虫の音は遠く、風の音も遠く、月明かりだけがやさしい。
ベッドの上は、私とサラだけの、暗くて碧い世界だった。
私は座っていたサラを、肩を掴んで優しく押し倒した。
腕を立てサラに覆いかぶさり、ちょうど四つん這いになる形だ。
サラと私は見つめ合う。
サラはまだ嗚咽の余韻で息が荒く、
その息使いは静寂の中の彼女の存在を引き立たせる。
サラは不安げだ。
小さな身体はわずかにこわばり、不安の汗がかすかににじむ。
「…快楽って、どんな感じなの…? …堕ちるって、怖いの…?」
消え入りそうな声で、絞り出すようにサラが問う。
「…快楽はね、とても気持ちいいことだよ…。 大丈夫、すぐにわかるから。」
そう、この少女は真に初めてなのだ。
スイッチの入ってしまった私には、快楽に怯えるサラの姿が、ひたすら魅力的に見えた。
サラは無垢で、まだ快楽というものを知らない。
未だ穢れを知らない少女は、堕落が糧の魔物にとって、
これ以上ない最高の御馳走なのだ。
私は、淡々とサラの服を脱がせた。
高鳴る胸に、どうしても手の動きが早まってしまう。
「お姉さん…、私…怖い…。」
サラが怯えるのも無理はない。
だから、サラの問いに、やさしく応えてやる。
「…大丈夫…、怖くなんてない。 …サラも気に入るよ。」
私はいつもの行為より、少なからず昂っていた。
それは、空腹だったからかもしれないし、今までサラを我慢していたからかもしれない。
あれほどサラを魔物で穢してしまうことが嫌だったのに、私は今、最高にわくわくしている。
だから今の私は、サラの怯える様子に、ひどく興奮を掻き立てられるのだ。
この何も知らない少女を、如何に染め上げるのか、想うだけで血が沸き立つ。
さて、まずはこの少女に、快楽というものを教えてやらなくてはならない。
この少女の体と魂に、快楽というものが如何なるものか、刻み付けるのだ。
でも相手は愛しいサラ。
ぐちゃぐちゃにしてしまっては面白くない。
快楽で破壊するのではなく、快楽で少しずつ変容させるのだ。
だから、あくまで、気持ち良くさせてあげなければならない。
怯えにやや強張る表情のサラの顔。
少女特有の薄紅の唇に、ゆっくりと近付いて、キスをする。
まずは触れるだけの優しいキスだ。
「…んっ…。」
サラは眼をきゅっと瞑って強張った。
互いの呼吸が触れ合う。
初めてのキスなのだ。
緊張するのも無理はない。
長くないキスのあと、サラの表情を窺う。
「…驚いた?」
「…ううん、大丈夫。大丈夫だから続けて。」
「そう。」
言うは早く、今度は、一気に距離を詰めた。
今度は急性に塞がれた唇にサラは驚き、ひぃっと、くぐもった声をあげる。
私は戸惑うサラに構わず、舌で唇をこじ開けた。
サラの味が、匂いが、舌触りが、私の舌を彩る。
私はそのまま、サラの下唇を吸い上げしゃぶり、
歯茎を舌で撫で抉り、歯の間に舌の先を潜らせ、
更に横からの圧迫を加える。
緊張してやや力の入った顎は、
突然の生肉の侵入に怯み、わずかに弛緩し、
私はその隙を逃さず舌をねじ込む。
よもや噛み付くわけにもいかず、なす術なく侵入を許すサラ。
私はサラの舌の根を舐め、揉み、誘い出し、吸い出し、私の咥内まで導く。
唇同士、やわやわ、ふにふにと、優しく揉み解しながら、舌に唾液をたっぷりと絡ませて、
舐め、潤し、注ぎ、啜り、湿りを帯びた音を立て、互いの汁を交換する。
二人の口を境にして、潤いとわずかな粘りを伴って、紅い肉が行き来する。
収まりきらず余った汁が、開口部から溢れ、滴り、小さな顎と頬を濡らす。
互いの肉に疎外された二つの呼吸が、空気を求めて不規則に喘ぎ、
その吐息は熱く甘く、ふたりを温め合う。
すでにサラの瞳はやや虚ろに泳いでいた。
ここまでくれば、ほぐしとしては十分すぎるほどだ。
今夜、私がサラを犯し、サラは肉と汁を絡ませ合う感覚に翻弄され続けることだろう。
発情した淫魔は、毒である。
もしも、淫魔がその気であるならば、
人は離れていようと視線が合えば意識が色づき、
同じ空気を吸っただけで身体が熱くなる。
吐息に触れればひどく上気し、肌に触れれば快感に悶え、
唾液など交換しようものならば乱れてしまう。
快楽という抵抗しがたいその毒は、侵し、蝕み、残留し、
哀れな犠牲者を苛み、さらなる快楽への渇望を生み、狂わせる。
淫魔は人を壊してしまうのだ。
…だから、手加減しなければならない。
私はサラを壊すのではない。
単に堕とすこととも少し違う。
私はサラを変えるのだ。
快楽に浸し、侵し、サラを快楽という魔物そのものに変容させるのだ。
私がそうであるように。
しばしのキスが続き、私は唇を離した。
「…どう?」
荒い呼吸音だけが静寂に響く。
「…あ…ん…なんか、変だよぉ…。」
うつろな瞳、呂律の回らない口調でサラは応える。
私がサラに染み込ませた、少し気持ちが良くなる毒。
体が切なく励起し、愛して欲しくなる、甘い毒。
丹念なキスにより、私の毒は小さなサラの体に隈なく浸み渡っていた。
サラは今、感じたことのない疼きに苛まれていることだろう。
サラに気持ち良くなってもらうこと。
それは、無垢な少女に肉に溺れる悦びを覚えさせることに等しい。
堕落を糧とする淫魔の私は、堕落へ誘うこの行為に、言い知れない悦びを覚えていた。
体が、心が、魂が、私を構成するすべてのものが、歓喜に打ち震えていた。
私はきっと、この少女を堕落させるために生まれてきた。
私はきっと、このときのために存在する。
少なくとも今は、そう確信して止まなかった。
サラの胸に手を伸ばす。
乳頭の辺りのわずかなふくらみ。
まだ、触られる備えなんて、まるでできていない、未熟な部分。
将来、子を育むはずだったその場所を、魔物の手で慈しむように包み込む。
「…ぁっ…。」
ピクンとサラの体が跳ねる。
私の手の平にサラの温もりが、鼓動がとくんとくんと伝わる。
未熟なはずのその中心は、淫魔の毒に中てられて、すでに固く自己主張していた。
ゆっくりと、なじませるように諸手で円を描く。
「…あ、ふぁぁ…やぁ、なに、これぇぇ…。」
サラは両手で顔を覆って困惑した。
私が力を込めるたびに、サラの表情が歪み、弛む。
「…気持ちいい? 気持ちいいでしょう?」
「へん…へんだよぉ…。 なんか、なんか…こわい…。」
「やめてほしい?」
私の問いにサラはこくこくと頷く。
もちろんやめたりはしない。
…先端を指で挟んだ。
「ああっ―――あああっ―――!」
くにくにと、捏ねながら、扱きながら、やはり円を描いてやる。
「ひぃぁあっ―――、あぁぁっ―――!!」
毒に浸されたその部分は、すでに成熟した感覚器官に変わっていた。
私が変えてやったのだ。快楽を得るための器官に。
サラはよだれを垂らしながら、がくがくと震える。
私は、もう少しサラの反応が見たくて、
先端だけ摘み上げ、持ち上げながら転がしてみた。
「ひっ――はあぁっ―――、…」
…サラはひときわ大きく強張った後、だらりと弛緩した。
達してしまったのだ。
初めてにしてはやりすぎだったかもしれない。
肩で息をするサラは、口を開けたまま、どこか遠くへ行ってしまった。
…もちろん、本番はこれからだ。
たった一度、達したくらいで許したりはしない。
サラの性器に手を伸ばした。
クリトリスはすっかり勃起し、ヴァギナはすっかり濡れていた。
クレバスはてらてらと粘液を纏い、鮮やかな赤色を覗かせている。
毒に侵されたサラの内側は、無理やり代謝を高められ、
強制的に受け入れの準備を整えさせられる。
体内で分泌液が作り出され、割れ目から淫水がこんこんと湧きだしている。
私は十分に濡れたその場所に人差し指をあてがって、ゆっくりと押し込んだ。
つぷり、と音がしたような気がした。
でもそれは気のせい。
毒で劣化した純潔の証は、なんの抵抗も見せることなく、あっさりと決壊する。
サラを守る肉の膜は触れただけで道を譲る。
サラの処女はあっけなく失われた。
「…いっ…ああっ!? いたい、刺さってる!? 刺さってる!!」
放心していたサラが戻ってきたようだ。
自身の股間に突き刺さる指と、異物を咥え込んだ初めての圧迫感に悲鳴を上げる。
おかしいなあ、痛くなんてないはずなのに。
仕方がないのでサラの体内の毒を少し活性化させてやる。
それでも、指を小さく出し入れし、進行をやめない。
「ああっ…やああっ…!!」
また、サラの体ががくがくと震え出した。
顔を涎と涙でぐしゃぐしゃにしながら、力なく暴れる。
痛みではなく、快楽に耐えられないのだ。
さっきはやりすぎたと思ったが、さらにやってしまった。
…まあ、いいか。
サラの動きが徐々に規則性を帯び始める。
でたらめに暴れるサラの動きが、妖しく誘う腰の動きに変わる。
指を咥え込んだ膣が、なめらかに蠢動しはじめる。
私の毒が、サラに備わった女性の本能を引き出したのだ。
咥え込んだ異物を、奥へ奥へ導く動き。
精を胎内へ取り込むための蠢き。
サラの膣が、私の指を、ちゅぱ、ちゅぱ、としゃぶる。
サラが私を求めている。
その様子は、赤子が乳を吸う仕草を連想させて、
私の中に、暖かくてどす黒い感情を湧きおこす。
もっと、快楽を注いであげたい。
サラの求めるまま、あふれる以上の快楽で満たしてあげたい。
だが、そろそろサラは限界だ。
そろそろイかせてあげよう。
仰向けになった膣の、天井側の壁を、優しくなでなでしてあげた。
「―――――、――――!!!」
サラの小さな身体が跳ね上がり、仰け反る。
口をぱくぱくさせながらあさっての方向を向く。
空を泳いだ手が、シーツを掻き毟り、手繰り寄せる。
指をくわえていた締め付けがひときわ強くなる。
きゅうきゅうと音が聞こえそうな絶頂のあと、
再びサラは弛緩した。
はあはあと荒い呼吸音が響く。
サラは、涙と涎とその他分泌液に濡れて、ひどい有様だった。
ぐったりとして、胸だけが上下するサラだったが、それでも意識はまだあるようだ。
「どうだった?」
今にも眠りの世界に旅立ってしまいそうなサラ。
返事は返ってこなかった。
サラの意識が閉じるその前に、私は再び唇を塞いだ。
私の毒で腐食した、サラの精を吸いだす。
とても美味しい。
愛しいサラの精だ。
それに、今まで穢れにさらされていない、極上の精。
少しずつ、味わいながら、私はサラを取り込んだ。
だが、これで終わりではない。
私が吸って空いたサラの容量に、私の毒を――私の精を注ぎ込む。
消耗したサラの精に、私の精が溶け込んでゆく。
―――淫魔の精による、致命的な汚染。
穢れなき少女であったサラが、魔物の精で汚染されてゆく。
存在自体に関わる重大な侵害を、美味しそうに受け入れるサラ。
やがて、サラの意識は失われていった。
唇を離し、私はサラの寝顔を眺めた。
疲労しつつも安らかになりつつあった表情が、
徐々に苦悶の色に変わってゆく。
サラの最も大切な部分に、異物が、それも毒が侵入したのだ。
苦しくないわけがない。
これから、サラの変化が始まる。
サラに混入した私の精は、元のサラの精を浸食し、混ざり合い、
やがてサラ自身の新たな精となる。
それを何度も繰り返し、徐々に淫魔に近づけてゆくのだ。
精に合わせて体も変化する。
より快楽を得られる体へ、快楽のためだけの体へ、より堕落を誘う体へ、魔物の体へ。
私がそうだったように。
サラの体を濡らしたタオルで拭いてやる。
汗と粘液を丁寧に拭き取ってやる。
まだ子供の貧相な身体も、じきに魅力的な成長を遂げることだろう。
それが淫魔への変化なのだから。
もう一度サラの顔を見た。
相変わらず苦悶の表情だったが、
その中には甘い熱が見え隠れしている。
今日のところはここまでだ。
愛おしさを感じながら、寝具を掛けてやる。
私も寝床へ戻るとしよう。
サラを愛する喜びを感じながら、
同族を迎える歓びを感じながら、
人間を堕とす悦びを感じながら、
満足感を枕にして、私も眠ることにした。
―――その喜びは、その歓びは、その悦びは、
私自身の心か、それとも魔物の本能か。
その時の私には、どちらでもよかった。―――