  
そう言って少女は深く頭を下げる。  
“男”と一括りにされるのも嬉しくはないが、こうもあっさり他人を信じてしまう少女 
に危うさを感じた。  
「わかったよ。君がそれで良いんだったら俺の方は別に断る理由もないから……」  
「本当ですか!? ありがとうございます」  
水呑み鳥のようにぺこぺこと頭を上下させる少女を、豊は唖然として見つめるしかなか 
った。  
 
「はい、麦茶」  
結局少女を連れて家に帰ってきた豊はとりあえずコップに麦茶を注いでテーブルの上に 
置いた。  
夏も終わりが近いとはいえ、いまだ蒸し暑さは健在であり  
コップの表面にはあっという間に水滴が生まれていく。  
「あ、ありがとうございます」  
少女はコップを両手で包む様に持つと、一口だけ口をつけた。  
「ふぅ……」  
少女が息をつく。  
それらの仕草1つ1つに全く現実感と言うものが欠如している。豊はそんな事を感じた。  
会ったばかりの女の子が自分の部屋で麦茶を飲んでいる。  
そんな展開は本の中だけだと思っていたのだが。  
「あの、何か……?」  
気付けば少女が上目遣いで自分のことを見つめている。  
どうやら少女の事をじっと見つめていたらしい。その事に気付いた豊は弁解する様に言 
葉を紡いだ。  
「い、いや別に……。そうだ、君……」  
「あーー!」  
突然少女が叫んだ。  
「な、何!?」  
「私、自己紹介もしてませんでした! 私、棗って言います。よろしくお願いします」  
「あ、ああ、そんな事か……。俺は豊。よろしくね」  
「はい、豊さんですね。よろしくお願いします」  
と、名前を聞いたことで連鎖的に少女、棗の素性が気になりはじめた。  
この辺に住んでいなくて警察を嫌がるあたり家出中だろうかと予想しつつ尋ねてみた。  
「言いにくかったら言わなくても良いんだけどさ。棗ちゃんはなんでこの町に来たの?」  
「そ、それは、その……」  
棗は言い淀んだ。その反応が豊の予想をなかば確信にまで近づける。  
「あ、言いたくないなら別にいいんだけど……」  
「あの、絶対秘密にしてくれます? あと馬鹿にしないでくれます?」  
(秘密は分からないでもないけど、馬鹿にする? まあ確かに家出なんてあんまり利口 
な行動だとは思わないけど)  
そんな事を考えつつ、とりあえず豊はうなずいた。事情を聞いておくに越したことはな 
い。  
 
「実は、お使い……を頼まれまして……。それで……」  
「お、お使い!? こんな時間に1人で?」  
既に今日何度目かもわからない予想外の答えだった。  
「あ、こんな時間になったのはやっぱり魔女の活動時間は夜かなーって。  
 別に目当てのものを昼間から捜してて、まだ見つからないってわけではないんですよ」  
棗が弁解する様に両手を身体の前で振りながら説明する。  
「ま、魔女……」  
驚くとか呆れるとかを通り越して、もはや何でも来い、そんな心境に豊は到達しかかっ 
ていた。  
そもそも初対面の女の子をいきなり泊める事になった時点で非常識な展開なのだ。  
いまさらその女の子が魔女だったなどと言う設定の1つや2つ追加されたところ何だと 
言うのだ。  
「それで、お使い頼まれて魔法の世界から人間界にきたってこと?」  
「そうなんです。って、信じてくれるんですか?」  
逆に棗の方があっさり受け入れられた事に驚いていた。  
「なら、明日の朝一で目当てのものを手に入れて帰れば一件落着って事だよね」  
とりあえず、どんな滅茶苦茶な展開であれゴールが見えてきたのは豊にとって僥倖だっ 
た。  
しかし豊の言葉に棗は表情を曇らせる。  
「それが……」  
「何か問題があるの?」  
「実は頼まれたものがどんな物かわからないんです。名前と、人間界で手に入るってこ 
とだけは教えてもらったんですけど……」  
棗の声が再び萎んでいく。  
(品物の名前とある場所だけ教えるなんて、まるでテレビでやってる“初めてのお使い” 
だな)  
「えーと、棗ちゃんってお使い頼まれたの初めてだったりする?」  
「はい、そうですけどそれが何か?」  
(やっぱり……)  
「で、その物の名前ってなんて言うの? 魔女の欲しがる物なんてわかんないけど  
 もしかしたら俺の知ってる物かもしれないから言ってみてよ」  
「えーとですね、男の人の『せーえき』と言うものなんですけど御存知ですか?」  
 
「ぶっ!」  
豊は危うく飲んでいた麦茶を噴き出しかけた。  
かろうじて最悪の醜態を晒す事は回避できたものの、わずかに気道に入ってしまったた 
めに盛大に咳き込む羽目になる。  
「だ、大丈夫ですか!?」  
棗がテーブルの上に身を乗り出して背中をさする。  
その小さな手の感触を背中に感じながら豊は咳が収まるのを待った。  
「あ、あのさ、本当に知らないの?」  
ようやく咳が止まったところで尋ねる。  
「はい。お師匠様は『魔女に必要なのは臨機応変に対応する力。どーんといけ、どーん 
と』って  
 言いながら私の背中をバシバシ叩いて送り出してくれましたけど。  
 それでこっちの世界についてちょうど通りかかった男の人に尋ねたら……」  
そこで先ほどの出来事を思い出したのか、棗は身を震わせた。  
(夜道で男の精液が欲しいなんて、まるっきり痴女だよなぁ)  
言われてみれば、あの時男の方がそっちから誘ったとか言っていたような気がする。  
「あの、御存知なんですか?」  
「ああ、うん……まあ……」  
「すぐに出せますか!?」  
棗の顔に期待の表情が浮かぶ。  
いくらそれがどんな物か知らないとはいえ、その真っ直ぐ過ぎる視線に豊の方が照れを 
隠しきれなかった。  
「だ、出せると言えば出せるけどさ……」  
「お願いします、少しで良いですから分けて下さい!」  
再び棗が頭を下げる。テーブルに頭突きせんばかりの勢いだ。  
「わ、わかったよ……。じゃあ風呂場でとってくるから……」  
状況に流されているとは思いつつ、豊は断ることが出来なかった。  
そもそもここで断ったらこの子はそこら中の男に頼んで回るんだろうと思うと断る気に 
はなれなかった。  
「あ、何か入れ物はあるのかな?」  
 
ひどく情けない気持ちになりながら問いかけた豊に、棗は首からかけていたペンダント 
を差し出した。  
「はい、これです」  
服の下に隠れていた先端には小さな瓶が付いている。  
それを受け取ろうとした豊の手が届く直前でペンダントを持つ棗の手が引っ込んだ。  
「あ、駄目なんです」  
「え?」  
「実は条件がありまして、なんでもお師匠様が言うには魔女の手で直接搾り出した『せ 
ーえき』でないと意味がないんだそうです。ですからやり方を教えてもらえれば。『せ 
ーえき』を出す物はお風呂場にあるんですよね」  
そう言って立ちあがる棗を呆然と見つめていた豊ははっと我に返った。  
そしてどう説明すべきか必死に頭をめぐらせた。  
「あ、あのさ、棗ちゃんは赤ちゃんがどうやって生まれてくるか知ってる?」  
出てきた質問はあまりにも情けないものだった。  
「それくらい知ってます。男の人と女の人が愛し合うと女の人のお腹の中に出来るんで 
すよね。馬鹿にしてます?」  
棗が怪訝そうな目つきで見つめてくる。  
いきなり何故そんな当たり前の事を聞くのか、と言った雰囲気だ。  
「それはそうなんだけど、具体的にどんな事をするのかとか……」  
「具体的……ですか。一緒に暮らしているといつのまにか出来るんじゃないんですか?」  
(だ、駄目だ……)  
豊は心の中でガックリと項垂れた。  
棗は根本的にその辺の知識が欠如している。それが確認できた事は、まあ進歩と言える 
のだろうか。  
 
「と、とにかく、そんなことは良いですから、なるべく早く持ってかえりたいんですけ 
ど……」  
「うーん、わかったよ……」  
豊は半ばヤケクソ気味にベルトを外すと、トランクスから自分のモノを取り出した。  
当然まだ縮んだ状態のモノが外気と棗の目に晒される。  
その視線に自然と顔が赤くなるのが豊は自覚できた。  
一方の棗は照れる様子もなくじっとの目の前に現れたものに視線を注いだままだ。  
「男の人ってこんなのがついてるんですねぇ。もしかしてここから出るんですか?」  
視線を上げて無邪気に尋ねてくる。  
「そうだけど、男の裸って見た事ないの? お父さんとか」  
「あ、私、赤ちゃんの時にお師匠様の家の前に捨てられていたらしくて両親の顔知らな 
いんです。  
 それにお師匠様も女性ですし、近所に同じ位の歳の男の子もいませんでしたし」  
その内容とは裏腹に棗はあっけらかんとして答えた。  
そのあまりに平然とした口調に豊は一瞬内容が掴めなかったほどだ。  
そして、ようやく内容が頭に染み込んで来たとき思わず謝罪の言葉が口を突いて出た。  
「ご、ごめん、変な事聞いちゃって」  
「ん? どうして謝るんですか? ともあれ、ではさっそく」  
心底不思議そうに首をかしげた棗が突然豊のモノに手を伸ばすと垂れ下がったままのモ 
ノを握ってきた。  
「わ!? ちょ、ちょっと」  
「えーと、牛や山羊の乳搾りみたいにすれば良いのかな」  
豊が止める暇もなく、棗は瓶の蓋を開けてモノの下に添えると言葉通り握った手に力を 
込めはじめた。  
しかしいきなりの刺激に極度の混乱状態に陥った豊のモノは一向に元気にならず何も出 
てこない。  
「うーん、でてきませんねぇ……」  
困った様に眉を寄せて呟く棗。  
「だ、だからちょっと待って……」  
「そうだ!」  
何とか制止しようと搾り出した声が棗の声によって遮られる。  
 
「何? どうしたの!?」  
「実は万一『せーえき』をくれるって人がいて、でも上手く出ない時用にお師匠様から 
魔法を教えてもらってるんです。  
 多分それを使えばすぐに出るはずです。いきますよ、覚悟してください」  
「か、覚悟って……」  
「言葉のアヤです。気にしないでください」  
そう力強く言うと、棗の口から聞いた事もない発音の旋律が紡がれる。  
にわかに“魔女”という言葉が現実味を帯び始め、豊は未知の行為に対する恐怖で混乱 
に拍車がかかった。  
「ま、待っ……」  
「えーーーーいっ!」  
棗のどこか間の抜けた声と同時に、握られたままの豊のモノに一瞬ピリッとした痛みが 
走った。  
「つっ」  
次の瞬間、それまで全く反応しなかったのが嘘のように豊のモノが体積を増しはじめる。  
ぐんぐん立ち上がり水平を通り越して斜め上に突き出すようになったモノに、豊は自分 
の物でありながら呆れ返ってしまった。  
「凄いです。こんな風になるんですね」  
心底感心した様に棗は言うと、モノの角度が変わったせいで持ちにくくなったのか手を 
逆に持ち帰ると再び力を加え始めた。  
細い指がそれぞれ独立した生き物の様に竿を締めつける感触に豊は今まで感じた事がな 
いほどの強い快感を感じていた。  
「さっきまでと違って、硬くて握っても全然形が変わりませんね」  
「うぁ……」  
「あ、ごめんなさい。痛かったですか」  
棗は豊の呻き声の理由を痛みによるものだと勘違いしてとっさに手を離そうとした。  
「ちがっ、気持ち良すぎて。もっと扱く感じで……手を上下に……」  
圧倒的な快感の奔流に押し流されながら、もっともっと欲しい、そんな考えが豊の頭の 
中を支配していく。  
その内なる声にしたがって、なかば上の空で棗に指示を出す。  
「気持ち、良いんですか? 上下に……。こんな感じですか?」  
棗は言われるままに竿を握った手を上下にスライドさせる。  
それだけで豊は腰が粉々に砕かれるかのような錯覚に襲われた。  
「あ、何か出てきました。これですか!?」  
モノの先端から滲み出した透明な液体に目を止めて、棗の声に喜びが混じる。  
 
「そ、それは違うもので……もうすぐ、もうすぐだから……」  
「そうなんですか。ならもっと頑張ります」  
棗の手の動きが速さを増す。  
もはや声を出すのも億劫だった。  
脳の中心が痺れるような感覚、ただひたすらにこの刺激を感じていたい。  
いつまでも感じていたいという思いと、一刻も早く開放したいという思いが鬩ぎ合う。  
だが徐々に開放への渇望に軍配が上がり始めた。  
「で、でるっ……」  
その言葉に棗は瓶の口をモノの先端に寄せた。  
しかし先走り液のように先端から滲み出すものだと思ったのか  
棗はちょうど瓶の口が先端の下側に来るように構えてしまった。  
一拍置いて先端が爆発したかのように白濁液が噴出した。  
放たれた白濁液は棗の予想を裏切って放物線を描くと、期待のまなざしで顔を寄せてい 
た棗の額に直撃する。  
「わ、わわわ!?」  
予想外の事態に棗はモノを握っていた手を離してしまった。  
開放された豊のモノは上下に揺れながら棗の全身へ2発3発と白濁液を放出する。  
「はぁ……」  
しばらく続いた放出を終えた豊は、あまりの射精感に今度こそ腰が抜けたかのように座 
り込んでしまった。  
そのまま数十秒荒い息をついた後、視線を上げた豊の目の前には同じく呆然と座り込む 
棗の姿があった。  
これも魔法の効果なのか、たった1回分にもかかわらず棗の全身は精液でドロドロにな 
っていた。  
黒いワンピースや髪と白い精液がコントラストを形成し、見た目の幼さと対照的な淫靡 
さを醸し出している。  
しかしその姿を見ているうちに豊の心に罪悪感が生まれてきた。  
「ご、ごめん、大丈夫!?」  
慌てて手を伸ばすと棗は1度瞬きをした後我に返った。  
「わわ、何ですかこれ!? ドロドロして苦いですぅ……」  
あれだけ顔にかかっていれば口にも入って当然だろう。棗は初めて経験する味に顔をし 
かめた。  
「えと、それが一応精液、なんだけど……」  
 
豊が申し訳なさそうに言うと、棗はもう1度大きく瞬きをした。  
「そうなんですか? じゃあ、集めないと……」  
そう言って口の中に広がる苦さに泣きそうになりながら、顔や服についた白濁を指で掬 
って瓶へと集めていく。  
その仕草に豊は再び自分のモノが反応を見せたことを感じ慌てて首を振った。  
(だ、駄目だ駄目だ。あくまで俺はこの子のお使いの手伝いをしたんだ。目当てのモノ 
が手に入ったんだからこれ以上は……)  
わずかに硬さを取り戻しつつあるモノをトランクスにしまうと、必死に自分に言い聞か 
せた。  
そんな事を考えている内にも小さな瓶はすぐに白濁液で満たされる。  
「こ、これで帰れます。ありがとうございました」  
そう言って頭を下げる棗に豊の罪悪感はますます大きくなる。  
「あ、うん、それなら良いんだけど。と、とりあえず風呂場で顔とか髪洗ったほうが良 
いんじゃないかな」  
いつまでもそのままでいられたら理性が持たないと感じた豊は風呂場への扉を指差した。  
「はい、じゃあお借りしますね」  
そう言って棗は立ちあがりかける。  
「あぅ……」  
と、完全に立ちあがる直前で突然棗の膝が折れ、再び座り込んでしまった。  
「ど、どうしたの!?」  
立ちあがれなくなるほどショックだったのだろうか。  
そう考えた豊は自分のやってしまった事に背筋が寒くなった。  
「そ、それが、なんか変な感じで……」  
夏目は自分でも原因がよく分からないのか眉を寄せて豊を見上げる。  
そのわずかに上気した頬の赤さと上目遣いの視線に豊は魅入られたかのような錯覚に襲 
われた。  
豊は慌ててその考えを振り払って立ちあがると、棗に手を差し出した。  
「ほら、大丈夫?」  
棗はその手を取ると、すがりつく様にして何とか立ちあがった。  
しかしそうやってかろうじて立ちあがる事は出来たものの、棗は何かに耐えるように唇 
を噛み締め俯きがちになっている。  
膝も小刻みに震え、手を離したらすぐにまた座り込んでしまいそうだ。  
 
その時、豊はある事に気付いた。  
ワンピースの裾から覗く震える足、その内側に透明な流れが出来ていた。  
その流れはそのまま足元まで行くと絨毯に小さな染みを作っている。  
(こ、これは、まさか……)  
豊の脳裏にある予想が浮かび上がる。  
「きゃっ!?」  
豊の視線から棗もその事に気付いた。  
掴んでいた手を離すと、それを隠すように再び座り込む。  
そのままワンピースの上から股間を両手で押さえようとしたが、手がそこに触れた瞬間 
雷に撃たれたかのように身体を震わせて手を離した。  
その反応に豊は確信を得る。  
「な、棗ちゃん……」  
「ご、ごめんなさい、私お漏らししたつもりなんて全くないのに……。なんで……」  
棗は初めての経験に勘違いしているのか俯いて涙を零し始めた。  
豊はそれが見ていられなくなり棗の肩に手を置くと視線を合わせた。  
「棗ちゃん、これはおしっこじゃないんだよ」  
「え……?」  
その言葉に棗は訳がわからないとばかりに目をぱちくりさせる。  
「えーとなんて言ったらいいかな。さっき俺のモノを触ってるとき最初に透明な液体が 
出たでしょ。  
 あれと同じようなものでおしっこじゃないんだ」  
「じゃ、じゃあ私もこの後『せーえき』がでるんですか?」  
その答えに一瞬脱力しかかった豊ではあったが、何とか言葉を続けた。  
「女の子は精液は出ないんだけどね。何か体が変な感じしない?」  
「あ、なんだか体中が熱くて頭がぼんやりします。それに、ここを触るとビリって電気 
が流れるみたいでおかしくなっちゃいそうです……」  
未知の感覚への恐怖からか再び棗の目に涙が溜まりはじめた。  
 
「うん、さっきの俺もそんな感じだったから、別におかしい事じゃないんだ」  
豊は棗を安心させるために諭すように言葉を紡ぐ。  
「も、もしかして、さっきの魔法私にもかかっちゃったんでしょうか」  
「たぶん……」  
性について全くといっていいほど知識も経験もない少女がいきなりここまでなる原因は 
魔法くらいしか思いつかなかった。  
「ど、どうしよう……。あの、豊さんはもう平気なんですか?」  
「あ、うん俺は1回出しちゃったからもう……」  
その答えに棗が目を輝かせた。  
山で遭難して救助が来た時の目はこんな感じなのかもしれない。そんな事を豊は思った。  
「お、お願いします。私もその、だ、出させてください!」  
「え? あ、でも……」  
「お願いします。私やり方とかわからなくて……。私にはさっきの男の人みたいなのつ 
いてないですし……」  
再び棗の顔が泣きそうに歪む。  
「わ、わかった。じゃあここだといくら絨毯があるって言っても痛いかもしれないし… 
…」  
豊は立ちあがれない棗を抱え上げるとベッドまで移動し、そっと仰向けに下ろした。  
「あの、私はどうしたら良いんですか?」  
不安そうな目で棗は尋ねてくる。  
「とりあえず何もしなくていいから。なるべく体の力を抜いてて……」  
それだけ言ってワンピースの裾を捲り上げると  
豊の目に棗の秘所を覆うショーツの白さが飛び込んできた。  
それは既に限界まで愛液を吸って濡れそぼり、留めきれなくなった分が内股を伝って流 
れ出していた。  
「な、なんだか恥ずかしいです……。お師匠様には見られても全然平気なのに……」  
シーツを掴む棗の手に力がこもる。  
「すぐに済むから少しだけ我慢してて……」  
豊はショーツの両サイドに指をかけた。  
「少し腰を上げてくれる?」  
言われるままにわずかに腰が浮いたところで、豊はショーツを膝の手前まで引き下げた。  
 
まだ生えてないだけなのか、元々そういう体質なのかはわからないが棗の秘所には毛が 
生えていなかった。  
ぷっくりと膨らんだ恥丘と真っ直ぐな縦線が直接目に飛び込んできて、豊は思わず生唾 
を飲み込んだ。  
よく見ればピッタリと閉ざされた縦線の上端付近に赤い粒がわずかに頭を覗かせていた。  
(立とうとしたときにこれが挟み込まれてあんなになったのか……)  
豊にかけられていた魔法は強制的に勃起させるだけでなく、そこから得られる刺激も何 
倍にも増幅していた。  
もし女性にも同じ効果があるのだとしたら、最も敏感な陰核を挟み込まれたときの刺激 
はいかほどのものか豊には想像もつかなかった。  
「あ、あの……私のそこ、何か変ですか?」  
豊の動きが止まった事に不安を感じたのか、棗が声を掛けてきた。  
その顔は快感と羞恥でこれ以上ないくらい赤く染まっている。  
「あ、ごめん。あんまり綺麗で見とれちゃってて……」  
豊が正直な感想を口にすると、棗の顔がさらに紅潮した。  
「じゃあ、触るよ」  
その言葉に棗の手がさらに強くシーツを握るのが豊の目に映った。  
多分、すぐにでも手で隠したいという衝動を必死に抑えているのだろう。  
そんな事を考えると豊は棗のことがこの上なく愛おしく思えた。  
(敏感になっている状態でいきなり直接触れるのはまずいかな)  
そう考えた豊はまず太股に手を伸ばした。  
「あん……」  
指先が触れただけで、まるで焼き鏝を当てられたかのように棗の体が大きく跳ねた。  
やはり外から攻めたのは正解だったらしい。  
豊はそれを確認すると、溢れ出た愛液を木目の細かい肌に擦り込むように手を動かした。  
「んん……ぁ……」  
手の動きに合わせて吐息混じりの声が聞こえてくる。  
「どんな感じ?」  
「ん、なんだか、くすぐったいような……でも違うような、変な感じです」  
 
少しは慣れてきただろうと感じた豊は指の先を陰唇に乗せた。  
わずかに頭を覗かせている陰核には触れない様に気を付けながら、ピタリと閉じた合わ 
せ目の上を往復させると  
棗の反応が一層強くなった。  
指に圧されて陰唇がわずかに開く。  
すると中にたまっていた液体が待っていたとばかりに一気に溢れだし  
かたまりとなって会陰部を伝いシーツへと染み込んでいった。  
「んぁ……もう……だめ、なにか……きちゃう……」  
棗の声がさらに1オクターブ上がり、限界が近いことを告げる。  
豊は止めとばかりに、指にたっぷりと愛液を絡ませると陰核に直接振動を与えた。  
「だ、だめっ……そこは……、んああああああ!」  
一瞬にして高みへと突き上げられた棗が全身を痙攣させてベッドの上で跳ねる。  
ようやく痙攣がおさまると、棗は全身を脱力させて荒い息をついた。  
「はぁ……はぁ……」  
「どう、落ち着いた?」  
自分の経験から1度達すれば治まるだろうと予想していた豊は優しく問いかけた。  
しかし棗は豊の声に小さく身を震わせると、まだ足りないとばかりに太股を擦り合わせ 
始めた。  
「だ、だめです……まだ……。お腹の奥が切なくて……。我慢、できないんです……」  
その言葉に豊は動揺を隠せなかった。  
(これ以上となると……)  
ためらう豊の前で棗は苦しそうに身を悶えさせる。  
「お願いします。早く何とかして下さい。このままじゃ私……」  
 
涙を浮かべて懇願する棗に、豊も覚悟を決めた。  
自らもベッドに上り、棗の両足を広げるとその間に身を割り込ませた。  
正面にある棗の秘唇はまるで豊を誘うようにわずかに開閉を繰り返し、その度に隙間か 
ら桃色の秘肉が顔を覗かせる。  
「ど、どうするんですか……?」  
体勢を変えた事で棗の瞳に再び不安の色が宿った。  
豊は棗の目に映る様に再びズボンからモノを取り出した。  
姿を現した豊のモノは棗の肢体によって既に猛々しく立ちあがっている。  
「そ、それでするんですか……?」  
その大きさに棗の声がわずかに震えを帯びる。  
「ごめん、最初は痛いかもしれないけど、多分これで治まるはずだから」  
豊は少しでも不安を取り除こうと極力優しい声を出すと  
手始めに自分のモノを棗の秘唇の上で往復させた。  
秘唇からは絶え間なく愛液が溢れ出ており、数往復しただけで豊のモノは愛液に包まれ 
テラテラと部屋の明かりを反射し始めた。  
「あ……んふぅ……だめぇ……」  
カリ首が陰核を擦るたびに棗の口から嬌声が漏れる。  
「いくよ……」  
自分のモノが充分濡れて滑りが良くなると豊はそう言って挿入を開始した。  
先端を秘唇にあてゆっくりと腰を沈めると、窮屈ながらも棗の膣口は驚くほどの柔軟性 
をみせ亀頭の形に押し広げられた。  
「いっ……!」  
棗の口からそれまでと違う苦痛の声が漏れた。  
目を固く瞑り、それまで以上にシーツを握る手に力がこもる。  
 
「いたっ、いたぁ……」  
「ごめん、でももうすぐだから」  
閉じられた瞼の端から涙が零れ落ちる。  
その表情とは裏腹に、棗の膣は全体を使って豊のモノを歓迎した。  
暖かい壁に囲まれ、文字通り全方向から豊のモノを締め上げた。  
その気持ち良さにともすれば一気に突き込みたい衝動に駆られながらも  
豊は理性を総動員してそれを押さえ込み、ゆっくりと挿入を続ける。  
その時だった。  
突然棗の両足が豊の腰に回されがっちりとロックする様に抱え込んだ。  
痛みに耐えるための無意識の動作だったのだろう。  
しかしそれは豊の腰を力強く引き寄せる結果となった。  
「んぅーーー!」  
とっさに腰を止めようとした豊の反応も間に合わず、途中で現れた新たな抵抗も一気に 
破って豊のモノは棗の際奥を突き上げた。  
「あ……かっ……は……」  
あまりの痛みに棗は酸素を求める魚の様に口をパクパクと開閉させる。  
その姿に豊は自分のモノを引き抜こうとしたものの、棗の両足がいまだに豊の腰をがっ 
ちりロックしていて動かせない。  
結局わずかに棗が落ち着きを取り戻すまで、豊は痛みが少しでも和らぐ様にと彼女の髪 
を撫でつづける事しか出来なかった。  
「大丈夫?」  
ようやく腰に回された足が緩んだところで豊は問いかけた。  
「ま、まだ痛いですけど……何とか……」  
答える棗の息は荒く、流れこそ止まったものの目尻には涙が溜まっており、無理をして 
いるのは明らかだった。  
 
「こ、この後は、どうするんですか?」  
「え……?」  
逆に質問されて豊は言葉に詰まった。  
正直なところ、すぐにでも動き出したかった。  
粘液を纏った膣壁がいまも苦しいほど締め付けてきて射精を促している。  
だが、先ほどまでの痛がり方を見ていると自分の快楽だけを優先して動く気にはなれな 
かった。  
「さっきの、手で擦ったときみたいに、腰を動かせば良いのかな……くぅ……」  
棗の体がわずかに後ろに下がる。  
それに伴って膣壁が肉棒全体を舐め上げるように擦り、豊は全身に電流が流れる様な衝 
撃を受けた。  
一瞬その快楽に流されかかったものの、苦痛に歪む棗の顔が豊を我に返らせる。  
「だ、駄目だよ。無理しなくていいから」  
「でも……私、豊さんにも喜んでほしくて……。さっき手でやったとき気持ち良かった 
んですよね。だから……」  
痛みに涙を浮かべながらもそんなことを言ってくれる棗のことが、たまらなく愛おしい 
と感じる。  
魔法の効果をなくす為という当初の目的はいつのまにか頭の片隅に追いやられ  
本当の恋人同士のように相手を喜ばせたい、お互いの心にあるのはただそれだけだった。  
「わかった。なら俺のほうが動くから、棗ちゃんは力を抜いてなるべく楽にしてて……」  
「はい……」  
「でも、俺だけが気持ち良くなっても意味がないんだ。君もかならず気持ち良くしてあ 
げるから」  
それだけ言うと豊は挿入時以上の慎重さを持って腰を前後に動かし始めた。  
それと同時に、少しでも棗が快感を感じられる様にと陰核や服の上からでもわかる胸の 
頂点を指で刺激していく。  
何度か往復させる内に痛みに魔法の効果が勝ってきたのか、棗の声に甘い響きが混ざり 
始めた。  
「少しは良くなってきた?」  
「はい……痛いのと……んぁ……気持ちいいのが、混ざって……」  
その言葉を証明するように、ただひたすら締め付けてくるばかりだった膣壁の動きにも 
変化が生じた。  
膣全体が別の生き物の様に蠕動し複雑な快感を送り込んでくる。  
 
「くっ……」  
その動きに気を抜けばあっという間に射精してしまいそうになるのを必死に耐える。  
「あぅ……だめ……また……だめぇ!」  
一際大きい叫びと共に棗の体が痙攣し、それまでにない力で豊のものを締め付ける。  
その刺激に耐えきれず棗の一番奥で豊は精を放っていた。  
「あ、熱いのが……奥に……」  
身体の一番奥に液体を注ぎ込まれる初めての刺激に、痙攣が治まった棗は陶然とした声 
を上げた。  
その間も棗の膣は一滴残らず搾り出そうとするかのように動きつづける。  
体の中身を全て吸い取られるかのような錯覚を感じながら、豊の意識は闇に落ちていっ 
た。  
 
 
翌朝ベッドの上で豊は目を覚ました。  
寝る前のことを思い出し顔を赤くした豊だったが、隣に誰もいない事に気付くと一気に 
顔を青ざめさせた。  
「夢!? バカな!」  
慌てて部屋を見まわすが人が一人隠れられそうなスペースなどこの狭い部屋にはない。  
わずかな希望にすがって風呂場に駆けこむ。  
しかしそこにも棗の姿はなかった。  
一気に絶望が押し寄せてくる。  
「あれが……全部夢だったなんて……」  
目を閉じれば彼女の顔、声、そして自分の肉棒を包み込んだ膣の感触が鮮明に思い出せ 
る。  
にもかかわらず彼女の姿はもはや部屋のどこにもない。  
豊は立っている事が出来ず、床に手をついた。  
そこである事に気付く。  
「濡れてる……?」  
 
自分は昨晩風呂に入った覚えはない。  
つまり、自分以外の誰かがこの部屋にいたということだ。  
再び豊の体に力が蘇ってきた。  
そのまま風呂場を飛び出すと、棗の痕跡を求めて部屋中を捜しまわった。  
そして机の上に置かれた一通の手紙を発見した。  
表には綺麗な字で『豊さんへ』とだけ書かれている。  
豊は震える手でその手紙を開いた。  
 
『豊さんへ  
豊さんのおかげで無事お使いを果たす事が出来そうです。  
本当にありがとうございました。  
お使いの事だけじゃなく、頼る人もいないこの世界で見ず知らずの私を助けてくれた事、 
心から感謝しています。  
 
豊さんがこれを読む頃には私はもうこの部屋にいないと思います。  
私が居なくなった事、悲しんでくれているでしょうか。  
それとも黙って出ていくなんて恩知らずな奴だと怒っているでしょうか。  
最初は魔法で豊さんの記憶を消そうと思いました。  
そうすれば何事もなかったように豊さんはそれまでの日常に戻れるでしょうから。  
そもそも魔女が人間界の人に正体を知られた場合、原則として記憶を消す事が義務付け 
られています。  
でも、出来ませんでした。  
寝ている豊さんの額に手を当てて、何度も挑戦しました。  
でも、私は忘れて欲しくなかった。たとえもう会えなくても、豊さんの中から私が消え 
てしまうのは嫌だった。  
私が居なくなって、もし豊さんが悲しんでくれているとしたら嬉しいです。  
でもそれと同じくらい豊さんを悲しませている事が辛いです。  
 
ごめんなさい。何だか支離滅裂な文章になってしまいましたね。  
私は貴方の事が大好きでした。  
これはお師匠様に対する好きとは違う、自分でも初めてでよくわからない気持ちです。  
でもあの後、本当に幸せそうな顔で眠る豊さんの顔を見ていたら、ずっと一緒に居たい 
と心から思えました。  
会ったばかりでこんなことを言うとおかしいと思われるかもしれませんね。  
 
でも私はこの世界の人間ではありません。  
向こうの世界ではお師匠様が私の帰りを待っています。  
だから、帰らないといけません。  
ごめんなさい。  
本当なら直接お礼とお別れを言うべきだと思います。  
でも、そうしたら私はきっと泣いてしまいます。  
私が泣いたら豊さんも困ると思うから、だから黙って出ていく事を許して下さい。  
 
時間にすればわずかですが、私にとって豊さんと過ごした時間は大切な想い出です。  
さようなら。私は豊さんの事一生忘れません。  
 
追伸  
お風呂、勝手に使わせていただきました。  
あのままの姿で帰ったら、きっとお師匠様驚くと思いますから』  
 
1滴2滴と手紙に雫が落ち、喉からは嗚咽が漏れる。  
その涙を拭う事も出来ず、豊はずっと立ち尽くしていた。  
 

PC用眼鏡【管理人も使ってますがマジで疲れません】 解約手数料0円【あしたでんき】 Yahoo 楽天 NTT-X Store

無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 ふるさと納税 海外旅行保険が無料! 海外ホテル